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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【44】 2002年3月発行

高齢者医療保険制度の改革高齢者医療保険制度の改革
岩本康志

本稿では、将来の医療費増加に対してどのように対処するかという視点から、高齢者医療保険制度の望ましいあり方について検討する。医療費増加に対処する最善の医療保険の形態は、予期された医療費の変動には個人が対処し、予期されない変動には世代間リスク分散で対処する積立型長期保険である。しかし、民間保険でも公的保険でもこれを達成することは困難である。実現可能な次善の形態としては、現状の医療保険と民営化された医療保険の2つがあるが、民営化の得失は明確でなく、現状の医療保険の形態に留まることが妥当である。 また、世代間の所得再分配で高齢者医療費を調達することは世代間のリスク分散を目的とした保険と解釈することができる。したがって、望ましい高齢者医療保険制度の改革の方向は、岩本(1998)の提言にあるような、全制度を対象としたリスク調整をおこなうことである。そのつぎの段階として、人口高齢化から予想される医療費に対して事前に積立のできる医療保険制度に転換する方法が考えられるべきである。 .

デフレ下の雇用対策デフレ下の雇用対策
大竹文雄   太田聰一

本稿では、日本における失業率急上昇の背景を吟味するとともに、望ましい雇用対策のあり方を検討している。まず、スタンダードなUV曲線とフィリップス曲線を推計することによって、@1990年代後半の失業率急上昇は需要不足によるものが大きい、A構造的・摩擦的失業も同時に増加している、B構造的・摩擦的失業は自然失業率に大まかに対応している、などの結論を得た。続いて、失業抑止のためのミクロ的政策、具体的には、@失業保険制度のあり方の再検討、A職業訓練制度の改革、B職業紹介などの求職者と求人のマッチング機能の強化、Cワークシェアリング、D公的サービスによる雇用創出、E労働移動の促進について論じた。さらに、解雇法制のルール化における論点を整理するとともに、全国的な施行の前に経済特別区を用いた社会実験的な手法を用いてルール化の効果や問題点を明らかにすることを提案した。.

日本におけるワークシェアリングの可能性についての実証分析日本におけるワークシェアリングの可能性についての実証分析
齋藤隆志   橘木俊詔

現在の日本の失業率は5.5%(2001年11月)であり過去最悪の状況である。さらに、潜在失業者を含めると失業率は10%程度となり、深刻な状況である。その一方で、年間200時間とも言われるサービス残業を代表とする長時間労働がある。この状況を改善する手段として、労働時間を短縮して雇用を維持・創出するワークシェアリングがあり、すでにオランダをはじめとしてヨーロッパで導入されている。本稿では、このワークシェアリングについてまずヨーロッパにおける事例を検討し、さらに理論、実証研究のサーベイを行う。これらを踏まえ、日本のマクロデータを用いてワークシェアリング政策が有効性を持つかどうかを検証する。その結果、所定内労働時間を短縮することでパートを中心に雇用が増加し、ワークシェアリングは有効であるという結論を得た。最後に、わが国でワークシェアリングが具体的にどのように導入されうるかを論じる。.

不良債権と追い貸し不良債権と追い貸し
杉原茂   笛田郁子

不良債権問題が長期化し、実体経済への影響が懸念されている中で、追い貸しが実際に行われてきたかどうか、追い貸しが他業種の貸出にどのような経路で影響を与えるのか、追い貸しの背景には何があるのか、といった点を実証的に検討することが急務である。本論文では、業種別の銀行貸出関数と銀行ごとの不良債権償却関数を推計することにより、この課題に取り組んだ。結果は、不動産業や建設業向け貸出について、追い貸しや製造業向け貸出などへの波及効果が検出された。波及の経路は、自己資本の毀損によるものでなく、リスクのスピルオーバーや資金制約によるものであった。銀行の償却行動については、先送り的傾向が強いことが見出されたが、これは、償却原資の範囲内で償却をするという経営者の保身的誘因による面があるとともに、銀行がショックの平準化を図り結果として失敗した可能性があることが示された。最後の点は、銀行による金融仲介機能の限界を如実に表すものである。 .

不良債権問題―原因とこれからの解決策不良債権問題―原因とこれからの解決策
松浦克己   竹澤康子

不良債権問題に象徴される金融危機は日本経済の桎梏となっている。不良債権問題の原因は高度成長終焉後に日本経済が新たな成長分野を見出せなかったという長期的な要因と、銀行経営にコーポレート・ガバナンスが機能していない等の直接的な契機とに分けられる。問題を悪化させた主要な原因は、金融再生を図るよりは「借り手保護」を目指すという政治・政府当局のBank-credit motiveな介入とそれを受け入れる銀行行動にある。98年3月期から00年3月期の不良債権比率に関するパネル推計で、利潤率、不動産業等向け貸出比率の高さやバブル期の資産膨張が重要な影響を与えていることを明らかにする。解決策として重要なことは@Bank-credit motiveな介入を止め貸出を大幅に削減し不振分野から撤退すること、A資本コストに見合う貸出条件を実行すること、B公的資本投入に国が議決権を行使することで銀行経営にコーポレート・ガバナンスを構築することである。金融再生・産業再生・資金供給者の期待に応えることと借り手保護とは相容れないのである。 .

新規参入と退出の計量分析新規参入と退出の計量分析
本庄裕司

本稿では、新規参入や退出に影響を与える要因を実証的に分析する。我が国製造業を対象に使用可能なデータベースを用いて、どのような産業特性が参入や退出に影響を与えるかについて明らかにする。分析結果として、市場成長率の高い産業で参入が起こりやすい一方、市場成長率の低い産業で退出が起こりやすい傾向がみられた。また、資本集約度が退出に対して負の影響を与えることが示された。その一方で、下請構造や系列取引のように、我が国において特徴的と言われている市場構造が参入を阻害する傾向はみられず、逆に、下請構造が確立する産業ほど参入や退出が盛んである結果となった。 .

潜在的開業者の実証分析潜在的開業者の実証分析
原田信行

近年、開業活動が構造改革推進および雇用対策の観点から注目されている。本稿は、この開業の問題について、実際の開業者になる以前の、開業したいと考えている層(潜在的開業者)に焦点を当てて分析を行うものである。まず、2種類の国際比較調査および就業構造基本調査の結果から、日本の潜在的開業者比率は諸外国に比べると概して低いが、実際の開業数に比べれば相当数の潜在的開業者が存在していることが確かめられた。さらに、就業構造基本調査の都道府県別データを用いて潜在的開業者比率と経済変動の関係を検証するパネル推定を行った結果、1)潜在的開業者比率は失業率が高いほど増加する傾向にあること、2)都道府県による違い(固定効果)が大きく、特に東京、大阪、神奈川など主に大都市圏の潜在的開業者比率が相対的に高いことが示された。前者の結果は、他の条件が一定であれば失業率が高い状況下のほうが開業を促進する政策的余地が大きいことを示している。後者の結果は、開業支援政策を大都市圏など潜在的開業者が多い地域に重点化したほうがより効果的である可能性を示唆している。 .

第三セクターの設立・破綻要因分析―新しい公共投資手法PFIの成功にむけて第三セクターの設立・破綻要因分析―新しい公共投資手法PFIの成功にむけて
赤井伸郎   篠原哲

近年、公共投資の非効率性が問題視されてきており、公共事業手法の改革としてPFI手法(民間の資金、経営・技術能力を活用して公共施設の整備を行う新しい手法)が注目を浴びている。しかしながら、従来にも公共事業に民間活力を導入した手法としては、官民出資による共同主体としての「第三セクター」がある。しかし、その実態は、必ずしも成功したとは言い難く、失敗の原因を突き止めない限り、同様に民間活力を導入するPFIも失敗に終わってしまう可能性がある。 そこで本稿では、その実態や設立・破綻に関する要因を分析し、「第三セクター」方式の欠陥を明らかにすることを通じて、PFIを含めた将来の公共投資手法のあり方を議論した。その結果、「官民の馴れ合い体質による(リスク配分の曖昧性による)インセンティブ問題が第三セクターの失敗を引き起こす要因になっている」ことが導出され、第三セクターの制度的欠陥が明らかになった。この結果は、「契約によりリスク分担を明確化し官民間の馴れ合いを排除することが、公共事業に民間活力を導入するPFIの成功の鍵である」ことを示唆している。.

財政投融資制度の改革と地方債市場の今後のあり方財政投融資制度の改革と地方債市場の今後のあり方
吉野直行   中田真佐男

財政投融資制度・特殊法人改革が大きな焦点となっている。財投制度はわが国の高度成長に大きな役割を果たしてきた。しかし、近年になって規模が肥大化し、経済効率性の低い社会資本整備が行われたり、住宅金融公庫による融資規模の拡大が「民業の圧迫」と非難されるなどさまざまな問題が顕在化したため、よりマーケット・メカニズムに適合するシステムへの転換が図られている。他方、財投ではこれまで多くの地方債を保有してきたが、郵便貯金や簡易保険資金の全額自主運用の開始に伴い、市場原理と大きく乖離していた地方債市場にも変革が求められている。以下では、財投制度改革の開始をうけ、財投の入口である郵便貯金、出口機関である政府系金融機関や公社・公団のこれからのあり方、さらには、地方債の制度変更の方向性について私論をまとめた。 .

民事再生法の経済分析民事再生法の経済分析
瀬下博之   山崎福寿

公共事業特別会計の財務評価公共事業特別会計の財務評価
田中宏樹   上村敏之   鷲見英司

本稿では、国の公共事業の約6割を実施する公共事業特別会計(道路整備、港湾整備、空港整備、治水、国有林野事業、国営土地改良事業)に焦点をあて、特別会計の財務諸表を時系列で作成し、公共事業の政策評価を財務分析によって行う。公共事業の制度的背景に踏み込む分析を行うことが、財政構造改革のひとつの具体像を描くことにつながる。 すべての特別会計において、建設国債発行などによる一般会計からの繰入が急増しており、ストック面の財務体質の悪化が将来負担を増やしつつある。港湾整備や治水のように歳入に占める一般会計受入が過半を超え、区分経理する意味を見いだしがたい特別会計も存在している。財務状態が比較的良好な道路整備と空港整備でも、インフラ資産の価値に対する収入の割合が低下し、近年の事業の非効率性を示唆している。 これらの結果を考慮すれば、公共事業特別会計に何らかの改革を施すことが、公共事業の構造改革に寄与すると考えられる。.

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