トップ » 林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2013年12月10日 欧州 2014年へ向けた展開―3つのポイント

  • Tweet this articl

 今年1年を振り返ると、ユーロ危機への対応が一定の効果を収めたが、欧州の景気回復は緩やかであり、デフレ懸念が台頭した。そのため、来年へ向けた展開を考える上では、各国の財政規律を高め危機に対応した新たな制度構築を進めつつ、景気回復への配慮をするという両にらみとならざるを得ない。以下、欧州の政治、内外経済動向について、ポイントを述べることにしたい。

ポイント@:ドイツ・イタリアの政治安定化

 まず欧州各国の政治動向をみると、主要国の政治情勢が徐々に安定に向かい、この点は欧州全体の政策運営にプラスに働くことが期待できる。

 第1に、ドイツでは11月下旬に大連立交渉が成立し、年内にもメルケル首相を中心とした新政権が発足する見通しだ。9月下旬の総選挙以降、連立交渉に2カ月かかったことなどから、大連立の先行きを懸念する見方も示されている。しかし連立二党間の合意書が大部のものとなったことからも、この間に連立発足後の具体的な政策内容について徹底的な議論が行われたことがうかがえ、この点はむしろ今後の政権運営にはプラスと考えるべきだ。合意内容を見ても、最低賃金制を段階的に導入し年金の増額など社会保障を拡充すると同時に、財政規律を維持するというバランスの取れた内容となっている。過去に実施された労働市場の改革により国民の間で格差が広がったという批判に対し、現時点で対処しておこうという狙いもうかがえる。

 さらに国内の政治運営をみると、メルケル首相の実行力は、連立相手の社会民主党(SPD)の首脳と比較しても突出しているため、安定した政治基盤に基き、大連立政権は安定化に向かうと思われる。同時に対外的には、現在やや円滑さを欠く独仏関係について、社会党間のパイプを通じ改善を図ることができれば、欧州内の問題国をより円滑に処理することが可能となろう。

 第2に、イタリアでは今年2月の総選挙以降、数カ月にわたり政治の空白が続くなど、不安定な状態が続いた。しかしこの点に関し、前首相のベルルスコーニ氏が脱税容疑で有罪判決を受け、議員資格を失ったことの意味は大きい。同氏は、今年発足した連立政権に参画し、自らの政治生命を維持するため現首相に揺さぶりを掛けるようなことを行ってきたためである。ベルルスコーニ氏は引き続き議会外からの影響力維持を図り、レッタ首相の政策実行力にも引き続き課題が残るが、イタリアの足かせとなってきた政治の不安定性が和らぐことは、欧州全体にとってもプラスとなるだろう。

ポイントA:デフレリスクへの取り組みが本格化

 冒頭で述べたように、財政規律と景気回復の両にらみが必要となる中で、欧州の景気回復の足取りが弱く、デフレ懸念が台頭している。

 具体的な取り組みとしてはまず、ドイツの独り勝ちを改善する方策があるか、という点が問題になる。しかし、ドイツが内需拡大策に取り組み、問題を抱える南欧諸国への資金還流策に協力することは考えにくい。先に述べたように、ドイツ大連立政権は、メルケル首相の主導により、財政規律に留意しバランスの取れた経済政策運営を引き続き行っていくと考えられるためだ。社会民主党が南欧諸国の救済などに協力的であってもその影響力は限られるため、ユーロ共同債や財政基金といった資金還流を行う仕組み作りが、短期間で具体化する可能性は低い。

 こうした状況では、結局今後も欧州中央銀行(ECB)に負担がかからざるを得ない。第1に政策金利については、直近12月5日の政策理事会後の記者会見においてドラギ総裁は、マイナス金利の導入について技術的に準備はできており、今回も短時間ではあるが議論を行ったと述べている。

 この点からすれば、年明け以降、どのように効果的なタイミングでマイナス金利の実施を行うかという点が焦点になってくるのではないか。第2に、市場への資金供給により企業への貸し出しをいかに円滑に行うかということが課題になっている。今回の記者会見では、この点に関し、ECBによる長期資金供給(LTRO)をめぐる議論が注目された。ドラギ総裁は、従来ユーロ危機対応のための資金供給は、銀行を通じ各国の国債購入に回ったが、市場が安定化してきた現在では、資金が貸し出しに回ることをより確実にしたい、と述べた。

 これはECBやEU委員会がユーロ危機について述べている景気悪化・債務危機・銀行危機という「悪循環の三角形」のうち、債務危機と銀行危機についてはECBによる緊急対応により緩和されたが、これによっても銀行から中小企業などへの貸し出しが増加せず、景気の回復につながっていない、という問題意識が背景にあるといえるだろう。

ポイントB:主要国と貿易関係を強化―EU・日本の自由貿易協定(FTA)交渉は進展

 以上のように考えると、欧州の景気回復は来年以降も当面、外需に依存せざるを得ない。

 ここで、最も注目されるのは米国との関係だ。これは単に、米国の雇用情勢などが改善し景気回復への期待が高まっているため、ユーロ圏からみた外需が増える、ということだけではない。2013年後半、ユーロは対ドルで1.40ドルレベルまで押し上げられる展開が続いてきた。これはユーロとドルという二大通貨はお互いにシーソーのような関係にあり、ユーロ危機収束への期待という欧州側の要因だけでなく、米国の景気回復に下振れ感が高まったことがある。米国の景気回復への期待が再び高まれば、実需とユーロ安という両面で、ユーロ圏にとってプラスが生じることになるだろう。

 一方、日本との貿易関係は、現状では米国と比較すると比重は低い。しかしEU・日本間の自由貿易協定(FTA)が2013年春以降進んでおり、2014年春頃には交渉状況が明らかになる見通しだ。欧州側では、フランス・イタリアの自動車関連企業などが、FTAにより日本車の輸入が増えるとして反対しているとも伝えられている。しかし現在、EUは米国との環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の交渉を今年7月に開始するなど、主要国との自由貿易交渉を多方面で積極化させている。一方、日本企業は、EUとのFTAで韓国が先行し、競合しやすい電子電機・自動車などの分野で不利になっていることに従来から危機感を抱いている。以上のように考えると、EU・日本のFTA交渉については、紆余曲折はあるものの、両者の利害は一致し交渉は進展していくことになるだろう。

(2013年12月10日)


---
日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

欧州債務危機は未だ予断を許さず、今後は緊急対応から中長期の制度構築に焦点が移っていくと考えています。本レポートでは、引き続き最近のグローバルな金融市場動向を踏まえつつ、欧州の新興国動向等を含むより広い視点から、的確な展望をご提供します。 (毎月1回 10日頃掲載予定)

※「欧州債務危機リポート」はこちらからご覧いただけます。

(特任研究員 林秀毅)

△このページのトップへ