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山田剛のINSIDE INDIA

2017年6月8日 「インド版石油メジャー」、海外生産過去最高に〜ロシア油田買収が大きく寄与

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 インド最大の石油会社で、インド版石油メジャーにも例えられる石油天然ガス公社(ONGC)の海外生産量が2016年度、過去最大に到達。昨年権益を取得したロシア・バンコール油田からの生産分が大きく貢献した。同社は今後もアフリカなど海外の油田・ガス田権益に積極投資し、エネルギー安全保障体制の強化を狙う。インド政府はONGCをはじめ、石油元売り最大手の国営インド石油(IOC)、インド天然ガス公社(GAIL)などを合併させ、巨大国営石油会社に再編する計画を進めている。資金力やリスク負担能力の強化、意思決定の迅速化などを図り、ライバル中国の石油会社との競争に備える考えだ。7〜8%あるいはそれ以上の高度成長を目指すインドにとって石油・ガスは欠かせない資源だが、国内需要に対する自給率は20%未満。インドは国際原油価格の下落を背景に今後も海外進出を拡大させそうだ。

 ONGCの海外開発部門を担う子会社ONGCビデシュ(OVL)は先ごろ、2016年度(17年3月期)、海外に保有する油田・ガス田からの生産量が前年度比約40%増の1257万トン(原油換算、日量約25万バレル相当)と過去最高に達したことを明らかにした。昨年2度にわたって計21.9億ドルを投じ、26%の権益を取得したロシア・北東シベリアの巨大鉱区であるバンコール油田からの生産分が大きく寄与した。

 バンコール油田における26%の権益に相当する原油は年間約730万トン分で、ONGCグループによる海外生産分のほぼ半分に達する計算だ。

リスク覚悟で油田開発
 OVLは2000年代半ば以降、積極果敢に海外での石油・天然ガス鉱区の権益を獲得。これまでに200億ドル以上を投資して世界17カ国37カ所で石油・ガス権益を保有、埋蔵量合計は原油換算で6.3億バレルに達する。ただ、OVLは国際石油会社の中では後発組だったため、結果的に欧米メジャーの手が及んでおらずリスクも相対的に高いアフリカやアジア、中南米などでの権益獲得を目指すしかなかった。

 これまでにイラク、モザンビーク、ベネズエラやコロンビア、カザフスタンなどで探鉱・開発を進めており、ロシア極東の「サハリン1」プロジェクトでは米石油エクソンモービルや日本のサハリン石油ガス開発(SODECO)と肩を並べて権益の20%を保有。ミャンマー、ベトナム、スーダンなど14カ所ではすでに生産を開始している。また、アゼルバイジャンのアゼリ・チラグ・グネシリ(ATG)油田やスーダンでは原油パイプラインの建設プロジェクトにも参加している。

※「図表1 ONGCビデシュによる主な海外油田・ガス田開発の現況」は会員限定PDFをご覧ください。

 OVLのナレンドラ・K・ヴェルマ社長は5月上旬、16年10月に買い増したバンコール油田権益の追加取得分(11%)や、17年中にも生産開始が見込まれるコロンビアからの原油・ガスなどを計算に入れ、17年度の生産量は原油換算1437万トン(日量29万バレル相当)に達するとの見通しを示した。同社長は一昨年、2018年までに100-120億ドルを海外油田・ガス田権益の取得に投じる計画を表明しており、中でもアフリカにおける投資額累計を現在の2倍の16億ドルに拡大する方針だ。具体的にはかつて中国に権益をさらわれたアンゴラやアルジェリア、赤道ギニアなどの国名を挙げている。

 OVLは2009年、ロシア事業に特化し同国・西シベリアのトムスク地方に石油権益を持っていた英インペリアル・エナジー社の買収に成功。ロシア本土で初の石油権益を獲得した。ロシアはかつて、外国石油会社に対する本土の石油利権供与には消極的だったが、ウクライナ紛争に絡んだ欧米からの制裁や資源価格の下落によって台所事情が急迫。自国第2位の巨大油田で国営ロスネフチの生産量の10%を占めていたバンコール油田などの権益をやむなく切り売りするに至ったと見られている。


OVLが買収したインペリアル・エナジー社の採掘現場(同社HPより転載)



中国はライバルかつパートナー
 海外での石油利権獲得を進めるインド企業はOVLだけではない。インド最大の石油元売り会社で、カナダ、リビア、ナイジェリアなど海外7鉱区の権益を保有するIOCは昨年、同じく国営の石油開発会社オイル・インディア(OIL)、バーラト石油資源(BPRL)とともにバンコール油田の権益23.9%を約20.2億ドルで取得した。この結果、バンコールにおけるインド勢の持ち分は計49.9%に達した。またIOCなど3社の企業連合は昨年、東シベリア、タース・ユリアフ油田の権益29.9%の取得にも成功している。

 インドの原油消費量は2015年時点で日本に匹敵する日量約415万バレル(約2億トン)。だが、ムンバイ沖と北東部アッサム州、ラジャスタン州などにある国内油田からの生産量合計はこの20%弱に過ぎない。16年度の海外生産分1257万トンも、総需要から見れば約6%とごくわずかだ。

 しかも海外での石油権益獲得には巨大なライバル・中国が立ちふさがる。ONGCは過去にカザフスタンやアンゴラなどの石油鉱区入札で中国の石油会社と競って連敗。インペリアルの買収では中国石油化工(シノペック)に何とか競り勝ったと言われているが、アンゴラの入札ではいったん「落札」しながら、「巨額援助」のドナーである中国に配慮したアンゴラ政府の先買権行使によって土壇場で権益をさらわれた苦い経験もある。その一方、コロンビアでは印中合弁の石油開発会社を設立するなど協調の動きもあるが、全地球的には競争関係にあるのは間違いない。
 
 また、スーダンやシリア、イラクでは政情不安によって開発計画が大きく遅れたり、フォースマジュール(不可抗力条項の適用)に追い込まれるなど苦労も絶えない。


イランの豹変に衝撃
 アフリカと並んでインドが重視する資源国がイランだ。インドはイランにとって中国に次ぐ石油輸出のお得意様。OVLはかつて自社が発見したイラン西部「ファルザド−Bガス田」の権益を取得するべく、同国南部・ペルシャ湾のチャバハール港に30億ドルを投資する計画を提示するなど積極的に交渉を進めてきた。だがイランは6月上旬、同ガス田の権益をロシア・ガスプロム社に与える基本合意書に調印、インド石油関係者を大いに落胆させた。

 インド側の報道によれば交渉の過程でイランの反応は鈍く、インドは今春にイラン産原油の輸入2割削減をちらつかせるなどイラン側に早期の交渉妥結を迫っていた。長年の経済制裁で窮地に陥っていたイランに手を差し伸べてきた自負があるインドにとって、イランの豹変は許しがたい「忘恩」に映るかもしれないが、「穏健派」ロウハニ大統領の続投でさらに多くの国がイランの石油・ガス資源に目を向けることが確実となった今、イラン政府がよりよい条件を出してくる相手を天秤にかけるのは当然の行動だろう。

 かつての「日の丸原油」論争と同様に、海外での石油権益に巨額の金を投資する政策を巡ってはインド国内でもしばしば議論が白熱するが、ONGCはじめインドの石油会社は今後も海外事業を一段と強化していくのはまちがいない。

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山田剛/主任研究員(兼日本経済新聞Nikkei Asian Review 編集委員)



日本経済研究センター主任研究員 山田剛

 発足以来2年半が過ぎ、任期を折り返したインド・モディ政権の経済改革がようやく形になってきました。相次ぐ外資規制の緩和やインフラ整備の加速はもちろん、独立以来の税制改革となるGST(物品・サービス税)の導入にもめどをつけ、内外投資家の関心も再び高まっています。モディ首相は2016年11月に「高額紙幣の使用停止」という荒療治に踏み切り、改革に賭ける不退転の決意を示しました。2017年には日本をはじめ中東、アジア諸国や欧州などとの経済協力も一段と強化されそうで、「トランプのアメリカ」とどう付き合うのかも要注目です。こうした情勢を踏まえ、インド政治・経済の予測と動向分析を詳細かつわかりやすくお伝えしていきたいと考えています。

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