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第15回 2013年の欧州政治・危機対応・市場動向―長期金利とユーロへの示唆(13年1月11日)

 2013年の年明けを迎え、欧州は一旦危機から浮上したかにみえる。一方、今後1年のスケジュールを展望した時には、どのようなリスクがあるだろうか。以下、ユーロ圏における主要国の政治情勢と危機対応の要点と、これらの点が欧州金融市場に与える影響を検討したい。

政治動向:イタリア・ドイツの選挙

 政治面ではまず、2月24日に予定されるイタリアの総選挙が注目される。財政・労働を中心とした構造改革を進めてきたモンティ首相は、昨年12月21日、辞任を発表した。同氏は本来、大学教授であり、国会議員ではない閣僚で構成される暫定政権は当初から今年4月までの予定だったが、前倒しされることになった。

 元々同氏が2012年11月に首相に就任した背景としては、財政を中心に山積する国内経済について、同氏に片付けてもらい、その後政治の実権を握りたいという既存の政治家の思惑があった。今回の選挙前倒しの直接のきっかけとしては、モンティ政権を支えた少数政党が同氏への支持を取り止めたことにより、当初の予定が早まったにすぎない面がある。さらにこれまでモンティ首相を支持してきた最大勢力である中道左派・民主党のベルサーニ党首は、国内改革の継続とEUとの協調継続を訴えている。これに対しモンティ首相は、新たに政治勢力を結集し政権の継続を目指す一方、他の首相の下で閣僚となる意志はないとして妥協の余地を示していない。

 以上のように考えると、中道左派の民主党が勝利し、モンティ氏は交代するが、新政権は当面、改革路線の継続を掲げる、という展開となる可能性が最も高いと思われる。この場合、短期的な波乱要因となるリスクは低い一方、モンティ氏が閣外から新政権と協力関係を維持するか、中道左派が政権に就いても労働組合などと妥協し国際的な信認を失わないか、という点などが問題になるだろう。

 次に、今年秋、9月下旬に始まるドイツ連邦議会選挙が焦点となる。連立相手の自由民主党(FDP)の人気低下、野党の社会民主党(SPD)と「緑の党」の動向などが、メルケル現政権にとっての懸念材料とされている。しかし、第一にメルケル首相と最大野党SPDのシュタインブリック氏との人気度に大きな差があること、第二に現政権が財政緊縮策を取っても、他の欧州諸国のように政権の支持低下にはつながらない国民性に加え、第三に少数政党の乱立を防ぐため一定の得票率以下に終わった政党は議席を得られない仕組みになっている。そのため、メルケル首相の三選が阻止されるリスクは非常に低いのではないか。この場合、国民に不人気であるため選挙前には取りにくいEUレベルの救済の仕組み作りへの協力について、選挙後にはより積極的になる展開が想定される。この点は、欧州の危機管理という観点からはプラス材料といえるのではないか。

危機対応スキームとスペイン・ギリシャの救済

 次に欧州危機の救済スキームについては、昨年9月の欧州中央銀行(ECB)による無制限の国債買い入れプログラム(OMT)が効果的であったことから、緊急対応に一つの区切りが付いた。現状、この枠が設定されていること自体が予防的な効果を生んでいると考えられる。

 その後、昨年12月のEU首脳会議までの議論で今後に向けた前向きな制度設計の方向性が決定された。この概要については、前月の本レポートで述べたが、今年1年を展望し、特に下記の二点をポイントと考えるべきだろう。

 まず「銀行同盟」の内、ECBによる単一の銀行監督(SSM)の実現は、2013年初めまでに必要な法的枠組みが決定されることを前提として、今年3月末までに欧州安定メカニズム(ESM)が銀行に対する直接の資金注入が可能となる。これにより、各国の財政バランスに影響を与えずに、銀行に公的資金を注入することが可能になる。この点が個別国に与える影響として、第一にスペインについては昨年以来、銀行への直接資金注入を可能にEUへの救済申請をいつ行うかということが焦点になっていた。但し、欧州危機への懸念がやや落ち着いてきた現状では、ラホイ現政権の人気が高まらないかぎり、今後も緊縮政策への連想が働く救済申請は先送りにされやすいだろう。

 第二に、ギリシャについても例年通り春に大量の国債償還が想定されている。この点に対する懸念についても、銀行への悪影響が和らぐという予防的な効果が生じることもあるだろう。

 他方、単一の銀行監督については、今年1年をかけECBによる検討・実施が進められ、遅くとも2014年1月からフル稼働する大枠が示されることになっている。ECBが中心的な役割を果たす点は市場にとってプラスだが、ECBと各国監督機関との機能分担などの検討及び1年間という検討期間の長さが、年後半にかけては、不透明要因として意識される可能性があるだろう。

ユーロと欧州長期金利への影響

 以上のような今年1年間に予想されるイベントに対し、市場はどう反応するだろうか。まずユーロについては、昨年末から年明けユーロドルは1.33ドル台、ユーロ円は116円台まで上昇した。上に述べた政治面と救済スキームを巡る見通しを前提にすると、当初今年春に向けては欧州銀行への資金注入が可能になることなどを受け楽観論が継続し、ユーロドルで見れば1.35ドル程度まで緩やかな上昇が続く可能性が高いと思われる。これは仮にドル円を90円と仮定すれば、ユーロ円でいえば約121円という水準に相当する。

 しかしその後、年央から夏にかけてはドイツの政治情勢や銀行監督をめぐる不透明感が高まり、一旦調整しやすい展開となるだろう。しかし今秋以降、ドイツの選挙結果により、メルケル政権の基盤が固いことが確認され、選挙後のEUレベルの救済の枠組みを構築することへの期待感が高まれば、中期的なユーロの上昇期待感が対ユーロ・対円双方で高まることになるだろう。

 一方、ドイツ10年国債利回りに代表されるユーロ圏の長期金利もまた現在上昇している。これは、世界的な株式と金利上昇に連動した動きである。欧州危機に対する懸念が落ち着き、リスク回避のため流入していた資金が還流していることにもよると思われる。

 しかし、ユーロ圏の危機対応はようやくの入り口に立ったばかりであり、現在の楽観論は期待先行という面も強い。

 ユーロ圏の年内の成長回復が未だ見通せない現状では、金利の上昇余地は限定的に留まらざるを得ないだろう。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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