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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【42】 2001年3月発行

定期借家権制度が家賃に与える影響定期借家権制度が家賃に与える影響
大竹文雄   山鹿久木

2000年3月1日に定期借家権制度が日本で導入された。この法律の導入によって、新規家賃低下、良質なファミリー向け借家の供給量増加、一戸建て住宅の賃貸化など多くの住宅市場への効果が期待された。この定期借家権制度導入後、定期借家はどのような特性をもって実際に賃貸住宅市場に現れてきているのかを、東京都の賃貸住宅の個票データを用いて、定期借家と一般借家との家賃関数を推定し、その属性の差を検討することにより明らかにする。そしてその結果、定期借家は、一般借家と比較して床面積が増えても、家賃が一般借家に比べて上昇しにくい(床面積弾力性が低い)ことを示し、さらに定期借家の家賃は、床面積70m2の借家であれば10%から20%、100m2の借家であれば15%から32%一般借家より低いことが示される。 .

同居選択における所得の影響同居選択における所得の影響
岩本康志   福井唯嗣

高齢者とその子との同居の決定要因について、まだ未解明のままのこされている要因のひとつは、子の経済状態である。この影響がこれまで未解明なのは、世帯を無作為抽出した調査から得られたデータでは、同居する世帯員に関する情報は得られても、別居する子の経済状態についての情報が得られなかったためである。本稿では、観察される親の属性で子の所得を説明するモデルを構築し、別居した子の所得を推定することにより、この問題点を克服して、親子の所得が同居選択に与える影響を考察する。 『国民生活基礎調査』を用いた実証分析で、以下の結果が得られた。親の所得が高いほど、別居が選択される。高所得者ほど、同居によるプライバシーの減少から生じる負担が、同居から発生する規模の利益を上回る傾向にあるものと考えられる。一方、子の所得については、親が夫婦の場合は子の所得が高いほど別居が選択される傾向にあるが、単身の場合では有意な影響は見られない。高齢者が夫婦の場合には経済的要因が強く働いているが、単身高齢者の同居については経済的要因以外の要素が働いていることが示唆される。 .

国民年金未加入者の経済分析国民年金未加入者の経済分析
鈴木亘   周燕飛

本稿は、国民年金未加入者を含む個票データを用いることにより、わが国の国民年金に「逆選択」が存在しているかどうかを検証した。国民年金の未加入者となる動機としては、@流動性制約下にあること、A予想死亡年齢が低いこと、B世代間不公平が存在することの3つが考えられるが、ABを逆選択仮説とする。はじめに未加入選択動機に関する簡単な理論モデルを提示した後、個人年金と国民年金選択を同時に考慮した推定モデルをBivariate Probit Modelを用いて推定した。その結果、流動性制約要因の他に、逆選択仮説を完全に裏付ける結果が得られた。また、逆選択要因の方が、流動性制約要因よりも大きいことがわかった。未加入確率は、@年齢が1歳減少するにしたがって0.24%〜0.41%ポイント、A失業・無業化により5.1%〜11.1%ポイント、B金融資産100万円の減少に対して0.55%〜1.1%ポイント上昇する。 .

家計消費における医療費自己負担―エンゲル曲線アプローチ家計消費における医療費自己負担―エンゲル曲線アプローチ
澤野孝一朗

本稿の目的は、被保険者・自己負担率改定が家計における医療費自己負担にどのような影響を与えたかを明らかにすることである。一般に自己負担率改定は、家計の直面する医療サービス価格が上昇する効果として考えられている。しかし改定によって家計における医療費自己負担額が、どのように変化するかは自明ではない。これは医療サービス需要が価格非弾力的ならば、自己負担率改定は家計の医療費自己負担を増加させるが、価格弾力的ならば医療費自己負担を軽減する可能性があるためである。本分析では、医療サービス・エンゲル曲線推定を利用して、自己負担率改定による家計の追加的医療費自己負担を数量的に示した。利用したデータは『家計調査年報』(総務庁統計局)の「勤労者世帯」である。求められた定率20%制移行による負担増の効果を利用すると、追加的な自己負担率10%の引上げは平均して家計に約2400〜5300円(年額/一人あたり)の自己負担額の増加を招く。したがって医療サービス価格の上昇により自己負担額(支出額)が増加しているため、家計における医療サービス需要は価格非弾力的と考えられる。 .

退職予定年齢を考慮した消費関数の推計退職予定年齢を考慮した消費関数の推計
奥井めぐみ

本研究では、家計レベルのミクロデータを利用して、世帯主の年齢層別に消費関数を推計し、ライフ・サイクル仮説の検証を行うことを目的としている。対立仮説として、王朝仮説と予備的貯蓄仮説を取り上げる。予定している退職年齢が各家計で異なると、同じ年齢で同じ賃金プロファイルを持つ個人であっても期待される生涯勤労所得が異なる。本稿では、世帯主と配偶者の退職予定年齢がわかるデータを利用することで、各家計の生涯勤労所得をより厳密に予測した。分析結果より、(1)生涯勤労所得や年金受給総額は、ライフ・サイクル仮説と整合的で、年齢層が高くなるほど、これらの資産が消費に与える影響は大きくなる、(2)退職年齢を60歳と仮定した場合の推計結果と退職予定年齢を利用した推計結果とでは差がない、(3)遺産動機や予備的貯蓄動機のある家計では、これらの動機がない家計と比べて、一部の資産が消費に与える影響は減少する、の3点が示された。 .

日本のGenuine Saving日本のGenuine Saving
中村洋一

本稿では、伝統的な国民経済計算の貯蓄の概念を「維持可能な開発」の考え方に沿って拡張するGenuine Savingについて考察するとともに、環境経済統合勘定の計数を基礎に、その時系列推計を1970年から98年の期間について行う。貯蓄概念の拡張は、3つの方向で行われる。第1に、地下資源など国民経済計算において資産として認識されながら、採掘による資産価値の変動がフローとしては考慮されない点を変更する。第2に、経済活動による自然環境への負の影響を貨幣評価し、貯蓄から控除する。第3に、教育支出を人的資本の蓄積と理解し、貯蓄および投資に加算する。 伝統的な国民総貯蓄および国民純貯蓄の国民総所得(Gross National Income、以下GNIという)に対する割合が推計期間において下降トレンドをもつのに対し、推計されたGenuine Savingの割合には、70年代および80年代において、下降トレンドはない。この相違の主たる理由は、大気汚染などによる環境負荷の減少がGenuine Savingの低下を抑えたことにある。90年代においてはGenuine Savingの国民総所得比は顕著に低下したが、これは国民貯蓄率そのものの低下に加え、それ以前にはみられた環境保護活動の進展が停滞したためである。 .

SNA統計を用いた民間法人企業ベースの「トービンのq」と投資関数SNA統計を用いた民間法人企業ベースの「トービンのq」と投資関数
原田信行

本稿では、SNA統計を用いて、民間法人企業ベースの「税制の影響を調整したトービンのq(Tax-Adjusted q)」の計測およびq理論に基づく投資関数の推定を行う。そのために、まずSNAの制度部門別ストック系列などから民間法人企業ベースの資産・負債系列を作成し、その上で再生産不可能有形固定資産(土地等)を生産要素に含む場合と含まない場合のqを計測する。その結果、土地等を含む場合のほうが比較的良好な計測結果が得られた。また、投資関数の推定にあたっては、貸出市場における情報の非対称性を考慮して担保価値としての土地資産を説明変数に加えた推定もあわせて行った。その結果、生産要素に土地等を含み、かつ担保価値としての土地資産を説明変数に加えた場合に最も良好な推定結果が得られた。 .

日本の市町村財政におけるフライペーパー効果日本の市町村財政におけるフライペーパー効果
宮良いずみ   福重元嗣

本稿では全市町村を対象として、バブル期の1988年度と不況期の1997年度のクロスセクション・データをもとに、市・町村別、地域別、人口規模別にデータを分けてフライペーパー効果に関する実証分析を行った。分析結果は、第1にストーン・ギアリー型の効用関数に基づいた回帰分析とノンパラメトリックな手法による政府支出と補助金の相関関係についての分析の双方において、市のみならず町村財政においてもフライペーパー効果が発生していることが明らかとなった。また、市と町村、地域、人口規模あるいは総所得規模によってフライペーパー効果の大きさに違いが存在し、フライペーパー効果は全ての市町村で一様の大きさで起こっているわけではないことを示す結果となった。 .

銀行の貸し渋りと預金者行動銀行の貸し渋りと預金者行動
相澤朋子   瀬下博之   山田節夫

本稿の目的は、近年の銀行の「貸し渋り」の要因として、これまで指摘されてこなかった仮説を提示するとともに、それを実証的に検証することにある。本稿で提示する仮説は、銀行の期間リスクの増大が貸し渋りの主要因のひとつであるというものである。銀行は、通常短期の預金をより長期の貸出として運用するという資産変成機能を果たしている。従って、調達する預金の満期構成の短期化は、それだけ資産変成にともなう期間リスクを上昇させる。このような期間リスクの上昇により、結果として銀行はより市場性の高い資産、とりわけ国債等を選好するようになる。近年の日本において、銀行の預金の満期構成は極めて短期化してきており、流動性預金の総預金に占める比率だけを見ても、この10年ほどの間におよそ1.7倍に増加している。定期預金の満期構成も一般に短期化してきていると予想され、このような期間リスクの増加が銀行の貸し渋りの大きな要因になっていると考えられる。そこで本稿では、主要な46行の財務諸表を用いたパネルデータによる回帰分析を行い、銀行貸出の減少は、流動性預金の比率の増加に有意に依存していることを明らかにする。 .

銀行のガバナンス構造と役員交代銀行のガバナンス構造と役員交代
富山雅代

本稿の目的は、銀行に対するガバナンスを分析することにより、"Wh omonitorsthemonitor"(Diamond1984)の問題を考察することにある。特に株主や金融当局のモニタリングとして、天下りや大株主役員派遣に着目し分析を行う。検証したい仮説は次の3点である。(1)銀行経営者は、資金提供者の利益を最大化するよう規律付けられていたか、(2)天下りや大株主役員はモニタリング機能を有していたか、(3)規制緩和により、ガバナンス機能に変化がもたらされたか。以上の仮説を銀行の頭取交代に関して、1976年以降の銀行財務データを用いて検証した。推計結果から、頭取の交代は業績悪化時に見られるが、天下りや大株主役員がいる場合は交代確率が下がり、規制緩和以降も同様の結果を得た。金融自由化に伴う競争激化で、銀行の過度のリスク選択行動に対する規律付けが必要とされるが、大株主や天下りはそのような機能を果たしていないことが示唆される。 .

公的年金の縮小と国庫負担の経済厚生分析公的年金の縮小と国庫負担の経済厚生分析
上村敏之

本稿では、将来人口データを組み込んだライフサイクル一般均衡モデルを利用し、支給開始年齢の引き上げや給付水準の削減による公的年金の縮小と、消費税を財源とする国庫負担率の引き上げが、各世代の経済厚生に与える効果について分析した。 現行の給付水準を維持するならば、高齢化が年金保険料率を引き上げ、将来世代の経済厚生は相当悪化する。一方、2001年から支給開始年齢を引き上げれば、将来世代の経済厚生をかなり改善することができる。また、老齢厚生年金を2025年までに縮小するならば、将来世代はより大きな厚生を享受できるが、現在世代は二重の負担に伴う厚生の悪化が避けられない。同様に、国庫負担率の引き上げに伴う消費税の増税についても、世代間の利害対立が生じる。 したがって、公的年金の今後の運営については、世代間の対立をうまく調整する形で、公的年金の規模、国庫負担率の水準、財源の手段、改革を実行するタイミングについて考える必要がある。 .

日本経済の生産・代替構造分析―温暖化対策導入による経済的影響を評価するために日本経済の生産・代替構造分析―温暖化対策導入による経済的影響を評価するために
奥島真一郎   後藤則行

現在我が国においても、京都議定書目標の達成に向けて、炭素税や排出量取引など経済的手法の導入が検討されている。経済的手法は、二酸化炭素排出量を効率的に削減できる手段であると考えられている。そこで本研究においては、これを定量的に確認するために、我が国におけるエネルギーの価格弾力性、代替弾力性をNest-Translog関数を用いて推計し、炭素税などの温暖化対策が我が国で有効に機能しうるかについて検証した。結果は以下の通りであった。まず、エネルギーの価格弾力性、代替弾力性の推計結果からは、経済的手法の導入は効果的にエネルギー需要を減少させること、また要素需要がエネルギーから他の生産要素へと比較的スムーズに代替しうることが示された。次に、各種エネルギー間の弾力性の推計結果からは、経済的手法の導入は炭素含有量の多い石炭の需要を大きく減少させること、さらに石炭や石油から炭素含有量の少ないガスへとエネルギー源の代替が比較的スムーズに進む可能性があることが示された。このように我が国においても、炭素税などの温暖化対策を導入することによって、二酸化炭素排出量を効率的に削減できることが実証された。.

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