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第12回 スペインとギリシャ、どちらが「狼少年」か?―銀行監督一元化案とESM発足後の展開(12年10月11日)

ECB政策理事会後は「無風状態」だが

 10月4日に開催された欧州中央銀行(ECB)政策理事会では予想通り特段の政策変更は行われず、市場の反応は限定的だった。今回は、通常のようにフランクフルトではなく、スロベニアで開催された。このような場合、過去の例からも、大きな政策変更は行われないことが通常である。また、前月決定した国債買い入れ(Outright Monetary Transactions, OMT)についてドラギ総裁は、準備が整い次第実行する(Ready to undertake)という前向きな姿勢を見せた。市場では、ECBはOMT開始後1-2カ月の間、国債の大量購入を実施する、という観測が流れた。

 前月の本レポートでは、OMTが実行されても短期的な時間引き延ばし策にすぎないと述べた。このような懸念に対し、今月の記者会見内容は、総論として少なくとも当初の段階でECBの前向きな姿勢を示し、市場安定化の効果を狙ったものといえる。さらに今回の記者会見で、ドラギ総裁が、OMT実行のために各国が欧州金融安定基金(EFSF)/欧州安定メカニズム(ESM)から課せられる条件について、@各国政府のモラル低下を防ぐだけでなく、AECBの各国政府からの独立性を守ると同時に、B対象国国債の信用力向上(Credit Enhancement)に役立つと強調していることも注目される。

スペインは10月早期救済の観測も

 今回の記者会見では、スペインに質問が集中した。特にECBによる国債買い入れの条件として、一段と厳しい改革へのコミットが求められるのではないか、という質問が注目された。

 9月下旬に、スペイン政府は約400億ユーロの支出削減を中心とする2013年の予算案を発表した。ほぼ同時に同政府は、国内銀行に対するストレステストの結果を公表した。これによれば国内銀行の資本不足額は593億ユーロであり、今年7月にEU委員会がスペインの銀行セクターへの懸念を払拭するために用意した1000億ユーロの支援枠の範囲内に収まっている。

 しかし支援を得るためには今後一段と厳しい改革を約束させられるのではないか(commit to harsher reforms)という問いに対し、ドラギ総裁は救済のための条件は「懲罰のためである必要はない」と述べた。この発言は、現在の改革案を着実に実行するのであれば、OMTによる救済に前向きに取り組むことを示唆しているのではないか。

 今年6月のEU首脳会議以降、EUレベルの議論は、「スペインをいかに救済するか」ということに最重点が置かれている。さらに後述するように、同首脳会議で決定されたECBによる銀行監督の一元化と、これを前提としたESMが政府を経由せず銀行に直接資本注入を行うという救済方法に対し、ドイツ等からの反発が強まっている。この点もまた、スペイン政府にとって、EFSF/ESMに支援を要請し、それを条件にECBからOMTによる国債買い入れを受けようとする動機になると思われる。

 一方、スペイン政府が支援申請に踏み切れない最大の原因は、申請を行った場合、一段の財政緊縮を嫌う国民が反発し、選挙への悪影響につながるという懸念にあるだろう。

 以上のようないくつかの要因を考慮すると、今後10月18日のEU首脳会議でスペイン救済に前向きな決定がなされ、21日のガリシアおよびバスク自治州の議会選挙が終了したタイミングが注目される。10月末にかけスペイン国債約200億ユーロの償還を控えたタイミングで月内に支援申請が行われる可能性も否定できないのではないか。

ギリシャの「突然死」リスク再燃も

 記者会見では、スペイン以外の問題国についても言及があった。ポルトガルについて、ドラギ総裁は、最近3年国債の発行に成功したことなどを例に挙げながら、状況がかなり改善を見せており、OMTの対象とはならないだろうと詳細に述べた。一方、ギリシャについては、自らが保有するギリシャ国債のリストラクチャリングを自発的に行うことは、ECBによる各国財政赤字の補填 (マネタリー・ファイナンシング)にあたる、という従来からの建前を繰り返したのみだった。この考え方によれば、今後改めてギリシャの債務再編が実施される場合、ECBの債権が民間債権に優先して返済を受けるという問題が改めて浮上する。

 現状、EU、IMF、ECBの「トロイカ」がギリシャの歳出削減や構造改革の進捗をチェックしている。その内容によっては、今後ギリシャ政府が財政支出のために必要とする資金の支援を見合わせる可能性がある。さらに国内では野党の歳出削減への反発は強く政治情勢は依然不安定であり、国民によるデモやストライキも続いている。ギリシャはEU・IMFにより、既に二度の救済支援を受けている。仮に上に述べたような現状が続いた場合、救済は継続されるだろうか。

 スペインについて「大きすぎてつぶせない」状態にあり、先に述べたように救済を前提に議論が進められている。一方ギリシャについては、現状、救済継続ないし追加支援の条件は厳しさを増している。同じ嘘を繰り返したため信用を失くした「狼少年」となる可能性は、ギリシャの方が今後高まるのではないか。

ECBの一元的な銀行監督とESMの発足

 ドラギ総裁は、記者会見冒頭のスピーチで、9月12日にEU委員会が発表した銀行監督一元化案(SSM)の内容を歓迎すると述べた。さらにECBとしても検討を進めており、本件に関し近日中に正式な法的見解を発表すると明言した。また質問に答える形で、ECB内で金融政策と銀行監督を担当する組織を明確に区分する必要があると述べている。同時に10月8日に発足することになったESMは、ECBではなくEU各国政府の判断に従うべきであるとしている。

 ECBの本音は、銀行監督の責任を負ったために自らの金融政策について必要以上に緩和的な圧力がかかったり、ESMが十分機能しないためOMTのような緊急対応策を今後追加的に迫られることは避けたい、という点にあると思われる。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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