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泉宣道のChinAsia 中国・アジア

2017年6月9日 日中関係の改善に死角はないか

 日本と中国は国交正常化45周年の節目を捉え、関係改善に動き出している。7月には安倍晋三首相と習近平国家主席がドイツで会談する見通しだ。依然として緊迫している北朝鮮の核・ミサイル開発問題が背景にある。中国は北朝鮮に対して強い影響力を持つ。トランプ米大統領は北朝鮮問題の解決を優先させるため、懸案の米中貿易不均衡問題を一時棚上げする「取引外交」で習国家主席を盛んに持ち上げている。北朝鮮問題をめぐる日米中3カ国の相関関係は、強固な日米同盟と並行して、日中関係、米中関係とも好転に向かっているようにも見える。北東アジアの安定には日米中の密接な連携が不可欠だが、前途には「台湾」や「南シナ海」など極めて微妙な問題も横たわる。

安倍首相「一帯一路」に条件付き協力

 「今年はユーラシア大陸の地図に、画期的変化が起きました。本年初めて、中国の義烏(ぎう)と英国とが貨物列車でつながりました。『一帯一路』の構想は、洋の東西、そしてその間にある多様な地域を結びつけるポテンシャルをもった構想です。(中略)協力をしていきたいと考えます」
 
 安倍首相は6月5日、都内のホテルで開かれた第23回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)の晩餐会で演説し、中国の習国家主席が提唱している広域経済圏構想「一帯一路(新シルクロード)」に言及した。

 義烏市は上海の西南約300キロに位置する浙江省中部の都市。日用品の卸売市場の集積地で「世界最大の雑貨卸売市場」といわれる。2017年1月1日、浙江省と英国ロンドンを結ぶ国際定期貨物列車の第1便が義烏を出発した。カザフスタン、ロシア、ポーランド、ドイツ、ベルギー、フランス、英仏海峡トンネルなどを経由して、ロンドンまで約1万2451キロを18日間かけて走った。安倍首相は「一帯一路」の象徴ともいえるこの貨物列車を引き合いに中国に秋波を送ったのである。

 もちろん、手放しで「協力」を申し出たわけではない。インフラ整備に当たっては透明で公正な調達、プロジェクトの経済性などが不可欠だと注文を付けた。条件付きとはいえ、安倍首相が「一帯一路」への協力を公式に表明したのは初めてである。

 これに対し、中国外務省の華春瑩副報道局長は翌6日の定例記者会見で、「安倍首相の発言に留意している。日本側が『一帯一路』建設の枠組での協力を中国側と検討することを歓迎する」と応じた。

 日本政府はこれまで「一帯一路」に慎重な姿勢を示してきた。日米主導で進めた環太平洋経済連携協定(TPP)と対立する図式だったからである。ところが、トランプ大統領はTPPからの離脱を決定、米中が4月の首脳会談を契機に急接近したことで風向きが変わった。日本企業が「一帯一路」への参加をビジネスチャンスとみていることも安倍首相の背中を押したかもしれない。
 
 転換点となったのは、5月14、15両日、北京で開かれた「一帯一路」国際協力サミットフォーラム。習国家主席が主宰した国際会議に、日本からは安倍政権の事実上のナンバー2、二階俊博自民党幹事長、首相名代ともいえる今井尚哉首相秘書官(政務担当)、そして榊原定征経団連会長ら大規模な訪中団が参加した。二階幹事長は会議後の16日、北京の釣魚台迎賓館で習国家主席と約2年ぶりに会談し、安倍首相の親書を手渡した。

 これが布石ともなり、日中関係改善への歯車が大きく回り始めた。5月29〜31日には中国の外交担当のトップである楊潔篪国務委員(副首相級)が来日、安倍首相、岸田文雄外相、谷内正太郎国家安全保障局長らと相次いで会談した。一連の会談を通じて7月上旬にドイツ・ハンブルクで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた日中首脳会談実現へのレールが敷かれたほか、日本側は中断している日中首脳の相互訪問を2018年に再開するよう楊国務委員に働き掛けた。

 安倍首相は楊国務委員に「本年の日中国交正常化45周年及び来年の日中平和友好条約締結40周年の機会を捉え、日中関係をさらに発展・改善させていきたい」との意欲を表明、北朝鮮問題にも触れ「今は北朝鮮への圧力を強化することが重要だ。中国の役割は極めて重要であり、さらなる建設的な役割を果たしてほしい」と要請した。

 停滞していた日中関係を改善に向かわせている一因は、北朝鮮の度重なる挑発行為である。4月の「北朝鮮危機」に続き、北朝鮮は5月から6月8日まで4週連続で弾道ミサイル発射を強行した。

 中国が威信をかけた「一帯一路」の国際会議初日の5月14日早朝、新型とみられる中距離弾道ミサイル「火星12」を発射、習国家主席の顔にいわば泥を塗った。楊国務委員が訪日した初日には「精密誘導の新型弾道弾」と称するミサイルを日本の排他的経済水域(EEZ)内に撃ち込んだ。

 6月8日には日本海に向けて新型の地対艦巡航ミサイルを発射、朝鮮中央通信は同日、北朝鮮の対外宣伝団体による7日付の声明を伝えた。声明は「今のように日本が不届きに振る舞うなら、有事には米国より先に日本列島が丸ごと焦土化されかねないことを知るべきだ」との内容。安倍首相が5月26,27両日の主要7カ国(G7)首脳によるタオルミナ・サミットで、北朝鮮の核・ミサイル計画の完全放棄を迫る議論をリードしたことなどを念頭に、日本を威嚇したのである。

台湾と南シナ海は極めて敏感な問題

 「中日関係改善に日本は具体的行動を」――。楊国務委員が訪日を終えた直後の6月2日、中国共産党機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網日本語版」はこう題する国際問題専門家の評論を掲載した。評論は「最近、中日間の相互交流が活発だ」の書き出しで、5月中旬の二階幹事長の訪中を評価しながらも「中国は両国関係における敏感な問題を適切に扱うよう日本に要求している」として台湾問題や南シナ海問題を具体的に挙げた。

 台湾問題では「日本政府は台湾当局と共謀して台湾地区の対日交流窓口の名称を『亜東関係協会』から『台湾日本関係協会』に変更し、日本と台湾地区の実質的関係の格上げを企てて、中日関係に新たな妨害をもたらした。中国は日本に、『一つの中国』原則を堅持すべきだと厳正に告げた」と記している。

 この問題は、日本が正式な外交関係のない台湾との窓口機関の名称を今年1月1日付で公益財団法人「交流協会」から「日本台湾交流協会」に変更したことが発端。これを受けて台湾側の窓口機関も5月17日付で「台湾日本関係協会」に名称変更したものだ。その理由は窓口機関の認知度を高めるためだという。

 しかし、中国政府は「日本」と「台湾」を併記したことに関係格上げを画策するものだとして強く反発している。中国大陸と台湾はともに「一つの中国」に属するという原則にそぐわないとの論理だ。
 
 日台断交45周年でもある今年、日台関係は“進展”している。3月下旬には赤間二郎総務副大臣が台湾を訪問、台北で「日本台湾交流協会」主催のイベントに出席した。断交後、公務で訪台した政府高官としては最高位である。

 中国はすぐに反応した。新華社電によると、中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は3月29日、「日本の現職の副大臣による台湾訪問は中日の4つの政治文書の精神に著しく背いており、断固反対する」と述べた。

 中国側が対日関係の文脈で台湾問題に神経を尖らせているのは、安倍首相が台湾に近いと見なしているからだ。3月30日、「人民網日本語版」は「日本は『台湾カード』を切ろうなどと考えるな」と題する人民日報海外版編集者の評論でこう指摘した。「安倍氏の祖父の時代から、日本の政界ではいわゆる『知台派』グループが活発に動き続けてきた……」

 確かに、祖父の岸信介元首相と台湾の蒋介石元総統は親密な関係だった。安倍首相自身も台湾の蔡英文総統とは面識がある。首相の母で岸元首相の長女である安倍洋子さんは昨年5月、台湾を訪れ、台北の国家音楽庁で蔡総統とともにNHK交響楽団のコンサートを鑑賞した。N響の台湾での公演は45年ぶりで、日台断交後初めてだった。

 今年4月19日には都内の第一生命ホールで、台北愛楽管弦楽団による台湾・日本文化芸術交流音楽会が開かれ、洋子さんは台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)と並んで鑑賞した。日台間の文化交流は全く問題ないが、安倍首相の3代にわたる台湾とのつながりを物語ってはいる。

 「一つの中国」政策と連動する台湾問題は中国の核心的利益にかかわる。日中関係、米中関係にとって、非常に敏感なトゲともいえる。トランプ氏は大統領就任前の昨年12月に台湾の蔡総統と電話会談し、物議を醸した。中国側は安倍首相も中国をけん制する「台湾カード」を切るのではないかと疑心暗鬼になっているのかもしれない。

 6月2〜4日、台湾問題、そして南シナ海問題が焦点となった国際会議がシンガポールで開かれた。英国国際戦略研究所(IISS)が主催し、アジア太平洋地域の国防相らが多数集う第16回「アジア安全保障会議」である。北朝鮮問題も当然、主要テーマだったが、北朝鮮の人民武力相(国防相)は参加せず、日米VS中国の対立の構図が浮かび上がった。

 稲田朋美防衛相は「南シナ海における拠点構築やその軍事目的での利用が進行しており、強く懸念する」と中国の人工島造成を念頭に発言。さらに南シナ海での米海軍の「航行の自由作戦」への支持も明言した。

 マティス米国防長官は南シナ海での人工島造成について「ルールに基づく秩序を阻害している中国の行動を受け入れることはできない」と批判、「航行の自由作戦」や軍事演習を継続すると表明した。米国の国内法である台湾関係法に基づく台湾への武器供与も続ける方針を示した。

 これに対し、中国代表団団長の何雷・中国軍事科学院副院長(中将)は急きょ記者会見を開いて反論した。台湾問題については「中国政府と中国人民は米国の台湾への武器輸出に断固反対し、いかなる形でも米台の公式交流と軍事連携に断固反対する」と言明した。

 南シナ海をめぐっては米中の対立だけでなく、日中関係も波立つ可能性がある。中国側が注視しているのは海上自衛隊のヘリコプター搭載型最新鋭護衛艦「いずも」の動向だ。5月26、27両日、南シナ海で米海軍のミサイル駆逐艦「デューイ」と共同訓練を実施した。「デューイ」は24日に「航行の自由作戦」を実施したばかりだった。

 「いずも」は5月から出港、シンガポール、ベトナム、フィリピンなどを回り、7月中旬に米国、インド両海軍とインド洋で実施する共同訓練「マラバール」に参加する予定で、約3カ月間の長期航海だ。このうち約2カ月は南シナ海にとどまる模様だ。フィリピンのスービック港に寄港していた6月4日にはドゥテルテ大統領が乗船し、艦内を視察した。

 「いずも」は基準排水量1万9500トン、全長248メートル、全幅38メートル。広い甲板を備え、「ヘリ空母」とも呼ばれる。日本の海上自衛隊が戦後、保有した艦船では最大規模。中国初の空母「遼寧」より小ぶりだが、欧州各国の空母とは肩を並べる大きさだ。

 5月30日東京発の新華社電は「いずも」に関する「ニュース分析」を配信、安倍政権は南シナ海を「かく乱」していると批判した。アナリストの分析として、米軍との軍事的動きをエスカレートさせている意図は「自衛隊の任務範囲を広げ、『半島周辺情勢の緊張』を利用し、国内に『必要に迫られた武力の解禁、安保の拡大』という世論環境をつくり、憲法改正実現のための下地をつくること」と決め付けた。中国側がいかに警戒しているかが、うかがえる。

 中国の指導部は今秋、5年に1度の共産党大会を控え、周辺諸国と安定した関係を築いておきたいとの戦略だ。そのために日本との関係も改善する方向に動いている。7月の日中首脳会談が実りあるものになるかどうかは、北朝鮮情勢、「ロシアゲート」に揺れるトランプ大統領の政権運営などの変数にも大きく左右されるだろう。

(2017年6月9日)


(日本経済研究センター 研究主幹)

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