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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【56】 2007年3月発行

第56号のポイント56号のポイント
『日本経済研究』編集委員会

 『日本経済研究』の読みどころをやさしく紹介。

介護が高齢者の就業・退職決定に及ぼす影響【最終版】介護と高齢者就業 0326
使用データの概要使用データの概要
酒井正   佐藤一磨

 家庭内の要介護者の存在が高齢者の就業・退職決定にどのような影響を及ぼすの か、高齢者を対象としたパネル・データに基づいて分析を行った。主な分析結果は 次の通りである。1)家庭内の要介護者の存在によって、家族の就業は抑制される傾 向にある。しかし、2)介護負担によって就業が抑制されるパターンは、男性と女性 で異なっている。具体的には、介護は男性では正規雇用や自営業の就業・退職決定 に影響するのに対して、女性では非正規雇用の就業・退職決定に影響を与える。 3) 2000 年に導入された介護保険制度が、介護の就業抑制効果に変化をもたらしたかど うかはっきりした結論は得られなかった。 従来、高齢者就業を阻害しうる要因とし て公的年金制度や定年制に関心が払われることが多かったが、今後は家族の介護負 担を軽減するような施策に力点をおくことも高齢者の就業を促進させるうえでは重 要である。.

デフォルト確率モデル再訪−市場情報の包括的利用と推定方法の検討デフォルト確率モデル再訪−市場情報の包括的利用と推定方法の検討
金谷信   平田英明

 本稿では、デフォルト(企業破綻)確率の推定について、個別企業に関して市場 で観察される情報を包括的に活用できる方法を提示し、実際のデータを用いてその 有効性を検証する。企業のクレジット・リスク把握のための主要な情報としては、 株式および社債情報を考えることが出来る。従来の分析ではそのどちらか片方しか 活用出来ていないことが多かった。我々は、企業の資本および負債を企業価値の派 生商品(オプション)とみなすシンプルな構造型モデルに基づき、株式および社債情 報の両者を有効に活用して推計を行う方法を提示する。この方法を用いてケース・ スタディーを試みると、従来の手法による結果に比べて、求められたデフォルト確 率は各局面に応じて弾力的かつリーズナブルに推移するという極めて興味深い推定 結果を得た。.

有業者方式と労働力方式に基づく2 種類の失業者の比較有業者方式と労働力方式に基づく2 種類の失業者の比較
稲葉由之

 本稿は、ふだんの就業状態を調べる有業者方式と月末1 週間の就業状態を調べる 労働力方式の2 つの調査方式を含んだ「平成14 年就業構造基本調査」の個票データ を用いて、それぞれの調査方式に基づく2 種類の失業者について考察したものであ る。その結果、労働力方式における完全失業者のうち約3 割は、有業者方式に基づ く失業者の条件をすべて満たしていないことがわかった。また、2 つの調査方式でと もに失業者の定義をみたすグループと、一方の調査方式でのみ失業者である2 グル ープの計3 グループを定義し、それぞれの性質を確認した。これによると、労働力 方式では非労働力人口に含まれ、有業者方式では失業者となるグループは、他の2 つのグループと比べて性質が大きく異なり、就業への緊要度の低い人々が含まれて いることがわかった。つまり、有業者方式では、性質の大きく異なる2 つのグルー プを合わせて失業者としている。この状況から、失業者を1 つの集団として考える 場合、失業者は労働力方式の調査に基づいてとらえた方が良いと判断することがで きる。.

犯罪発生の地域的要因と地価への影響に関する分析犯罪発生の地域的要因と地価への影響に関する分析
使用データの概要使用データの概要
沓澤隆司   山鹿久木   水谷徳子   大竹文雄

 最近の犯罪発生件数の増加や検挙率の低下を背景として、都市の居住者の犯罪に 対する安全への関心が高まりつつある。このことは、居住環境の重要な要素として 犯罪からの安全性が強く意識されたため、治安の状況が地価に影響する可能性があ る。こうした犯罪と地価との関係を明らかにすることは、犯罪に対する安全性の経 済的価値を明らかにし、都市政策の中での防犯対策の評価に際しても重要な役割を 有する。ただし、犯罪の発生が地価の外生的要因ではないため、OLS 推定はバイアス を生ずる可能性がある。そこで本研究では、操作変数法を採用して、東京23 区を対 象に、交番の配置、所得水準、道路面積などの操作変数を用いて地域ごとの犯罪発 生率を推定し、その推定値をもとに犯罪発生率が住宅地の地価に与える影響を推定 した。こうして犯罪発生率から地価への因果関係を明らかにした。推定結果によれ ば、平均的な地域の場合、侵入窃盗が10%増えるごとに住宅地の地価が1.7〜1.8% 下落する。.

2004 年年金改革のシミュレーション分析2004 年年金改革のシミュレーション分析
川瀬晃弘   北浦義朗   木村真   前川聡子

 2004 年6 月、@基礎年金国庫負担割合の引き上げ、A保険料水準固定方式による 負担抑制、Bマクロ経済スライドによる給付抑制、C有限均衡方式の導入、を柱と する年金改革法が可決された。本稿では、2004 年年金改革がもたらす影響について、 シミュレーション分析によって総合的に明らかにした。 分析結果は以下のようにまとめることができる。第1 に、マクロ経済スライドの 導入により給付水準を抑制したことで年金財政の安定化を図った。第2 に、最終保 険料を法定する保険料水準固定方式の導入によって、改革前と比較して2025 年の社 会保障負担率は1.7%低下するが、潜在的国民負担率の低下は1.2%にとどまる。第 3 に、給付と負担の世代間格差はほとんど是正されない。第4 に、財政再計算の想定 が崩れれば、所得代替率が50%を下回る可能性や保険料が18.3%を超える可能性も 否めない。第5 に、マクロ経済スライドの導入によって、デフレからの脱却が年金 財政の好転と世代間格差の是正につながる。2004 年年金改革は抜本的な制度改革に 向けた重要な成果であるが、残された課題も多いといえる。.

効率化インセンティブを考慮した税源移譲のシミュレーション−移譲財源の違いがもたらす財政的影響について効率化インセンティブを考慮した税源移譲のシミュレーション−移譲財源の違いがもたらす財政的影響について
竹本亨   高橋広雅   鈴木明宏

 近年、市町村の自立的運営に必要な財源の確保のため税源移譲が必要であるとい う議論がなされている。しかし、現実には税源移譲と同時に地方交付税などの削減 が予想され、地方交付税制度が存在することで調整されてきた地域間の財政格差を 拡大させることが懸念される。一方で、地方交付税は各市町村が効率的な財政運営 に努める誘因を弱めてきた側面もあり、税源移譲によって自主財源の割合を高め地 方交付税による補助を減らすことは地方財政の効率化に資するとも考えられる。そ こで、税源移譲が市町村の財政に及ぼす影響を、所得税と消費税の2 通りの移譲を 行った場合についてシミュレーションし、効率性と財政格差それぞれの視点から比 較した。その結果、所得税と消費税の両方で大幅な税源移譲は効率性を改善しその 程度に大きな差はないこと、移譲額の増加につれて財政格差はともに拡大するがそ の程度は消費税の方が所得税より小さいことがわかった。この意味で、税源移譲の 財源としては消費税の方が好ましいと言える。.

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