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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2013年6月11日 クロアチアのEU加盟、新たなリスクとなるか―明暗別れる旧ユーゴ諸国

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EU新加盟の背景にバルカンの安定化

 7月1日、クロアチアがEUに加盟する。2007年のブルガリア・ルーマニア以来久しぶりの新加盟であり、これによりEUは28カか国になる。クロアチアによるEU加盟の申請は2003年2月であり、加盟まで10年半かかったことになる。ここまで加盟に時間がかかった理由は、第1に、1990年代に起きたユーゴ紛争の処理をめぐる問題があった。特に91年のクロアチア独立後に国内のセルビア人を迫害したとして、クロアチア軍の元将軍を国際法廷に引き渡すことが求められ、加盟交渉の障害となった。第2に、2005年の加盟交渉開始後も、国民の基本的人権を守るための国内の裁判制度などの法的な整備が遅れていると指摘されていた。今年3月26日にEU委員会から発表されたクロアチア加盟に関する最終報告書では、EU加盟にゴーサインを出しつつも、司法制度の改革を中心とした改善点が詳細に示されていた。民主主義国であることはEU加盟国となるための必須の条件とされている。クロアチアは従来から大統領の権限が強く独裁的で、汚職が多いと指摘されてきた。このため司法制度の一層の充実が求められている。

 一方、このように問題を抱えた国が加盟を認められた背景には、従来からEUにとってバルカン半島の政治的安定が重要な課題となっていることがある。EUからみれば、90年代のユーゴ紛争を欧州内で解決することができず、結局、北大西洋条約機構(NATO)により米国主導で処理されたという思いが強い。分裂し小国の集まりとなった旧ユーゴの各国が新たな火種とならないよう、極力EU内に取り込もうという政治的な意図があるといえる。後述するように、クロアチアに続く今後のEU加盟候補国も、5カ国のうち、3カ国が旧ユーゴに属している。

クロアチア、ドイツとの歴史的関係で有利

 それでは、クロアチアとはどのような特徴を持つ国だろうか。この点、隣国のスロべニアと比較すると興味深い。人口は約440万人(2011年)、面積は約5.65万平方kmであり、共にスロベニアの2倍以上の規模である。西側のアドリア海沿いは美しい観光地として名高い。しかし内陸部はボスニア・ヘルツェゴビナを抱え込むような形で長い国境線が続いている。冒頭述べたように、90年代前半、クロアチアでは独立後も国内の紛争が続き、その後、ボスニア・ヘルツェゴビナにも関与し混乱が続くことになった。

 クロアチアの産業構成をみると、地理的な位置と良港を利用した運輸業や、観光業などサービス産業の比率が高く、機械・化学など製造業中心のスロベニアとは対照的である。

 スロベニアはかつて「旧ユーゴの優等生」と呼ばれ、91年6月、クロアチアと同じ日に独立後、2004年5月、ポーランド・チェコ・ハンガリーなどと同時にEUに加盟した。さらにそれからわずか3年後の2007年1月には、ユーロを導入した。

 しかし、結果からみれば、このようなEU加盟・ユーロ導入のタイミングは、スロベニア経済にとって裏目となった。第1に、製造業主体で、輸出主導の成長を図る小国のスロベニアにとって、その後欧州の危機が本格化したことにより、主要向けの輸出が打撃を受けた。第2に、優良国扱いされ、資金が潤沢となった結果、不動産市場に資金が流入し、国内銀行の不良債権増加につながり、現在に至っている。この点は、2000年代前半のアイルランドやスペインと同様の道を辿った、ということができるだろう。

 これに対しクロアチアは、元々、製造業を中心に輸出で高成長を図るという産業構造ではなく、優良国ともてはやされ海外から豊富な資金が流入することもない、いわば「ローリスク・ローリターン」の国であるといえる。

 さらに、クロアチアについて、ドイツとの関係が特筆されるべきだろう。歴史的にみても、クロアチアはオーストリア=ハプスブルグ帝国の支配下にあった時期があり、ドイツ語圏とのつながりが深いと言われている。91年の独立後には、多くのドイツ系企業・銀行などが進出した。クロアチア・スロベニア双方とも、貿易相手国として見てもEU最大の経済国ドイツと近隣の大国イタリアとの経済関係が深い点では共通している。しかし、このようにクロアチアが歴史的にドイツと密接な関係を持っていることは、今後、EU加盟国として一つの支えになるのではないか。

今後はセルビアとの加盟交渉に注目

 それでは次に、今後のEU加盟候補国と比較するとどうなるだろうか。現在、旧ユーゴの加盟候補国としては、セルビア・モンテネグロ・マケドニアの3カ国が挙げられている。

 これらの共通の特徴としては、クロアチアと比較すると、農業の比率が高いこと、経常赤字・財政赤字の対GDP比率が高いことなどから、経済構造はやや脆弱であるといわざるを得ない(以上の記述は、ECB月報(2012年11月)の資料に基づく)。

 この中で、今後注目されるのは、セルビアの加盟交渉である。第1に、国の規模が人口が約740万人と大きい上に、バルカン半島の中心に位置しており、地政学的な意味も大きいということがある。しかし第2に、クロアチアと同様、90年代のユーゴ紛争以降、国際人道上の問題を引き起こしてきただけでなく、同国からの独立を宣言したコソボとの関係が問題になってきた。後者については、今年4月、セルビアがコソボとの関係正常化を発表し、このことがEUによる加盟交渉開始につながっており、EUとしてはセルビアとの加盟交渉をバルカン半島の安定化策につなげたいという狙いがある。

 最後に、セルビア人の宗教はギリシャ正教などに近いセルビア正教であり、この点がユーゴ紛争の重要な背景にもなってきた。仮にセルビアの加盟交渉が進展すれば、今後の新たな加盟候補国としてウクライナなど東方への拡大が視野に入ると同時に、EUとロシアの関係に影響を与えることになる。同時に、現在の加盟候補国だがイスラム教の加盟候補国であるトルコをめぐる議論にも波及する可能性があるだろう。

(2013年6月11日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

欧州債務危機は未だ予断を許さず、今後は緊急対応から中長期の制度構築に焦点が移っていくと考えています。本レポートでは、引き続き最近のグローバルな金融市場動向を踏まえつつ、欧州の新興国動向等を含むより広い視点から、的確な展望をご提供します。 (毎月1回 10日頃掲載予定)

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(特任研究員 林秀毅)

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