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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【54】 2006年3月発行

不完備契約と短期賃借権不完備契約と短期賃借権
佐藤茂春   細江守紀

本稿は契約が不完備な場合に、賃借権と抵当権の優先順位が賃借人の立証不可能な投資効率にどのような影響があるのかを分析したものである。 通常、不動産に設定される権利関係は順位確定の原則により権利設定の時間的順序に従って優先権が認められる。ところが、短期賃借権保護制度では先に設定された抵当権に優先して賃借権が保護されていた。このような優先権のあり方は賃借人の過小投資を改善すると考えられる一方で、賃借人の過剰な保護は効率的な物件の転用を阻害する可能性もある。そこで、本稿では不完備契約モデルを用いて抵当権に対する賃借権の保護の効果について検討する。その結果、普通借家契約の下では、抵当権が賃借権に優先する場合にのみ、ある条件下でテナントの投資の効率性を達成する融資契約が存在することを示した。

効率的自治体による法定合併協議会の設置―1999年合併特例法と関連して効率的自治体による法定合併協議会の設置―1999年合併特例法と関連して
宮崎毅

歳出関数を特定化して最適都市規模を求めた研究は蓄積されているが、どのような市町村が合併のインセンティブを持つのかを明らかにした研究は少ない。横道・和田 (2000,2001) 、西川 (2002) は市町村の合併インセンティブを分析しているが、歳出関数の特定化はしておらず、またデータの制約から現在進行中の「平成の大合併」は対象外となっている。本稿では、合併の財政的負担が軽減される現在の合併特例法のもとで、どのような歳出構造を持つ市町村の合併意欲が高まっているのかを調べた。その結果、2001年から04年では最近になるほど効率的な市町村が法定合併協議会(以下、法定協とする)を設置し、合併を実現させつつあることが明らかとなった。また、2003年に法定協を設置し始めた市町村が、他の市町村と比べて最も効率的となった。法定協の設置から合併には2年程度の調整期間が必要なので、2005年3月の合併特例法の期限が効率的な自治体の合併意欲を高めたと考えられる。 .

地方公共財に関する住民効用関数の地域別推定―近畿2府4県の92市を対象として地方公共財に関する住民効用関数の地域別推定―近畿2府4県の92市を対象として
吉田素教

現在日本では、三位一体改革の推進により、中央集権的財政システムから「地方分権」的システムへの大転換が図られている。しかし、これまで、国・地方間財政制度改革の制度設計に際し必須と考えられる「地域特性と各自治体の行政分野をまたがる歳出配分行動との関係」に関する実証的把握がなされていない。  そこで、本稿では、近畿2府4県の92市を地域特性の似通ったクラスターに分類したうえで、各自治体における「各地方公共財価格」と「各地方公共財への歳出配分割合」の情報を用いてクラスター毎の住民効用関数、すなわち、歳出配分時に想定されている各行政分野のウェイトを推定した。結果、クラスター間での有意な差異の存在、具体的には、都心クラスターでは商工財、高齢化した高度第2次産業化クラスターや高度高齢化・第1次産業化クラスターでは商工財や農林水産業財、若年化・第2次産業化した都心周辺クラスターや郊外住宅地クラスターでは民生財や教育財に対するウェイトが相対的に大きくなっている状況等が確認できた。 .

個人請負の労働実態と就業選択の決定要因個人請負の労働実態と就業選択の決定要因
使用データの概要使用データの概要
周燕飛

近年、非正規労働のうち、請負または業務委託・委任契約に基づいて自営業者として労働を行ういわゆる「個人請負」が増加している。しかしながら、その重要性にもかかわらず、いまだに公式統計が存在せず、その実態把握が行われていない。そこで、本稿は企業への専属性が高い「雇用者的働き方」をしている個人請負に注目し、独自に企画したインターネット調査を用いて、その労働実態と就業選択に関する計量分析を行った。  その結果、まず、労働時間や年収・時間あたりの収入額について、正社員・非正社員・個人請負間で比較した結果、個人請負は正社員に近い構造を持っていることがわかった。そして、個人請負がほかの賃金労働者にくらべ、仕事の自由度・非拘束度、仕事のやりがいの面では比較的高い満足度を示している一方、収入の水準や収入の安定性についての満足度が低いということがわかった。また、就業形態の選択については、@年齢が高い人ほど、A未婚女性ほど、B失業経験者ほど、正社員に比べて個人請負を選択していることがわかった。特にBの結果は、失業などの影響によって、不本意に個人請負就業を選んでいる人々が少なからず存在しているということを意味しており、これまで指摘されてきた個人請負像とは異なる新たな知見となった。 .

経営者、統治構造、雇用調整経営者、統治構造、雇用調整
野田知彦

本稿では、電気機器、機械の各産業に属する上場企業の1991-2000年度のパネルデータに基づき、各企業のガバナンス構造を特徴づける要素である経営者の出自や株式所有構造、メインバンク制の雇用調整に及ぼす影響を検討した。  経営者の出自別に分けて雇用調整速度を計測すれば、株式所有構造やメインバンクが調整速度に与える影響が、経営者の出自によって異なることが明らかとなった。特にメインバンクの効果については、内部昇進企業ではメインバンクへの依存度が高くかつ役員を受け入れている企業では赤字になるまではリストラを回避しているが、オーナー企業ではそのような状態は発生せずに、メインバンクは雇用調整を速めている。内部昇進企業ではオーナー企業に比べて解雇、雇用調整のコストが高く、メインバンクの救済に頼って雇用調整を遅らせている可能性がある。 .

銀行破綻が及ぼす伝染効果の分析―昭和恐慌期における預金者行動の検証 銀行破綻が及ぼす伝染効果の分析―昭和恐慌期における預金者行動の検証
秋吉史夫

本論文は昭和恐慌期における全普通銀行のパネル・データを用いて、一部の銀行の破綻が預金取付という形で他の健全な銀行にも影響を与える伝染効果が、戦前の我が国においてどの程度の大きさであったかを検証した。個々の銀行の預金変化率に関する計量モデルを推定し、銀行のファンダメンタルズ要因と伝染効果要因の相対的な説明力を分析した。その結果、(1)預金者の行動は銀行や経済のファンダメンタルズを基本的に反映していること、(2)ただし、大規模な銀行破綻が生じた場合には伝染効果が預金流出の約3分の1を説明し、無視できない大きさとなっていることを確認した。これらの結果は、戦前期における銀行取付の合理性を主張する先行研究を基本的に支持しており、預金者による規律付けが効率的に機能する可能性を示唆するものである。.

総報酬制と年金・健康保険料負担―雇用形態別の分析 総報酬制と年金・健康保険料負担―雇用形態別の分析
使用データの概要使用データの概要
安部由起子

本稿では、2003年4月から導入された総報酬制(厚生年金・健康保険料が月収と賞与に同率で賦課されるようになった)が、正規雇用者・パート雇用者の保険料負担をどのように変化させると考えられるかを、賃金構造基本統計調査およびパートタイム労働者総合実態調査のデータから試算した。分析の結果、正規雇用者の厚生年金保険料額は低所得の労働者では低下する一方、正規雇用者の健康保険料と厚生年金保険料の合計額は、男女・学歴・年齢層の多くの組み合わせについて上昇することがわかった。一方、パート労働者には賞与支給がない場合も多く、支給がある場合でも金額が小さいという事情により、パート労働者の保険料負担(厚生年金と健康保険の合計)は約9%低下することがわかった。.

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