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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2014年2月10日 日本企業の欧州戦略はどう変化するか―ケーススタディにみる3つのポイント

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 ユーロ圏では現在、欧州中央銀行(ECB)による統一的な銀行監督を中心とした新たな制度構築への取り組みが続けられている。しかしそれが今年末に実現するかどうかについては依然、不透明感が強い。一方、2月6日に開催されたECB政策理事会では、ユーロ圏の景気回復が依然遅く、内需の低迷によるデフレ懸念が台頭し、ECBに対し追加的な対策を求める声が相次いだ。以上の双方について、今後も当面は「ECB頼み」の状況が続かざるを得ないだろう。

 それではこのような現状で、日本企業は欧州市場に対し、どのように取り組むべきだろうか。以下、これまで主要な日本企業が欧州に対し取り組んできた戦略の歩みを振り返りながら、3点にわたり今後の日本企業による欧州戦略のあり方を検討したい。

戦略@:欧州統合の流れに沿った販売戦略

 欧州統合は、戦後60年以上にわたる長い取り組みである。それは、関税同盟、域内単一市場、単一通貨ユーロという順番で段階的に進められてきた。日本企業からみた欧州の市場は、どのような業種についても、このような欧州統合の大きな流れの中で変化してきたと言える。

 まず、1950−60年代にかけて欧州で関税同盟が形成され通商政策が共通化される中、日本は高度成長期に入り、欧州に対しても輸出攻勢を強め貿易摩擦が表面化していた。電機・自動車産業など日本企業が、欧州に対し積極的な戦略を取った。例えば松下電器は、欧州の巨大企業だったオランダのフィリップス社と提携関係を結んだ。またホンダは、日本企業としては最初の現地製造拠点となる二輪車工場をベルギーに建設した。両社とも強力な指導者の下で戦後急速に発展した企業であり、欧州統合の流れを読んだ戦略を早い時期から取る先見の明があったと言える。

 ユーロ危機が最悪期を脱したと言われる現在では、今後、欧州統合をめぐる議論はドイツの影響力が一段と増してくるだろう。ドイツの大連立政権においてはメルケル首相の指導力が維持されると同時に欧州政策への取り組みにも積極的に関与することになる一方、フランスをはじめとする他国では政治的指導力が低下しているためである。その結果、問題国への救済の条件として厳しい財政規律や金融規制が要求され、ドイツを中心とした豊かな国々とギリシャ、ポルトガルに代表される弱小国の経済格差は一段と拡大することになる。日本企業にとっては、特に貿易面で欧州・ユーロ圏の中核市場となるドイツを中心とした豊かな「北の国」が主な取り組み対象になると思われる。

戦略A:労働コストの安い周辺国への生産展開

 次に、現地生産については以上述べたことは対照的に、EU・ユーロ圏内の周辺国あるいはEU外の周辺国が取り組み対象となりやすい。欧州統合の発展により形成されたEU単一市場のメリットは、ユーロ危機によっても損なわれておらず、労働コストの安い周辺国にEU市場に向けた製造拠点を作るメリットがあるためである。今後についても先に述べたように域内の経済格差が拡大することになれば、こうした労働コストの格差は簡単には解消しない。具体的な例として、欧州域内では元々競争力の高い国内産業・企業を持っているにもかかわらず、不動産・金融危機が国内雇用に影響を与えているスペインなどの南欧諸国や、元々労働コストの安い中東欧の加盟国が挙げられる。同時に、EUが地中海・中近東などの近隣諸国と個別に関税撤廃などを定めた条約を締結しており、日本企業がそれらの国々で、実質的に安い労働コストを活用して現地生産を行い、欧州市場向けの輸出拠点とする動きも今後一段と活発化するだろう。

 具体的なケースとして、トヨタ自動車は、当初、英国に欧州向けの生産展開を行っていたが、ユーロ導入の動きが現実化し英国がこれに距離を置き始めると、フランスなど大陸に生産をシフトさせた。しかし1990年代後半に中東欧諸国へのEU拡大の動きが具体化すると、同社は2004年にこれらの国々が実際にEUに加盟する前に、これを先取りする形でチェコなどの中東諸国に生産拠点の中心をシフトさせた。

 一方、EU域外では、ファスナーのような労働集約的な製品を生産するYKKなどの日本企業が、労働コストが安く人口も多いトルコで従来から現地生産を行っているケースが好例と言えるだろう。

戦略B:欧州の消費者に評価される製品価値の向上

 最後に、日本企業として、欧州市場で評価される独自の価値を生み出せるかどうかもまた重要なポイントとなる。ユーロ危機により景気が低迷し、今後ユーロ圏内でデフレ圧力が高まっても、欧州の消費者は一般に生活の質を落とすことを好まない上、本来、多様な文化的価値を大切にする傾向がある。フランスなどの主要国でも、日本の伝統的な文化に対する関心は従来から元々高く、さらに最近では若者を中心に日本のサブカルチャーなどに対する関心が急速に高まっている。

 具体例としては、資生堂が欧州で高いブランド価値を維持しているケースが挙げられる。同社はかつて日本が近代化する時期に、西欧文化を日本に紹介する形で国内の製品価値を高めてきた。現在は同時に、日本やアジア的な価値観を製品のコンセプトに込め、その点が付加価値として欧州の消費者に広く受け入れられていると考えられる。

 一方、電子・電機製品などの分野において、性能や技術で比較優位を得ようとする戦略は、日々の為替レートや自由貿易協定(FTA)交渉の推移のような不確定要因に左右されやすい面が大きいと言わざるを得ない。現状、韓国とEUのFTAが先行して締結されていることが日本企業にとって不利に働いている。日本とEUのFTA交渉が順調に進展することを期待したい。

(2014年2月10日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

欧州債務危機は未だ予断を許さず、今後は緊急対応から中長期の制度構築に焦点が移っていくと考えています。本レポートでは、引き続き最近のグローバルな金融市場動向を踏まえつつ、欧州の新興国動向等を含むより広い視点から、的確な展望をご提供します。 (毎月1回 10日頃掲載予定)

※「欧州債務危機リポート」はこちらからご覧いただけます。

(特任研究員 林秀毅)

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