為替介入と金融政策

【1988年以来のドル売り・円買い為替介入の実施】

 急激な円安傾向に直面して、本年9月と10月に財務省は、外国為替市場への介入(以下では「為替介入」と記す。)を行いました。一番最近の為替介入は2011年11月ですが、その時は円高に対応するための円売り・ドル買い介入でした。直近のドル売り・円買い介入ということになると、1988年6月まで遡ることになります。

 円の対ドル為替レートは、本年3月上旬には115円前後でした(図表1)。しかし、その後円安が進行し、4月には130円、9月には140円となりました。そして、円レートがさらに146円に接近した9月22日に1回目の介入が、また152円に接近した10月21日と24日に2回目の介入が行われることになったのです(ただし、10月の正確な介入日は、財務省の発表を待つ必要があります)。

 財務省によると、為替介入の規模は、9月22日は2兆8382億円、10月21日及び24日は6兆円3499億円に達したとのことです(図表2)。この規模は、2011年11月における介入額には及びませんが、1998年6月のドル売り・円買い介入時のそれを大幅に上回るものとなっています。

【為替介入による資金の民間から政府への移転】

 冒頭で書いたように、今回の為替介入は、円を買い、米ドルを売るものでした。通貨当局が米ドルを売るとすれば外貨準備を取崩すしかありません。外貨準備の残高やその内訳は、保有証券の評価額やそれからの利子受取にも影響されるので、介入の原資を特定することは容易ではありません。しかし、外貨準備の変化の方向やその規模からすると、為替介入のための外貨は、外貨準備のうちの証券(多分、米国債であると思われる)の売却によって賄われたものと考えられます(図表3)。

 為替介入のために米ドルが売却されると、政府はその対価として円を受け取ることになります。実際、外国為替資金特別会計の民間からの受取超過額が9月に3兆211億円、10月に6兆円4902億円となっています(図表4)。

【マネタリーベースの減少】

 影響するはずです。より具体的には、民間から外国為替資金特別会計への資金の移転は、預金残高の民間から政府への移転を介して、日本銀行当座預金残高に影響を及ぼすはずで、その日本銀行当座預金残高はマネタリーベースの一部を構成する以上、マネタリーベースにも影響を及ぼすはずです。実際、マネタリーベースを見ると、本年5月から減少傾向にありましたが、特に9月と10月の減少は大幅なものになっています(図表5)。

【不胎化されなかった為替介入】

 マネタリーベースが減少しているという事実は、ある意味では不思議です。もし日本銀行が金融緩和を維持することを目的としているのであれば、ドル売り・円買い介入によるマネタリーベースへのマイナスの影響を不胎化する(打消す)ために、資産買入等を行って日銀当座預金残高を回復させるはずです。もし不胎化しなければ、金融引き締め効果をもたらしてしまうからです。

 しかし、実際に観察されるのは、そのような金融引き締め効果です。例えば、10年物国債金利を見ると、長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール)の下で、ゼロ%程度で推移することを前提に、許容される変動幅についてはその±0.25%程度とされているところ、本年3月末以降、その上限である0.25%に張り付いている状況が続いているのです。それはちょうど円安がみられるようになった時期と一致しています(図表6)。

【金融緩和と為替安定を同時達成することの困難性】

 この意味するところは、財務省の為替介入に際して、日本銀行は、その影響を不胎化しないことによって、それを側面支援したということのように思えます。金利が上昇することを許容することによって、資本流出圧力を抑制し、円安に歯止めをかけようとしたのです。

 さらに言うと、10年物国債金利が9月からではなく、3月末から上昇していたことを見ると、日本銀行は、財務省が為替介入をする以前から円安抑制策を打っていたとも言えるように思います。

 このような財務省と日本銀行の政策対応は、ただでさえ脆弱な回復力と一次産品価格の上昇という逆風に直面している日本経済が、さらに円安という試練に直面することの影響を憂慮し、それに対応しようとしている姿を示していると考えられます。

 しかし、多くの国で利上げが行われている中で、金融緩和を維持しながら、円安になるのを抑制しようとすることは、容易に達成できる政策目標ではありません。外国での利上げやそのペース(あるいはそれらに対する期待)に変化があれば別ですが、そうでもない限り、基本的には国際金融のインポッシブル・トリニティー(自由化資本移動、独立した金融政策、安定した為替レートの同時達成の不可能性)が作用するはずだからです。今回の財務省と日本銀行の政策対応は、極めて困難な課題に挑戦しようとしたように思えます。

米中経済対立下の日本の地経学戦略

*収録動画の配信期間:2月28日まで

■講師略歴
(かただ さおり) 一橋大学社会学部卒業。ノースカロライナ大学チャペルヒル校博士号(政治学)。国連開発計画(UNDP)、世界銀行研究員を経て現職。近著に「日本の地経学戦略」(日本経済新聞出版)

 

中国を直撃する米政権の半導体戦略

米バイデン政権は10月7日、先端半導体を対象に新たな対中国輸出規制を公表した。

 台湾有事リスクが拡大する中、中国の関連産業をグローバルサプライチェーンから隔離する政策といえる。米中の「技術卓越性」を巡る争いは頂点に達しつつある。

 先端半導体に関する中国隔離政策はアメとムチからなる。ムチは、外国企業も含め米国の技術を使用した関連製品・技術の輸出を禁止する措置だ。さらに、米政府の補助金を受けた企業の新規投資を禁じ、米国籍を有する人材が先端分野製造施設で生産能力を高めることも禁止した。

 米国輸出規制の専門家ケビン・ウルフ氏は、外国企業も対象とするのは、中国の軍民融合体制の下での華為技術(ファーウェイ)に対する制裁措置が不十分であるほか、米国企業が他国企業との競争上不利になることを回避するためとしている。しかし、米国の国内法・規制を外国企業に域外適用することは、国際法上問題がある。軍民両用技術に関する多国間合理を取り付けることが望ましい。

 アメは、先に成立した「CHIPS・科学法」に盛り込んだ527億ドルの補助金供与で、米国で生産・技術開発する外国企業も対象となる。先端半導体は経済安全保障上の戦略物資だが、生産は台湾と韓国に集中しており、米国への誘致を目指す。日本の半導体産業の世界市場シェアは10%程度だが、半導体製造措置、素材の分野では存在感がある。外国企業も対象とした規制付きの補助金供与は、国際ルールとの整合性という問題は残るものの、日本にとっては半導体産業復権の機会となろう。

 日本企業は今回の輸出規制に関連して、米国の先端技術が生産過程のどの部分で使われているか、必死で探っている。半導体分野では自社技術と補完的な他企業の特許を利用する必要がある。また、国境を幾度も超えるサプライチェーンが複雑に絡み合い、中国を含めたコンピューター関連産業の国際的な相互依存関係は極めて高い。今回の輸出規制実施は中国関連の半導体・コンピューター貿易を大幅に縮小させよう。

 なお、バイデン政権は気候変動やインフレ対策の関連法で、電気自動車(EV)購入の補助金対象を北米で最終的に組み立てられた車両に限定した。韓国企業は、米国と自由貿易協定(FTA)があるにもかかわらず、輸出したEVが補助金の例外とされ、怒りを爆発させている。欧州連合(EU)もEV車生産の北米シフトを懸念している。

 同じ関連法では、バッテリー生産に不可欠な原材料を「懸念される外国企業」からの輸入に依存することを禁止している。原材料の生産・加工段階で中国の市場シェアは極めて大きい。この分野でもグローバルサプライチェーンの再構築は避けられまい。

 外国企業を差別的に扱うようなEV補助金は、世界貿易機関(WTO)ルールに抵触する可能性が高い。アジア諸国とは「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)、欧州諸国とは「技術貿易評議会」(TTC)での協議による撤廃を期待したい。

(2022/11/25付 日本経済新聞朝刊掲載)

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防衛3文書改定と日本の安全保障力強化

*Zoomウェビナーでは、開催日1営業日前に事前登録用のURLをお送りします。迷惑メールに入ることがございますのでご確認ください
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 政府は防衛力強化のため防衛に関する3つの文書、「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」を改定します。日米協力や弾道ミサイル防衛推進など日本の防衛政策に長く携わってこられた高見沢教授に、改定のポイントと今後の防衛力強化策についてうかがいます。

■講師略歴
(たかみざわ のぶしげ) 1978年東京大学法学部卒、防衛庁入庁。運用企画局長、防衛政策局長、防衛研究所長、内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)(国家安全保障局次長及び内閣サイバーセキュリティセンター長を兼務)などを歴任。退官後、2016年ジュネーブの軍縮会議日本政府代表部大使。2020年4月から現職

 

日銀、特別当座預金制度で地銀・第二地銀92行に540億円の付利

<<ポイント>>
  1. 日本銀行の「地域金融強化のための特別当座預金制度」の下で、2022年度分(22年9月~23年8月)は地方銀行・第二地方銀行計99行のうち、92行が特別付利の対象となることがわかった。22年3月期の地銀決算および最近の日銀当座預金残高から試算すると、付利総額は9月から23年8月までの1年間で540億円にのぼる見通しである。これは、地銀・第二地銀のコア業務純益の4%弱に相当する。
  2. 特別付利の対象となる92行のうち、90行は経費削減や収益力強化を求める「OHR要件」を、2行は合併や経営統合などを求める「統合要件」を満たしている。22年度分の付利金額は92行で460億円。さらに、21年度にOHR要件を満たさなかった金融機関でも、22年度に満たしていれば過去にさかのぼり特別付利が受けられるため、22年度分に過年度分の80億円(対象は9行)が上乗せされる。21年11月の制度見直しを受けて、22年度分の付利総額は約25%減少する。
  3. 特別当座預金制度を利用する地域金融機関は日銀から0.1%の特別付利が受けられるため、地銀・第二地銀を中心に、コール市場で調達した資金を日銀当座預金に積み上げる動きが活発になっていた。地銀・第二地銀のOHRはここ数年改善しており、同制度の創設が後押ししていた可能性がある。しかし、特別当座預金制度は3年間の時限措置で、制度終了後は経営改善効果が弱まる可能性がある点に注意が必要である。また、物価安定を目指す金融政策と金融システム安定維持を目指すプルーデンス政策の間で足並みが乱れることは避けなければならない。

【地銀・第二地銀に支払われる特別付利】

(注1)2022年度分の対象先は地方銀行56行、第二地方銀行36行の計92行(統合要件での対象先を含む)。
(注2)過年度分の対象先は地方銀行7行、第二地方銀行 2 行の計 9 行。
(資料)NEEDS-FinancialQUEST、各行ディスクロージャー誌・決算短信資料、日本銀行「業態別の日銀当座預金残高」