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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【46】 2002年11月発行

地震危険度と家賃―耐震対策のための政策的インプリケーション地震危険度と家賃―耐震対策のための政策的インプリケーション
山鹿久木   中川雅之   齊藤誠

1981年6月の建築基準法の改正により、これ以後の建築確認はより耐震性の高い新耐震基準によらねばならないとされた。一方、1981年以前の旧耐震基準に基づいた建物の建て替えや改修を促すための様々な施策が、国・地方公共団体によって実施されている。しかし、求められる耐震対策は、消費者の危険回避行動を前提とするか否かによって、その内容が大きく異なる。そこで本稿では、東京都が公表した町丁目ごとの地震に関する地域危険度データと東京都の賃貸住宅の個票データを用いて、東京都の家賃関数を推定することにより、2つの分析を行っている。第1に、地震に関する危険度が、東京都の家賃形成にどのような影響を与えているかを、耐震基準や建物構造ごとに家賃関数を推計し、建物構造の選択に関する消費者の危険回避行動を検証する。第2に、この推定結果をもとに、新耐震基準導入の有無による家賃の比較をしながら、耐震化投資が家主にとって収益的であるかどうかについての費用便益分析を行う。.

数学学習と大学教育・所得・昇進―「経済学部出身者の大学教育とキャリア形成に関する実態調査」に基づく実証分析数学学習と大学教育・所得・昇進―「経済学部出身者の大学教育とキャリア形成に関する実態調査」に基づく実証分析
浦坂純子   西村和雄   平田純一   八木匡

本稿では、独自の調査を通じて、日本における主要3私立大学の文科系学部(経済系学部)出身者から得た2000余りのサンプルから、大学入試で数学を受験するか否かが、将来的なキャリア形成に無視できない影響を及ぼしていることを明らかにした。特に、基礎的な数学力を身につけた者が、大学教育において高い学業成果をあげ、それらの相乗効果によって、生涯にわたってより高い所得を稼得し、より高い職位に昇進し、転職時でも収入面において有利な条件に恵まれていることが示されている。また、親の学歴や学業成績が所得に及ぼす影響を、数学学習が相殺する効果も見出されている。したがって、自らの出身階層を乗り越える手段として、数学学習が一定の効果を持つと考えられよう。 .

選挙制度改革と地域間所得再分配選挙制度改革と地域間所得再分配
寺井公子

本論文は、都市・地方間の国会議員定数の不均衡を是正する選挙制度改革によって、地方交付税による地域間所得再分配がどのように変化し、そのことが地域間格差にどのような影響を及ぼすかを定量的に分析する。シミュレーション分析の結果は次の通りである。第1に、議員定数を人口比例配分するための選挙区割りの変更は地域間所得再分配を縮小させる。第2に、地域間所得再分配の縮小は全地域において労働意欲を高め、再分配前所得を上昇させる。その効果は経済力の弱い地域で顕著である。第3に、地域間所得再分配の縮小は再分配後所得を全地域で上昇させる。第4に、経済力の弱い地域の労働努力増加による不効用は再分配後所得の上昇によりほぼ相殺されるので、過密・過疎問題に配慮した現行区割りを人口比例配分に変更しても、それによって過疎地域が経済的不利益を被るとは言えない。第5に、このような選挙制度改革は経済全体を平等に評価するとき社会厚生を改善する。 .

市町村合併の政策評価―最適都市規模・合併協議会の設置確率市町村合併の政策評価―最適都市規模・合併協議会の設置確率
西川雅史

本稿の目的は、市町村合併の政策目的を支出削減であると考えた上で、その政策効果について検討・評価し、合併政策に必要となるアイデアを提示することにある。日本の市町村合併に関する先行研究の多くは、ハーシュ(1979)のリサーチデザインを踏襲し、最適都市規模論(minimum efficient scale)と支出削減効果を安易に結びつけ、最適都市規模へ合併しようとする地方自治体のインセンティブを軽視してきた。筆者の知る限り、わずかな例外は、横道・村上(1993a、1993b)、横道・沖野(1996)、松本・森脇・長峯(2002)である。しかし前二者には統計的な正確さに不足があり、後者は関西の特定の自治体にデータが制約されている。本稿では、これらの不足を補うべく、全国の市町村データから地方自治体の合併インセンティブを考察した。そこから得られた最も興味深いファクトは、面積が大きい町村部で合併への気運が醸成されにくいという点である。したがって、面積に配慮していない現行の合併促進法は、十分に支出削減効果を発揮できない可能性がある。 .

電力の急峻な需要変動を抑制するリアル・タイム料金電力の急峻な需要変動を抑制するリアル・タイム料金
田中誠

わが国の電力需要の大きな特徴は、朝の需要の立ち上がりが非常に急峻なことである。そのため、急峻な需要変動に対応するための余計な費用が嵩み、高コスト構造の一因ともなっている。そこで本稿では、この現象に対する料金政策の観点から、需要変動への対応費用を明示的に取り込んだリアル・タイム料金(RTPS)を導出した。そして、数値例を示して、通常のリアル・タイム料金(RTP)との比較を行った。主要な結果は、次の2つである。第1に、RTPSは、RTPに比べ、需要の立ち上がる始端前後で料金水準を大きく引き下げ、終端前後で料金水準を大きく引き上げる。その結果、需要変動の急峻性は大幅に抑制される。第2に、RTPSは、需要変動への対応費用が加算されるにもかかわらず、オフ・ピークの時間帯に料金を下げる、すなわち料金割引を行うという特徴をもつ。.

自動車産業の系列と集積―『工業統計調査』マイクロ・データによる生産性の実証分析自動車産業の系列と集積―『工業統計調査』マイクロ・データによる生産性の実証分析
伊藤恵子

経済産業省『工業統計調査』のマイクロ・データを用い、日本自動車産業の全要素生産性(TFP)の変化とその決定要因を分析した。1981年から96年までのTFP上昇率は、自動車製造業で年率約0.6%、自動車部品製造業で年率約1.3%にとどまった。先行研究において、1980年代初頭までの自動車産業のTFP成長率が年率4%前後と推計されているのに対し、この1.3%という数字は非常に低い水準といえよう。自動車産業全体の生産性が停滞する中で、自動車メーカー間の生産性格差は顕在化した。生産性の上昇が高かった自動車メーカーでは、その系列部品サプライヤーの生産性上昇率も高かった。このような好調な系列グループでは、部品サプライヤーが組立事業所の近隣に比較的集積し、技術知識の共有を通じて生産性が上昇した可能性が高いとの結果を得た。さらに、取引先自動車メーカーが活発に研究開発を行っているほど、部品サプライヤーの生産性上昇率が高かった。 .

保育士労働市場から見た保育待機児問題保育士労働市場から見た保育待機児問題
周燕飛

本稿は、待機児が発生する要因として、これまで全く触れられてこなかった「保育士労働市場の不完全市場性」に起因する2つの仮説を提示し、待機児問題に対して新たな視座を提供する。第1の仮説は、保育士の労働市場が地域的な「買手独占(寡占)市場」であることから、認可保育サービスの供給不足が生じるというものであり(買手独占仮説)、第2の仮説は、公私保育所間の賃金格差が原因となって供給不足が生じているというものである(二重労働市場仮説)。都道府県データを用いて仮説を検証した結果、2つの仮説のどちらもが支持される結果となった。したがって、保育サービス分野の規制緩和により新たな保育所を数多く参入させることや、保育士労働市場の一元化政策が、待機児問題の解消にも有効である。 .

日本の地下経済の規模に関する時系列分析と都道府県比較日本の地下経済の規模に関する時系列分析と都道府県比較
門倉貴史

わが国の地下経済の規模を推計すると、@通貨的アプローチによれば99年時点において23.2兆円(名目GDP比では4.5%)程度、A直接推計法では99年度時点で9.6〜17.1兆円(同1.9〜3.3%)程度となる。地下経済の名目GDP比を時系列でみると、いずれの推計方法においても90年をピークにその後は低下傾向をたどっている。その理由としては、@減税の実施などにより法人や個人の直接税負担が軽減され脱税へのインセンティブが弱まってきたこと、A地下での経済活動に対する政府の規制が厳しくなってきたことなどが考えられる。また、地下経済の規模を都道府県別に推計すると、98年度時点では東京都や神奈川県、大阪府など大都市圏地域で地下経済の名目県内総生産に対する比率が高い。地方圏に比べ大都市圏で地下経済の規模が大きい理由としては、@大都市圏ではバブル経済崩壊の影響が深刻であったことからフォーマル・セクターでの就業機会が相対的に少なくなっていること、A大消費地であるため地下経済に関わる産業も多く集積していることなどが考えられる。 .

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