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山田剛のINSIDE INDIA

2017年3月13日 ウッタルプラデシュ州議会選でモディ首相与党圧勝〜モディ政権の「成長」アジェンダはカースト政治を超えたか

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 2月中旬から7回にわたって投票を実施してきたインド北部ウッタルプラデシュ(UP)州の議会選挙(定数403議席)は3月11日に一斉開票が行われ、ナレンドラ・モディ首相率いる中央与党のインド人民党(BJP)が過半数を大きく超える312議席、友党などを含めて325議席を獲得する圧勝劇を演じ、15年ぶりに州政権を奪還した。UP州はインドでは最大の人口2億2000万人、有権者約1.4億人を抱える巨大州であるだけでなく、被差別カースト民やイスラム教徒など多様な階層が入り乱れ、貧富の差も大きいまさに「インドの縮図」ともいえる地域だ。同州におけるBJPの大勝利は、インド各地に少なからぬ混乱をもたらした「高額紙幣廃止」がおおむね有権者に支持されたことを意味し、「期待料」も込めたモディ人気と、一連の経済改革「モディノミクス」が今なお有権者から一定の支持を集めていることを示した。
 インドの上院議員は州議会で選出するため、与党BJPとその友党が上院の245議席中74議席と少数派に甘んじている連邦上下両院の「ねじれ」も解消に向けて大きく前進し、改革を加速させる環境がさらに整うことになる。独立以来の税制改革として注目される全国統一の消費税「物品サービス税」の導入を7月に控え、外資導入や税造業振興への期待も大いに高まる。
 だが、今回の選挙の意義はそれだけではない。選挙キャンペーン中にモディ首相が掲げた成長・開発アジェンダが支持されたことは、これまで同州で常態化していたカースト分断政治をある程度乗り越えたことを意味する。もちろんこれは、ヒンドゥー至上主義団体をバックに持つ宗教色の強さから支持基盤の拡大に困難も指摘されたBJPが、真の国民政党・全国政党に一歩前進したことに他ならない。後世、インド政治史の上でも一つの大きな節目だったと回顧される日が来るかもしれない。

BJP、議席7倍増の圧勝
 中央与党BJPは改選時議席47から312(得票率42%)へと大躍進。2014年の下院選で州に割り当てられた80議席中71議席を制した(同43%)流れをほぼ維持することに成功した。これに対し、州の前政権党で、その他後進カースト(OBC)を主な支持基盤とする社会主義党(SP、サマジワジ・パーティー)は2012年前回選挙で獲得した224議席から47議席へと後退する大敗。SPと組んだ前中央与党の老舗・国民会議派(コングレス)は同28議席から7議席へと落ち込み、ガンディー一家のおひざ元であるはずのUP州での党勢凋落に歯止めがかからなかった。さらに2012年まで4回にわたって州政権を担い、カースト最下層の不可触民(ダリット)に根差した大衆社会党(BSP、バフジャン・サマジ・パーティー)も同80議席から19議席へと大きく後退した。文句なしのBJP一人勝ちである(図表1)。
※「図表1 ウッタルプラデシュ州議会選の政党別獲得議席数」は会員限定PDFをご覧ください。

 BJPはモディ首相自らが計23回にわたって州内で遊説。ジャイトリー財務相、ラージナート・シン内相ら主要閣僚も相次ぎ応援演説に駆けつけた。モディ首相側近のアミット・シャー総裁が選挙戦略の陣頭指揮を担い、これまで弱かった農村部の党組織を拡充・強化する一方、シャー総裁の腹心でBJPに近い学生組織・全国学生評議会(ABVP)活動家として鳴らした若手ホープ、スニル・バンサル(47)を党の州支部幹事長に任命。村落ごとに有権者の動向調査を実施、徹底したデータ分析に基づく電話攻勢など綿密な選挙戦術を展開した。もちろん「モディ首相」誕生の原動力となった若者や都市住民を意識して、SNSの活用も怠らなかった。

 UP州のカースト・宗教別の人口構成は、ブラーミン(バラモン、司祭階級)やラージプト(インド北部の士族カースト)など上位カーストが19〜21%、OBCに分類される旧隷属民カーストが41%、カースト最下層の不可触民が20〜21%、そしてイスラム教徒が19〜20%と散らばっている(図表2)。
※「図表2 ウッタルプラデシュ州のカースト別人口比」は会員限定PDFをご覧ください。


親子対立が響いた与党SP
 UP州では、BJP強硬派によるモスク破壊事件や、最近のイスラム教徒に対する暴力事件続発などいわゆる「宗教的不寛容」の風潮もあり、今なおイスラム教徒の間ではBJPに対する拒否反応が強い。また、OBCの中でも小作農・牧畜民などにルーツを持つ「ヤダブ」カーストはSPの強力な支持基盤となっていて、切り崩しは困難とされてきた。
このため、BJPが勝利するには、上位カーストの支持を固めたうえで、ヤダブ以外のOBCと不可触民の一部を取り込む必要があった。同党は候補者もこれらの階層からまんべんなく擁立し、万全の構えで選挙戦に臨んだ。イスラム教徒やヤダブなどを切り捨てたとしても、残りの票田が全有権者の60%前後に達するため、十分に勝算のある戦術だったといえるだろう。
 これに対し、州の政権党だったSPは州首相のアキレーシュ・ヤダブ(43)が先頭に立ち、都市鉄道や空港などインフラ整備への取り組みや汚職撲滅の成果などをアピールしたが、犯罪抑止による治安回復や電力網整備への対応が後手に回ったことをBJPに厳しく批判された。そのうえ、選挙直前には父であるSP党首のムラヤム・シン・ヤダブ(77)とその弟シブパル・シン・ヤダブ(61)らとの対立による党内紛が表面化、民心の離反につながった。
 BSPも、2007年選挙で上位カーストも含むあらゆる階層の候補者を立てた「虹の連合」の再現を目指したが、BJP旋風の前に沈黙した。一説では、「高額紙幣廃止」によって、ため込んでいた選挙用資金が無効となり最も打撃を受けたのがこのBSPだったといわれている。

 ただ、カーストだけにフォーカスした選挙戦には限界があることは、BSP党首の「女傑」マヤワティ元州首相が身をもって示している。モディ首相らBJP陣営が訴えたキャッチフレーズは「VIKAS(ヴィカス)」。ヒンディー語で「発展」「拡大」などの意味を持つ単語で、しばしば男性の名前に使われるが、これは「Vidyut=電気」「Kanoon=法、治安」「Sadak=道路」の頭文字も現している。
 つまり、BJPはカーストに細心の注意を払いつつ、実際の選挙戦では個別コミュニティーへの利益供与ではなく、あくまでインフラと社会正義の確立を訴え、有権者もそれに賛同したというわけだ。
 ヒンドゥー色の強い教育政策の押し付けや、「宗教的不寛容」を批判したラグラム・ラジャン前中銀(RBI)総裁解任を迫ったとされるなど、モディ政権に圧力をかけてきたヒンドゥー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)も、当面はモディ人気の前に沈黙せざるを得ないだろう。モディ首相らも今後、議会選の圧勝を背景にRSSには強い立場で臨むことができるようになる。モディ政権の基盤が一層強化されるのは間違いない。

全国政党への道
 ただ、勝利に浮かれているわけにはいかない。BJPが今後、全国政党を目指すためには多くの課題が残されている。今回は結果として支持獲得をあきらめたイスラム教徒やヤダブ・カーストとの「和解」がその一つだ。最近はやや薄まったとはいえ、ヒンドゥー色の強い政策をゴリ押しすれば都市住民やインテリ、若者の離反を招きかねない。
そして選挙結果は水物。多分に小選挙区制の「アヤ」があったことを忘れてはならない。全体で約42%の得票率を記録し、議席数で250以上の差をつけたBJPだが、2番手となったSP−国民会議派連合との得票率の差は約10ポイントしかなく、決して「楽勝」というわけではない。
 そして、同じ日に開票したインドの穀倉地帯・北西部パンジャブ州の議会選では国民会議派が過半数を制して州政権を奪還し、健在ぶりをアピール。BJPと地元シーク教政党シロマニ・アカリ・ダルの連合は一敗地にまみれるという、UP州とは対照的な結果となった。まさにインドは広い。BJPがやるべき仕事は山積だ。

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山田剛/主任研究員(兼日本経済新聞Nikkei Asian Review 編集委員)



日本経済研究センター主任研究員 山田剛

 発足以来2年半が過ぎ、任期を折り返したインド・モディ政権の経済改革がようやく形になってきました。相次ぐ外資規制の緩和やインフラ整備の加速はもちろん、独立以来の税制改革となるGST(物品・サービス税)の導入にもめどをつけ、内外投資家の関心も再び高まっています。モディ首相は2016年11月に「高額紙幣の使用停止」という荒療治に踏み切り、改革に賭ける不退転の決意を示しました。2017年には日本をはじめ中東、アジア諸国や欧州などとの経済協力も一段と強化されそうで、「トランプのアメリカ」とどう付き合うのかも要注目です。こうした情勢を踏まえ、インド政治・経済の予測と動向分析を詳細かつわかりやすくお伝えしていきたいと考えています。


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