
1月23日 中山間地振興についての意識
私は、法政大学の大学院で修士論文の指導をしているのだが、最近分析手法として圧倒的に増えたのが、ネットによるアンケート調査である。修士論文には何らかの独自の分析・調査が不可欠だが、ネット調査は、自分で調査票を設計すれば、間違いなく世界に一つしかない独自の調査結果を生みだすことが出来る。そのコストも最近劇的に低下している。
ネット調査はサンプル・バイアスがあるとされ、厳密な実証には使えないとされるが、その手軽さには抗しがたく、多くの分析者が利用するようになったのだ。今回は、そうした調査の中から、中山間地(過疎地)対策について、私の研究室で行った調査結果の一部を紹介しよう。
中山間地の現状
中山間地というのは、もともとは農業の地域区分から発生した言葉である。すなわち、農業地域はその土地の特性によって「都市的地域」「平地地域」「中間地域」「山間地域」に区分される。このうちの中間地域と山間地域を合わせたのが中山間地域である。
中山間地域は、日本の中でも条件の厳しい地域である。都市的地域は都市部に近く利便性も高い。平地地域は農業としての発展性が期待できる。これに対して中山間地域は、傾斜地や山に囲まれた地域であり、利便性も低く農業としての耕作条件も厳しい。いわゆる「過疎地域」はいずれも中山間地である場合が多い。
人口という面でも、これらの地域からは生産年齢人口が流出し、高齢化が全国以上に進むなど厳しい条件に置かれている場合が多い。要するに、中山間地こそが、日本の地域の中で最も経済発展から取り残されつつある地域なのである。
もちろん中山間地域には、森林の持つ災害防止機能、水源としての機能、自然・歴史・文化を守ってきた機能などがあり、こうした機能を評価して、積極的な振興を図るべきことは言うまでもない。しかしそれがなかなか難しいことも事実だ。
なお、この「中山間地」という言葉は、一般にはなじみが少ないと思われるので、以下のアンケート調査では「過疎が進む地域」という表現にしている。
過疎地のための施策
まず「過疎が進む地域の活性化のために何が必要か」を聞いてみた。結果(複数回答)は「雇用機会の創出」(67.1%)が最も多く、次いで「医療・介護・福祉関連サービスの充実」(49.5%)「交通網の整備」(40.1%)「育児教育環境の充実」(28.8%)と続く結果となった。
雇用機会の創出は、どの地域でも切実な願いとなっていることであり、地域振興の王道である。中山間地域で人口が減るのは、出生率が低いという「自然減」が原因ではなく、「働き盛りになると地域の外に出て行ってしまう」という社会移動が主因である。この社会移動を抑えるには、地元に雇用機会を創出することが不可欠である。
地域の振興という面から医療・介護を見ると二面性があるように思われる。一方では、医療や介護を地域の成長戦略の中に位置づけるべきだとする考えがある。確かに、医療や介護はその地に居住する人々が高齢化すれば必然的に増加するサービスであり、それが生み出す所得・雇用機会に期待するのは自然である。
しかし他方では、規模の経済性があるので、ある程度人口が集積していないと効率的なサービスが提供できないという問題がある。後述するように、人が集約されるような仕組みとセットにしないと、地域の成長の核にはならないだろう。
育児・教育環境については、年代別に明瞭な差が出た。前述のように、全体では28.8%の人がこの施策を重要としているが、年代別に分けると、20代29.8%、30代38.1%、40代30.7%、50代24.9%、60代20.2%となった。直接子育てに携わる層が重要だと考えているのである。
この点は、前述の医療・介護の問題と対比させてみると、次のような興味深い問題が提起される。一つは、民主主義には次世代育成に関係するような施策よりも高齢世代向けの施策を重視するというバイアスがあることだ。すなわち、投票者が自分の利益を最大にする政策に投票すると考えると、高齢者のための施策は幅広い支持を得やすい。当の高齢者は言うまでもなく、高齢者以外の人もいずれは高齢者になることが分かっているからだ。これに対して、育児・教育のための施策は、該当する年齢の子どもを持つ層にとっては直接の利害があるが、子どもが成長してしまった後は、自分の利益とは関係がなくなってしまう。今回のアンケートでも、医療・介護サービスの充実の方が、育児・教育面よりもかなり高い支持を得たのは、こうしたメカニズムが作用した可能性がある。
もう一つは、高齢化に伴い、投票者に占める高齢者の比率が高まると、高齢者に有利な政策が採用されやすくなるという「シルバー民主主義」問題である。今回のアンケートが示したように、高齢者は相対的に育児・教育を重視する度合いが低い。その高齢者の政治的影響力が強くなると、相対的に育児・教育への資源配分が減ってしまうのではないかという危惧がある。
移住政策についての意識
多くの人は中山間地をどうするかという問題を突き付けられると、「どうやって振興すべきか」を考える。これは、現在住んでいる人を基本にして、その地域をどう発展させるべきかという発想である。これに対して、「人を動かしてはどうか」という考え方も有力である。
私が知る限りでは、政府でこの考えを出した最初の例は、2005年4月の21世紀ビジョンの中の「生活・地域ワーキング・グループ報告書」である。同報告は次のように言う。「中山間地においては、著しく条件が不利であり農地としても利用が困難と判断されるものもある。これらについては、(中略)山林への転換を促進する。(中略)また、防災上の問題があり、かつ、コミュニティの維持が困難な地域については、国などが住民の移転を積極的に支援すること等により、集落の再編を進めることも選択の一つである。」
これは次のような点で現実的な方策である。第1に、人が集まった方が生活基盤が安定しやすい。今後、日本全体の人口が減るのだから、過疎地はますます過疎地になる。すると、警察、消防などをはじめとして、行政サービスのコストは上がるし、地域のコミュニティも維持できなくなる。商業施設も立地しなくなるので買い物も不便になる。そこで人を移動させてコンパクトにすれば、種々のサービスも提供されやすくなるだろう。
第2に、住んでいる人を固定してその地域を発展させるのは理想的ではあるが、全ての中山間地域を振興することは不可能である。選択と集中を経て、強い地域の成長を図らざるを得ず、発展から取り残された地域が出るのはやむを得ない。
ただし、この住民の方を移住させるという政策は一種のタブーに近い。「昔からの土地を離れたくない」という人が多いだろうから、住民から猛烈な反発を受けるだろうし、それを見守る国民一般も「そんな冷酷なことはしたくない」と考えるだろう。
私の研究室では、過疎地の振興というといつもこの点が議論になっていたので、今回のアンケートでは「近年、過疎地では人口流出が続いているため、様々なサービスの効率化のためにも、過疎地域の人々を移住させる政策が海外の一部で導入されています。このような移住政策を、日本でも導入すべきだと思いますか」という質問をしてみた。
結果は「全くそう思わない」9.2%、「あまりそう思わない」49.5%、「そう思う」32.4%、「大いにそう思う」9.0%であった。相対的には賛同者が少ないことは事実だが、私は「意外に賛成者が多い」という印象を持った。
男女別、年代別、地域別にもあまり大きな差はなかった。これも想定としては、高齢者の方が、また都市部より地方部の方が移住政策に抵抗が強いのではないかと考えていたのだが、今回の調査結果からはそのような方向は見出せなかった。
ただし「現在居住している地域に生涯住み続けたいか」という問いに対しては、高齢者になるほど「そう思う」という回答が多かった。例えば、男性の場合、20代ではこの質問に「そう思う」「大いにそう思う」と答えた人の合計は52.1%だったが、これが60代になると78.9%となる。
おそらく現実に移住政策を進めるとなれば、その対象は高齢化比率の高い中山間地となり、やはり高齢者の賛成を得るのは難しいだろう。これに対しては、例えば、20〜30年後には当該地域の住民サービスの状況がどうなるのかといった情報を早めに住民に伝達しておき、人生設計がフレキシブルなうちに自発的な居住地移動を促すといった政策が必要になるかもしれない。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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