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小島明のGlobal Watch

5月15日 韓国より小さい日本の国内市場

日本経済研究センター参与 小島明

 日中韓は2012年5月13日、北京で開いた首脳会談で、この3国による自由貿易協定(FTA)の年内交渉開始で正式に合意した。野田佳彦首相は会談後の記者会見で「(アジア太平洋地域での)高いレベルの経済連携を主導したい。環太平洋経済連携協定(TPP)と日中韓FTAは並行的に追求する」と述べ、TPP参加で米国との関係を強化し、日中韓FTAで中国市場をとりこもうという2正面作戦による域内経済連携強化の狙いを強調した。

 だが、野田首相の決意表明とは異なり、FTAをテコにした地域経済連携の戦略で日本は韓国にも中国にも出遅れているというのが実態である。日中韓FTAに関しては交渉を直ちに開始することを日本が主張し、韓国はそれには反対で時期を明記しないことを主張した。その韓国を日本が説得して交渉開始時期を「年内」で合意したというが、現実には韓国のFTA戦略の積極性と日本の消極性が目立つ。

 現に、韓国は、今回の3国首脳会談に先立つ5月初めに、中国との2国間FTA交渉の開始で正式合意し、2年以内の交渉妥結を目指して動き出している。韓国は中韓FTAについて2005−06年に民間レベルでの共同研究、06−10年には産官学共同研究を実施、10年9月からは中韓の局長級協議を数次開催し、センシティブ品目をめぐる議論を重ねてきた。さらに12年1月には中韓首脳会談で交渉開始について合意し、今回の日中韓首脳会議の直後に、中韓で第一回交渉を開催した。明らかに韓国が先行している。

 韓国はすでに、欧州連合(EU)とのFTAを11年7月に、インド、米国ともそれぞれ10年1月、12年3月にFTAを発効させている。貿易全体に対するFTA対象国との貿易の比率(FTAカバー率)は米国38%、EU32%、韓国35%、中国19%に対して日本は18%でしかない。中韓FTAが実現すれば韓国、中国のカバー率はぐんと上昇し、日本との差が顕著に拡大する。

韓国の危機意識と日本の希薄な問題意識

 韓国がFTA戦略を積極的に展開している背景には、昔からの「狭い国内市場」への危機意識がある。日本と比べ韓国は人口少なく、所得水準も低いため国内市場は狭隘であり、海外展開しなければ経済の発展はない―という認識がある。

 だが、極めて皮肉なことに、現実には韓国の国内市場は日本より大きい。もちろん絶対的な国内市場規模は日本のほうが大きい。だが、ここで注目すべきは産業ごとの「1企業あたりの国内市場」の規模である。韓国企業にとっては1997−98年のアジア危機のあと「狭い国内市場」ではなくなった。企業がどんどん淘汰され、多く産業で企業数が1社か2社になった。たとえば韓国の自動車の国内市場全体は日本の3分の1以下だが、市場は現代自動車の1社体制だし、エレクトロニクス分野ではサムスン電子とLGエレクトロニクスがあるが、サムスンが圧倒的な地位を占める。同社にとっての国内市場は、多くの自動車メーカー、家電マーカーが乱立している日本の「1企業あたりの国内市場」をはるかに上回る。日本は同じ分野で多くの企業がいわゆる過当競争を展開し、利益は少ない。

 ソニー、パナソニック、シャープという日本を代表する“家電御三家”が11年度は過去最悪の巨額赤字に転落した。12兆円近い売上高と1兆円近い純利益をあげ、1社で日本の全家電メーカーを上回る設備投資をしているサムスンとは対照的である。

 1企業あたりの国内市場規模の大逆転が起こっているのに、日本起業は過去の「大きな国内市場」認識から抜け出せない。韓国企業は昔の「狭い国内市場」への危機意識を持ち続け、韓国政府も同様の危機意識を背景に積極的な海外市場戦略を展開する。それがFTA戦略における日韓の姿勢の違いとなって現れてもいる。

 日本は企業も政府も、グローバル経済におけるこうした日本の立ち位置、環境変化を直視する必要がある。

 10年の『通商白書』は、急成長を続ける新興国市場における競合環境を分析し、そのなかで日本企業と韓国企業の意識と戦略の相違を分析している。白書はまず、日本の企業が自国市場では高いシェアを確保しているが、新興国の消費市場ではシェアを確保できず、主力プレーヤーになり得ていない現実を指摘し、それとは対照的に新興市場で存在感を高める韓国系グローバル企業などの競合企業について分析する。日韓企業の戦略の基本的な差について、白書はやはり国内市場規模への認識の相違に基づくとみている。

 ただ、次のようにも指摘する。「サムスン電子等の韓国系グローバル企業は、トップダウン型組織による迅速かつ大胆な経営、政府と一体となった強力な連携体制等の特徴を有するが、日本の企業が韓国系グローバル企業のビジネスの全体像や好循環を創出する仕組みを理解せずに、部分的に事業戦略を取り込んでも、機能させることは難しい。韓国系グローバル企業の実力と実態を見極めたうえで、事業・経営戦略の再構築と全体最適化をはかることが求められる。韓国系グローバル企業がこれまでの成功にとらわれず、常に危機感をもって貪欲に学び、急激な競争環境や競合企業の変化に迅速に対応しようとする姿勢も、日本企業が学ぶべき点だ」

日本メーカーの覚醒?

 「大きく豊かな国内市場、要求水準の高い国内消費者」―これが日本企業の強みだと長い間言われてきた。ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授も同様の指摘をしていた。しかし、新興国経済が大成長し日本の国内市場の相対的な規模は急速に縮小している。国内市場は持続的なデフレで絶対的にも縮小、今後人口減少が加速することを考えると一社あたりの国内市場はいっそう小さくなる。この現実を企業自身も国、社会も直視する必要がある。

 大きな国内市場で満足し、海外市場を補完的、あるいは付け足しとして考えないと、国内消費者だけを意識した過剰機能で海外では通用しない製品を作ることにもなる。これが「ガラパゴス化」と呼ばれるものだが、日本ガラパゴス市場は縮小市場となってしまう。

 「ソニー、パナソニック提携交渉―有機ELテレビ量産技術開発」―12年5月15日付日本経済新聞のトップニュースは、次世代テレビの本命とされる有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビ事業で競合してきた大手2社の提携交渉を、「苦境に陥っている電機産業の転換点になりそうだ」と伝えた。

 バブル景気崩壊後、支援なしに自力では存続し得ない「ゾンビ企業」が増えたことが日本の経済・産業の効率化、競争力強化を妨げていると議論された。グローバルな経済環境がさらに変化しているいま、「ゾンビ企業」論も含め、日本の産業・企業のあり方、そのインフラとしてのFTAなど対外通商関係のあり方を、変化するグローバル経済の現実を見据えて議論し直すことが必要ではないか。

(2012年5月15日)

(日本経済研究センター参与)

※2011年7月に本サイトのコラム名が(旧)「小島明のWEBコラム」から(新)「小島明のGlobal Watch」に変わりました。
本サイト右上のバックナンバーの内、11年5月18日までは、掲載当時に「小島明のWEBコラム」としてご紹介した内容です(WEBコラムは11年5月18日で終了しました)。
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