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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2015年6月12日 欧州中銀の政策展開:ギリシャ救済・量的緩和への対応―金利上昇をどう考えているか

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 6月3日に開催された欧州中銀(ECB)の政策理事会とその後の記者会見では、ギリシャへの対応姿勢と量的緩和の今後、欧州金利の急上昇への対応に質問が集中した。以上の三点について、ドラギ総裁の発言を基にECBによる今後の政策展開を検討したい。

政策展開@:対ギリシャ、6月末まで厳しい処置はなし

 6月末のEUに対する資金返済期限を前に、ギリシャの救済問題は大詰めを迎えている。月初、ギリシャはIMFに対し、5日に期限を迎える約3億ユーロの返済を他の債務返済と併せて今月末に行うことを明らかにした。

 一方、ECBは各国中央銀行経由でギリシャの銀行に供与しているELA(緊急流動性支援)を続けてきた。

 今年2月にギリシャで反EUを掲げるチプラス政権が誕生し、EUからの資金支援の条件である財政緊縮政策が具体化されず、ギリシャの銀行の先行きに懸念が高まった。この局面でECBはギリシャ中銀を通じ、同国内の銀行にELAを供与した経緯がある。

 即ち、ECBはギリシャにとって「命綱」である資金供与を握っていることを示し、ギリシャが最終的な局面で柔軟な姿勢に転じることを迫っている、という見方ができる。

 記者会見でも、ギリシャ全体の債務状態が明らかに悪化している中で、その実態に併せ、ELAの資金供与について条件を厳しく変更したり、資金供与自体を中止すべきではないかという質問があった。

 しかし以上のようなECBの意図を考えると、6月末の資金返済期限をにらみ最終的な交渉が行われる6月25日のEU首脳会議まで、ECBの側からELAの供与中止などギリシャに対し厳しい処置を取ることにはならないだろう。

政策展開A:量的緩和はむしろ増額・延長へ

 今回の政策理事会では、月600億ユーロの資産買入れを継続することが決定された。ここで以下のような記者会見の内容からすると、ECBによる量的緩和は、今後、柔軟かつ長期間に当たって実施される可能性が高まったと考えられる。

 第一に、ドラギ総裁は、直近5月のユーロ圏インフレ率速報値が0.3%とプラスに転じた点について聞かれ、「インフレ率の上昇は、市場の期待より高かったが、我々の期待よりは低かった」と述べている。さらに、量的緩和の出口政策を検討したかという質問に対しても、これを明確に否定している。以上のようなやり取りから、ECBが量的緩和を早期に終了するつもりがないことが改めて確認されたのではないか。

 第二に、ドラギ総裁は、ユーロ圏の成長率と物価安定についてダウンサイドリスクがあることを強調しており、ユーロ圏がデフレから脱却し成長回復局面に乗るとは考えていないようだ。

 尚、ECBはユーロ圏のインフレ率について、2016年に年率1.5%、2017年委は1.8%に上昇し、目標の年率2%に近付くと想定している。しかし以上のような考え方によれば、今後、この点も下方修正されることになるだろう。

 一方、量的緩和の金額・継続時期の変更について、ドラギ総裁は記者会見では予断を与えなかった。この点は今後、金額の増額や期限の延長について、予断を持たず柔軟に取り組む姿勢であると考えるべきだ。欧州現地でも、ECBの量的緩和が、現在予定されている2016年9月を超え延長される可能性が高いという見方がある。

政策展開B:長期金利上昇をいつまでも容認しない

 最後に、今回の記者会見では、量的緩和後の市場のボラティリティ上昇にどう対処するのかという質問に対し、ドラギ総裁が政策を変更するつもりはなく何もしないと答えた。そのことが報道されると市場に大きな影響を与え、欧州金利は一段と上昇した。

 しかし、記者会見ではこの直前にドイツ国債を中心とした欧州金利の上昇傾向の理由について質問があったことに注意が必要だ。これに対しドラギ総裁は、成長への期待が改善したこと、インフレ期待が高まったことなどの可能性について述べ、市場のテクニカルな調整が行われたいくつかの可能性について言及した。その中で、最後に「単にボラティリティがボラティリティを呼んでいる」可能性を指摘した上で、量的緩和下では「市場はより高いボラティリティに慣れなければならない」と述べている。

 先に述べたように、ECBがユーロ圏の成長とインフレ率見通しについて楽観的でないことからすれば、現在のボラティリティ上昇は量的緩和実施後の一時的な動きであり、市場がこれに慣れるまで手を加えるべきではない、と考えているにすぎないはずだ。

 それでは仮に、ボラティリティの上昇を伴い欧州金利の上昇が今後も続いた場合はどうか。そもそもECBの景気認識からすれば、金利の上昇が続くことは望ましくないはずだが、問題はそれだけにとどまらない。

 市場参加者が指摘する通り、ECBによる量的緩和の真の狙いは通貨安にある。量的緩和の実施によりユーロは下落したが、その後の金利上昇を受け、現状、ユーロドルは1.1ドル台前半まで反転上昇している。ECBがこのような影響をもたらす金利上昇を放置することはないだろう。その結果、欧州発の日米欧長期金利上昇にも、遠からず歯止めが掛かるのではないか。


(2015年6月12日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅
欧州では、危機再燃への懸念が高まる一方、新たな制度構築を行う試みが求められています。本レポートでは、グローバルな金融市場動向を踏まえつつ、幅広い視点から的確な展望をご提供します。2015年4月よりタイトルを「林秀毅の欧州経済・金融リポート2.0」としてお届けします(毎月1回 10日頃掲載予定)。
※「欧州債務危機リポート」はこちらからご覧いただけます。


(特任研究員 林秀毅)

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