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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2013年8月20日 【最終回】これまで書きたくても書きにくかったこと

日本経済研究センター研究顧問 小峰隆夫
 これまで約4年間にわたって地域問題についての連載を続けてきた。まだまだ論じ足りないことも多いのだが、かなりの問題を扱ってきたため、やや限界効率が落ちてきた。要するに書くことがなくなってきたということである。

 そこで地域についての連載は今回でひとまず終わりとし、来月から別のテーマに切り替えることにした。今回は最終回ということもあるので、これまで「書きたくても書きにくかったこと」を書いておくことにしよう。それは次のような点である。

地域活性化論と経営論の共通点

 第1は、すべての地域を活性化するのは無理だということだ。

 私はかねてから、地域活性化論と経営論は似ていると感じていた。経営論ではしばしば、経営がうまく行っている企業を詳しく調べ、その成功要因を抽出するというアプローチをとる。

 しかし、ではこうしたアプローチで成功企業に学べば、すべての企業が成功するかというとそうはならない。その理由としては、@誰もが同じ改善策を取ったら競争上の優位は不変、A企業風土、業種などが異なるのだから真似してもうまく行かない、B真似などしないで独自の創造性を発揮することこそが成功の秘訣、などが考えられるのだが、最大の理由は、他の企業から学ぶことのできるノウハウは、企業業績を左右する多くの要因のうちの一つに過ぎないということであろう。

 企業は世界景気の動静、エネルギー価格や為替レートの変化、技術革新など多くの環境変化にさらされている。また偶然思いついたヒントが大ヒット商品になることもあるだろう。

 地域についても同じようなことが言えそうだ。地域活性化を論じるときの有力な手法もまた、うまく行っている地域に赴き、その成功要因を探ってくることである。もちろん、他の地域の実情を見てくることは大変勉強になる。この連載でも実際に各地を訪れて多くの得るものがあった。しかしそれでも、それによって日本中の地域が活性化することはないだろう。

 他の地域のノウハウを学ぶことは数多くの活性化要因の一つである。私も、地方に行って地域活性化について話をする時には、私が目にしてきた地域を参考例として紹介することがしばしばある。しかし(なかなか言いにくいが)こうした他の地域の例は、「うまく使えるかもしれないし、使えないかもしれない」ものであり、最後は現地の人々の努力、経済の流れ、そして恐らくは「運」が地域の将来を変えるのだとしか言えないのである。

住民の希望は常にかなえるべきか

 第2は、時には、「地元の意向」「住民の希望」に反することをしたほうが長期的には地域のためになる場合があるということだ。

 典型的な問題が、過疎地の集約化問題だ。今後、日本全体の人口が減っていく中で、「便利な地域へ」という社会移動は続くから、過疎地はますます過疎化していくだろう。住民向けサービスには「規模の経済性」が作用するから、人口密度が低くなると、サービス供給の効率が悪くなり、サービス産業が立地しなくなる。商店、美容院、ガソリンスタンドなどが採算割れするのだ。行政サービスの効率も低下するから、住民一人あたりの公務員の人件費も上昇するはずだ。

 こうした問題については、多くの経済学者が「住民に合わせてサービスを提供しようとする」のではなく、「サービスが提供しやすい地域に住民が移動してもらう」方がずっと効率的だと主張している。しかし、当の住民がこれになかなか賛成しない。特に、過疎地には高齢者が多く、高齢者ほど住み慣れた土地を離れたがらない。よってなかなか言い出しにくい。

 これを打開するには、超過疎化が進行する前に、早めに補助金などの手段を使って移住を促すことも考えるべきではないか。

 もう一つ、東日本大震災の被災地の保存問題も似たような面がある。最近話題になったものとしては、気仙沼市の陸地に打ち上げられた漁船「第18共徳丸」の保存問題がある。

 これは私も現地で実見したが、海から遠く離れた陸地に堂々とそびえる巨大漁船は、津波の力を圧倒的迫力で我々に伝えてくれる。私は、これを見て、将来世代に津波の恐ろしさを伝えるためにも、是非保存してもらいたいものだと思った。

 しかし、本年7月に行われた住民へのアンケートの結果では、68.3%が「保存の必要はない」という意見であり(「保存が望ましい」は16.2%)、解体されることになったという。「震災を思い出したくない」という気持ちも分かるが、今後、防災教育の一環として東北地方を訪れる人は多いと思われるので、これを保存し、後世への教育拠点として整備したほうが地元の活性化になったのではないかと惜しまれる。

真の弱者を絞り込む必要

 第3は、真の弱者とは誰かということだ。地域の振興を語るとき、我々はどうしても発展に遅れがちな地域を政策的に助けるという発想をしがちである。成長性の低い地域の側も、どうしても政策的な助成を求める傾向がある。

 私が直接関係したものとしては、離島、過疎地、豪雪地帯などの条件不利地域の振興策がある。それぞれに議員立法による振興法があり、さまざまな振興策が盛り込まれているのだが、それぞれが独自の条件で対象地域を決めているので、重複している地域もあり、全部合わせるとおそらく国土全体の半分以上になるだろう。

 支援の具体的な内容は、毎年の予算要求で実現していくしかないから、法律で決められているからといって手厚い支援が保障されているわけではないし、何よりも対象地域が広すぎて、とても全地域に手厚い支援を行うのは無理である。

 地域の活性化は、地域自らがある程度のリスクを覚悟して取り組む部分と、政策的に支援する部分とが適切に組み合わされる必要があるのだが、残念ながらこの両者はトレード・オフの関係にある。当事者が最初から政策的支援に頼ってしまうと、自らの努力が弱くなってしまうからだ。

 高齢化対策、中小企業問題、農林漁業問題などを見ていると、日本の政策は「弱者を絞り込む」のが苦手で、どうしても同じ条件の対象を平等に助けようとし、その結果、支援が広く薄くなってしまい、政策的効果が発揮できないことが多いようだ。地域振興にも似たようなところはないか。

 高齢者、小規模企業、農林漁業従事者の全てが弱者なのではない。同じように離島や過疎地に住む人々すべてが弱者だとは言えない。地域政策においても「弱者の絞り込み」が必要になるだろう。
  ※「地域から見る日本経済」は今回で終わり、次回から新シリーズを連載します。

(2013年8月20日)

(日本経済研究センター 研究顧問)

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