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株価座談会
世界景気と日本株―2021年下期の相場展望

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■講師略歴
(おざわ だいじ) 1985年早稲田大学政治経済学部卒。東京銀行(現 三菱UFJ銀行)入行。シティトラスト信託銀行、モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント投信(現 モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社)などで投資運用部長などを歴任。インベスコ投信投資顧問(現 インベスコ・アセット・マネジメント)に2010年入社。14年から現職

(あくつ まさし) 2003年青山学院大学卒。旧日興コーディアル証券入社。国際市場分析部を経て、11年にストラテジー担当、16年から現職

東アジアの諸課題を議論するEast Asia Forum(豪州国立大学などが運営)に、猿山純夫・首席研究員のコラム「Leveraging longevity and tackling intergenerational inequality in Japan(長寿を味方に世代間格差と闘う)」が掲載されました。

【参考】「人生100年、10年長く就業を ―世代格差、均せる可能性」 を元にした論考です。

コロナ下における女性の正規雇用増加

【コロナ下の雇用調整】

 新型コロナ感染症の感染拡大(以下、「コロナ」と表す。)とそれへの政策対応によって日本の景気は、2020年春以降、急速な悪化を示しました。その影響はもちろん雇用にも及んでいます。コロナ下の雇用調整の特徴については、既にコラムでも触れたとおりです(コロナ下における日本の雇用調整 (2020.7.1))。失業率は上昇しましたが、その程度は、米国のように同じような実質GDPの減少を経験した国に比べると極めて限られていました。その背景には、終身雇用制の下で、企業は、過剰雇用を休業者として保蔵することに努め、政府もそれを雇用調整助成金で支えたことにありました。

 ところで、失業率が上昇した背景には、雇用者の減少がありました。特に顕著なのは非正規雇用の減少です。男女合わせた雇用者数の動向を示した図表1を見ても分かるように、2020年1月以降、前年同期比でマイナス基調に転じており、7月にはマイナス幅のピークを迎えています。また、正規雇用も、わずかな増加にとどまっています。

 同じような動向は、男性の雇用者数の動向でも確認できます。図表2が示すように、非正規雇用は大幅なマイナス基調となっています。正規雇用も、プラスとマイナスが交錯しながら、ほぼ横ばいとなっています。

【増加する女性の正規雇用】

 しかし、女性の場合には少し傾向が異なっています。図表3が示すように、非正規雇用が減少していることは男性と同じですが、正規雇用を見ると、一貫してかなりのプラス基調を維持していることが見て取れます。むしろ、正規雇用のプラス幅はコロナ以前より拡大しているようにさえ見えます。

 このような女性の正規雇用の増加は、正規雇用を巡る情勢から考えると不思議に思えます。図表4のように、正社員に対する有効求人倍率が低下してきて、2020年4月以降、1を大きく下回るようになってきているからです。

 コロナ下の景気悪化の中で、女性の正規雇用が増加基調を続けているのはなぜでしょうか。その点を探るために、女性の雇用動向を産業別に見ると、図表5のようになります。これを見ると、「宿泊業、飲食サービス業」、「複合サービス業」を除く産業で正規雇用が増加していること、特に増加幅が大きいのは「医療、福祉」、「卸売業、小売業」であること、が分かります。また、「医療、福祉」、「公務」では、正規だけでなく、非正規雇用も増加していることが目を引きます。

【女性の正規雇用増加の背景】

 こうした女性の正規雇用の増加の背景には、いくつかの要因が考えられます。

 一つは、コロナ下で、当該産業に対する需要が増加し、人手不足となったために正規雇用を増加させたというものです(循環的雇用増)。

 その点を検証するために、産業別に、正規雇用の増加と所定外労働時間の変化の間の相関をとってみたのが、図表6です。これを見ると、残業時間が増加するほど需要が増加したために、正規雇用を増加させたと考えられるのは「金融業、保険業」と「電気・ガス・熱供給・水道業」になります。逆に残業時間が減少するほど需要が減少し、正規雇用を減少させたのは「宿泊業、飲食サービス業」と「複合サービス事業」に限られることが分かります。これ以外の多くの産業では、需要が減少しているにもかかわらず正規雇用を増加させていることになります。

 第2の要因として考えられるのは、正規雇用を増加させた多くの産業ではもともと正規雇用が不足しており、コロナ下で、引き続きその不足を補おうとしたということです(構造的雇用増)。

 その点を図表7で確認しましょう。これは有効求人倍率が1.5を上回っている職業をみたものです。これを見ると、「医療、福祉」の関係を中心に正規雇用を増加させている産業に関連した職業が多く含まれていることが分かります。

【女性の雇用機会拡大が示していること】

 以上のように、「医療、福祉」の関係を中心に、慢性的に人手不足になっていることが、コロナ下でも女性の正規雇用が増加していることの背景にあると考えられるわけですが、こうした産業は、図表8が示すように、特に女性の比率が高い産業でもあります。こうした産業が慢性的に人手不足状態に置かれていることは、女性の雇用機会が制約されていることを意味します。医療、介護、教育などの分野は国家試験に関わる資格の取得を条件にしているものが多いことを考えると、女性の雇用機会を拡大するためには、こうした国家試験のあり方について考える必要もあるように思います。

 さらに言うと、こうした女性雇用比率の高い産業の日本経済におけるシェアがそもそも日本では小さいことも認識しておく必要があります。サービス経済化が叫ばれて久しいわけですが、実は、日本のサービス化はOECD諸国の中でも遅れています。図表9で分かる通り、特に女性の比率が高いと考えられる「公務、国防、教育、医療、社会福祉」がGDPに占める比率は、OECD諸国の中では下位に位置し、G7諸国の中では最低です。これは「製造業」のGDP比率では上位にあり、G7では一番高いことの裏返しとなっています。

 経済成長論では、資本投入の増加は、男性労働と代替的で、女性労働と補完的だと考えることがあります(Galor and Weil, 1996)。ということは、先進国のように、資本投入が増加を続け、経済発展が進展した国では、女性労働が大きな割合を占めているのが当然だということになります。もし、それとは逆に、女性労働が十分に拡大をしていないとすれば、それは資本投入が十分に進んでいないことを意味していると考えられます。女性雇用の現状を評価する際には、こうした経済発展やそれに伴う産業構造のあり方も考える必要があると思います。

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中国2060年ネットゼロ目標の実現可能性
―脱炭素時代のチャンスとリスク

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 脱炭素社会実現のカギを握るのが世界の温暖化ガスの4分の1を排出する中国です。2060年までに排出量を実質ゼロにするという中国の目標達成は可能か。脱炭素をめぐる各国との交渉や技術開発、産業政策で中国はどう動くのか。日本との関係を含め、中国の気候変動・エネルギー政策に詳しい気鋭の専門家が解説します。

■講師略歴
(きん しん) 中国吉林省出身。2009年京都大学法学博士号(行政法)取得。09-12年電力中央研究所・社会経済研究所・協力研究員。12-14年地球環境戦略研究機関(IGES)・研究員。14-17年科学技術振興機構(JST)・中国総合研究交流センター・フェローを経て、17年5月から現職

子ども庁の問題点

 自民党は4月13日、菅総裁直属の「こども・若者」輝く未来創造本部の初会合を開き、子育てや教育に一体的に取り組む「子ども庁」創設の検討を始めた。本部長には、二階俊博幹事長が就任。今秋に予定される次期衆院選の公約に明記し、2022年度中の発足を目指すという。【1】

 将来世代のためになる子育てや教育の支援策を拡充することに反対する人は少ないだろう。だが、「子ども庁」を創設すれば、子育てや待機児童、子どもの貧困などの問題は速やかに解決できるのだろうか。本稿では、子ども庁の創設について組織と政策の二つの面から検討したい。

 政府・自民党はデジタル庁の新設に倣って「子ども庁も」と考えたのだろうか。政策目的のために必要な組織を整備することは良いが、デジタル庁は子ども庁ほど複雑ではない。デジタル庁の母体となるIT総合戦略室はもともと調整組織である一方、各省庁はデジタル化を活用する側であり、基本的に横並びの関係である。

 他方、子どもにかかわる保育所、幼稚園、児童手当、少子化対策、貧困対策などについては、内閣府、文部科学省、厚生労働省を始め多数の官庁が業務を所管している。これを省庁から担当部局を全て集めて巨大な「子ども庁」をつくるのだろうか。

 これまで政府・自民党には、保育所問題、児童手当、少子化対策、貧困対策などを担当する厚生労働省は肥大化し過ぎており、組織を分割すべきだといった議論があったが、厚生労働省はダメで子ども庁は大きくても良いのか。行政組織をどう編成するのか、政府の方針は一貫しない。

 また、少子化や子どもの貧困対策を総合的に推進するために省庁を横断して設立された「少子化社会対策会議」(議長は首相)や「子ども・若者育成支援推進本部」(同)、「子どもの貧困対策会議」(会長は首相)などの会議体が多数存在するが、こうした会議体も全て子ども庁が所管することになるのだろうか。

 さらに難しい問題は地方自治体との連携である。子育てにかかわる施策の多くは市区町村を中心とする地方自治体が担っている。厚労省や文科省は施策推進の観点から地方自治体の担当部局と連携してきたが、そうした連携を維持しながら、さらに子ども庁が地方自治体と連携するのだろうか。行政組織の改編には有形無形のコストがかかるが、それを上回る効果がなければならない。

 子ども庁が新しく必要であるというならば、現状において何が問題であり、それがどう解決されるかが示されなければならない。前述のように、少子化対策や子どもの貧困対策に取り組む会議体が複数あるが、それらでは不十分なのはなぜか。子ども庁の設置で現在のどのような問題が解決するのか。菅首相は具体的な効果を国民に説明すべきだろう。

 縦割り行政の是正を狙いとした2001年の中央省庁等改革により、総務省、厚生労働省、国土交通省といった巨大官庁が誕生した。しかし、これらの官庁は巨大過ぎてガバナンスが効かず、縦割り是正による効用より弊害が大きい。官庁の所管や責任を限定した方が、ガバナンスは効くのではないか。

 本質的な問題は縦割りではなく、総合調整ができていないことにある。その代表例が幼稚園と保育所の一元化である。幼稚園と保育所は同じ幼児を対象にしながら、歴史的な経緯や考え方の違いから所管官庁が幼稚園は文科省、保育所は厚労省に分かれてきた。

 1990年以降、幼稚園と保育所を一元的に管理しようという議論があった。これは文科省と厚労省の間の縄張り争いといった単純な話ではなく、幼稚園と保育所の背後にある関係業界と自民党族議員の対立だ。この対立は何十年にもわたり、その解決策として導入されたのが、幼保一体化施設である「認定こども園」である。

 幼保一体化施設と言っても、幼稚園と保育所が統合されたわけではなく、幼稚園と保育所を残したまま認定こども園が作られた。所管省庁は、文科省でも厚労省でもなく、内閣府である。新しい施設ができたことにより、幼児を対象にした公的サービスは複雑化するとともに、内閣府が所管官庁に加わり、これまでの2者調整が3者調整になった。

 自民党の「こども・若者」輝く未来創造本部では、幼保一元化も議論すると言うが、それを阻んできたのが自民党族議員である。諸外国のような幼保の一元化はできず、認定こども園は妥協の産物といえる。幼稚園、保育所の族議員がいる中、子ども庁が創設されても幼保一元化は形式的なものになる可能性が高いのではないか。

 組織より重要なのは子育て支援そのものである。近年、子育て支援、児童手当拡充などの家族対策の予算は増額されているが、先進諸国に比べれば見劣りする。日本の家族対策支出は、対国内総生産(GDP)比で1.6%。経済協力開発機構(OECD)加盟国39ケ国中の30位にとどまる。(図)

 日本に限らず、社会保険が社会保障の中心を担う国においては、家族対策や障害者対策、教育への支出が相対的に少ない。これらの支出は社会保険では対応できないからだ。逆に社会保障を主に一般財源で賄うデンマークやスウェーデンは家族対策や障害者対策、教育への支出が充実する。

 社会保険が中心の国の中でも問題が深刻な国が日本である。家族対策などへの支出を充実するための一般財源が確保できていない。政策ブログ『社会保険は制度疲労、年金・医療制度を改革しよう』で指摘したように、逆進的な社会保険料が所得に占める割合は一貫して増大している。年金や医療の面で高齢者が過度に優遇されているのだ。

 日本は家族が育児を担う伝統もあり、これまで家族対策や教育などへの支出を充実できていなかった。日本の社会保障の中心を担う社会保険は、男性中心の雇用、正規雇用中心主義、右肩上がりの成経済長を前提としたものであり、過去は機能したとしても、今や制度疲労を起こしている

 子育てや教育の支援策を充実することに異論はないが、これらを充実するために国債を増発することはないだろうか。選挙権のない子どもたちの了解を得ずに、彼らに国債の償還や利払いを押し付けるのだろうか。もしそうだとしたら、子ども庁は選挙に勝つための方便と言われても仕方がない。

 これまで多くの特別法を制定し、対策本部も設置してきたが、なぜ機能しないのか。子ども庁を創設することにより、問題は解決するのか。子育て、教育の支援策を拡充するための財源はどう手当てするのか。本当に子どもたちの将来を思うのであれば、これらを国民に説明する必要があるだろう。

 

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

【1】日本経済新聞朝刊2021年4月14日付

 

(写真:AFP/アフロ)

 

3週間の緊急事態宣言では再々発出の恐れも

日本経済研究センターは4月23日、第6回「AI・ビッグデータ経済モデル研究会」を開催した。早稲田大学准教授久保田荘氏から「コロナ危機のマクロ経済分析」と題して報告があった。内容は2本立てで、1つめはマネーフォワード社の家計簿アプリデータを用いて昨年の特別定額給付金の消費への反応をみたものであり、家計の流動性制約の影響が大きいという。2つめは疫学マクロモデルを用いて緊急事態宣言による新型コロナ感染者数や経済への影響を分析したものである。研究会当日に再発出された緊急事態宣言を念頭に置いて試算すると、5月末までに変異株に置き換わる場合、3週間では新規感染を抑制できず、再々発出の恐れもあるという。報告後、変異株に対するワクチンの有効性や宣言慣れをどのようにモデルで考慮するか、また今後の分析の可能性などを議論した。

コロナ下の景気変動、コロナ後の経済成長

*収録動画の配信期間:7月27日まで

コロナはこれまでの経済危機とは異なる影響を日本経済に及ぼしています。コロナ下の景気変動の特徴を見極め、そこから如何に回復していくかを考えることは極めて重要ですが、それはコロナ後の経済成長のあり方を見据えたものでなければなりません。俯瞰的・長期的な視点からそうした問題について論じます。

■講師略歴(さいとう じゅん)
1978年 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、経済企画庁(現内閣府)入庁。82年英国オックスフォード大学大学院留学、87年国際通貨基金(IMF)事務局エコノミスト、96年当センター主任研究員(短期経済予測主査)。内閣府参事官(経済財政運営:総括担当)、大臣官房審議官(経済財政運営担当)、政策統括官(経済財政分析担当)を経て、2012年より現職。12年より慶応義塾大学大学院商学研究科特任教授、16年より国際基督教大学教養学部客員教授も務める。

医師の非正規雇用、正規雇用より好待遇の理由

 非正規雇用は、契約社員や派遣社員、パート、アルバイトのような正規雇用以外の雇用形態を指す。通常、雇用期間が決まっていて1日あたりの労働時間が短いものも多い。本人の希望に依らない非正規雇用は俗に「不本意非正規」とも呼ばれている。

 非正規雇用の特徴としては、①給与・時間給が低い②退職金や賞与がない(少ない)③雇用期間が限られていて雇用が安定しない④幹部への昇進、昇格の道が閉ざされている⑤定型業務が多く知識や技能が蓄積できない――ことが挙げられる。

 実際、正規雇用と非正規雇用の人件費は給与から時間外手当や賞与を差し引いた所定内給与で約1.5倍、時間外手当や賞与を含めた給与全体で約1.8倍の差があるという。【1】 正規雇用と非正規雇用の格差は多様な働き方を許容する議論の中で問題にされることも増えてきたが、現在でも非正規雇用が正規雇用より好待遇な職種がある。それが「3師」と呼ばれる医師、薬剤師、看護師である。

 近年、少子高齢化の進展で高齢者向け医療、介護の需要は右肩上がりで増えており、その受け皿となる医療・福祉分野の雇用は拡大している。2021年の医療・福祉分野の就業者数は852万人。日本国内の全就業者5983万人の約14%を占める。【2

 

 日本国民が医療サービスを公平かつ安価に享受できるようになった国民皆保険制度の導入から約半世紀。かつては縁遠い存在といわれた医療、介護の就業者数はすでに宿泊業、飲食サービス業を上回る。そうした状況においては、医師の非正規雇用について考えることにも一定の意味があるだろう。

 まず非正規雇用の特徴が医師にも当てはまるかどうか検討したい。①該当しない②該当する③該当する④該当する⑤該当しない――となり、給与・時間給が高いこと、診療は患者によって異なり定型業務と言えないことの2点を除けば、非正規雇用の特徴は医師にも当てはまる。

 医師の場合、一般に非正規雇用の給与・時間給は正規雇用を上回るとされる。もっとも、非正規雇用の医師についても退職金、賞与はないケースがほとんどであるし、雇用は安定せず、昇進、昇格の道は閉ざされている。それでも「自分は不本意非正規だ」という不満はあまり聞かれない。それはなぜか。

 医師である筆者から見ると、上述のような非正規雇用の短所を「時間外勤務がない」「自由度が高い」といった長所が上回るからだと思われる。病院の勤務医に代表されるように医師は時間外勤務の多い職種だが、非正規雇用には時間外勤務が原則ない。仮に引き受けるとすれば高額な追加報酬が発生する。

 こうした就業条件の下では、「自分の時間を大切にしたい」「子育ての時間を増やしたい」という医師はあえて非正規雇用を選択するケースが少なくない。また、就業時間と自由時間を明確に区別して、小説を書いたり、演奏活動をしたりするなど、医療に携わりながら夢を追うというケースも実際にある。

 それでは、非正規雇用の給与・時間給が正規雇用を上回るのはなぜだろうか。一つには、医師が有資格者でなければならない職種であることが挙げられる。医師免許の取得者数はほぼ一定なので、突発的に需要が増えても供給が追いつかず、需要供給曲線のもとで給与・時間給が上昇するからだ。

 例えば、病院の当直勤務を考えると分かりやすい。病院には医師が24時間、常駐するが、時に常勤医で当直勤務を賄いきれないことがある。そうなると、外部から代わりの医師を招くことになるが、深夜早朝の当直勤務を引き受けてくれる医師の数は限られ、当直手当はどうしても高くなる。

 また、難病外来や先進医療のように毎日需要があるわけではないが、週1回ないし月1回は担当の専門医を病院に招きたいというケースがある。この場合、希少な技能を持つ専門医の給与・時間給は、勤務形態にかかわらず、当然に高くなる。

 本稿では、医師の非正規雇用が正規雇用よりも好待遇になるメカニズムを述べたが、医師と同じように、「有資格者である」ことが就業条件になる薬剤師や看護師についても非正規雇用が正規雇用よりも好待遇になるケースが多いようだ。

 少子高齢化の進展で日本国内の労働力人口は今後、減少の一途をたどる。少ない労働力人口で一定の経済成長を維持していくためには、給与以外も含め、正規雇用より好待遇の非正規雇用が在り得るような多様な就業形態を社会に内包していくことが求められている。

 

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京大博士(経済学)。

 

【1】内閣府、年次経済財政報告書、2016年度

【2】総務省統計局、労働力調査

 

(写真:AFP/アフロ)