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<シリーズ>25%削減時代の日本経済D
デンマークがグリーン成長で成功した秘訣(成功要因)とは―環境と経済の両立には何が必要か? (2010年10月7日開催)

中島健祐・デンマーク大使館インベストメント・マネージャー

50年先を見据えた国づくりが不可欠


中島健祐・デンマーク大使館インベストメント・マネージャー
【要旨】
@デンマークは日本でイメージされる農業国ではなく、欧米企業の研究開発拠点が多数あり、ICT(情報通信技術)、ライフサイエンス、環境技術などで最先端技術が集積、融合している国である。世界の研究開発(R&D)センターにもなっている。

Aデンマークの強みは成熟した民主主義に基づく明確な国家ビジョン、それを実現する強力な産業政策、そこから生まれるイノベーションや先端技術と差別化戦略、そしてこれらを背景で支える教育システムにある。いわば国の総合力が結集した結果だ。

B上記@Aに示したような総合力に基づいて50年先を考えたエネルギー戦略、環境戦略を作成、実行、検証することが不可欠と考えている。環境先進国として進化するためにデンマーク政府は10月6日、2050年までに脱化石燃料を目指す計画を決めた。

C日本とデンマークは互いに異なる強みと勤勉性など似た国民性を持っている。両国が緊密に協力すれば、地球温暖化防止や資源制約など世界的な難題を解決する指導的な立場になる可能性も十分にある。

 
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農業国ではなく、世界のR&Dセンター

 本日のテーマである「デンマークはなぜ環境と経済の両立に成功したのか」ということだが、その前にデンマークがどの様な国であるかという点について説明したい。日本人が抱いているイメージとかなり違うので、それを知ってもらうことが、環境と経済の両立にデンマークがなぜ成功しているのかを、理解することにも役立つからだ。

 日本ではデンマークというと、「みにくいアヒルの子」などで知られる童話作家アンデルセン、畜産を中心とした農業国、家具や照明などの北欧デザイン、ロイヤル・コペンハーゲンの陶器などが思い浮かぶ。九州ほどの国土で人口は約550万人(福岡県が500万人)で北欧の美しい小国というイメージだ。しかし1人当たりGDPは日本よりも豊か。社会福祉に恵まれた国で、高福祉国家としての情報は日本で多く紹介されている、一方で産業や技術の情報がほとんど日本に伝わっていないなどデンマークに関する情報に偏りがあることも日本に全体像があまり知られていない要因である。デンマークは成長が続き、革新的な技術があり、国民は未来は明るく、今後も国家が発展していくと考えている。(沈滞し、将来に悲観的な)日本の雰囲気とは対照的だ。

 今日のテーマに関係するエネルギー自給率は約130%に達している。1970年代の石油ショック時には、わずか2%だった。食料自給率は300%。ロシアやドイツという大国に囲まれ、エネルギーと食料は自給しなくてはならないとの合意形成が得られており、長い時間かけて実現している。またスイスの世界経済フォーラムの調査では3年連続して世界IT競争力で1位になっている。また英国の大学が調査した国民幸福度調査では世界1位となっているなど幸福度が高い国として知られている。ITやバイオテクノロジー、エネルギーなどの新技術開発の拠点であり、ビールのカールスバーグや風力発電機メーカーのベスタス、インスリンで世界シェア1位のノボ・ノルディスクがある(図1)。

図1 デンマークは小さな大国

 デンマークには多くの欧米企業が研究開発(R&D)拠点を置いている。グーグルはグーグルクロームの主要コンポーネントをデンマークで開発している。マイクロソフトはソフトウェア企業を買収し全世界で中小企業向けのCRMソフトを展開、ノキアも国外で最大のR&Dセンターがありスマートフォンの開発を行っている。ノキアのコペンハーゲンにある研究所は、欧州での携帯電話端末の重要な開発拠点だ。

 技術の視点で見ると、日本の技術とデンマークの技術は補完関係にあると言える。日本の強みは、機械加工技術、電子材料や省エネ技術、鉄道システムなどであり、大規模な社会インフラに適用できる高品質、高信頼性にある。一方デンマークの強みは、再生可能エネルギー、医療、ソフトウェア、通信技術などどちらかと言うと日常生活に近い領域に強く、かつそれらがニッチであり革新的であると言われている。つまり、デンマークの革新技術と日本の高品質、高信頼性の技術を融合することにより、米国やドイツなどでは作りえない独自の技術やソリューションが開発出来る筈であると専門家も分析している。しかしデンマークにおける日本の存在感は薄いことと、デンマーク自体が日本企業にも知られていないので、残念ながら技術での連携があまり実現出来ていないのが実状だ。最近2−3年は中国がデンマークに進出してきている。政治力ではすでにアジアの盟主、経済規模でも今年日本を追い抜くが、技術力ではまだ日本や韓国、台湾に劣っているとの認識があるようだ。日本や韓国が進出してこないうちに環境などの革新的な技術を押さえようという狙いだろうと推測される。BYDなど新興企業もわざわざデンマークで電気自動車(スマートグリッド)の実証実験に取り組んでいるほどである。またバイオテクノロジー企業を買収したケースもある。

多様な企業が「生態系」のように共生・共創

 米アップルとソニーの例を出して恐縮だが、アメリカの大学教授が説明した事例を紹介させて頂きたい。その教授が説明したことは、デンマークの成功はアップルの成功事例に似ているということだ。当時携帯型音楽プレーヤーの技術や音楽ソフト会社を持たないパソコンメーカーのアップルは戦略的に他者と連携するしか事業を展開することが出来なかった。そしてパートナーと緩やかな協業関係を構築し、そのことにより「iPod」を中心とした音楽ネット配信ビジネスを確立出来たと言われている。一方、ソニーはハードでもソフトでも音楽ビジネスにおける事業経験とリソースを保有していたが故に、自社を中心に事業を組み立てた結果、他者との連携、エコ・システムに気づくのが遅れたと言われている。(ネット配信ビジネスを成功させる)能力と可能性は十分にあったが(むしろソニーの方が先にモデルを考えていた)、実ビジネスではアップルに先行を許す結果となってしまった。資源制約がある小国デンマークも、アップルの事例の通り、国内外の多くの企業を誘致し、連携することで技術を積極的に取り入れる方策を選択した。その結果、全てのステークホルダー(利害関係者)が“Win-Win”の関係を築く「生態系(エコ・システム)」を構築することができ、小さな国土に多くの産業クラスターが発生することとなった。国土が小さいデンマークは3時間もあれば、各分野の専門家が集まることも可能で、革新技術や新規事業分野の面で連携をしやすい国土的な特徴もある。その為、米国企業は米国ではなく、わざわざデンマークで新技術を開発したり、ベンチャー企業を設立する動きが出ている。

 本論の環境と経済の両立についてだが、デンマークは1990年比で2008年には経済規模(GDP)は1.5倍となったがエネルギー消費量は横ばい、温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量は15%減少している(図2)。

図2 デンマークは温暖化対策と経済成長の両立を実現

 これは30年前から高い目標とそれを実現するためのロードマップ(工程表)を作り、5年、10年と節目で計画の進捗度を絶えず検証し、修正しているからだ。10月6日には2050年までに化石燃料に依存しない社会を目指すとの目標を政府は公表した。

 デンマークが新たな制度を導入する場合には、誰も損をしない仕組みを考え、合意形成を得てから実行に移す。例えば風力発電の事例だが、日本では景観論争や低周波音が問題になっている。ところが、デンマークでは最初に地元に利益を落とすように普及の方策を考える。すでに約5000基の風力発電機があるが、その8割は企業ではなく、市民が保有している市民風車である。電気を電力会社に売ることで、地元民に利益が落ちる構造になっている。電力会社も設備投資を抑制できる利点がある。

 具体的には風力発電機は証券化され、多数の市民が株主のように所有しており、大型の風力発電機から得られる投資利回りは10%にのぼる場合もある。もちろん新エネルギーはコスト高だったり、安定しなかったりするので、政府は買い取りに補助金を出している。一定の利回りを下回ったときの保険制度もある。すべて合意形成があるから実行できる。つまり新たな施策や行動を起こす場合に、全ての利害関係者で「共生と共創」 の理念が共有されていることが日本との大きな違いになっている。

教育システムが国家の基盤に

 デンマークは製造業からナレッジ・インテンシブ(知識集約)型産業へシフトすることを約30年前から進めている。資源が乏しく小国のデンマークが経済成長を続けるには、人材とイノベーションに注力するしかない。国が産業政策で選択と集中を進めており、環境やICT、バイオに強いのは、その表れだ。そのデンマークの国家戦略を支えるのは、教育システムだ。例えば環境問題については、高速道路建設が及ぼす環境影響を小学生のころから議論させている。利便性と生態系保護のバランスをどのように考えるのか?議論し、考えさせて教えている。知識ではなく問題を解決する知恵を伸ばす教育が、デンマークを環境先進国にしたわけだ。子供のころに詰め込んだ知識の8割は成人時には役立たない。「正解」のない世界で解決法を見出す力をつけることを教育の基本的なコンセプトにしている。教育システムと国家ビジョン、差別化戦略、強力な産業政策という総合力で成功したわけだ(図3)。

 デンマークの成功要因から日本が学べることは多い。政治家と国民が議論し、合意形成に基づく国家ビジョン(国の将来の方向性)を作成することや知識偏重の教育を改めることは十分に取り入れられる。日本はデンマークのような小国ではないので、特定産業に特化するような産業政策は採用しにくいかもしれない。しかし道州制を中心とした地方分権を進める際、各地域が独自色を出すための方策などの面においてデンマークの産業政策は参考になる。小手先の方法論ではなく、国の行く末を見据えた大きな戦略作りと実行が必要だろう(図4)。

図3 環境と経済の両立は国の総合力の賜物

図4 小国デンマークから学ぶべきものは少なくない

 デンマークはロシア、ドイツという強国に囲まれ、人口の高齢化も進んでいる。急激な少子高齢化に直面する日本も中国、韓国、台湾に追い上げられ、立場は共通するものも少なくない。ものづくりに強い日本とは環境やエネルギー分野でも、もっと協力できると思う。

日本、デンマークとの協力で抱える難題の解決を

 デンマークはICT、環境技術、バイオテクノロジー、再生可能エネルギー、ロボットなどの分野で国際競争力があり、特にアプリケーションやユーザードリブンイノベーションに強く、日本とアプローチが異なる。両国の技術を融合することで他国では実現できない革新的なソリューションを開発出来る可能性があり、それはアジア、世界で日本が主導的地位を確保する為の鍵となる。両国とも伝統的な皇室・王室を持ち、自然を愛し、勤勉という国民性である。両国の連携により、地球環境、資源問題、高齢化問題など様々な課題を解決することが出来、こうしたソリューションの提供により、共同で世界から尊敬される国づくりを行うことが出来る筈だ。日本は、東洋の文化と西洋(含むイスラム)の文化を理解し、高い文化レベル、精神性を持ち、ものづくり、技術力などの総合力でトップクラスであり、世界の中でもユニークなポジションにある。本来日本こそが21世紀の世界を主導するべき立場にあり、その為には国の目指すべき方向性を明確にし、国民が自信と誇り、加えて高い幸福度を保ちながら歩むことが出来るフレームワーク作りが必須となる。その実現の為にデンマークの事例が参考となれば幸いであると考えている。

―なかじま けんすけ―
 通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館Invest in Denmarkに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによる投資支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開

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