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大竹文雄の経済脳を鍛える

2017年7月7日 神社仏閣の近所で育つと

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日本経済研究センター研究顧問 大竹文雄

近所に神社仏閣がありましたか?

 あなたが小学生の頃、通学路や自宅の近所に神社・寺院・お地蔵さんがあっただろうか。私たちが行った研究によれば、この質問に「はい」と答えた人は、一般的に人を信頼し、人から恩を受けると返したいと思い、利他的な傾向が高い(伊藤・窪田・大竹(2017))。もう少し正確に言うと、神社とお寺には少し違いがある。神社が近くにあった人は、人から恩を受けたら返したいという互恵性をもっている可能性が高い。一方、お寺かお地蔵さんが子供の頃近くにあった人は、一般的信頼、互恵性、利他性のいずれも高い傾向がある。

コミュニティの影響か?

 お寺・地蔵・神社が小学生の頃、近所に存在したということが、互恵性に影響を与えるのは、そのような地域で、コミュニティ活動がもともと活発だったことを反映しているだけではないか。

 私たちが分析に用いたデータでは、小学生の頃、その地域に子ども会、夏休みのラジオ体操、地域の運動会、地域の清掃活動、盆踊り、お祭り(神輿)が存在したかどうかを質問している。追加したコミュニティの変数は、統計的に有意にソーシャル・キャピタルに影響をもつ。特に、子ども会、夏休みのラジオ体操、地域の清掃活動、盆踊りの存在は、ソーシャル・キャピタルを高めている。これらのコミュニティ変数を追加することで、神社そのものがソーシャル・キャピタルに与える影響は統計的にはなくなってしまうが、お寺とお地蔵さんの影響は変化しない。つまり、神社が近くにあったことがソーシャル・キャピタルを高めていたのは、神社そのものというよりも神社が地域コミュニティのハブとして機能してきたため、その地域でコミュニティ活動が活発だったからということになる。しかし、お寺やお地蔵さんは、コミュニティ活動の存在とは無関係にソーシャル・キャピタルを高めている。

スピリチュアルな世界観?

 神社や寺院が小学生の頃、通学路や自宅の近所にあることが、スピリチュアルな世界観に影響を与えてソーシャル・キャピタルを高めている可能性はどうだろうか。私たちは、「どのような悪事も、天には必ず知られている」「神様・仏様がいる」「死後の世界(あるいは来世)の存在を信じる」「宗教を熱心に信仰している」という世界観および信仰度についてもアンケート調査で質問しておいた。小学生の頃における近隣の神社と寺院・地蔵の有無で、これらの世界観を説明できるかどうかを統計的に確かめてみた。興味深いのは、神社はこうしたスピリチュアルな世界観に全く影響を与えていないのに対し、寺院・地蔵が近所にあったことは「どのような悪事も、天には必ず知られている」「神様・仏様がいる」「死後の世界(あるいは来世)の存在を信じる」の3つの世界観をもつことに影響を与えている。ただし、神社の存在も寺院・地蔵の存在も宗教の信仰度には影響を与えていない。

 寺院・地蔵は、神仏や死後の世界(来世)の存在というスピリチュアルな考え方を高めることを通じて、互恵性、信頼、利他性を高めていると推測される。一方、神社の存在は、そのようなスピリチュアルな世界観を通じてではなく、直接的に互恵性を高めており、それは地域のコミュニティ活動を活発にすることを通じて生じていると考えられる。このような寺院・地蔵と神社の影響の違いは、日本の神社と寺院の役割の違いと対応している。

神社とお寺・お地蔵さん

 湯浅(1999)によれば、神社はもともと「それぞれの土地の守護神(産土神)という性格をもち、「村祭り」に代表される神道儀礼は地域住民の精神的(社会心理的)連帯機能を果たしていたものであった」とされている。そのため、神社の存在が、その地域の人の互恵性を高める影響を直接的にもった可能性がある。実際、金谷(2013)は神道の神社の氏子に対するアンケート調査をもとに、信仰心が強い人か神社活動の頻度が高い人ほど、地域・近隣の人々との交流が活発で、人々に対する信頼度が高いことを明らかにしている。私たちの研究で、神社の存在とコミュニティ活動の活発さが関係しており、それが、その地域の互恵性を高めたという実証結果は、今までの研究と整合的である。 

 一方、湯浅(1999)は、寺院は「葬式仏教」という言葉にも示されているように、かつては死者ないし祖先の生と自己の現在の生のつながりを回想し、自覚する上に重要な役割を果たしており、「神道は日本人の生の空間性と地縁的原理を指示し、仏教は時間性と血縁的原理を指示している」と指摘している。つまり、神社は地縁というソーシャル・キャピタルを高め、寺院は血縁というソーシャル・キャピタルを高めてきたと考えられる。

誰かに見られているという感覚

 仏像やお地蔵さんが身近にあると、人々は神様や人から見られている感覚をもつようになる可能性がある。ごみの不法投棄を防ぐために、鳥居のミニチュアやお地蔵さんを設置することが各地で行われており、効果が認められている。人から見られている感覚をもつと、人々は利他的な行動をとったり、正直な行動をとる傾向があることが心理学の実験で確認されている (Bateson et al.(2006), Oda at al.(2011)) 。また、Mazar et al.(2008)は実験の前にモーゼの十戒を思い出させた被験者は、子供のころに読んだ本を思い出させた被験者よりも、嘘をつきにくいことを示している。さらに、Shariff and Norenzayan(2007)は、神を意識させた被験者は、独裁者ゲームにおいて、より多くのお金を匿名の他人に配分するという意味でより利他的な行動をとることを示した。

 子供の頃に寺院や地蔵菩薩を眼にする機会が多ければ、無意識のうちに仏や輪廻を信じる可能性が高くなり、その背後にある祖先を通じた血縁的なソーシャル・キャピタルが高まる可能性がある。一方、神社が近隣にあれば、その地域は神社を通じた地縁ネットワークが発達していた可能性が高い。

ソーシャル・キャピタルが高まると

 ソーシャル・キャピタルが高いと経済的取引の取引費用が低下するため、所得が高く幸福度も高いと予想され、それを示した実証研究は多い。一般的信頼の高さが一人あたり所得や経済成長率と正の相関をもっていることを明らかにしている。個人レベルでもソーシャル・キャピタルが高いと、所得、健康、幸福度が高いということを示した研究は多い。

 一方、ソーシャル・キャピタルが高まると所得や経済成長に必ずプラスの影響があるわけではないという指摘もある。ソーシャル・キャピタルには、家族や友人とのネットワークのように同じバックグラウンドをもつ結束型ソーシャル・キャピタル(bonding social capital) と、バックグラウンドが異なるコミュニティの間をつなぐような橋渡し型ソーシャル・キャピタル(bridging social capital)が存在する。物質主義的な価値観と家族や友人との結束型ネットワークを重視する住民が多い地域ほど、橋渡し型ソーシャル・キャピタルが少なく、経済成長を低めているということを見出した研究や、家族の連体感というソーシャル・キャピタルが強いと高所得を求めた地域間労働移動が減り、失業率も高まるという研究もある。

 所得・健康・幸福度とソーシャル・キャピタルの間に正の関係があったとしても、後者から前者への因果関係を示しているとは限らないのだ。私たちの研究では、神社仏閣が近所にあったことは、ソーシャル・キャピタルを高めるけれど、それが直接的に所得、健康、幸福度に影響を与えるとは考えられない。そこで、子供の頃、神社仏閣が近所にあったかどうかという違いがソーシャル・キャピタルに違いをもたらす効果を利用すれば、ソーシャル・キャピタルから所得、健康、幸福度への因果関係を推測できる。

ソーシャル・キャピタルと所得・健康・幸福度

 私たちは、神社仏閣の有無をソーシャル・キャピタルの変動要因として使って、ソーシャル・キャピタルから所得、健康、幸福度への影響を分析してみた。その結果、ソーシャル・キャピタルは意外にも所得には影響を与えない。しかし、健康と幸福度にはプラスの影響を与えていた。

 なぜ、人間関係の豊かさを表すソーシャル・キャピタルが所得に影響を与えないのだろうか。私たちはその理由について、結束型ソーシャル・キャピタルが地域間労働移動を減らすため、所得上昇効果を打ち消しているからだと考えた。実際、神社仏閣の存在によって高められたソーシャル・キャピタルは人々の地域間移動を減少させることを統計的に確認した。同時に、ソーシャル・キャピタルは、経済的な満足度や仕事での満足度にもプラスの影響をもたらさない。

 一方、ソーシャル・キャピタルの高さは、健康と幸福度には、プラスの因果効果をもつ。満足度を分析してみても、ソーシャル・キャピタルが高い人は、友人関係や地域への満足度が高い。

 子供の頃にお寺やお地蔵さんがあると、スピリチュアルな世界観をもち、一般的信頼、互恵性、利他性が高まる。それによって、所得の上昇はないけれど、健康と幸福感が得られる。同様に、神社があれば、地域のコミュニティ活動の活発さを通じて、互恵性が育まれ、健康と幸福度の上昇が得られる。子供の頃の環境が大人になっても意外に影響しているのだ。
  
参考文献

Bateson, M., Nettle, D., and Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology Letters, 2(3), 412–414.

伊藤高弘、窪田康平、大竹文雄(2017) 「寺院・地蔵・神社の社会・経済的帰結:ソーシャル・キャピタルを 通じた所得・幸福度・健康への影響」ISER DP.No.995

Oda, R., Niwa, Y., Honma, A., & Hiraishi, K. (2011). An eye-like painting enhances the expectation of a good reputation. Evolution and Human Behavior, 32(3), 166–171.

Mazar, N., Amir, O., & Ariely, D. (2008). The Dishonesty of Honest People: A Theory of Self-Concept Maintenance. Journal of Marketing Research, 45(6), 633–644.

Shariff, A. F., & Norenzayan, A. (2007). God Is Watching You. Psychological Science, 18(9), 803–809.

湯浅泰雄(1999)『日本人の宗教意識』講談社学術文庫,東京

金谷信子(2013)「日本の伝統宗教とソーシャル・キャピタル : 神社活動を事例に」『宗教と社会貢献』3(2), 1−25.

(2017年7月7日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

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