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第13回 「銀行同盟」実現に向けた3つのステップ―欧州出張報告(12年11月13日)

「スペイン・ギリシャ」から「銀行同盟」へ

 10月末にかけ欧州に出張し、現地の中央銀行・金融関係者などと意見交換する機会があった。

 それらの意見を基に考えると、欧州債務危機の動向を左右するポイントが大きく変化しつつあるようだ。即ち、これまでのスペイン・ギリシャの政治・経済動向に市場が一喜一憂する状態から、「銀行同盟」を中心とした欧州連合(EU)レベルの制度構築を巡る議論がどこまで進捗するかに関心が移ってきている。

 もちろん、スペインをめぐる情勢が十分安定化したとはいえない。前月の本レポートでは、早ければ10月中にも、スペインが早期に救済を申請するだろうと考えた。この場合、欧州中央銀行(ECB)が速やかにスペインに対し国債買い入れ(OMT)を実行することになる。そのように考えた理由は、EU側でスペインは「大きすぎてつぶせない」と考えられていることにあった。

 しかしスペイン政府は地方選挙が続く中で国民の支持低下を懸念し、緊縮財政につながる救済申請を先延ばしにしてきた。だが、スペイン国内の住宅市場・労働市場の改善が短期間に望みにくい以上、いつかは欧州金融安定基金(EFSF)・欧州安定メカニズム(ESM)に対する救済申請を行わざるをえないだろう。ECBのドラギ総裁は、11月の政策理事会後の記者会見で、スペインについて「全てスペイン次第である(It’s entirely up to Spain)」と述べている。その一方で、救済申請が先延ばしとなる現状でも市場への影響が限られている背景には、ECBによるOMTへのコミットがある。

 一方、ギリシャについては、10月以降、ギリシャ政府による財政緊縮策の策定(実質的な先送り)、EU・国際通貨基金(IMF)による審査を経て、追加融資という道筋ができつつある。ECBのドラギ総裁は、11月の政策理事会後の記者会見で、ギリシャにおける追加緊縮策の可決を確かに歓迎する(certainly welcome)が、ECBがギリシャに対する赤字ファイナンスをしないと明確に述べている。現状は、ギリシャは実質的なデフォルト状態にあることが既に市場で認識される中、ギリシャの「突然死」というハードランディングシナリオが避けられそうだ、という見方が支えとなっているということではないか。

危機対応をめぐる議論の変化

 欧州危機への対応は、従来から大きく2つの流れから構成されている。

 第一は、上に述べたスペイン・ギリシャ対応を中心とするECBによる緊急的な対応であり、期間3年という長期の資金供給と国債買い入れ策から成っている。特に今年9月以降、ECBによる無制限のOMTに対するコミットが市場安定化効果を生んでいる。

 第二は、今年6月のEU首脳会議で打ち出された「銀行同盟」による中期的な制度改革である。財政・金融・景気という「三つの悪循環」をどう断ち切るかという課題に対し、6月の時点では金融面から段階的な改革を進める方針が示された。その後、10月18-19日のEU首脳会議では、「銀行同盟」の中核であるECBによる銀行監督一元化について、2013年中にユーロ圏の全銀行約6000行を対象に進める方針が示された。

 前者のECBによる危機対応策が事態の悪化を防ぐ「時間稼ぎ」にすぎない以上、後者の制度改革が今後どのように進んでいくかということがポイントになる。

危機打開へ向けた3つのステップ

 以上の点について、2013年に向けた危機打開への展開を3つのステップに分け検討したい。

ステップ@:銀行監督の一元化へ向けた法的な枠組みの具体化

 2013年初めから段階的に銀行監督の一元化(SSM)を進めるためには、今年中に法的な枠組みを整備することが必要になる。この点、本年7月の本レポート*で述べたように、金融政策についてECBと各国中銀である「ユーロシステム」にならい、ECBの配下に各国の監督機関が存続する形となるだろう。

 ECBの現在の組織・体制ではユーロ圏内の銀行を実質的に監督することは困難である。そのため法的な枠組みの内容は、各国監督機関からECBに対し、情報が一律な基準や範囲に基づいて報告されるべきことなどを含むことになるだろう。

 また、大手銀行と中小銀行の取り扱いに異なるルールを適用すると大手銀行について「大きすぎてつぶせない」という期待が生じるため、一律のルールが適用されることになるだろう。

 これらの点が、12月13・14日にブラッセルで開催される次回EU首脳会議でどこまで具体化するかという点が先ず注目される。

「ドイツは本当に譲歩したのか―今後に向けた二つの試金石」

ステップA:ESMによる直接的な資金注入の実現

 このように、現在EUは「銀行同盟」を巡る議論の内、ECBによる銀行監督の一元化を最優先課題として取り組んでいる。その理由は、銀行監督の一元化が実現して初めて、欧州安定メカニズム(ESM)による銀行による直接の資本注入が可能になるためである。この点が可能になれば、スペインなど各国政府の財政収支に影響を与えることなく、銀行への資本注入を実施できるため、金融危機に対する大きな改善効果が期待される。

 しかし同時に、銀行監督の一元化自体が2013年の1年間で、段階的に実施されることになっているため、どの段階で直接的な資金注入が可能になるかという点について、主要国間の意見が分かれている。12月のEU首脳会議において、銀行監督一元化について工程表が示され、ドイツなど資金注入について厳しい基準の適用を求める国の動向がポイントになってくるだろう。

ステップB:預金保険・銀行破綻整理基金の一元化から財政統合へ

 最後に、「銀行同盟」は、銀行監督の一元化だけでなく、預金保険機構と銀行破綻整理基金の一元化を内容としている。* この点についても、問題国のモラル低下を防止するという観点から、既存の預金保険機構と一元的な機構を組み合わせる可能性がある。

 以上のような検討を経て、一元的な銀行破綻整理基金の具体化が可能になった段階では、銀行の破綻整理について各国の財政資金を投入することが必要となってくる。ここに、財政統合へのより具体的な道が開かれることになるだろう。

岩田一政「万里一空」(10月16日)は、「単一の金融監督」と「単一の銀行整理プロセス」の導入には、その両者を結びつける「単一の預金保険機構」が必要と述べている。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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