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最終回 イタリア政局は危機再編につながるか―市場の焦点は財政緊縮から景気動向に変化(13年3月14日)

イタリア総選挙の結果をどう考えるか

 2月24・25日に実施されたイタリア総選挙では予想通り中道左派が上下院で多数派を占めたものの、上院で過半数を得ることができなかった。そのため中道左派を中心とした連立工作が必要となり、政治的な不透明感が高まった。

 以上に至る背景と今後の展開を考える上では、以下の点がポイントになると思われる。

 第1に、中道左派を率いる民主党ベルサーニ書記長の指導力に対する疑問である。前首相のモンティ氏や、自ら政策を方向付けるような強い個性に欠けている点が選挙前から指摘されていた。さらに、中道左派はこれまで改革路線を主導するモンティ前政権を支える立場にあったため、左派であっても財政緊縮策などを大幅に転換することは困難であるという事情があった。

 第2に、同時に中道右派のベルルスコーニ氏がベルサーニ氏に対抗心を強く持っており、今回の選挙で巻き返しを図ったことである。ベルルスコーニ氏は過去の首相在任時にさまざまな政治的・個人的スキャンダルを起こし2011年秋には辞任を余儀なくされた。だが、昨年末にはモンティ政権の人気低下を見計らい、政権への返り咲きへの意欲を示していた。通常の先進国であれば政治生命は既に断たれてもおかしくない状況だが、政治家の倫理や道徳に寛容なイタリア社会の雰囲気が同氏にプラスに働いたといわざるを得ない。しかしベルルスコーニ氏に対しては選挙後の3月にも、当局の盗聴記録を新聞社に漏洩したかどで禁固刑(未確定)が言い渡されており、今後も過去の脱税などに対する判決が出る見通しだ。

 第3に、元コメディアンのグリッロ氏率いる新党が、厳しい緊縮策を取るモンティ政権に対する不満のはけ口となり勢力を伸ばしたことである。但し、このような大衆に迎合する勢力は、単に政権担当能力がないだけでなく、大規模な反政府デモを起こしたギリシャなどと異なり国民の対応が比較的冷静であるイタリアでは、影響力は限定的に留まるのではないか。

 以上のように考えると、今後は中道左派とモンティ氏グループを中心に、やや不安定ながらも大統領の裁定も得つつ連立政権が組成され、再選挙につながる混乱を回避する展開をメインシナリオと考えるべきだろう。

EU各国政権とユーロ危機対応への影響

 それでは、このようなイタリアにおける政治の不安定化は、欧州全体の政治情勢とEUレベルの危機対応をめぐる議論にどのような影響を与えるだろうか。一般的には、秋に選挙を控えたドイツ、雇用改善など公約を果たせないフランスなど現政権の不安定化につながりやすいと見られている。

 但し、上に述べたように、イタリアでこれまで与党の立場にあった中道左派を中心とした連立政権が誕生すれば、少なくとも当面は財政緊縮路線を大胆に変更することは難しいだろう。この場合、EU内でいえば財政規律を重んじるドイツと近い立場にいることになる。 一方、今回の選挙結果を受けて多少財政緊縮路線が緩められる場合、どちらかといえばフランスのオランド大統領の立場に近付くことになるだろう。

 言いかえれば、現在のEUでは、主要国のドイツとフランスが財政規律のあり方を巡って「両にらみ状態」にあり、両国とも選挙民を意識して動きにくい状態にある。こうした中でイタリアは、モンティ政権期のようにEU全体の議論を方向付ける役割こそ果たせなくなったが、引き続きユーロ圏の主要国の一角を占め、ドイツ・フランス両国を中心としたEU全体の危機対応をめぐる議論の方向性を考える上で、一定の役割を果たすことになるのはないか。

国債利回りは上昇したが、市場のコンセンサスは変化

 最後に、イタリア選挙後の市場の反応はどうか。

 まずイタリア国内では、先に述べた2011年秋のベルルスコーニ前首相のスキャンダルにより政治情勢が混迷した時期、イタリア10年国債の利回りは7%台前半まで上昇しており、国内政治情勢の不安定化が国債利回りの上昇に直結していたといえる。さらにその後、ベルルスコーニ氏が辞任しイタリア国債の利回りは低下したが、その後スペインに危機が波及した。一方、今回の選挙結果を受けてイタリア10年国債の利回りは上昇したが、ピークでも4%台後半の水準にとどまっている。一部の格付機関でイタリア国債を格下げする動きがあるが、3月7日の欧州中央銀行(ECB)政策理事会後の記者会見でドラギ総裁が言及したように、今回イタリアから他の国への波及(Contagion)は見られていない。

 2つの時期の間には、ECBによる資金供給の実施と無制限の国債購入へのコミット、欧州安定メカニズム(ESM)の設立など、危機対応の手段が取られており、市場への悪影響は限定的になっているのではないか。

 次に為替レートを見ると、ユーロドルは2月初めの1.36ドル台という直近のピークから1.30ドル前後まで下落したが、昨年7月の1.20ドル台という水準からすれば下落幅は限られているといえる。但し、ここで問題になるのはユーロ圏の景気動向である。今回、ECBはユーロ圏の2013年・2014年実質成長見通しをそれぞれ0.2%引き下げた。さらにドラギ総裁は、政策理事会で利下げの可能性を検討したことを明らかにした。以上の内容は、前回2月の記者会見からも想定されていた。前月の本レポート(*)では「1ユーロ=1.3ドル台半ばという水準はやや行き過ぎ感があり、3月に発表されるECBによる経済見通しが下方修正されることをきっかけに、ユーロ高は一旦調整される展開があり得るだろう」と述べた。

*欧州債務危機リポート「最大の懸念はスペインの政治・経済情勢―ECBの政策展開とユーロ高にも留意」(13年2月13日)

 当面ユーロ圏の景気下押し感が強く、「年半ばにかけ1回はECBによる利下げが実施される」という期待が高まることにより、ユーロの為替レートへの下落圧力もまた強まりやすい展開となるだろう。

 欧州債務危機が最も深刻だった時期には、財政支出の削減ができなければ市場の下落圧力が強まる展開が続いた。しかし国債市場・為替市場の動きを見ると、こうした市場の期待が変化している可能性がある。即ち、今後はユーロ圏景気の下押しが注目されやすくなるため、局面によっては臨機応変に財政支出することが市場のプラス評価につながる展開もあり得るのではないか。

※4月からコラム名を「欧州経済・金融リポート」に変更、欧州新興国の経済事情なども含めて連載します。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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