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2017年12月15日 中国は今世紀半ばまでに台湾を統一できるか

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 東アジアに残る冷戦構造の象徴でもある北朝鮮情勢が一段と緊迫する中で、中国は台湾を取り込もうと着々と布石を打ち始めている。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は先の第19回党大会で、今世紀中葉(2050年)までに世界一の「社会主義現代化強国」を築き上げるとの野心的な目標を打ち出した。その含意は「祖国統一」の悲願を達成するため、台湾との統一を果たしたいということだろう。一方、台湾の蔡英文総統はあえて独立色は出さずに基本的に「現状維持」を志向している。台湾の民意も独立よりも現状維持に傾いている。「両岸関係」と称される中台関係は今のところ当局間の対話も途絶え、冷え込んだままだ。共産党政権の赤い中国が描く「一国二制度」方式による平和的な中台統一の青写真は、台湾側には受け入れられていない。

習政権は悲願に向け「台湾シフト」の布陣

 「台湾問題は中米関係で最も重要で、最も敏感な核心問題であり、中米関係の政治的基礎に関わるものでもある。米国が『一つの中国』政策を継続して厳守し、中米関係の大局を妨げないよう希望する」

 中国外務省(外交部)によると、習近平国家主席は11月9日、北京の人民大会堂でのトランプ米大統領との首脳会談でこう明言した。

 この日の米中首脳会談では、懸案の北朝鮮問題とトランプ政権が重視する貿易不均衡問題が焦点となり、会談後の共同記者会見でも両首脳は台湾問題を直接取り上げなかった。しかし、中国外務省のホームページには台湾問題をめぐる両首脳の詳しいやりとりが記録されている。トランプ大統領は「米国政府は『一つの中国』政策を堅持する」と発言したとされている。

 中国側にとっては台湾問題こそ、実は北朝鮮問題より優先度の高い首脳会談の核心的なテーマだったことがうかがえる。なぜなら、トランプ氏は大統領選当選直後の昨年12月、台湾の蔡英文総統と電話で会談したことから、「一つの中国」政策を見直すのではないかとの憶測を呼んだ経緯があるため、念を押す必要があった。

 習近平総書記は10月18日に開幕した党大会の演説(活動報告)で、歴史的3大任務として「現代化建設の推進」「世界の平和の擁護と共同発展の促進」とともに「祖国統一の実現」を挙げた。約3時間半に及んだ演説で「祖国の完全な統一を実現することは、中華民族の偉大な復興を実現するうえでの必然的要請である」と強調、「台湾問題の解決と祖国の完全統一の実現は中華民族のすべての人々の共通の願いである」などと“祖国統一”というキーワードを繰り返し、中台統一に強い意欲を示したのである。

 さらに「われわれには『台独(台湾独立)』勢力のいかなる形の分裂活動も打ち破る断固たる意志とあふれる自信と十分な能力がある。われわれは、いかなる者、いかなる組織、いかなる政党がいかなる時に、いかなる方式によって、中国のいかなる領土を中国から切り離すことも絶対に許さない」と強い調子で台湾独立の動きにクギを刺した。演説で台湾独立に断固として反対すると警告した際には、盛大な拍手が17秒間も人民大会堂に鳴り響いたという。

 習近平総書記は演説で、中台の交流窓口機関が1992年に中国大陸と台湾は不可分であるとする「一つの中国」の原則を口頭で認め合ったとされる「92年コンセンサス」(九二共識)にも触れ、「『九二共識』という歴史的事実を承認し、両岸が同じ中国に属していることを認めれば、両岸双方は対話を行い、話し合いによって両岸同胞が関心を集めている問題を解決することが可能となる」などと述べ、台湾の現政権に「九二共識」の承認を強く迫った。

 同時に「両岸同胞は運命を共にする骨肉の兄弟であり、『血は水より濃い』という家族である。われわれは『両岸は家族である』という理念を貫き通し、台湾の現行の社会制度と台湾同胞の生活様式を尊重する」と言明、香港と同様に「一国二制度」方式による平和的な中台統一を目指す方針を明確にした。ただ、中台統一をいつまでに実現するかの具体的なスケジュールは示さなかった。

 これに関連して中国共産党中央党校の謝春濤・教務部主任は11月6日、第19回党大会の精神を解読することを主題とした北京での記者会見で、「習近平総書記は台湾問題解決の時間表は示さなかったが、彼は過去に、台湾問題を次の世代、次の世代へと先送りできないとも言っていた」と指摘。そのうえで「私の理解では、われわれが『社会主義現代化強国』を建設する今世紀中葉までに台湾問題は解決すべきだ」との見解を明らかにした。

 党大会を経て政権基盤を強固にした習近平総書記は、歴史に名を残そうと、中台統一に照準を合わせているのは間違いない。中国では今年2月、全国台湾研究会の会長に外交担当トップを務めた戴秉国・元国務委員(副首相級)が就いた。10月の党大会では、国連大使から中国で台湾政策を担当する国務院(政府)台湾事務弁公室の副主任になった劉結一氏が閣僚級の中央委員に選ばれた。辣腕の大物外交官で習氏の信任が厚いといわれる劉氏は来春、主任に昇格する公算が大きい。2期目の習政権の布陣は統一工作を本格化する「台湾シフト」の色彩を強めそうだ。

 これに対し、台湾の政権与党、民主進歩党(民進党)は台湾独立を綱領としており、「九二共識」は存在しないとの立場をとってきた。蔡英文総統は10月26日、台北で開かれた「台湾海峡両岸交流30年の回顧と展望」シンポジウムで演説し、「両岸は基本的に安定した関係を保っているが、さらなる関係改善を望む」とのメッセージを発した。

 そのうえで「中国大陸における与党(共産党)は党大会を終え、政権与党として全く新しい段階に入った。今こそ、まさに変化へのチャンスだ」と強調、「両岸の指導者が政治的な知恵を以って両岸関係のブレイクスルーを模索し、敵対と戦争の恐怖を永遠に消し去ろう」と訴えた。蔡総統は「九二共識」には直接触れずに、「新たな思考」での対話を大陸側に呼び掛けたのである。

 ところが、中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は同日、コメントを発表し、「『九二共識』の政治的基礎に戻らなければ、両岸関係の発展は日の目を見ることはない」と従来の立場を繰り返した。台湾指導者に「ノー」と返答した形だ。

 今からほぼ2年前、2015年11月7日に中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統(当時)がシンガポールで会談した。1949年の中台分断後、初めての歴史的な首脳会談だった。だが、国民党の馬氏は「九二共識」を認めるなど中国寄りだったからこそ、実現したのである。民進党政権が続く限り、中台首脳会談など望むべくもない。

蔡総統を支える“天然独”は現状維持

 「冷和(冷たい平和)」――。中台関係の現状について台湾ではこう表現されている。中台関係が悪化し始めたのは、昨年5月20日に民進党の蔡英文主席が正式に総統(英語表記はPresident)に就任してからだ。中国は半ば公然と台湾への圧力と攻勢を強めている。

 中国と台湾は1949年以降、国際社会で外交承認を奪い合う外交戦を繰り広げてきた。昨年12月に西アフリカの島国サントメ・プリンシペ(人口約20万人)が台湾と断交、中国との国交を19年ぶりに回復した。今年6月には中米パナマ(人口約400万人)が台湾と断交、中国と国交を樹立した。この結果、台湾が外交関係を持つ国はバチカンやドミニカ共和国、ツバル、スワジランドなど20カ国までに減った。

 台湾メディアによると、中国政府は世界保健機関(WHO)事務局に圧力をかけ、今年5月、スイス・ジュネーブで開催されWHO年次総会に台湾が参加できないように工作した。11月にドイツ・ボンで開かれた気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)では、台湾の閣僚が入場を拒まれた。中国は台湾を国際舞台で孤立させようとしているようにも映る。

 中国が「訓練」と称する台湾への軍事的な威嚇とも取れる動きも常態化している。最近では12月11日、中国空軍の航続距離8000キロともいわれるH-6爆撃機、戦闘機などが沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡、台湾とフィリピンの間のバシー海峡のそれぞれ上空を飛行、台湾沖を周回するような訓練を実施した。

 それどころか、12月8日、中国の李克新駐米公使がワシントンの中国大使館での集まりで「米国の軍艦が台湾に寄港すれば、中国は台湾を武力で統一する」と発言したと報じられ、物議を醸した。

 これを受け、12月10日付の中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」は「解放軍による台湾武力統一の選択肢は脅しではない」と題する社説を掲載した。社説では「大陸は台湾武力統一の放棄を約束したことはなく、その可能性が存在するということは、大陸だけでなく台湾の人々もはっきり分かっている」「米軍艦が(台湾南部の)高雄に到着する日は、解放軍が台湾を武力統一する時である。これは大陸からの厳しい警告だ」などと強硬な筆致で台湾をけん制した。

 台湾独立の阻止に向け、中国は武力行使の条件などを明記した「反国家分裂法」を2005年に制定しているが、今回の社説では「大陸は両岸が平和統一の道を往くことを望んでおり、武力統一に伴う戦争の痛みを望んでいない」との“本音”も綴っている。

 中国は蔡英文政権に対しては厳しい対応を取る半面、一般の台湾人には懐柔策を繰り出す硬軟両様の台湾政策を進めている。習近平総書記は10月18日の党大会での演説の一節でこう明言した。「台湾同胞の大陸部での就学・起業・就業・生活のために大陸同胞と同等な待遇を逐次提供し、台湾同胞の福祉を増進していく」。これは中国で暮らす台湾の人々を「内国民」として受け入れることを約束した融和策だ。

 中国財政省と教育省は10月、党大会直前に「台湾学生奨学金管理弁法」を公布した。年間の助成総額を従来の2.7倍に拡大し、中国大陸の大学や研究機関で学ぶ台湾の学生への奨学金を増やすのが骨子。具体的には支給対象を2000人から2900人に拡大し、最高額を年間8000元(1元=約17円)から3万元に引き上げる。もっとも、支給条件として「一つの中国」の原則を承認し、中台統一を支持しなければならない。

 中国側は台湾の高校生が大陸の大学に入学しやすくしたり、大陸で仕事をしたい台湾の大学生向けの就職説明会を開いたりもしている。台湾の若者を抱き込むことで、親中派を育て、台湾独立の芽を摘むのが狙いとみられる。

 中国が台湾の若者に秋波を送る引き金となったのは、2014年3〜4月に台湾で起きた「ひまわり運動」である。当時の馬英九政権による中国とのサービス貿易自由化協定の強行採決に抗議して学生たちや市民が立法院(国会議事堂に相当)を占拠した運動で、一因は中国との経済関係が緊密になると、自分たちの就職先が失われるのではないかとの若者たちの懸念だったといわれる。

 2016年1月の台湾総統選挙で、民進党の蔡英文主席が圧勝した背景には、若者世代を中心に、対中融和路線の国民党政権への反発や反大陸感情などがあったと分析されている。とりわけ「天然独(生まれながらの台湾独立派)」と呼ばれる30代以下の若者たちの動向は目が離せない。彼らは「ひまわり運動」の主体となった世代で、自分たちのアイデンティティーは「中国人」ではなく、「台湾人」だと思っている人が多い。

 台湾の国立政治大学選挙研究センターが定期的に実施している世論調査によると、1992年時点では自らを「台湾人でもあり、中国人でもある」と認識している人が46.4%と最も多く、「台湾人」と認識している人は17.6%で、「中国人」の25.5%を下回っていた。最新の2017年6月の調査では「台湾人」56.0%に対し、「台湾人でもあり、中国人でもある」が36.6%、「中国人」と認識している人は3.8%にとどまった。20〜29歳の世代は約7割が「台湾人」と認識しているという。

 台湾は独立すべきか、大陸中国と統一すべきかについても同大選挙研究センターが定期調査している。今年6月の調査によると、「まず現状維持したうえで決めるべきだ」が32.9%と最も多く、「永遠に現状維持すべきだ」が25.1%、「まず現状維持したうえで、独立に向かうべきだ」が17.9%と続く。「まず現状維持したうえで統一に向かうべきだ」は9.6%、「できるだけ早く独立すべきだ」は5.7%、「できるだけ早く統一すべきだ」は2.2%にとどまった。

 台湾の民意は広義の「現状維持」派が大勢であり、「台独」は少数派である。だからこそ、蔡英文総統も「現状維持」を掲げて総統選を戦い、当選後も「独立志向」は前面に押し出さないよう細心の注意を払っている。中国共産党政権が「九二共識」という「一つの中国」の原則を台湾側が明示的に受け入れない限り、公式な対話には応じないとの頑なな姿勢を貫いているのは、実は「現状維持」の裏返しでもある。中台双方とも大胆な方針転換は難しく、当面は声高な舌戦も交えた現状維持、すなわち「冷和」が続くのではないか。

 この12月初旬、台湾南部の台南を10年ぶりに訪れる機会があった。前回2007年12月に台南に初めて入ったときと同様、この季節は天気もよく快適だったが、時折、真っ青な空を訓練とみられる台湾の戦闘機が轟音を立てて飛び交い、冷戦構造が残る中台関係の最前線を垣間見た。

 台湾海峡に臨む台南は300年以上の歴史を持つ台湾の古都である。台湾最古の孔子廟や寺院など旧跡が多い。台湾には先史時代から南洋系の先住民が暮らしていたが、14世紀ころから漢族の移住が進み、17世紀以降はオランダ、スペインに支配された。台南には1661年にオランダ人を台湾から追い出した明代の遺臣、鄭成功(1624〜62年)の銅像が数多くある。

 日本の江戸時代、鄭成功は漢族の中国人海商、鄭芝龍と日本人の田川マツの間に長崎県平戸で生まれ、7歳で明に渡った。銅像は台湾の対岸の中国福建省アモイにもあり、台湾の運命を変えた中華民族の英雄でもある。母が日本人ということで、近松門左衛門作の浄瑠璃「国姓爺合戦」(1715 年大坂竹本座初演)の実在のモデルとしても知られる。

 台湾のたどってきた歴史は複雑だ。鄭成功の活躍の後、満州族の清朝が統治、日清戦争後の日本統治時代(1895〜1945年)を経て、大陸から台湾に渡った国民党政権の中華民国と400年にわたって外来政権が続いたのである。

 台湾の人口は現在、約2355万人(2017年7月)。9割以上は漢族が占めるが、アミ族、タイヤル族など16の少数民族も公式に認められている。蔡英文総統自身、中国の客家と台湾先住民パイワン族の流れをくむといわれる。蔡総統は2016年8月1日、総統府に先住民族の代表を招き、「先住民族は苦痛や不公平な待遇を受けてきた。政府を代表して謝罪する」と述べ、台湾総統として初めて公式に謝罪した。

 台湾は清朝の版図にあったが、蔡総統の謝罪は先住民族が「台湾のもともとの主人」との歴史観を際立たせた。台湾は元来、歴史的に中国に帰属していなかったことを暗にほのめかすことで、共産党政権からの統一攻勢をかわしたいとの思惑も見え隠れしている。

 今年は台湾本島で1987年に戒厳令が解除されてから30周年に当たる。いわば、台湾の民主化の「而立」を迎えた。この間、台湾は1996年には初の直接選挙による総統選挙を実施、3度の政権交代を実現するなど着実に民主主義社会を築いてきた。こうした中で、台湾立法院(国会)で12月5日、国民党政権時代の政治的弾圧の真相究明などを目指す「移行期の正義促進条例」が可決されたことは注目に値する。

 同条例の適用時期は日本統治が終わった1945年8月15日から1992年11月6日(離島の金門、馬祖で戒厳令が敷かれた最後の日)までとされる。蔡総統は12月6日、同条例について「市民が辛い歴史の記憶により恨み合うことはなくなり、台湾は違う国になる。われわれの民主も一歩前に進む」との談話を発表した。

 条例には「権威主義の象徴の排除」なども盛り込まれているため、台湾メディアは蒋介石の銅像が公共の場から一掃されるのではないかなどと報じている。蔡政権が外来政権の歴史を清算して「新しい台湾」に踏み出そうとしていることは、戦前から台湾に住む「本省人」と大陸からきた「外省人」との関係が微妙になるなど新たな社会問題に発展しかねない。

 日本統治時代は条例の対象期間になっていないとはいえ、野党・国民党の呉敦義主席(党首)は12月6日、「日本占領時代も適用時期とすべきだ」と訴えた。同条例の運用によっては、良好に推移している台湾と日本との関係や統一問題が絡む中台関係にも大きな影響を及ぼすかもしれない。

(2017年12月15日)


(日本経済研究センター 研究主幹)

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