日本経済研究
「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。
『日本経済研究』第62号のポイント
日本経済研究センターは2010年1月、経済学術誌『日本経済研究』の第62号を発刊した。その読みどころを、やさしく紹介する(順不同、敬称略)。 今回は、全4本の論文(研究ノートを含む)のうち、2本が環境関連となった。温室効果ガスを削減する手段として、環境税や排出権取引などが議論されているが、これらは導入にこぎつけるまでに長い時間がかかる。そこで、関心が寄せられているのが、企業の自主努力である。岩田・有村・日引論文「ISO14001 認証取得の決定要因とトルエン排出量削減効果に関する実証研究」は、「ISO14001」という環境保全・管理体制に関する認証制度が、有害物質の排出削減につながっているかどうかを検証したものである。
製造業(事業所単位)のデータを分析してみると、認証を得ている事業所ほど排出が少ないことが確認できた。さらに、認証の取得は、助成など行政による支援があるほど、事業所規模が大きいほど、また上場企業であるほど多いこともわかった。
ISOのように企業・事業所の自主的取り組みを促す政策(自主的アプローチ)は、小規模事業所の参加が見込みにくいという難点はあるが、環境税のような制度と比べると機動性という点で優れている。政策手段それぞれの長所を評価し、実際の政策に生かしていくべきとしている。
政治的な争点にもなっているガソリンの暫定税率。この問題は、環境の観点からの評価も可能だ。川瀬による研究ノート「最適課税論からみたガソリン税率―日米英比較」は、現行の1リットル当たり53.8円というガソリン税の水準が妥当なのかを問うた分析である。ポイントは、ガソリンの消費がもたらす温暖化や大気汚染、混雑、交通事故などの「外部」費用を考慮している点である。外部費用の推計値には大きなばらつきがあるために「幅をもった解釈が必要」との注釈付きであるが、燃料の消費によって生じる限界外部費用をカバーするためのガソリン税は1リットル当たり118.3円と試算。さらに、ガソリン消費の増加が余暇の増加も引き起こす場合、労働所得税の減少分を補う必要があり、この場合の最適課税は1リットル当たり142.4円になると報告している。これらの水準は現行の2倍以上であり、暫定税率廃止は正当化できない、という結論を得ている。
田中・日高論文「動学的租税競争と公的資本形成―非対称的な公的資本の生産力効果を考慮した2地域世代重複モデルによるシミュレーション分析」は、法人税など資本所得への課税権限が地方にある場合の、自治体間の「政策競争」がテーマ。法人税率を下げると、企業を呼び込みやすくなる半面、税収減で住民サービスや公共投資に回せる財源が減ってしまう。そこで、「最適な」課税水準について考える必要性が生じる。本研究は、さらに公共投資が地域経済の生産性に影響を与え、民間企業の収益率も左右する側面なども織り込んだ。
分析によると、公共投資の生産力効果が劣る地域(例えば地方圏)では、資本税率を下げて民間資本を呼び込む方が望ましいことや、複数地域が協力して税率を高めに維持した方が恩恵が大きくなりやすいことなどを明らかにしている。望ましい協力関係を導くためには、中央政府が調停や介入に乗り出すことも是認されると述べている。
友田・岡村論文「有担保融資と無担保融資が産出物市場に与える影響―企業の資金調達行動を通じて」は、企業が有担保・無担保、どちらの融資形態を利用するかにより、生産量ひいては消費者が享受できる厚生水準にも影響が及ぶことを理論的に分析した研究である。有担保融資は、金利は低いが担保の範囲までしか融資を受けられない。借り入れた資金で資本財(設備)を購入し、それを担保に差し入れることを想定するなら、企業の生産量も制約してしまう。逆に、無担保融資は量的な制約が少ない半面金利が高く、費用にはね返る。
こうした側面を理論モデルに織り込むことで、消費者にとって望ましい企業の借入形態と企業によるそれが一致するとは限らないことなどを明らかにしている。
このほか、本号では、投稿論文で用いるデータについて、筆者に一定の情報開示を求める本誌としての新たな「ガイドライン」を告知記事として掲載した。
『日本経済研究』編集委員会
【62】 2010年1月発行
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