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竹中平蔵のポリシー・スクール

4月24日 マクロvsミクロ・マネジメント

日本経済研究センター研究顧問 竹中平蔵
 前回のこのコラムで、政策における「検証」の重要性について述べた。具体的には原発事故をめぐる政府の対応に関し、初めて国会の中に調査・検証の委員会が作られたこと、日本再建イニシアチブのチーム(いわゆる民間事故調査委員会)による検証結果の報告がなされたこと、などを紹介した。今回は、民間事故調による検証結果に示された重要なポイント――マクロ・マネジメントとミクロ・マネジメントについて議論したい。

危機時の総理官邸

 民間事故調の報告書は、今年2月に出された。昨年3月11日の大震災によって発生した原発(福島第一原子力発電所)の事故に関し、日本政府がどのような危機管理を行ったか、詳細な報告がなされている。報告書は400ページ超に及ぶもので、決して平易な読物ではない。にもかかわらず一般書店やアマゾンなどの販売でもベストセラーとなっており、この問題に対する国民の関心の高さが伺える。近く英語や中国語などでも出版されるという。筆者自身、委員会を実質的に企画・運営した船橋洋一氏(前朝日新聞主筆)と一緒にチャタム・ハウス(英国王立研究所)や北京大学(中国)、高麗大学(韓国)などでセミナーを行ったが、世界的な関心の高さが感じられた。

 報告書のポイントはいくつもあるが、筆者が最も注目したいのは「マクロ・マネジメント」の重要性だ。大震災に際し本来総理官邸は、霞が関のリソースを戦略的に活用するための司令塔的な役割を果たすことが求められた。しかし菅総理(当時)は官邸の危機管理室(オペレーション・センター)ではなく総理執務室に陣取って、原発問題処理に関すること細かな指示を与えたことが記述されている。しかも、時には自らの携帯電話で電源車の配置を指示するなど、まさにミクロ・マネジメントに徹していたこと明らかにされている。

 結果的に政府の統一的な意思決定が混乱し、これが避難勧告をめぐる混乱やスピーディ(SPEEDI:緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の活用を巡るトラブルに繋がったと考えられる。

大局観なき意思決定

 こうしたマクロ・マネジメントの欠如、ミクロ・マネジメントの突出は、決して震災当時の官邸の意思決定だけではない。現状の政策決定に共通する一つの特色とも言える。

 夏の電力需要期を控え、関西電力の大飯原子力発電所を再稼働させようという動きがにわかに活発化してきた。4月になって政府は、これまでの「安全基準」を議論するという姿勢を修正し、再稼働のための「安全性に関する判断基準」を示すと明言。それを、1週間足らずの期間で正式決定した。その内容を見ると、現時点で完了していない安全対策については電力会社に実行を約束させれば足りるという内容で、いかにも“拙速”な感が否めない。そもそも政府が検討すべき点は何なのか?

 まず日本のエネルギー政策をどのように見直すのかが明確にならねばならない。具体的に、原子力への依存度をどこまで低下させるのか、どのようなペースで変化させるのか、が重要になる。その上で、原発の安全性確認に関する多くの課題をクリアしなければならない。事故の調査委員会の検証を待って、必要な手段を講じなければならないだろう。原子力規制庁の活動をすみやかに軌道に乗せ、適切な判断を示していかねばならないだろう。こうしたマクロ・マネジメントの上に立ってはじめて、大飯原発をどうするかというミクロ・マネジメントが問われることになる。しかし今回、大飯原発をどうするか、というミクロ・マネジメントのみが突出した。だからこそ、大きな反発を招いたのである。

マクロ政策なき増税

 いまや大震災に関するものだけでなく、経済政策一般に関してもマクロ・マネジメントとミクロ・マネジメントの適切なバランスが求められている。現政権が最大の政策課題として掲げる消費税増税をめぐる議論にも、まさにこうした観点が不可欠だ。

 消費増税を行うとすれば、それは二つの目的を達成するものでなければならない。財政の健全化と社会保障の充実だ。まず財政の健全化を達成するためには、健全な名目成長率を実現して税収を確保する基盤を作ること、歳出を抑制して財政規模の膨張を抑えることが前提になる。しかしマクロ経済の条件整備のためには、実質成長率をそれなりに保ちつつ、デフレを克服することが必要だ。残念ながら現状では、そうした政策は用意されていない。健全なマクロ経済運営が実現しなければ、いくら増税しても税収の確保は行われない。

 また、歳出に関しては、つい4−5年前まで83兆円程度であった一般会計歳出が、いまは96兆円(隠れ借金を含む)になっていることに注目しなければならない。こうした歳出の膨張を是正しない限り、いくら増税しても財政健全化は出来ない。現実に内閣府の試算によれば、名目1%成長程度の慎重シナリオの下で、2020年に基礎的財政収支を均衡させるために、消費税を17%まで引き上げねばならないという姿が示されている。

 社会保障の充実はどうか。日本の社会保障を他の先進工業国と比べると、一つの特色が浮かび上がってくる。それは、年金・医療などはすでにOECDの平均(対GDP比)を上回っているのに対し、若い世代の社会保障が圧倒的に不足していることだ。これをどこまで充実させるかは重要な政策判断だが、少なくとも年金・医療の前に、こうした点が政策論議の対象となるべきだろう。

 その意味で今回の消費増税論議は、大飯原発の再稼働問題と似ている。「当面年金などにおカネがかかるからとりあえず消費税率を引き上げよう」という論議は、「当面夏場の需要が不足するから大飯原発を稼働させよう」という議論に通じているのである。要するに、マクロ・マネジメントがないままに、ミクロ・マネジメントだけが先行している。

 大震災時の総理官邸が露呈した問題点――マクロ・マネジメントの欠如――は、多くの政策課題に通じるものがある。

(2012年4月24日)

(日本経済研究センター 研究顧問)

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