トップ » 大竹文雄の経済脳を鍛える

大竹文雄の経済脳を鍛える

2016年8月25日 他店価格対抗します

  • Tweet this articl

日本経済研究センター研究顧問 大竹文雄

他店価格対抗広告

 家電量販店の広告ちらしに、「他店対抗します」とか「他店より価格が高ければ対抗します。ちらしをご持参下さった方のみ」という文言が書かれているのを見たことがある人は多いだろう。この広告を見た人は、「この店はできるだけ安い価格で品物を売ってくれる消費者思いの店だ」と思っている人がほとんどではないだろうか。

 ところが、経済学者は、この広告を出している家電量販店は、競合店に対して価格競争をやめるように呼びかけていると解釈している。「暗黙の共謀」とも呼ばれているくらいだ。意外に思われるかもしれない。お互い安売り競争しますと消費者に呼びかけている広告だと誰でも思うはずだ。

 この広告の意味するところを考えるには、3段階先までを読むことが必要になる。第一段階の解釈としては、広告を出した店の商品が、他店より一円でも安ければ、その価格に対抗することを宣言しているので、他店が安売り競争をしかければ、安売り競争で対抗するということだ。しかし、それなら価格競争が実際に行われて、消費者だけが得をすることになる。これが多くの人がこの広告から予想することである。この広告の意味は、この第一段階の思考だけでは終わらない。

広告のねらいは消費者ではない

 「他店対抗」という広告のねらいは、消費者に他店よりも家電の価格が安いことをアピールすることにあるのではない。広告のねらいは、ライバル店の価格戦略を変更させることにある。「他店価格対抗」の広告を出した家電量販店をA店、同じ地域のライバル店をB店としよう。B店は、競合店A店から顧客を奪えば、利潤を増やすことができる。そのためには、A店の価格より少しだけ安い価格で商品を売り出せば、A店から多くの顧客を奪うことができて利潤を増やす効果の方が、価格低下による利潤減少効果を上回ることができる。そのため、B店としては、A店に対して価格競争をしかける動機が十分にある。

 そのことを知っているA店は「他店価格対抗」の広告を打つ。そうすると、B店がA店よりも安い価格を付けてA店から顧客を奪おうと思っても、A店はその価格に対抗するため、B店は安い価格をつけてもA店から顧客を奪うことができない。そうすると、B店は仮に価格を下げたとしても価格を下げた分だけ利潤が減少するだけに終わる。もちろん、A店もその分利潤減少に見舞われる。B店は価格競争をしかけた場合にこういうことが起こることを予想する。そこまで予想したB店は、価格を低下させてA店から顧客を奪うことができないことを理解するので、A店に対し価格競争をしかけてこない。これがB店の行動まで予測するという意味で、第二段階の思考である。

第三段階の思考

 B店の行動を正しく予想したA店は、「他店価格対抗」という広告を打つことで、B店が価格競争を仕掛けてこなくなることを予想した上で、実際に「他店価格対抗」という広告を打つのである。これが、第三段階の思考である。

 つまり、「他店価格対抗」という広告の意味は、ライバル店に対して「価格競争をするな」というものであり、「もし価格競争をしかけたら、お互い損をするように罰を与える」というものなのだ。

 他店価格対抗が、ライバル店に対する価格維持政策という共謀行為であることを示すもう一つの理由がある。それは、多くの家電量販店の他店対抗の広告では、「インターネット価格に対しては対応しない可能性がある」と明記されていることである。インターネットでの通信販売では、ライバル店は日本中になる。ところが、家電量販店が新聞に折り込みのちらしを入れるのは、近隣に限られる。もし、家電量販店が、日本中のどこの家電販売店よりも価格を安くするのであれば、何もインターネット価格を除外する必要はない。もちろん、近隣の家電量販店とインターネットによる通信販売の場合では、アフターサービスまで含めると商品の質が実質的に異なるので、異なる価格が付くという理屈も成り立つ。それもひとつの解釈であるが、「他店対抗」のちらしをよく見ればみるほど、「価格を下げるなよ」という販売店の他店に対する警告に見えてくるのは、経済学者特有の性質かもしれない。

(2016年8月25日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

△このページのトップへ