[No.127] JCER環境経済マクロモデルによる炭素税課税効果の分析

要 旨

 本稿は、08年度の地球温暖化問題に関する懇談会の下に設置された「中期目標検討委員会」での分析に使用したJCER環境経済マクロモデルについて、その後改良も含めてその構造を詳細に説明するとともに、同委員会では行わなかった炭素税課税効果を試算したものである。
 2011年度にCO2 1トン当たり1,000円、税率を20年度に同10,000円まで高めるような炭素税を導入すると、BaU(Business as Usual、自然体の成長シナリオ)では90年比1.2%増を見込む20年度のCO2排出量は▲5%前後まで減少、20,000円まで高める場合には約▲8%まで削減が進む。
 経済に対しては、(1)炭素課税が物価上昇をもたらし内需を抑制する(2)国産品が割高となり輸出を押し下げる――といった影響がでる。ただし、炭素税収の使途によって、影響には差が生じる。税収を全額政府支出に充てた場合は、民需抑制効果よりも、政府支出増加という需要増が大きく、実質国内総生産(GDP)はBaUを上回る。社会保険料の減額に回す場合は、消費がBaUを上回るものの、実質GDPはBaU比でやや悪化する。
 なお、今回のシミュレーション試算の前提となるシナリオ設定は環境省の依頼によるもので、その現実性、妥当性については別途、検証が必要である。

キーワード:日本の温暖化対策、マクロ計量モデル分析、温室効果ガス削減の中期目標

マーケットデザインによる組織変革と人事マッチングの可能性

*収録動画の配信期間:3月1日まで

■講師略歴
(こじま ふひと)2003年東京大学卒、08年ハーバード大学経済学Ph.D.取得。19年スタンフォード大学教授、20年から現職。専門はマッチング理論、マーケットデザイン。18年第5回円城寺次郎記念賞、第15回日本学士院学術奨励賞、21年度中原賞などを受賞。The Econometric Society(計量経済学会)フェロー(終身特別会員)に選出

[No.128] 債券投資家の予測形成の検証 ――QUICK 債券月次調査による分析

要 旨

 本稿では、QUICK社による債券月次調査の個票を利用して、主として6か月後の10年国債利回りの関する投資家の予測値の決定要因を分析した。分析期間(1996年7月~2010年1月)の投資家の予測値には明らかな上方バイアスがみられるため、予測誤差ではなく、予測値と予測時点での実績値の差として定義した「期待」に着目して分析することとした。実証分析の結果、金利変動の期待に影響を与える主要な要因は、金融政策と為替動向であるという結論を得た。

キーワード:長期金利、期待、予測

[No.129] 都道府県別将来人口推計の検証 ――都道府県別年齢別純移動率の変動の特徴

要 旨

 都道府県別年齢別純移動率(純流入率)について分析してみると、①大都市圏の中に純移動率が上昇している都道府県がみられる一方で、地方圏の中に純移動率が低下している都道府県がみられること、②入学・進学に伴う移動には大きな変化がみられない一方で、職業上の理由や結婚・離婚に伴う移動が小さくなっていることがわかった。
 都道府県別の将来人口推計を行うためには将来の純移動率を仮定することが必要であるが、その際、これらの上昇要因を勘案しない場合には過小推計に、低下要因を勘案しない場合には過大推計になってしまう危険性があり、一律の対応ではなく、特に年齢層ごとにきめ細かい扱いが必要である。

キーワード:都道府県別将来人口推計、純移動率、地域別・年齢別の特徴
JEL Classification; J11, R23

アベノミクス下で不平等度はどのように縮小したのか

【アベノミクス下において再分配後の不平等度は縮小】

 アベノミクスが進められていた時期、不平等度が拡大するのではないかという懸念が多く示されていました。アベノミクスは新自由主義的であり、そうであればアメリカのように不平等度は拡大するはずだというのがその論拠であったように思います。

 しかし、実際には、アベノミクス下で、不平等度は縮小したようです。以下では、そのことを、厚生労働省が実施している「所得再分配調査」の2011年と2017年の結果を比べることによって、確認してみたいと思います。この統計では、世帯員の等価当初所得、等価可処分所得(等価当初所得に社会保障による現金給付額を加え、税金および社会保険料を控除したもの)、等価再分配所得(等価可処分所得に現物給付を加えたもの)のそれぞれについて、ジニ係数が算出されています。加えて、年齢階級別に、所得再分配の内訳も示されています。こうしたデータを利用することで、再分配がどのような作用をもたらしたのかも、見てみたいと思います。なお、ここで言う「等価」所得とは、世帯員別の所得を得るために、世帯全体の所得を世帯員数の平方根で除したものを指しています。

 まずは、各所得ごとのジニ係数の推移を見てみましょう。第1図は、2005年から2017年にかけて実施された調査(3年ごとに実施、ただし2020年は中止)ごとの等価市場所得、等価可処分所得、等価再分配所得別のジニ係数とその変化を示しています。

 これを見ると、等価当初所得のジニ係数はアベノミクス直前の2011年からアベノミクス直後の2014年にかけて上昇し、その後2014年から2017年にかけて低下したが、2017年の水準は2011年の水準にまでは戻っていないことが分かります。2011年と2017年を比べる限り、等価当初所得ではアベノミクス下で不平等度は拡大したことになります。

 しかし、等価可処分所得と等価再分配所得のジニ係数を見ると、いずれにおいても2011年から2017年にかけて、継続的に低下していることが分かります。これは、等価当初所得の動向と異なりますが、その違いは、社会保障と税による再分配によってもたらさていることになります。

【特定の年齢階級では不平等度は拡大】

 それでは、年齢階級別にみるとどうなっているでしょうか。第2図は、年齢階級別のジニ係数が、2011年から2017年にかけてどのように変化したかを見たものです。

 これを見ると、等価当初所得のジニ係数は、10-14歳、15-19歳、40-44歳、45-49歳、55-59歳、75歳以上で上昇していることが分かります。また、再分配が十分ではなかったために、等価可処分所得ないし等価再分配所得のジニ係数においても、10-14歳、15-19歳、25-29歳、40-44歳、55-59歳で上昇しています。特に25-29歳と55-59歳では、再分配がむしろ不平等度を拡大している結果となっていることが注目されます。

【年齢階級によっては再分配が不平等度を拡大】

 そこで、年齢階級別の再分配の状況を見てみましょう。第3図は、年齢階級別に社会保障と税の作用を見たものです。具体的には、2011年から2017年にかけて、社会保障(負担と給付を合わせたもの)と税のそれぞれが、等価当初所得のジニ係数をどの程度引下げて等価再分配所得のジニ係数をもたらしたかを示しています。ここで負の値をとっていれば、社会保障と税がジニ係数を引下げていること、正の値をとっていれば、逆に社会保障と税がジニ係数を引上げていることを表しています。

 これを見ると、10-14歳、15-19歳、70-74歳では社会保障と税の双方が不平等度を拡大する方向で作用したことが分かります。また、5-9歳、25-29歳、30-34歳、55-59歳、65-69歳では税が不平等度を縮小する方向に作用したものの、社会保障がそれ以上に拡大の方向に作用したことが分かります。逆に40-44歳では、社会保障が縮小の方向に影響したものの、それ以上に税が拡大の方向に作用しています。

 つまり、第3図を見る限り、再分配は、年齢階級によっては、不平等度を縮小するという本来の役割とは逆の結果をもたらしてしまっている可能性があるようなのです。

【一人親世帯の状況】

 近年、不平等度の拡大の要因として挙げられるものがいくつかあります。その一つは、一人親世帯です。そこで、第4図で一人親世帯の状況について見てみましょう。なお、ここでは世帯類型で見ているので、等価所得ではなく、世帯所得全体のジニ係数を見ています。

 これを見ると、2011年から2017年の間に、当初所得と再分配所得の双方でジニ係数が低下していることが分かります。ただし、低下幅は、再分配所得の方が小さくなっていることに注意が必要です(等価当初所得のジニ係数の低下率は3.1%であるのに対して、当初再分配所得の場合には、ジニ係数の低下率は2.4%)。

 第4図は、同時に、2011年時点では当初所得より再分配所得の方が多かったのに対して、2017年時点では、逆に当初所得より再分配所得の方が小さくなっていることも示しています。このことは、社会保障と税による再分配の作用がこの間に逆転しており、2017年には所得を減らす方向で再分配が行われてることを意味しています。

 つまり、一人親世帯の場合には、不平等度の低下はもっぱら当初所得における不平等度の低下によってもたらされており、再分配は、むしろ所得を減らす方向で作用し、その中で不平等度の低下の一部が減殺されているようなのです。

【非正規労働者増加の影響】

 近年の不平等度の拡大の要因としてもう一つ考えられているのが、非正規労働者の増加です。非正規労働者は、正規労働者に比べて賃金水準が低いので、非正規労働者の増加は、不平等度の拡大につながる可能性が考えられるからです。

 ここで考慮しなければならないのは、アベノミクスの下で、次第に人手不足が顕著になっていたということです。特に、非正規労働者に対する需要が強かったため、非正規労働者の賃金上昇は相対的に高いものになりました。他方、正規労働者については、賃金体系の見直しが行われ、賃金プロファイルのフラット化が見られていたことから、賃金上昇は限定的なものとなっていました。そうであれば、非正規労働者が増加したとしても、必ずしも正規と非正規の労働者の間の不平等度が拡大するとは限らないことになります。

 この点を、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によって確認してみましょう。第5図は、2011年から2017年までの間の正規労働者と非正規労働者の人数と賃金の変化、そしてそれを基に計算した正規と非正規労働者の加重賃金比率を見たものです。

 これを見ると、確かに労働者数では、非正規が正規を上回る伸びを示しています。また、賃金でも、非正規の方が正規よりも高い上昇率を示しています。このため、労働者数で加重した正規と非正規の賃金比率は、上昇を示していることが分かります。これは、正規と非正規の間の不平等度が縮小している可能性を示しています。第2図では、20-64歳の等価当初所得の不平等度が(ただし、25-29歳、40~44歳、45-49歳、55-59歳を除き)2011年から2017年にかけて縮小していましたが、これには、こうした正規と非正規の間の不平等度の縮小傾向も反映しているものと考えられます。

 なお、等価当初所得に見られる不平等度の縮小傾向の例外である40-44歳における不平等度の拡大については、世代効果が影響している可能性が指摘できます。この年齢階級に属している労働者には、1990年代末から2000年代初めにかけて労働市場に参入した人たちが含まれます。この時期は、バブル崩壊を受けて新卒採用が絞られた就職氷河期の時期に当たります。この時期の新規学卒者の多くは不本意ながら中小企業に就職したり、非正規雇用に甘んじたりしなければなりませんでした。しかも、企業間の流動性は極めて低いので、いったん就職すると、希望する就職先に再挑戦することはままなりません。このような、この世代に特有な不平等が、この年齢階級のジニ係数に影響をしている可能性があります。

【再分配のあり方を見直す必要】

 以上、見てきたように、全体としてみた場合、アベノミクス下で、等価当初所得では不平等度の拡大が見られましたが、再分配の結果、等価可処分所得や等価再分配所得では不平等度の縮小が見られたようです。

 しかし、年齢階級別にみると、特定の年齢階級においては、等価可処分所得や等価再分配所得でみても不平等度が拡大しており、社会保障や税による再分配機能が本来の役割を果たしていないことが分かります。特に、一人親世帯においては、再分配がむしろ不平等度の縮小を一部減殺している可能性が示されていました。

 他方、非正規労働者の増加について見てみると、これが不平等度を拡大する要因になったとは言えないようです。なぜなら、アベノミクス下の景気拡張によって労働需要の増加が見られましたが、それは非正規労働者に対する需要の増加が中心で、これが正規に比べて非正規の賃金上昇をもたらしたからです。ただし、景気が反転し易いことは、2018年末から景気後退が始まったことでも分かります。したがって、正規と非正規の間の不平等度の縮小は一時的なものであると考えておく必要があります。労働市場の二重性の問題が解消されたわけではありません。

 不平等度の観点から見ると、等価当初所得において不平等度の拡大が見られていることは注意を要します。これ以上の拡大を抑制することができないのかについて検討する必要があります。加えて、特定の年齢階級や世帯類型においては、再分配によってむしろ不平等度が拡大している、あるいは不平等度の縮小が減殺されている可能性があることも、大きな政策課題です。再分配のあり方を詳細に見直す必要があります。

 現在、「新しい資本主義」のあり方を考えることが政策課題に上っていますが、そこでは、こうしたことも併せて検討されることが必要なのではないかと思います。

[No.130] 株式投資収益率を再考する ――過大に計算されていた日本株の長期リターン

要 旨

 株式投資は短期的な値動きの変動は大きくても、銘柄を分散し、長期に保有すれば、資産形成につながりやすいといわれる。しかし、過去の長期収益率としてこれまで日本証券経済研究所が集計・公表してきたものは、計算過程に課題があり、実態よりも上振れしていた可能性が大きい。配当込み東証株価指数(TOPIX)を使って計算し直すと、過去58年間の投資収益率は従来推計を2.8%下回る9.1%にとどまり、1986年以降に投資を始めた場合には大半、元本割れになっていることが明らかになった。

▼ポイント▼ ・日本の株式市場の長期収益率は、これまで実態よりも過大に算出されていた ・株式投資を指数連動型で1986年以降に始め、2010年まで運用した場合は、配当収入を加えても元本を下回る年が大半 ・市場関係者だけでなく、政府も企業経営者も株式市場の厳しい実態の直視を

[No.131] 東日本大震災および関東地方における電力制約の経済影響 ――日本の多地域CGE(応用一般均衡)モデルによる分析

要 旨

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方における震災被害と関東地方における電力不足を引き起こした。東北地方の震災被害は産業連関を通じ他地域経済にも影響をもたらした。また、震災直後の関東地方の電力不足は計画停電 によって解消されたが、特定区域を一定時間無差別に停電させるその方法は経済に大きな混乱をもたらした。仮に夏場の電力需要の増加に伴い深刻な電力不足が生じれば、日本経済に大きな損害を与える可能性がある。  本稿は、東北地方の震災に伴う供給制約がある中、関東地方で夏季に再度電力に供給制約が生じ、電力割当が実施された場合の日本経済への影響をシミュレーションにより分析するものである。シミュレーション分析は、日本経済研究センターが開発したJCER地域CGEモデルにいくつかの変更を加える形で行った。モデルでは日本は東北地方、関東地方を含む8つの地域に区分され、それぞれの地域には17業種に集約された産業が存在する。また、電力については原子力、火力などの発電種が分けられており、今回のシミュレーションに適した構造となっている。  シミュレーションの結果は以下の通りである。 1)今夏、東北地方の震災による供給制約に加えて、関東地方の10%の電力不足を価格による調整ではなく電力割当で対処した場合、関東地方の実質GDPは約8.0%減少する(通年で約2.0%減少)。日本全体で見た場合、今夏の実質GDPは約4.6%の減少となる(通年で約2.0%減少)。 2)厚生損失を等価変分により確認すると、震災に加えて関東地方で夏季に電力割当が実施された場合、年間で東北地方は4兆2380億円分、関東地方は約4兆2600億円分、日本全体では約9兆8640億円分に相当する厚生損失が生じる。今夏の電力割当は日本全体で年間約4兆2560億円分の厚生損失をもたらす。 3)仮に東西で供給電力の周波数統一がなされていれば、関東地方の電力不足による被害は大幅に縮小し、日本全体の年間の厚生損失は約5兆6566億円に抑えられる。

[No.132] 原子力発電全停止による地域・産業別影響の試算 ――火力代替可能な中部・中国では影響軽微も、東北地方では打撃大きく

要 旨

 本稿では東日本大震災による福島第1原発事故の影響で、原子力発電が全て停止した際の経済全体への影響について試算した。地域や産業ごとの影響をみるために、日本経済研究センターが開発したJCER地域CGEモデルを用いた。原発の停止によって日本の実質GDP(国内総生産)は、停止がなかった場合と比べて0.40%押し下げられる。地域別では、東北地方のGDPの落ち込み幅が一番大きい反面、原発依存度が低い中部地方や中国地方ではGDPや電力価格への影響は軽微なものにとどまる。産業別では、電力依存が小さい機械産業などへ産業構造がシフトする可能性がある。 1)原子力発電比率が高く、電力産業の割合が比較的大きい東北地方で影響が大きい反面、原発依存の低い中部・中国地方では影響が軽微。 2)産業別では、火力代替に伴う燃料需要増加により石油・石炭製品産業の生産がプラスに。また、電力依存が小さい機械産業でもプラスとなる可能性。