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深尾光洋の金融経済を読み解く

2013年4月5日 日銀の量的・質的緩和の効果とリスク

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日本経済研究センター参与 深尾光洋
日銀の量的・質的緩和の効果

 日銀の発表によれば、4月4日に発表された量的・質的緩和政策による長期国債の買い入れ額は、2012年末から2014年末までの2年間で、約100兆円になる(注:日本銀行「量的・質的緩和の実施について」、2013年4月4日)。これは、日本政府(中央政府、地方政府、社会補償基金の合計)が同じ2年間に発生させると予想される財政赤字を上回る金額であり、巨額の財政赤字が継続するにもかかわらず日銀以外が持つ国債を買い上げる形になる。また、買入対象となる国債も従来の満期3年以下から、満期40年ものまでの全てとなる。この買いオペは、長期金利を低く維持する効果があるだろう。

 相対的に高めの金利であった長期国債を日銀が買い入れ、その代わりに補完当座預金制度により金利0.1%が付されている日銀当座預金を同じ金額供給することにより、民間金融機関は平均運用利回りの低下に直面することになる。これは、民間金融機関に対して貸し出しを拡大するインセンティブになるだろう。

 また、中央銀行のバランスシートの拡大率(金融緩和姿勢の代理変数)を材料にして為替相場の動向を占うことが投資ファンドで流行っていることから、今回の日銀の政策で日銀のバランスシートの拡大率が連銀や欧州中央銀行(ECB)よりも高くなることは円安に寄与する可能性がある。

目標達成時の量的緩和コスト

 将来量的緩和を巻き戻すために、買い取った国債を市場で売却することを考えると、今回の措置は日銀に相当のコストを課す可能性が高い。日銀は今後買い入れる国債の平均残存期間を6-8年程度にすると発表しているため、2014年末における日銀が保有する国債の平均残存期間は7年弱になるだろう。インフレ目標が達成でき、消費税の効果を除いて2%の消費者物価インフレ率になった場合、国債金利の平均水準は少なくとも3%程度になると予想される。このため、国債価格下落による日銀の損失は、20兆円前後にも達すると考えられる(注:量的・質的緩和の中間地点である2013年末の国債残高140兆円x7年x2%)。この程度の損失であれば、短期金利が2%、長期金利が3%になった時点に予想される現金需要であるGDPの1割の50兆円程度と比較すれば、日銀の収益力で概ね吸収できるという計算になると考えられる(注:過去のマネタリーベースと金利の関係をみると、名目金利が2−3%であればマネタリーベースの需要はGDP比9%程度である)。仮に売りオペによる損失で、日銀の総資産の時価額がマネタリーベースよりも20兆円少なくなる債務超過に陥っても、残っている純資産規模が30兆円程度あれば、平均運用利回り2%で年間6000億円の運用利回りを得ることが出来るため、年間2000億円程度の日銀経費を賄っても4000億円程度の利益を計上できる。この利益により、日銀は徐々に債務超過を解消できるだろう。

 目標を達成できた場合のリスクは、第一に政府の利払い負担が急増すると見込まれることである。政府純債務は、2014年末にはGDP比150%程度に達すると見込まれるため、政府債務の平均金利が2%上昇すると、政府の利払い負担増加はGDP3%にも達する。これは、消費税増税5%による歳入増加のGDP比2.5%をも上回る。利払い負担は国債が満期となり借り換えが行われるに従って徐々に増加するものではあるが、政府に対する信用を維持するためには、日本政府は財政再建へのロードマップを年内にも公表し、かつ着実に実行する必要がある。インフレ目標が達成できれば、日銀による金利政策は、その効果を回復する。政府が財政再建のために歳出削減や増税を行っても、日銀が金利を低めに維持することによって景気を刺激し続けることで、景気の大幅な後退を避けることができるようになる。また、これこそがインフレ目標を達成する最大の目標であると言える。

 第二に、国債価格の大幅な下落で、日銀だけでなく民間金融機関が巨額の損失を被ることである。金利が2%上昇すると、銀行部門全体でみて国債価格の下落により12兆円程度の含み損失を抱えることになる。特に長期国債を多く持つ一部の地域金融機関に対しては、公的資本の注入が必要になる可能性もある。

目標が2年で達成できない場合のリスク

 以上で目標が達成できる場合のリスクを検討したが、筆者は、日銀が今後2年間でインフレ率を2%に引き上げることが出来る可能性は一割以下だろうと判断している(注:今年1月の本コラムを参照されたい)。仮にインフレ目標が達成できない場合には、日銀が今回発表した極めて早いペースで、自らのバランスシートをさらに拡大していく可能性が高い。仮に2016年まで同じペースで国債を買い進んだ場合に、日銀の長期国債保有額は、2012年末の89兆円から、2016年末には290兆円に達する。その段階で、仮にインフレターゲットが達成されるか、あるいは日本政府の信用が喪失して金利が3%上昇すると、日銀の損失は最大で60兆円(290兆円x7年x3%)にも達する。こうなると、日銀は持っている長期国債を全て売却しても、過剰なマネタリーベースを回収することができなくなる。その場合には、日銀は政府から国債の売却損失の補填を受けるか、あるいは預金準備率を大幅に引き上げて、銀行に強制的にマネタリーベースを持たせることで対応する必要が生ずるだろう。後者の場合には、民間銀行は強制的に超低金利の準備預金を保有させられることにより、実質的に課税されることになる。また、金利上昇に伴う政府の利払い増加と、民間金融機関の国債価格下落損失も、重要な問題となるだろう。

(2013年4月5日)

(日本経済研究センター参与)

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