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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2013年4月11日 【新連載】キプロスは第2のギリシャになるか―スロベニア救済問題にも注目

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 3月25日、キプロス救済が合意に達した。しかし、EU、ECBにIMFを加えた通称「トロイカ」三者による100億ユーロの救済決定までには、紆余曲折があった。

EU・ECBの対応:今後の先例にはならないことを強調

 EUなどは当初、救済の条件として、国内大手銀行の整理に加え銀行預金者に対する課税を要求した。しかし最終的には、預金額10万ユーロに満たない小口預金者は対象外とすることで決着した。キプロスは人口90万人に満たない小国であり、金融業中心の立国である。優遇税制により海外からの資金に依存しており、今回仮に国内の大手二大銀行のうちいずれかが破綻するような事態に陥れば、海外への資金流出により国全体の危機に直結するような事態も想定された。

 今回の救済決定については、以下の2点に留意すべきだろう。

 第1に、EU主要国の強硬な姿勢だ。特にユーログループのダイセルブルーム議長が、今回の預金者への課税は今後の先例になるかのような発言をしたことだ。同氏はオランダ財務相であり、ドイツに代表される富裕な「北の国」の意見を代弁したともいえる。かつて、ギリシャ救済にあたり、EUの資金(ひいては市民からの税金)によるべきか、民間投資家の負担(PSI)も要求すべきか、ということが問題になった。今回もその延長線上にある議論と考えることができるが、一時小口預金者も例外なく課税対象とする可能性があった点には行き過ぎ感があった。前議長のユンケル氏であれば、市場への影響も考慮しつつバランスの取れた発言を行ったのではないか。

 第2に、その後、この点についてECBのより柔軟な姿勢が注目されることになった。4月4日のECB政策理事会では、キプロス救済について、当事者であるECBに質問が集中した。ドラギ総裁は、本件は今後の救済スキームのひな型(Template)とはならず、小口預金者への課税を巡る議論は「スマートな動き」ではないと述べた。その上で、キプロスがユーロ圏を離脱することを明確に否定し、逆に、今回のような小国の銀行セクターを巡る混乱は、共通の銀行救済機構作りを含む「銀行同盟」の必要性を示唆しているという認識を示したのである。

ギリシャとの比較@:デフォルトは回避も他国への波及には警戒

 今回のキプロス救済をギリシャ救済と比較するとどうなるか。キプロスはギリシャよりもさらに国の規模は小さく、両者とも当初はEUの富裕国から反発を受けたものの、混乱を回避するため最終的に救済されるという結論に至った、という点で共通している。一方、今回、キプロスについては、比較的短期間で救済合意に至った。これはギリシャの場合、EUなどが交渉を行いながら救済の仕組み作りを模索したため時間がかかったことに加え、ギリシャ救済時の経験をふまえ「交渉に時間がかかると市場の期待感を損ない事態が一段と悪化する」という一種の学習効果が働いた面もあったろう。

 それでは、今回の救済措置を受け、他国への波及は食い止められるだろうか。まず問題になるのは、キプロスと同様に問題を抱えるEUの小国である。スロベニアは人口約200万人でキプロスの2倍程度の国である。2004年5月、他の旧共産主義国やキプロスなどと同時にEUに加盟した。加盟当時から西欧諸国との経済関係が深く「旧ユーゴスラビア連邦の優等生」と呼ばれていた。しかしこのことが逆に欧州危機により、隣国のイタリアをはじめとする西欧諸国の経済悪化の影響を受けやすくなり、国内で銀行の不良債権が増加する事態に至った面がある。キプロスが今回の救済によっても自力で経済の回復を図ることは依然難しいことを考慮すれば、国内銀行部門に同様の問題を抱えるスロベニアへの波及は現時点ではやむを得なくなっているのではないか。

 この場合、スロベニアに対し、EUなどにより救済交渉が迅速に進められるかどうかが焦点になってくる。スロベニアはキプロスとは異なり本来製造業を持つ先進工業国であるため、救済後の経済回復には、より期待が持てる。スロベニアの早期救済に目途が立てば、キプロス危機の波及はそこで食い止められるという道筋も見えてくるだろう。

 一方、危機がポルトガルなどに対する懸念の再燃につながった場合は要注意だ。ポルトガルは緊縮財政下で景気回復の目途が立たないという意味では、ギリシャや今後のキプロスと類似しているうえ、スペイン・イタリアなど近隣の諸国に波及するという市場の連想が働きやすいためだ。ギリシャ救済時と比較すれば、さまざまな救済の枠組みが出来ている、という違いはあるものの、当時と同様の経過により危機が波及するリスクには注意が必要になってくるだろう。

ギリシャとの比較A:ロシアが“最後の砦”に

 キプロス政府は今回の救済交渉で預金者への課税に反発し、ユーロ圏を離脱する可能性を示したとされている。しかし、海外からの国内金融業への資金流入に依存しているキプロスにとり、現状ユーロを離脱する選択肢が現実的でないことは、冒頭のドラギ総裁の発言からも明らかだ。

 キプロスの強硬な発言の背後には、ロシアの存在がある。伝えられるように、ロシアから大量の資金がキプロスに流入し大口の預金になっている、ということだけではない。さらに遡れば、ロシアは歴史的・宗教的につながりの深いキプロスを地政学的にも重要な拠点と位置付け、特に中近東情勢を把握する重要拠点と位置付けてきた。これらの点で、ロシアがキプロスから大量に資金を引き揚げる可能性は低い。この点は、EU・ECB・IMFに頼らざるを得ないギリシャと比較すると、キプロスの交渉力を強めた面があるだろう。

 一方、ロシアの立場からすれば、今後、キプロス救済に一定の役割を果たすことにより、EUとの関係を如何に有利にしたいという意図が働くことになるだろう。ロシアは資源輸出により立国しているが、主力の欧州向けエネルギー輸出はユーロ危機により低迷している。そこでアジア向け輸出に活路を見出そうとしているが、中国が経済発展により交渉力を強めている上、日本との関係も政治面で改善途上にある。こうした状況から、ロシアの経済運営には行き詰まり感があるためである。

(2013年4月11日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

欧州債務危機は未だ予断を許さず、今後は緊急対応から中長期の制度構築に焦点が移っていくと考えています。本レポートでは、引き続き最近のグローバルな金融市場動向を踏まえつつ、欧州の新興国動向等を含むより広い視点から、的確な展望をご提供します。 (毎月1回 10日頃掲載予定)

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(特任研究員 林秀毅)

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