1994年の経済白書(中) 通説への挑戦

 前回に引き続いて1994年経済白書について書いてみたい。前回述べたように、この94年白書は、私が書く最後の白書になるだろうということはほぼ分かっていた。そこで、私は、それまで「これは言っておきたい」ということをできるだけたくさん盛り込むことにした。
 では私は、どんなことを言っておきたかったのか。私は、エコノミスト生活を続け、次々に現れてくる経済現象を考える中で、世の中に流布している考えの中には、結構間違っているものが多いと感じてきた。私は、そういう感じを持つようになることが好きだった。そういう世間の常識とは異なる考えを持つようになることこそが経済学を勉強し、分析を工夫していく醍醐味だとさえ考えるようになっていた。そこで、この白書では、日ごろ私が「どうもおかしい」と考えていたことをたくさん盛り込み、「通説に挑戦しよう」と考えたのである。
 こういう私の話を聞くと、読者の中には「一役人が、政府の白書にそんな自分の考えを盛り込んでいいのか」「そんなことをしたら時の政府の考えに反することも出てくるのではないか」と思うかもしれない。しかし、やってみるとこれが案外できてしまったのである。
 結果的に、私はいくつかの点で、私がかねてから考えていたことを、うまく白書の中に盛り込むことに成功したのである。以下、その例を紹介しよう。

円高忌避論への反論

 まず円高をどう評価するかという問題をどう扱ったかを紹介しよう。94年白書は、前年の93年の経済の動きを中心に分析するのだが、当時世の中で大問題になっていたのは「円高」であった。93年には円高が急速に進行し、円の対ドルレートは、93年1月の125.0円から、同年8月の103.7円へと20.5%も上昇した。言うまでもなく、円高は輸出採算を悪化させ、輸出産業に打撃となる。このため世の中では、盛んに「円高不況論」が叫ばれていた。特に政治家筋からは、中小企業は円高で大きな打撃を受けているのだから、これを何とかせよという議論が声高に叫ばれていた。
 日本では伝統的に、円高になると「経済が大変なことになる」と大騒ぎをする。私にはこれが不満であった。円高というのは、経済に多様な影響をもたらすのであり、その中には経済にプラスの影響もあれば、マイナスの影響もある。「円高イコール景気悪化」と考えるのはあまりにもバランスを欠いた議論だ。強いて言えば、円高になると、我々日本人が保有している円の価値が高くなるのだから、むしろ円高の方が望ましいのではないかとさえ考えていた。
 94年白書では、この問題をどう処理したのか。第1章の「円高のマクロ的影響についての論点整理」という節の冒頭は次のような文章で始まっている。「円高の影響を語る言葉は多様であり、それだけに混乱しやすい。ある人は円高のメリットを強調し、ある人はデメリットのみに気を取られがちである。」
 ここで、円高にはメリットとデメリットがあることを明示している。そして「ある人はデメリットのみに気を取られがちである」と言っているのだが、「ある人」とは「世の中の多くの人」「円高は大変だと言って騒いでいる政治家」のことなのである。オブラートにくるんではいるが、「世の中では円高の負の影響ばかり注目しているが、ロジカルにはプラス効果もあるんだよ。だから、円高不況と言って騒いでばかりいるんじゃないよ」と諭しているのである。
 続いて白書は、次のように言う。「この場合、重要な二つの指標がある。一つは『実質GDP』であり、もう一つは『購買力』である。円高のマクロ的影響を考えるとき、当面の影響については『実質GDP』に着目するのは当然である。それが、国内景気を端的に示す指標だからである。一方、より長期的な視点で考える場合、『購買力』が重要となってくる。円高はまさに通貨価値の上昇を意味し、それは円の購買力が上昇することだからである。このとき注意する必要があるのは、購買力は必ずしも実質GDPによっては適切に測れないということである。」
 ここでもオブラートにくるんでいるが「短期的にGDPで見ると、景気に悪影響があるように見えるが、もっと長い目で見ると、円高によって円の購買力が高まるんだから、これは日本にとってプラスなんだよ」と言っているのである。言うだけでは分からないだろうから、分析にも工夫を凝らした。「実質コマンドGDP」という指標を計算したのである。これは、当時白書の執筆陣の一員だった課長補佐のM氏が考え出したものである。白書では次のように説明している。
 「長期的な視点から円高の影響を捉えるための概念として、購買力について考えてみよう。所得の源泉はGDPであるから、その適切な実質化の方法を見い出すことによって購買力を測ることを考えよう。購買力は、その所得を使って何を買うかによって決まる。GDPは、個人消費、設備投資などの国内需要に向けられるほか、純輸出(輸出-輸入)に回される。この純輸出は、購買力という観点からは、将来において財貨・サービスを輸入するための原資として用いられると考えるべきものである。したがって、国内需要分については国内需要デフレータで、純輸出分は輸入デフレータで実質化し、これを合計してGDPの実質購買力とするという方法が考えられる。こうして得られた指標を、『実質コマンドGDP』と呼ぶこととしよう。」 そしてこれを実際に計算し、93年度の実質GDPはゼロ成長だったが、実質コマンドGDPは0.8%増加しているという結論を示している。
 こうして私としては、円高の経済的影響について、当初の狙い通りのストーリーを描き出したのだが、あまり目立った反応はなかった。「政府は必死になって円高不況を防ごうとしているのに、円高にもいいことがあるという結論はいかがなものか」というコメントが出るのではないかと思っていたが、幸いそんなコメントもなく、無事白書に掲載されたのである。ただ、局内の幹部の一人から「君の円高に対する考えは甘すぎるよ。君は中小企業が円高によってどんなに苦しんでいるのか分かっていないのではないか」と言われたことは覚えている。

日本の貿易構造は特異か

 私は、白書を書く前のポジションで、日米経済摩擦の議論に参加した経験もあって、海外からいろいろ日本経済について言われることの中にも、おかしな議論がたくさんあるから、どこかできちんと反論したいものだと考えていた。その一例が、94年のアメリカの経済諮問委員会年次報告の指摘であった。同報告では、日本の貿易構造が特異であると指摘しているのだ。具体的には、他の先進諸国に比べて、①国内消費支出に対する製品輸入比率が低いこと、②産業内貿易比率が低いこと、③日本企業による企業内貿易比率が高いこと、④海外企業の対内直接投資残高が低いこと、などがその根拠として指摘されている。
 狙いは分かる。日本の市場を開放的にして、アメリカら日本への輸出を増やそうというのだ。つまり、①は、要するに、日本は原材料や食料ばかり買っていて、先進諸国の製品を買わない。これが是正されれば日本への輸出も増えるはずだ。②は、同じ産業内での輸出入があまり行われていない。例えば、自動車産業は輸出するばかりで、輸入していない。産業内貿易がもっと増えれば、アメリカからの輸出ももっと増えるだろう。③は、日本の企業は、企業内で輸出入を行っているから、アメリカの企業が入り込めないのだ。④は、アメリカの企業が日本に直接進出して、日本で製造したり、販売活動の拠点を置いたりできるようになれば、もっとアメリカの輸出が増えるはずだ。こんな風に考えたのだろう。
 私は、こうした指摘を目にするたびに「おかしなことを言う人たちだ」と腹を立てていたのだが、日本側がきちんとデータを使って反論していないことにも腹を立てていた。そこで白書を使ってきちんと反論しておこうと考えたのである。白書では、「やや本論とは離れるが」と断ったうえで、わざわざ「特異ではない日本の貿易構造」という節を設けて、まとめて反論している。
 全部紹介すると煩雑になるので、概要だけ紹介すると、例えば、製品輸入比率が低いことについては、次のように説明している。「名目製品輸入額と名目GDPの比率を国際比較してみると、日本はアメリカなど他の先進国と比較して低水準にあり、この20年間それほど上昇していないのは事実である。しかし、この指標には技術的な問題がある。円高になった場合、輸入数量の増加の影響が円ベースの輸入価格の下落で相殺されてしまうため、輸入数量が増加しても、それがこの指標には全く現れなくなってしまう。そこで、製品輸入比率を、実質製品輸入額の実質GDPに対する比率で計測すると、日本のそれは85年のプラザ合意以降急速に上昇しており、今回の円高局面においても大幅な上昇がみられる。」
 また、「産業内貿易比率が低い」という点については、日本の産業内貿易比率は確かに他の先進諸国より低いとした上で、次のように指摘している。「一般に、一国の産業内貿易指数は、その国の生産要素賦存比率が他国と異なっていればいるほど低くなる。なぜならば、生産要素賦存比率が他国と大きく異なる国は、相対的に豊富な生産要素を集約的に用いる財を輸出して、希少な生産要素を集約的に用いる財を輸入するという伝統的な比較優位に基づく産業間貿易の比率が大きくなるからである。この考え方に従えば、日本は土地とエネルギー資源が極めて乏しい一方で、労働と資本は豊富に存在するという特徴的な生産要素賦存比率を持っているので、異なった産業間の貿易が生じやすく、産業内貿易比率は低いものとなるのが当然だということになる。」
 こうした指摘をしたからといって、アメリカ側が「なるほどそうですか」というわけではないのだが、私としては、「この程度の反論はして欲しいと」考えていたのである。

空洞化と動態的国際分業論

 当時は、空洞化の議論も盛んだった。円高になると、国内での生産が高コストになるので、企業は競って海外に進出する。国内から産業が出ていってしまうと、経済の基盤が損なわれ、雇用機会も失われてしまうというのが空洞化の懸念である。これについても私は、空洞化懸念は、変化した一部しか見ていない「部分均衡的な」考えだと思っていた。日本の産業構造が高度化して行く時に、それまであった産業がすべて日本に残り続けなければならない理由はない。海外の生産に委ねるべき生産活動は、日本から出て行ってもいいのだ。それが産業構造の変化というものだ、と考えていたので、この点も指摘しておきたいと考えた。
 白書ではこれを「動態的水平分業関係の進展」だと捉え、日本、アジアNIEs、ASEAN、中国について財別の貿易特化係数をみることにより、次のような議論を展開している。貿易特化係数というのは、ある財の貿易収支の貿易額に対する比率((輸出-輸入)/(輸出+輸入))であり、プラスであることは輸出超過、マイナスは輸入超過であることを示している。
 「まず、国(又は地域)としては、日本→NIEs→ASEAN→中国の順で、産業としては非耐久消費財→耐久消費財→資本財という順で、特化係数の高まり→低下→マイナスへという動きが生じている。先頭を走る国(日本)を追って、次々により付加価値の高い分野に産業のウエイトを移していくという、雁行形態型の発展を明確に観察することができる。」
 つまり、日本、東南アジア、中国が、次々に先行するグループを追いかけるように産業の移動を繰り返すことにより、アジア全体での産業構造のダイナミックな変化が生じ、地域が発展していったという理屈である。
 以上のような検討を踏まえて、最後に白書は「空洞化」論について、次のように言っている。「空洞化を懸念する議論は、『輸入が増えれば、その分国内の生産・雇用が減る』、『海外への投資が増えれば、その分国内の投資が減る』という点を問題視している。しかし、長期的にみれば、製造業の生産拠点のアジアへの移転は、動態的水平分業を通じた日本とアジア諸国の雁行形態的重層構造の高度化という流れを更に押し進め、それがアジア諸国との長期的な相互依存関係を深めるとともに、日本も含めたアジア地域のダイナミックな発展を促進させるため、日本を含めたアジア全域でのパイの拡大につながることが期待できる。」
 今から振り返ってみると、こうした議論はやや単純で楽観的だったかもしれないが、私はこのように考えていたのである。
 なお、以上のような主張は、特に政治家の「空洞化したら大変だから、政府は何とかしろ」という主張にも反論していることになる。白書は、「空洞化現象は、短期的には心配でしょうが、長期的には、それこそが発展の道なんですよ」と言っていることになるからだ。この政治的見解との対立は、白書公表後やや問題になりかけた。私は、白書公表日の直後に、自民党の商工部会に呼ばれて、白書の説明をした。説明が空洞化の部分なり、私が上記のような説明をすると、ある議員が「おいおいその説明は、我々が主張していることと違うんじゃないか。政府がそんなことを言っていていいのか」と発言した。私は「困ったな、どう答えようか」と躊躇(ちゅうちょ)していると、議員の中にかつて経済企画庁長官を務めた経験のあるO議員が混じっていて「いや。白書としてはこれでいいんですよ」と発言してくれて、何となくその場は収まってしまった。O議員の発言もよく意味が分からないが、要するに「経済白書というものは、その時々の世間の議論、政治的な議論からやや距離を置いて、理論的、実証的に経済を敬明することにあるのだから、これでいいのだよ」と言いたかったのだと思う。

 (続く)

3月17日付日本経済新聞 朝刊40ページ経済教室に、上野陽一主任研究員が「日本経済研究センター短期経済予測 景気回復、訪日客に依存」を寄稿しました。

【参考】短期経済予測 「景気回復、インバウンド需要がけん引─米欧の利上げ再加速・国内外の長期金利上昇がリスク」(3月9日)

脱炭素・エネルギー安定供給の両立、あらゆる選択肢が必要

 日本経済研究センターは3月7日(火)に第36回会合(最終回)を開き、脱炭素社会の実現、ウクライナ侵攻で顕在化した危機対応としてのエネルギー安定供給など課題が山積するエネルギー政策について政府関係者を招いて議論した。温暖化ガスを2030年度に13年度比46%削減、更には2050年カーボンニュートラルという政府目標の実現とエネルギー安全保障を両立するため、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針、GX推進法案、GX脱炭素電源法案を決めた。産業界の脱炭素化を後押しする支援策やあらゆるエネルギー源の選択肢維持策が盛り込まれている。今回のようなエネルギー危機は繰り返し起きる可能性があり、脱炭素との両立策にもなる化石燃料依存の低減には、再生可能エネルギーの拡大のほか、賛否はあっても、原子力もある程度維持する必要があるだろう。


 デジタル社会研究会は、第36回を持って最終回を迎えました。2019年10月から2年半にわたり、コロナ禍で会議が大変になる中でも、積極的に議論に参加いただた有識者の皆さま、オブザーバーとして協力いただいた総務省、経済産業省、金融庁の皆さま、企業から参加いただいた方々にお礼申し上げます。デジタル研での活発な議論を通じて当センターは、政策立案やビジネス現場の感覚、技術進歩の動向について知ることができました。19年冬から23年春にかけて公表した当センターの政策提言、中期経済予測は、研究会の議論なしには成立しなかったと考えております。改めて感謝申し上げます。

日本経済研究センター 政策研究室長 小林辰男

2022年度 自社データ・オープンデータを用いた分析の概要

2022年度データサイエンスコースの研究生が自社データやオープンデータを用いて行った分析の概要を紹介する。

 顧客に送付しているカードローンのダイレクトメールに対し、申し込みがあったかどうかを分析し、効果的な発送方法について検討した。

阿久津 燎平

 自社商品の在庫管理について、数ヵ月先の払出数の予測精度の改善を試みた。さらに欠品や在庫等のコスト構造に応じて期待費用を最小にする発注量を試算した。

伊東 千輝

 スマートメーターの電力消費データを用いて、電気料金単価の見直しが世帯の電力消費量に与えた影響を推計した。

河内 隆宏

 埼玉県内の企業アンケート調査結果をもとに、人手不足を経営課題に挙げる企業の賃上げや設備投資の動きや、企業の立地による労働力過不足の傾向を分析した。

齋藤 康生

 小規模事業者の信用リスクを評価する倒産予測モデルの精度向上を目指して、企業の銀行口座情報を加味したモデルを推定した。

鈴木 沙織

 工事情報や配属社員の労務データを用いて、建設現場においてどのような条件で労働災害が発生しやすいかを分析した。

藤井 愛子

多国間通商体制の危機と変容-フレンドショアリング時代の日本の選択

*収録動画の配信期間:2023年6月15日まで

 ■講師略歴
(かわせ つよし) 1994年慶応義塾大学大学院法学研究科後期博士課程中退、米ジョージタウン大学法科大学院修了。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)助教授、経済産業省通商機構部参事官補佐、(独)経済産業研究所研究員、大阪大学大学院准教授などを経て、2007年から現職。(独)経済産業研究所ファカルティ・フェロー、産業構造審議会特殊貿易措置小委員会委員長を兼務。専門は国際経済法。

23年春闘賃上げ予想は「3.05%」に高まる
―回答者21名がベア分を中心に1月から上方修正

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ESPフォーキャスト3月調査(回答期間:2023年3月6日~23年3月13日、回答数:34)の主な結果は以下のとおりである。

  • 2023年1~3月期の実質GDP成長率(前期比年率)は1.66%と、10~12月期のGDP速報値公表前に集計した2月調査より0.38%ポイント上方修正された。民間消費は前月並みとなり、設備投資と輸出入は下方修正された。1〜3月期の成長率を回答者34名全員がプラスとみる。22年度の実質GDP成長率は1.24%と、前月調査より0.30%ポイントの下方修正となった。民間消費・在庫、民間・公共投資が下振れた。
  • 消費者物価(生鮮食品を除く、コアCPI)は2022年10~12月期の3.7%(実績)をピークに23年以降は上昇率の鈍化傾向が続く見込み。23年1~3月期は3.31%となり、前月調査より0.36%ポイント上振れた。22年度は2.99%、23年度は2.07%、24年度は1.32%と、前月調査より上方修正された。
  • 日本銀行の次回金融政策の変更時期について、回答者33名中29名が「2023年内」(前月調査:23名)、4名が「24年1月以降」(同12名)と回答した。政策変更について、22名が「引き締め」、0名が「緩和」、11名が「その他の政策変更」を予想する。長期金利の誘導目標については、33名中20名が「24年末」までの「撤廃」を見込む(うち、16名は「23年末」までに撤廃と回答)。
  • 23年の春闘賃上げ率は、平均で「3.05%」と、前回1月調査時の「2.85%」より高い予想。内訳については、定期昇給分が1.80%(前回調査:1.78%)、ベースアップ分が1.25%(同1.08%)となった。

予測記録(中位・高位・低位平均データ、長期予測総平均)(EXCELファイル)

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ポスト・コロナの経済回復、ばらつき目立つ

 ゼロコロナ政策が解除され、経済の回復が待たれる中国だが、2月の統計は力強さに欠けるものがなお多かった。輸出入はともに5カ月連続で前年実績割れとなり、輸出比率が高い外資系や民営企業を中心に工業生産は回復力が弱いままだ。例年は年初に大きく上昇してきた固定資産投資の伸び率も昨年平均から0.4ポイントしか上向いていない。民間投資が低調なためだ。企業活動の鈍さを反映して、2月の都市部の平均調査失業率は前月から0.1ポイント上昇して5.6%となった。
 行動制限がなくなったため、飲食業は売り上げを大きく伸ばした一方、自動車や家電などの耐久消費財の販売はマイナスが続く。注目される不動産業は住宅販売価格が上向き傾向にあるほか、不動産投資も回復の兆しがある。中国の景気回復はなおばらつきが目立つ状態だ。

概要

  1. 固定資産投資と不動産開発  :不動産、マイナス幅が大きく縮小
  2. 輸出入  :輸出が5カ月連続のマイナス
  3. 工業生産  :回復力鈍い、外資はマイナス続く
  4. PMI  : 景況感が大きく改善
  5. 社会消費品小売総額  :消費の回復にはばらつき、飲食好調 
  6. 消費者・卸売物価指数  :内需低迷で物価の伸び鈍化
  7. 新車販売台数  :1~2月はマイナス続く
  8. 新築住宅販売動向 :住宅価格の「上昇」が持続

☆トピックス  :対中直接投資、2022年下半期は急ブレーキ
          

☆主要経済統計  :バックデータ

産業経済政策ではない地球温暖化防止の法体系確立を

 政府は、2月10日に、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法案(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案)を閣議決定し、国会に提出した。その内容は、脱炭素社会実現を経済成長の原動力の一つと位置づけ、そのための投資が進むよう、公的な債券によるファイナンスをまず行い、その償還原資を、将来の、温暖化ガス(主にCO2)排出に価格付けをするカーボンプライシング(炭素税や排出量取引など)で賄う、というものである。カーボンプライシング、という政策を正面に位置付けたことは評価に値する。しかしカーボンプライシングの導入時期も規模も既存産業への配慮によってか不徹底で、適切、十分とは言い難い。今回の法案では手を加えずに置かれた、エネルギー税制について、そのグリーン化(炭素含有量に基づいて課税)を行い、本法案を補う形でカーボンプライシングを強化することを早急に検討するべきだろう。国民負担を増やすことなくCO2排出量を1割程度減らせる可能性が高いからだ。さらに産業経済政策を借用することによって地球温暖化防止を間接的に実現するのではなく、温暖化防止を直接実現して環境保全の責任を確実に果し得る法体系を確立する必要がある。

 ※2017年8月以前のバックナンバーはこちら(旧サイト)をご覧ください。