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竹内淳一郎の景気公論

9月1日 消費者がエコカーを購入するワケ

 今回は、自動車産業について考察してみたい。その理由は、2つある。第1に、8回目となる景気公論シリーズの中で、最もアクセス件数が多かったのが、「薄型テレビはなぜ売れた」(4月号)であった。再度ミクロテーマを取り上げ、2匹目のドジョウを狙うこととした。単なる「下心」である。

 第2に、景気の先行きを予測するに当たっては、マクロ統計の分析だけでなく、ミクロの業界分析の視点が欠かせない。わが国の景気循環は、製造業が形成する。素材では鉄鋼や化学、加工では一般機械、電機、自動車といった業界を注視する必要がある。

 揃って好業績となった加工製造業に絞ってみると、一般機械や電機は海外の設備投資やデジタル家電ブームが、この先も需要をけん引するとみている。

自動車業界を取り巻く“逆風”

 もっとも、自動車業界には次のような循環的、構造的な暗雲が立ち込めている。

@原材料価格の上昇
 自動車業界は、鉄鋼原材料(鉄鉱石、原料炭)の大幅高を受けた鋼材メーカーからの値上げ要請を受け入れている。追加値上げすら危惧される中、販売価格への転嫁は難しく、収益悪化が懸念される。
A中国での人件費上昇
 中国でのストライキ多発を受け、日系メーカーでは、生産トラブルが発生した。多くの先で、大幅な賃上げを容認しており、これも、収益圧迫要因となろう。
B為替円高
 各企業は、対円での想定レートを90円程度と厳しめにみてきたが、足元80円台半ばで定着している。対ユーロでは、期初の時点で120円台半ばを想定しており、為替差損による収益目減りは不可避であろう。
C購入刺激策の息切れ
 政府は予定どおり、麻生政権時に導入されたエコカー補助金(新車購入時に最大25万円支給)をこの9月末で打ち切ることを決めた。「特定産業を利する政策は、経済が平時に戻った今、正当化されない」ということのようだ。このため、10月以降の反動減は避けられまい。事実、最大手の自動車メーカーが「秋以降2割程度の減産を予定」とも報じられている。海外でも同様の販売促進策が漸次、打ち切りないし縮小されている。好調な海外販売も、これまでの増勢維持は難しくなっている。
D相次ぐリコール
 メーカーごとに濃淡はあるが、大規模なリコールが続いている。「電子部品の塊」と化したハイブリッドカーや電気自動車は、不具合の発生が増える方向にある。加えて、「疑わしきはリコール」という風潮が、メーカーにとって、足かせとなろう。

人々を魅了する車作りを

 以上のように、自動車業界の下期以降の業績には警戒感が広がっている。果たして、エコカーは“救世主” となるであろうか。

 薄型テレビがヒットした理由は、@地デジ対応や、Aエコポイント制度の後押しもあろうが、B技術革新を通じた財としての魅力向上が、需要を誘発した面もある。ブラウン管テレビ対比での画質の良好さや、省スペースが評価されたと考えている。

 では、ハイブリッドカーはどうか。確かに、目新しさはある。ただ、その革新性はあくまでも経済性に根差しており、薄型テレビのような消費者の効用を直接増進させたようには感じない。消費者のエコカー・シフトは、ガソリン価格の高騰に直面したことに伴う、燃料費節約志向が起爆剤となっている。メーカーによる「エコ」訴求が購買意欲を刺激した面はあろう。ただ、筆者には「エコ」が、消費者がワングレード低い乗用車に買い替えるための「口実」として、“腹に落ちた” ようにしか思えない。

 若い頃、トヨタで言えば、カローラ⇒ビスタ⇒エスティマ⇒クラウンと年齢や家族構成、年収の上昇に沿って乗り換えていくことを夢見た。とすれば、直近でミニバンを購入した世代は、次はアルファードないしはクラウンに「進む」ことになる。消費が他人への誇示という側面を有している以上、「口実」なしには、ご近所の手前、「プリウス」には戻りにくい。エコが「プリウス」購入の背中を押したのではないか。要は、節約志向が根底にあり、エコカーがステータスや効用を高めたわけではない。

 若者の自動車離れは業界にとって、少子高齢化とともに悩ましい構造問題である。都内に居住していると、交通網の発達のほか、燃料費や年間走行距離対比でみた維持費などを思うにつれ、自家用車の保有再検討に迫られる。収入の低い若者には、なおさらのことだ。ただ、自動車は一度その利便性を経験すると、手放せなくなる。

 そこで、自動車メーカーの方に「20代で1台目購入する方には、業界として割引等の特典を設けてはどうか」と振り向けた。すると、「学生サークルなどの団体に、試乗モニターとして車を貸し出しても、走行距離が一向に伸びない。聞いてみたところ、今時の若者の間では、誰がドライバーを務めるかは、じゃんけんに勝った者ではなく、負けた者」だそうだ。隔世の感がある。

 これら構造問題を克服するには、コストの引き下げもさることながら、技術革新や創意工夫を通じ、乗用車が輸送手段を超えた“存在” であり続けなければならない。「歩きながら、通話を可能とした」携帯電話、「歩きながら、音楽が聴ける」ウォークマンの出現は、実感できたブレークスルーである。地図から開放してくれたカーナビは革命であった。「運転中、マッサージをしてくれる車」はどうか。おじ様仕様でしかない。若者を魅了する車の提案。ゲームをしながら、自動で動く車。ドラえもんの世界になってしまう。消費税率が15%になる前に魅力ある提案がなければ、車離れに歯止めが掛からないのではなかろうか。

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(日本経済研究センター 短期経済予測主査、主任研究員)

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