トップ » 政策提言 » マニフェスト評価

衆院選・経済学者からのコメント<マニフェスト評価>

「マニフェストにおける地方分権改革の位置づけ」
土居丈朗・慶應義塾大学教授(2009年8月6日掲載)


土居丈朗・慶應義塾大学教授  
 衆議院が解散される前から、地方自治体の首長たちが盛んに議論を喚起していたこともあり、各政党のマニフェストには地方分権改革についての記述が盛り込まれた。有権者が、地方分権改革の内容に、どこまで高い関心を寄せるかは自明ではないが、地方分権改革推進委員会が今秋にも税財政に関する第3次勧告を行う予定となっており、各政党の主張は今後の議論の行方にも影響を与えるだろう。

 地方分権改革の必要性は、もはや語りつくされている。自民党も民主党も基本的には、中央集権的な行財政のあり方を見直す方向でマニフェストを書いている。どこまで現実的かは自明ではないが、道州制への移行をにらんで踏み込んだ記述もある。

 しかし、道州制に対して、一部の自治体関係者からは、地域間格差の拡大が懸念されることから、疑義が呈された。地方分権改革と一口に言っても、自治体関係者の間でもずいぶんと温度差があることを如実に示している。

 その上、全国知事会のマニフェストを各政党のマニフェストにそのまま盛り込めとの主張が展開されたことで、地方分権改革の中身は全国知事会のマニフェストに近いものが正しく、それにそぐわないものは悪いものとの印象を与えかねない点は、大変由々しき状態である。特に、地方税源を充実強化するための国税からの税源移譲と、地方交付税総額の増額(「復元」)をうたっているにもかかわらず、国政を預かる国会議員側から、与野党問わず、批判めいた声すら聞こえない。都道府県知事の言い分を鵜呑みにすることが、国会議員の仕事なのか。決してそうではない。

 もし、地方税源を充実強化するための国税からの税源移譲と、地方交付税総額の増額(「復元」)を行えば、国家財政はどうなるか。現行の税収の状況では、おおむね、国税が6で地方税が4となっている。しかし、国税の中には、地方交付税の財源となるものが含まれている。したがって、厳密に言えば、(交付税財源とならない)国税が4、交付税財源となる国税が2、地方税が4という割合となっている。最終的に受け取る段階で見れば、国が使える税収は4、地方が使える税収は6ということなのである。

 それにもかかわらず、地方側は、国と地方の税収配分を「5:5」とせよ、と主張している。何を指して「5:5」といっているのか。地方交付税を地方が受け取る分として計算すれば、既に国:地方は「4:6」となっている。それでいて、地方税源を充実強化せよというわけだから、地方側が「5:5」と主張するのは、まさか地方の取り分を減らして国の取り分を増やすことを意味するはずはない。しかも、地方交付税の総額を減らすなとも主張する。これはすなわち、(交付税財源とならない)国税が3、交付税財源となる国税が2、地方税が5という割合にせよという主張に他ならない。これでは、国:地方は「3:7」となる。

 果たして、国政を預かる国会議員は、そんな主張を鵜呑みにしてよいのだろうか。そんなことをすれば、国家財政の収支は確実に悪化する。増税を提起しないのだからなおさらである。「地方は栄えて国は滅ぶ」では、身もふたもない。地方分権は必要だが、国家財政の基盤を損なわないようにすることとセットでなければ、地方分権改革を着実に遂行できない。

 幸い、自民党も民主党も、全国知事会のマニフェストを鵜呑みにすることはなかったが、地方側は依然として「5:5」を主張し続けているだけに、油断はできない。地方分権改革を進めるためには、地方税源の充実強化は不可欠である。しかし、国から地方への権限委譲が進めば、地方は自主性が高まるのだから、国が地方の財源保障を行う必要性は確実に低下する。だから、地方交付税の「復元」は、地方分権と矛盾する。地方分権に必要な地方税源の充実強化は、国から地方への財政移転の見直しとともに、地方消費税の増税を含めた税制抜本改革なしにはできないものである。

 各政党は、マニフェストで国の政策的支出に関するアイディアを様々に提起しているだけに、国の政策のための財源を確保することと、地方分権を進めることとを、どう両立させるかが問われる。有権者は、全国知事会の言い分をどれだけ反映したかではなく、こうした視点で、地方分権に関するマニフェストを評価すべきである。



△このページのトップへ