
第7回 仏大統領選挙後の二段階シナリオ―メルコジ関係から仏独伊の協調体制へ
(12年5月9日)
オランド氏がいつ現実路線に転換するか
フランス大統領選の決戦投票で、社会党のオランド氏が勝利を収めた。
この結果は事前の予想通りだった。今春まで2人の支持率は拮抗していた。
しかし、4月22日の第1回投票後、第3位以下の候補が、オランド支持ないし中立の意向を表明したため、同氏の優位が明らかになっていた。
この背景は、現職サルコジ氏が掲げた改革路線が目立った成果が挙げられなかったことだけにあるのではない。
サルコジ氏の派手な言動や私生活が、本来の支持基盤である中間層まで含め、フランス国民の間で「サルコジ嫌い」が広く浸透していたことがある。
オランド氏の当選を受け、7日、世界の金融市場は株式を中心に大きく不安定化した。
オランド氏は財政緊縮策の見直しを公約として掲げてきた。この点については、6月10日・17日にフランス国民議会選挙が予定されているため、当面は方針を変える訳にはいかないだろう。
しかしその後、国内の政治基盤が確立された段階では、オランド氏が選挙戦中の公約を現実路線に転換させる可能性が高まるのではないか。
第一の理由は、現状のままでは、金融市場が一段と不安定化し、危機的な状況が再燃しかねないという点にある。
フランス国債の価格下落および格下げ懸念が高まるだけではない。スペイン・イタリアなど、南欧諸国への波及が再び現実味を帯びてくる。
第二に、オランド氏が経済に詳しく、政策運営の経験も豊富である。
かつて社会党のミッテラン大統領は、当初企業の国有化など「大きな政府」を推進したが、十分な成果がみられないとみるや大きく方針を転換した。
オランド氏は当時、ミッテラン政権の下で実務担当を務め、以上のような経緯を熟知しているはずである。
EUの政策と戦略はどう変化するか
それでは次に、オランド氏の勝利によって、欧州連合(EU)内における政策決定の枠組みは、今後どう変化していくのか。
これまで、ギリシャ救済などEUの危機対応が決定される場合、「独仏枢軸」あるいはメルコジ関係が中心的な役割を担ってきたといえる。
EU首脳会議などの直前には、両首脳による会談が行われ、議論の大筋が決定されることが通常だった。
しかしオランド氏がフランス一国の財政緊縮策の見直しだけでなく、EUの新財政条約の修正まで言及している以上、これまでの緊密な独仏関係を維持することが一旦難しくなる可能性がある。
メルケル首相の立場からすれば、財政規律を重視し問題国の救済に批判的なドイツ国民を説得することが、より難しくなるためである。
こうした中で、現在、EUにおける政策決定について、イタリアの役割が高まっている。
前回4月10日付「欧州債務危機レポート」でも述べた通り、イタリアのモンティ首相は、財政緊縮策と労働市場改革に取り組みながら、依然国内の支持を得ている。
オランド氏が当初EUに対し批判的な姿勢を示した場合、EU内でモンティ首相などの発言力が高まることが予想される。
その後オランド氏が、現実路線への軌道修正を行った場合でも、EUの政策決定の枠組みは、これまでの「独仏枢軸」から、イタリアも加えた多角的なものに変化していくのではないか。
以上と関連して、EUレベルの政策内容は今後、どう変わっていくのだろうか。
この点に関し、5月3日、ECBの政策理事会後に行われたドラギ総裁の記者会見が参考になる。
この日の会見では、スペイン・イタリアなどの南欧諸国の雇用を含む成長戦略に関する質問が集中した。
ドラギ総裁は、雇用政策の重要性を認めながらも、短期的な財政支出ではなく、財政規律を高めることが持続的な成長につながることなどを強調した。
冒頭述べたようにオランド氏が現実路線に転換した場合、その後の政策の方向性については、「雇用・成長と財政規律の両立」に言及した今回のドラギ総裁の発言が参考になると思われる。
ギリシャ総選挙の影響は限定的
一方、フランス大統領選と同じ5月6日に行われたギリシャの議会総選挙では、連立与党が敗北した。
この結果は予想された通りであり、その影響は限定的であると思われる。
第一に、厳しい財政緊縮が課され、これに対し国民が強く反発している状況では、与党の敗北は当初から明らかであった。
第二に、今後について、どのような形で新たな政権が生まれても、採り得る政策の余地は限られている。
実質的にデフォルト状態にあるギリシャ経済にとっては、野党が選挙前に掲げた「ユーロからの離脱」などの公約は、現実的とはいえない。
第三に、ギリシャに対する今年3月の第二次救済策により、当面差し迫った懸念は深まっていない。
ただし、冒頭述べたようにオランド氏が当面、財政緊縮路線を批判する姿勢を変えず、欧州危機の再燃リスクが高まった場合、ギリシャ情勢もネガティブな要因として意識されやすい面があるだろう。
さらに、この様な局面ではドイツ国内の批判が強まり、メルケル首相も救済枠拡大などの議論を進めにくくなる。
以上のように、5月から6月にかけては、欧州危機の再燃リスクが高まりやすい点には留意が必要だろう。
7月初めの欧州安定メカニズム(ESM)設立を待たず危機が深まった場合には、再びECBによる長期資金の供給など応急策が必要な局面もあり得るだろう。
ユーロの下落余地と反転可能性
最後に、以上のような展開を想定した場合、為替市場にはどのような影響が考えられるだろうか。
ユーロは中長期的に考えれば、従来の下落局面から緩やかに回復する段階にあるといえる。
しかし現状は、フランス大統領選の結果への懸念などから下落圧力が強まっている。ユーロは一時、対ドル1.30ドル、対円で105円といった水準を割り込んだ。当面は対円で100円前後を維持できるかどうかが注目される。
その後、7月にかけては、オランド氏の現実路線への転換、ESM設立によるセーフティーネットの拡充といった点が意識され、反転しやすい展開となるのではないか。
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ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)
(特任研究員 林秀毅)
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