米中技術覇権競争と日本の経済安保

■講師略歴
(すずき かずと) 2000年英サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年から現職。13-15年国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバー。19年から日本安全保障貿易学会長。『宇宙開発と国際政治』でサントリー学芸賞受賞

少人数学級が問いかける地方分権の課題

 小中学校の1学級定員を巡り、文部科学省と財務省が対立している。経済協力開発機構(OECD)のデータを引き合いに、文科省は「日本の小中学校の1学級定員は多すぎる」と主張。財務省は「教員1人あたりの児童・生徒数は先進諸国と変わらない」と反論する。

 OECDの国際比較データによれば、小学校、中学校の1学級の児童・生徒数のOECD平均は小学校21人、中学校23人だった。日本の義務教育標準法は1学級の定員を小学1年生は35人、小学2年生から中学3年生は40人を上限と定めており、現状、1学級の児童・生徒数の平均は小学校27人、中学校32人になっている。

 財務省は、同じOECDのデータを引用し、日本の教員1人あたりの児童・生徒数は、小学校16人、中学校13人とOECD平均の小学校15人、中学校13人とほぼ変わらないと指摘。「少人数学級が学力を高めるという明確なエビデンス(証拠)はない」と主張する。これに対して、文科省は「教育効果というより新型コロナ対策の観点から少人数学級が必要だ」という。【1】

 両省が対立するのは、小中学校の1学級定員を少なくすれば、国家予算が膨らむためだ。仮に小中学校の1学級定員を30人にすると、「教員を8万~9万人増やす必要がある」(文科省)という。【2】 現行、小中学校の教職員の給与の3分の1は国庫負担。残る3分の2についても財源が不足すれば国が負担しなければならない。

 それでは、文科省と財務省の主張のどちらが正しいのか。筆者は、小中学校の1学級定員を国が全国一律に定める時代は終わったと考える。小中学校の1学級定員をどうするかを含めて、地方自治体が公共サービスの内容を独自に定めることをどこまで許容するかは、地方分権のあり方に関わる問題だ。

 住民が公共サービスに何を求めるのか。そのニーズは地域によって異なり、地域ごとに公共サービスの内容を決める方が合理的だ。こうした考え方の下、1990年代から地方分権改革が進められ、国から地方へ権限が委譲されてきたが、地方自治体が独自色を出せるほど地方分権は進んでいない。それは、国と地方の財政にある。

 地方財政の根本的な問題は、税収が地域によって異なることである。例えば、地方税収の中核をなす法人住民税と事業税の人口1人あたりの税収は東京都と奈良県で6.0倍、地方税全体では2.4倍の格差がある。【3】 税収の偏在を放置すれば、豊かな地域と貧しい地域で公共サービスに大きな格差が生じることにもなりかねない。

 そこで、地方自治体間の財源の不均衡を調整し、地方自治体が地域住民に対して一定の公共サービスを提供できるように財源を保障する仕組みが必要になる。日本では、第二次世界大戦後の税制改革を基礎づけたシャウプ勧告に源流をもつ地方交付税交付金制度がそれである。

 現行、国が徴収する所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の22.3%、地方法人税の全額を、地方交付税交付金の原資に充てている。公共サービスの財源が不足する地方自治体への交付額は、自治体が必要とする教育費や土木費などの経費から住民税や固定資産税などの収入を差し引いて算出する。

 毎年、国の予算編成では、すべての地方自治体が公共サービスを提供するために必要な金額を積算した歳出総額と地方税や地方債、地方交付税から成る歳入総額を計算する。問題は、歳出総額と歳入総額が一致する保障はなく、景気後退期にはしばしば歳入不足に陥ることである。

 この歳入不足は、予算編成の過程で財務省と総務省が協議し、「地方財政対策」として穴埋する。「地方財政対策」は2000年度まで主に地方交付税特別会計からの借り入れで賄われたが、2001年度以降は歳入不足を国と地方で折半し、国による地方交付税交付金の特例加算と地方自治体による臨時財政対策債の起債で賄うようになった。

 地方自治体には様々な需要があり、歳出が必要と認められれば、国は財源を保障しなければならない。地方交付税交付金が所得税・法人税などの法定税率分で足りなければ、臨時財政対策債で補てんする。ただ、その起債は地方自治体に「割り当てられる」ものであり、地方自治体の判断で決めるわけではない。つまり、「借りる」意識もない。

 地方自治体はその財政を国に依存する仕組みになっており、地方自治体が自ら財源を確保し、地域の実情に応じた公共サービスを提供することを妨げている。これは、国と地方の役割分担が明確ではなく、補助金、税金、交付税が複雑に入り組んでいることも地方自治体の主体性を削いでいる。(図)

 地方自治体が実施する事業は多様だが、実施のための財源は混合している。地方交付税交付金をどのように使うかは建前としては地方自治体に裁量があるが、事業の実施には補助金や地方債の起債も必要であり、実質的な裁量は乏しい。特に補助金は国が定めた基準を満たす必要があり、小学校の1学級定員が典型例である。

 地方財政については、国と地方の役割分担を明確にし、それに応じた財源を手当てする仕組みを再構築すべきである。ただし、その前提として「地方分権」とは何かを改めて考える必要がある。地方自治体は一般論として地方分権を主張してきたが、本音では国が助けてくれる現在の仕組みの方が良いのではないか。

 地方交付税交付金制度は、現在では、地方分権を進めるというより、地方自治体の公共サービスの水準をナショナル・ミニマムとして保障しつつ、地域間の格差を過度に縮小するものであり、結果として地方自治体の国への依存度を高めている。「国土の均衡ある発展」という考え方では、少子高齢化社会に対応できなことは明らかだ。

 地方分権とは、地方自治体間の格差を許容することである。地方分権のもとでは、公共サービスの水準は国が決めるのではなく、地方が自ら決めるべきものである。その場合、現在と比較して格差が拡大するのは論理的な帰結だ。もちろん、どの程度の格差を許容するかについては十分な議論と検討が必要になる。

 最近、保育園不足から保育園の面積や保育士の数などの設置基準緩和が議論されているが、保育園の設置基準は30年前ならともかく、現在では地方自治体の判断で決めるべきものではないか。「地方分権とは何か」「地方分権を本当に望んでいるのか」――。我々は改めて考える必要がある。

 

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

【1】日本経済新聞朝刊2020年11月5日付

【2】朝日新聞朝刊2020年11月13日付

【3】税収格差は、2013~17年度の平均値を示した。

 

(写真:AFP/アフロ)

 

2035年にEVが新車の半数を占めるには支援が必要

執筆 研究生・有田 勇一(衆議院事務局より派遣)
監修 主任研究員・小林 辰男、副主任研究員・高野 哲彰

<ポイント>


 2035年にかけて自動車生産台数は増加し1.3億台を超える。電動化に関する高い技術力を有する日本メーカーのシェアも現状の3割程度を維持する見込みである。他方、2050年までに温室効果ガス排出ゼロを実現するため、自動車メーカーは電気自動車(EV)の開発など環境規制への対応も必要だ。バッテリー価格の低下によってEV価格は下がるものの、2035年に国内新車販売の半数をEVが占めるには、補助金や炭素税、税制などによる支援が必要だ。同時に、充電インフラの整備も欠かせない。自動運転技術は米中のIT企業が先行しており、日本の完成車メーカーは遅れをとっているが、自動運転車が普及すれば、必要なセンサー類も増加し、電子部品の需要が拡大する。

 

国内新車販売台数は減少、EVの本格普及は2030年以降に

(資料)日本自動車工業会、予測は日本経済研究センター

コロナは人口の地域間移動にどのような影響を及ぼしているか

【減少を続ける日本の総人口】

 日本の総人口(日本人と外国人の合計)は2008年をピークに減少を続けています。最新の推計値によると、2020年11月1日時点の総人口は1億2577万人、前年同月比0.31%の減少となっています。その主因は、合計特殊出生率が依然として1.4%前後で推移しており、人口の自然減(出生数を死亡者数が上回っていること)が続いていることにあります。

 しかし、近年は、海外からの入国者が増加していることから社会増(入国者数が出国者数を上回っていること)が見られ、総人口の減少をある程度緩和してもいます。社会増は2013年以降見られ、それによって例えば2019年における自然減による人口減少の約4割を相殺してきているのです。こうした傾向は、いうまでもなく、近年における外国人労働者の急増によるところが大きいものと考えられます。

【コロナの下で入国者数も出国者数も急減】

 こうした傾向は、コロナの影響で大きく変わってきています。第1図が示しているように、コロナの感染を恐れて外国旅行が見合わされたり政府による入国制限が実施されたりしたことなどが重なって、4月から日本への入国者数も出国者数もともに減少しています。

【かつて若年層は首都圏に転入しそのまま居住し続けていた】

 日本全体としての社会増減は外国からの入国者数と出国者数の差によって決まってきますが、地域ごとの社会増減となると、これに地域間の転入者数と転出者数の差が加わってきます。実は、コロナ下では、この地域間の転出入でも大きな変化がみられているのです。

 2019年までは、東京を中心とする首都圏に向けて、それ以外の地域から転入が続くという傾向がみられてきました。例えば2019年10月時点でみると、第2図のような状況がみられました。

 このような傾向は、首都圏が働く場としても、学ぶ場としても、さらには楽しむ場としても大きな魅力があったことを反映しています。第3図にみられるように、転入超過が特に顕著だったのは20歳代の若年層であり、それ以降の年齢層では、定年前後の年齢層を除くと、転入と転出とがほぼバランスしている状況が続いていました。

【コロナ下で30歳代以降が転出傾向にある】

 コロナ下で、こうした傾向に大きな変化がみられています。例えば2020年10月の状況を示している第4図を見ると、東京からの転出が顕著になっていることが分かります。東京以外の首都圏では全体として転入超過数の増加がみられることから、東京からの転出者の行き先はこうした地域であることがうかがわれます。

 第5図で東京からの転出入の動向を年齢階層別にみてみると、50歳代以降だけでなく30歳代や40歳代層でも大幅な転出超過になっていることが分かります。この背景には、テレワークの拡大などによって働き方が変化し、通勤の必要性も低下してきたので、より大きな居住空間とより豊かな居住環境を求めて東京からの転出が増加したことがあると考えられます。

 ここで転出者が日本人であるか外国人であるかを見ておく必要があります。なぜかというと外国人は以前から東京からの転出傾向を示していたからです。もしかしたら、日本人で変化はなく、外国人の転出ペースが増加しただけかもしれないのです。しかし、第6図を見ると、やはり日本人が転入超過から転出超過に変化していることが確認できます。

【コロナは出生率にも影響を及ぼしているか】

 以上のように、コロナは日本の地域間の人の移動に大きな変化をもたらしていることが分かりました。最後に、コロナが出生率にも影響を及ぼしている可能性があることも指摘しておきましょう。

 例えば、第7図で厚生労働省が発表した妊娠の届出数をみると、2020年5月以降の妊娠数は大きく減少しています。

 妊娠の届出数の減少は、もしかしたら非常事態宣言の発出の影響で妊娠はしたが報告だけを先送りしただけかもしれません。そうであれば、これが将来における出産数の減少を示していることにはなりません。しかし、もしこれが先行き不透明な中で、実際に出産を見送ったことを示しているとすると、近い将来、出生数が実際に減少することになります。

 コロナの人口への影響については、地域間の転出入だけでなく、出生率にも注意をして見ていく必要があります。

北朝鮮でも本格的なスマホ時代が到来

 経済制裁に新型コロナ、自然災害の「三重苦」に直面する北朝鮮が中長期的な経済発展を目指し、科学技術分野への投資を続けている。「知識経済」への転換を掲げ、国を挙げて注力しているのが情報産業の育成だ。金正恩政権が進める「経済改革」で経済的に余裕のある層が生まれたこともあり、北朝鮮での携帯電話の利用者は既に600万人に上るとされる。電子決済などのサービスも登場し、本格的なスマートフォン(スマホ)時代を迎えつつある。

【第22回のポイント】

① 北朝鮮でもスマホの普及に従ってサービス内容も広がっている。インターネット接続が制限される特殊な条件下でもゲームやニュースなど様々なアプリが生まれ、電子決済システムが導入されたとも報じられている。

② 2013年に金正恩委員長が関連工場を視察したことが大きな契機となり、スマホの需要と供給が大幅に拡大。韓国側の推計では北朝鮮での携帯電話の利用者が既に600万人に上るとされる。

③ 北朝鮮のスマホは中国メーカーのモデルをベースにしたものが主流だが、その中身は国内向けに改変されており、北朝鮮のソフト開発能力が認められる。

④ 2017年に採択された国連安保理の制裁で電子部品全般の北朝鮮への輸出が禁止され、今後の移動体通信網の拡充やスマホの普及にどのような影響が出るのか注目される。