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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【71】 2014年9月発行

大規模POSデータの実証分析とフィリップス曲線への含意大規模POSデータの実証分析とフィリップス曲線への含意
データ概要データ概要
外木 暁幸

1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、日本ではフィリップス曲線のフラット化と価格改定頻度の上昇が同時に観察された。ニュー・ケインジアン・モデルでは価格改定確率の上昇はフィリップス曲線のスティープ化を意味するため、観察結果とは矛盾する。この時期のフィリップス曲線のフラット化はLucas(1972)の不完全情報モデルの意味で価格の共通ショックに対する独自ショックの相対的な影響力の増大によって起こったのではないかというのが本稿の問題意識である。全国の小売店で個別商品の販売価格を記録したPOSデータを対象に、近似的因子モデルによる価格変動の分散分析を行った。分析の結果、フィリップス曲線のフラット化が進行した時期に、小売価格の独自ショックの影響が相対的に増大したことが明らかとなった。これはLucas(1972)の不完全情報モデルの含意と整合的である。.

景気後退と自殺、そのプロセス―都道府県別パネルデータによる考察景気後退と自殺、そのプロセス―都道府県別パネルデータによる考察
薄田 涼子

自殺者の多くが、生前に精神的ストレスや精神疾患を抱えている。既存の経済学的な自殺研究は、不況や失業と自殺リスクの相関を分析し、その間に精神衛生が徐々に乱れるプロセスがあることを暗示している。本稿は、精神衛生に関する都道府県別パネルデータを用いて、不況期に自殺率が上昇するだけでなく、精神的ストレスが増大すること、精神疾患への罹患リスクや精神科治療への需要が増大すること等を示している。精神科治療に対する認識を高め、精神科治療体制を強化することを視野に入れた自殺防止策の重要性を示唆している。.

中古住宅取引における品質情報の影響中古住宅取引における品質情報の影響
データ概要データ概要
原野 啓  瀬下 博之

本研究は、新築時に住宅性能保証制度または住宅性能評価制度を利用して品質検査を受けた住宅が中古住宅として転売される際に、取引価格や買い手の購入意欲がその制度によってどのような影響を受けるのかについて検証したものである。分析の結果、住宅性能保証書付きの住宅で、中古住宅の取引価格が上昇すること、およびリスク回避的な個人の購入確率を上昇させることが示された。中古住宅の取引においては、新築時の品質情報だけではなく、建築後の使用や劣化に伴って生じる瑕疵などに対する情報の非対称性の問題も解消することが重要である。.

BSEリスク下における政府と消費者の行動分析BSEリスク下における政府と消費者の行動分析
高橋 直浩

本稿は、リスク下の消費者の意思決定を分析し、その決定に影響を与える政府のリスク情報発信のあり方を考察することを目的とする。事例として、限られたリスク情報と政府の施策を観察しながら、消費者が購買行動を決定した牛海綿状脳症(BSE)の事例を扱う。2001年9月、我が国で最初のBSEが発生し、その翌月に安全宣言が出された。次いで03年12月に米国初のBSEが発生し、約2年半の輸入禁止措置を経て、06年7月、事実上の安全宣言が出された(輸入再開)。この2度にわたるBSE発生と安全宣言が牛肉消費に与えた効果を推定したところ、1度目の安全宣言では国産牛肉の消費回復効果がみられた一方、2度目の安全宣言では輸入牛肉の消費回復効果が認められなかった。この消費行動を説明するため、完全合理的な消費者、確率に主観性を許容した消費者、確率と感情を統合した消費者のそれぞれを仮定した3つの理論モデルを構築・比較検証を行った結果、本事例については3つ目のモデルが最も妥当性が高いと言える。確率と感情を統合したこのモデルから、1度目の安全宣言で強調した「全頭検査」がもつシグナリング効果により、国産牛肉の消費が回復した一方、輸入牛肉の消費回復が遅れていることが説明できる。.

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