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大竹文雄の経済脳を鍛える

2014年5月20日 もし宝くじに当たったら

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日本経済研究センター研究顧問 大竹文雄
宝くじと経済学

 ドリームジャンボ宝くじの当選金額は5億5千万円だ。ロト7は4億円が当たる。日本の宝くじも、当選金額が何億円にもなるものが普通になった。こんなに高額の宝くじに当たったら、あなたは当選金を何に使うだろうか。高級車を買う、家を買う、あるいは住宅ローンを返す?それとも海外旅行に行く?もしくは宝石やブランド品を買うかもしれない。なかには、仕事を辞めて、のんびりするという人もいるかもしれない。宝くじに当たるというのは、それだけで幸運なことだ。幸運はそれだけではないようだ。最近の研究によれば、宝くじに当たるということは、宝くじの当選金という金銭的な幸運を得ただけではなく、健康になって寿命まで長くなるという幸運も得ているそうだ。

 最近の経済学の研究は、宝くじに当選した人の、消費行動、幸福度、メンタルヘルス、寿命に与えた影響を調べている。どうして経済学者は、宝くじの当選者の行動を研究するのだろうか。それは、努力とは無関係の要因で、所得や資産が増えた時の人間の行動を知ることが経済学でとても重要なことだからだ。例えば、失業保険や生活保護制度は、人びとを貧困から救う一方で、人びとの労働意欲を引き下げてしまう可能性がある。そのような影響は無視できるのか否かを知ることは、社会保障制度の設計にはとても重要なことだ。現実のデータから、運悪く所得が低くなってしまった人と労働意欲が少ないから所得が低い人とを区別することは至難の業である。ところが、宝くじの当選者と非当選者を比較すれば、この区別は簡単だ。宝くじの当選による所得の変動は、努力とは無関係で純粋に運・不運によって決まる。宝くじの当選による所得変動によって、労働供給や消費行動がどう変わるか、幸福度や健康がどう変わるかを調べれば、純粋に所得の変更の効果を調べることができるのだ。

当選者の労働供給

 ハーバード大学のインベンス教授らは、宝くじに当選した人の労働および消費行動を分析した(Imbens, Rubin, and Sacerdote (2001))。彼らは、1984年から88年にかけてマサチューセッツ州のメガバックくじの当選者の情報を分析に使った。このくじは、高額の金額を20年に渡って受け取るという特色がある。彼らは、高額当選者と少額当選者に調査票を送って、労働・消費行動を調べて比較した。調査に協力してくれたのは、調査票を送った人たちのうち4割強だ。回答者496人のうち高額当選者が237人である。高額当選者の中には、1年あたり10万ドル(約1千万円)以上の金額を20年間に渡って受け取るという人たちが43人含まれている。巨額の宝くじに当選した人は、当選すると勤労所得を減らし、仕事をしない確率を高める。その程度は、宝くじの1年あたり当選額の11%の勤労所得を減らすほどになるという。一方、消費行動も当然変化する。当選者は、車や家を購入するが、金融資産も増やす。当選して10年ほどたったところで、受け取り金額の約16%を貯蓄している。車には約1%、家には受け取り累計額の4%程度を使っているようだ。

宝くじと幸福度

 宝くじに当たったら幸せになるだろうか。確かに、お金が増えると幸せになりそうだ。しかし、宝くじに当たったときは幸せかもしれないけれど、お金が増えたことにすぐに慣れてしまって、幸福度はもとに戻るかもしれない。一方で、棚からぼた餅でもらうお金は、なかなか有効に使えない。その結果、宝くじの当選は、人を不幸にしてしまうかもしれない。

 高所得者の方が、低所得者よりも幸福度が高いのは統計的な事実だ。だからと言って、宝くじに当選すれば幸福になるとは言えない。お金持ちの方が、幸福度が高いのは、幸福な人がお金持ちになりやすいということを示しているのかもしれないからだ。もしそうなら、宝くじに当たっても、幸福度は変化しないかもしれない。

 ウォーリック大学のオズワルド教授らは、イギリスで同一個人を追跡したBHPSというデータを使って、宝くじに当選した人が幸福になるのかどうかを分析した(Gardner and Oswald (2006))。1998年から2001年の間に、調査対象者は1万365人いて、1000ポンド(約17万円)未満の小さな宝くじにあたった人は2943人いた。また、1000ポンド以上の大当たりをした人が116人いた。中には、この期間に複数回当たった人もいるので、高額当選者数は137人である。この調査対象者の宝くじの当選者で賞金額が最高だったのは11万7千ポンド(約2千万円)だったという。

 BHPSという調査では、メンタルストレスに関する質問もしている。ストレスが高いということは、幸福度が低いと考えて分析をしている。高額当選者の当選した年の幸福度は、当選しなかった人や少額当選者と比べて、上がっていない。それどころか、統計的には有意ではないものの幸福度が下がっている。ところが、当選の2年前から2年後にかけての高額当選者の幸福度の変化を同じ時期の非当選者や少額当選者と比べてみると、高額当選者の幸福度だけが上昇している。どうやら17万円以上の宝くじに当選したら2年程度は、メンタルヘルスがよくなるようだ。論文によれば、宝くじにはずれた人や少額しかあたらなかった人が、メンタルヘルスを悪化させている様子はない。宝くじにあたったら幸福になるようだ。ただ、当たれば幸福になるからといって、大量の宝くじを買えばいいというわけでもないはずだ。

宝くじと健康

 宝くじにあたるとメンタルヘルスがよくなるというのであれば、その他の健康状態もよくなって、寿命も長くなるのだろうか。ストックホルム大学のリンダール助教授は、スウェーデンのSLLSという調査を用いて分析を行った(Lindahl(2014))。彼が用いたのは、1968、74、81年の調査だ。この調査では、1000クローナ(1万5千円)以上の宝くじにあたったか、当たったとしたらいくらなのか、を対象者に尋ねている。また、そのときの健康状態についても48の質問をしている。さらに、スウェーデンは背番号制の国なので、この調査の回答者の所得がいくらか、その後、1997年以前に死亡したか否かという情報と組み合わせることができるのだ。彼の研究結果でも、高額の宝くじに当選すればするほど、メンタルヘルスがよくなること、肥満が減ること、5年後、10年後の死亡率が低下することが明らかにされている。やはり、宝くじにあたると健康になり、長生きができるようだ。
 
政治的態度

 宝くじに当選すると、労働供給行動、消費行動、幸福度や健康までも変わってしまう。では、政治的態度も変わるのだろうか。Powdthavee and Oswald(2014)の研究内容を紹介してみよう。彼らは、同一の個人を毎年追跡調査している英国家計パネル調査(BHPS)というデータを使って分析した。このデータは、支持する政党と宝くじの当選について質問しているのだ。

 調査対象の個人は、2万7966人にもなっていて、そのうち、1万7372人については、イギリスの労働党か保守党のどちらを支持するか聞いている。さらにそのうち、ある年に宝くじに当選した人は、4277人いて、9003の観測数になる。当選した人のうち94.65%は499ポンド(約8万4千円)未満の当選金額だけれども、残りの約5%の人は500ポンド以上である。

 彼らは、データを計量経済学的に分析した結果、宝くじに当たった人は、当たる前に比べて、保守党を支持する程度が高くなること、資産の分配が公正であると考えている割合が高くなることが示されている。保守党を支持する傾向が高まるのは、特に500ポンド以上の宝くじに当選した場合である。1年前に保守党を支持していなかった人のうち、1年間に宝くじに当選しなかった人に絞ると、保守党を支持するように変わったのは13%だった。しかし、1年前に保守党を支持していなかったけれど、500ポンド以上の宝くじに当選すると、1年後には18%の人が保守党を支持するように変わった。8万円程度であっても宝くじに当たってお金持ちになると、再分配に対して否定的になり、保守的な政治思想をもつのである。

 以前よりも再分配に否定的で保守的な考え方をもつようになった人があなたの周りにいたら、その人は宝くじに当たったか、所得が高まったのかもしれない。

<文献>
Gardner, Jonathan and Oswald, Andrew J. . (2006) Money and mental wellbeing : a longitudinal study of medium-sized lottery wins. Journal of Health Economics, Vol.26 (No.1). pp. 49-60.

Imbens, Guido W., Donald B. Rubin, and Bruce I. Sacerdote (2001) “Estimating the Effect of Unearned Income on Labor Earnings, Savings, and Consumption: Evidence from a Survey of Lottery Players.” American Economic Review, 91(4): 778-794.

Lindahl, Mikael (2014) “Estimating the Effect of Income on Health and Mortality Using Lottery Prizes as an Exogenous Source of Variation in Income,” The Journal of Human Resources, Vol. 40, No.1, pp. 144-168

Powdthavee, Nattavudh and Andrew J. Oswald(2014) “Does Money Make People Right-Wing and Inegalitarian? A Longitudinal Study of Lottery Winners”

(2014年5月20日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

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