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山田剛のINSIDE INDIA

2017年10月3日 「軍事協力」そして「日印版一帯一路」〜安倍首相訪印、地味な首脳会談で歴史的合意

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 安倍晋三首相は9月13-15日の日程でインドを公式訪問。モディ首相との会談でインド版「新幹線」や原子力、ものづくり支援などさまざまな二国間協力に合意した。今回の首脳会談は、派手なパレードや新幹線起工式典の陰でやや地味な印象を与えたが、後世に振り返ってみれば歴史的な合意となるかもしれない重要な2つのテーマがひっそりと盛り込まれていた。

 安倍首相は首都ニューデリーをスキップしてモディ首相のおひざ元、西部グジャラート州の中心都市アーメダバードに直行。正副大統領や与野党の国会議員団長の表敬など儀礼的セレモニーはほとんど省略された。


モディ首相とともにアーメダバード市内をパレードする安倍首相夫妻(写真はインド報道情報局提供)


 安倍首相はモディ氏とともに同市内を8キロにわたって異例のパレード。インド側の特別待遇を印象付けた。そしてモディ首相と連れだって国父マハトマ・ガンディーの旧居サバルマティ・アシュラムを参拝。さらにモディ首相は精緻な窓飾りの大理石彫刻で知られる16世紀創建のシディ・サイエド・モスクも案内した。このあたり、ヒンドゥー・イスラム教徒の対立から2000人以上の死者を出し、当時州首相だったモディ氏も責任を追及された2002年のグジャラート暴動への配慮もあったように思える。
 首脳会談では、新幹線、つまり「ムンバイ−アーメダバード高速鉄道(MAHSR)」をはじめとするインド国内のインフラ整備への協力で一致。建設費を賄う円借款の第一弾としてまず1000億円の供与を決めた。そして高速鉄道運行に欠かせない人材育成を行う研修所の正式着工を発表。モディノミクスの柱の一つである「メーク・イン・インディア」を側面支援する「日本式ものづくり学校(JIM)」4校の2017年開校などにも言及した。
 このほか、両首脳は原子力や航空宇宙、経済発展が遅れたインド北東部諸州の開発支援などについても合意した。


ムンバイ−アーメダバード高速鉄道の起工式典に出席した安倍首相(左から3人目)とモディ首相らインド側要人ら(写真はインド報道情報局提供)



日印、「軍事」で急接近
 今回、注目すべき内容の一つは二国間防衛協力の拡大だ。この手の話に過剰反応する中国に配慮してか、両国が合意内容を大々的に喧伝することはなかったが、その中身には極めて意義深いものがある。
 首脳会談で両首相は、今年7月にベンガル湾で実施したインド・米国海軍による海上合同演習「マラバール」に海上自衛隊が参加したことに歓迎の意を表明した。海自は2007年にこのマラバールに初めて参加したが、そのステータスはあくまで「ゲスト」で、2008年と2010-13年にかけては不参加。インドが中国に気を使って日本の招待を見送った、との見方もある。

 しかしモディ政権発足後、2015年末の日印首脳会談で両国は海自によるマラバールへの定期参加(インドのメディアは正式参加、と表現している)を決めた。17年のマラバールには米空母ニミッツや印空母ヴィクラムアディティヤ、そして海自最大の護衛艦で事実上の「ヘリコプター空母」である「いずも」など水上艦艇16隻、潜水艦2隻、航空機95機が参加した。
 演習のメニューには海上救難訓練や射撃訓練、そして対潜水艦哨戒・攻撃などが盛り込まれた。日米印3カ国は「演習は特定の国を(敵として)想定したものではない」との立場だが、これが海洋進出を加速させる中国を念頭に置いたものであり、極めて実戦的な内容であることは万人が納得している。
 さらに首脳会談では、これまで「海軍」だけに限定してきた日印の防衛協力を、インド陸軍・空軍と日本の陸上・航空自衛隊にも拡大することで一致。それぞれ合同演習や訓練、相互訪問などを実施する考えを示した。

※日印関係史年表は会員限定PDFをご覧ください。

兵器開発は戦争より「ビジネス」が狙い
 もちろん、モディ首相にとって「日印合同軍」のようなものを創設してともに戦う、などという考えはまったくない。首脳会談では「防衛装備品」、要するに「兵器」の共同研究・開発、具体的には無人軍用車両や軍事用ロボット技術、そしてデュアル・ユース・テクノロジー、つまり民間技術の軍事転用などについての協力もはっきり盛り込まれた。
 インドが掲げる「メーク・イン・インディア」は、防衛産業でも例外ではない。今や世界最大の武器輸入国となったインドは、貴重な外貨を節約し、技術を取り込んで雇用拡大につなげ、さらには近隣アジア・中東諸国などに輸出しようという壮大な目標に向かって武器の国産化を推進している。モディ首相が今年7月、インド首相として初めてイスラエルを訪問したのは、同国の防衛産業に大きな優位性があり、なおかつインドに対する技術移転にも気前がいいから、といわれている。仏ダッソー・アビアシオン社との間で進めた多目的戦闘機「ラファール」の調達交渉で、インド側が最後まで国内でのライセンス生産にこだわったのも同様の理由からだ。

 政府のテコ入れに応じて、インドでは大手財閥タタ・グループやマヒンドラ・グループなどが相次ぎ軍需産業部門を強化している。政府は現在年間3億ドル程度の武器輸出を2019年までに20億ドルに拡大するという目標を掲げた。重点分野はロシアと共同開発したブラーモス巡航ミサイルや小型艦船、自走砲などで、すでにインド製巡視艇がモーリシャス海軍に提供されたほか、ベトナム軍もブラーモス・ミサイルに関心を示している。
 初代首相ネールが唱えた「非同盟」路線を踏襲してきたインドはかねて、特定の国との軍事同盟や防衛協力には極めて消極的だったが、モディ政権の政策転換によってこの分野における日印両国の協力は一気に拡大・緊密化しそうだ。

 そしてもう一つの注目点が、「アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)構想」だ。これは昨年末の日印首脳会談で合意され、今年5月にグジャラート州の州都ガンディナガルで開いたアフリカ開発銀行総会で発表されたもので、日印両国が総額400億ドルを投資してアジアからアフリカに至るエリアに発電所や高速道路、港湾などの産業インフラを整備しようという壮大な構想だ。
 まだアイデアだけで実際のプロジェクトなどは一切具体化していないうえ、今回の日印共同声明でも「産業回廊及び産業ネットワークの発展に努力する」という地味な表現にとどめた。しかし、早くもアジアにおける中国主導の総合インフラ開発プロジェクト「一帯一路(OBOR)」への対抗措置、と位置づける見方が出ている。
 日本とインドが手を握って「軍事」と「一帯一路」で協力するということになれば、中国が神経を尖らせないはずはない。案の定というか、「日本がインドと組んで中国をけん制」という文言があちこちのメディアで見られた。だが、インドはそうした日本の思惑など百も承知。日本が思っているほど、中国との関係は悪くない。
 もちろん、「ライバル」(と思っているのはインド側だけかもしれないが)中国への対抗上、日本の力を借りるというのはインドにとってかなり合理的な選択だ。日本としても貿易や投資を通じてインドの成長力を取り込むことが国益につながる。そうした点で、日印両国は今のところしっかりと折り合っている。

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山田剛/主任研究員(兼日本経済新聞シニアエディター)



日本経済研究センター主任研究員 山田剛

 発足以来2年半が過ぎ、任期を折り返したインド・モディ政権の経済改革がようやく形になってきました。相次ぐ外資規制の緩和やインフラ整備の加速はもちろん、独立以来の税制改革となるGST(物品・サービス税)の導入にもめどをつけ、内外投資家の関心も再び高まっています。モディ首相は2016年11月に「高額紙幣の使用停止」という荒療治に踏み切り、改革に賭ける不退転の決意を示しました。2017年には日本をはじめ中東、アジア諸国や欧州などとの経済協力も一段と強化されそうで、「トランプのアメリカ」とどう付き合うのかも要注目です。こうした情勢を踏まえ、インド政治・経済の予測と動向分析を詳細かつわかりやすくお伝えしていきたいと考えています。

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