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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【66】 2012年2月発行

住宅資産と金融資産の関係―同時決定モデルを用いた首都圏家計の資産選択の実証分析  住宅資産と金融資産の関係―同時決定モデルを用いた首都圏家計の資産選択の実証分析
データの概要データの概要
川脇 康生

住宅資産と金融資産は家計のポートフォリオの中で最も重要な資産項目であり、 各資産の需要は、家計の一つの意思決定プロセスから同時に決定されると考えられ る。しかし各資産の相互関係を考慮した分析は、データの制約・理論的な扱いの困 難さのために多くはない。本研究は首都圏家計の個票データを用い、住宅資産と金 融資産の同時決定モデル(Type4 Tobit モデル)を構築して、両資産需要の相互関係 を分析する。分析結果からは、住宅所有者と非所有者との間では金融資産需要の構 造が大きく異なること、住宅非所有者の年収・年齢などの上昇が金融資産需要に及 ぼす影響が相対的に不明瞭なことなどが示された。また、低金利の環境下、住宅非 所有者が頭金貯蓄を行うよりも、住宅ローンを活用して早期に住宅を所有する行動 や、若い世代の住宅所有者が住宅ローンを活用して金融資産を保有する行動が示唆 された。 .

リピートセールス不動産価格指数における集計バイアスリピートセールス不動産価格指数における集計バイアス
データの概要データの概要
唐渡 広志  清水 千弘  中川 雅之  原野 啓

マクロ経済政策の運営において、資産価格の動向を適切に捕捉することがで きる指標に対する需要は、ますます大きくなってきている。住宅価格指数の推 計において、リピートセールス法は、ヘドニック法と並んで代表的な手法の一 つであるが、いくつかの問題点が存在することが知られている。その一つに「集 計バイアス」の問題がある。本研究では、リピートセールス法における集計バ イアスの統計的検定を行い、日本の不動産市場への適用可能性と課題の抽出を 行う。具体的には、新しく提案する「建築後年数調整済み価格指数」によって、 時間効果と経年効果を分離し、バイアス問題を解決できることを示す。 .

中古住宅市場における情報の非対称性がリフォーム住宅価格に及ぼす影響中古住宅市場における情報の非対称性がリフォーム住宅価格に及ぼす影響
データの概要データの概要
原野 啓  中川 雅之  清水 千弘  唐渡 広志

2006 年に住生活基本計画が制定され、良質な住宅ストックの形成に必要となる住 宅リフォームの重要性が増している。しかし、我が国の中古住宅市場は売手と買手 との間に品質に関して情報の非対称性があると言われているため、リフォームが必 ずしも良質な住宅であることのシグナルにはならないと考えられる。本稿では、売 手によるリフォームが良質な住宅であることのシグナリングとして機能しているか 否か、中古住宅価格関数の推定により分析を行った。その結果、リフォーム実施主 体およびリフォーム規模によって、シグナリングが機能しない場合があることが示 された。この事実は、居住者による維持管理投資が過小なため、既存住宅における リフォームの普及は今後も進まない可能性を示唆している。よって、中古住宅取引 に伴う情報量の質、量を拡大させることが求められている。 .

19世紀における堂島米市場の効率性についての一考察19世紀における堂島米市場の効率性についての一考察
柿坂 学

世界初の先物市場として名高い、大坂(現・大阪)堂島米市場の19 世紀における 効率性を、合理的期待仮説を検証することで検定している。具体的には、正米価格 (直物)と帳合米価格(先物)の日次データを用いて、各年に3 度ずつ建てられた 市場について(春・夏・冬)それぞれ、先行研究よりもミクロなレベルで実証を行 っている。その結果、従来の研究で主張されているように、そのほとんどの時期に おいて、市場の持つ効率性が失われていたことが実証された。ただし、いくつかの 時期については、依然として効率性が保たれていたと考えられる。すなわち、19 世 紀の段階であっても、市場が完全に非効率ではなかったということである。 .

集積の利益と地域経済―企業活動に関する最適空間構造のシミュレーション分析―集積の利益と地域経済―企業活動に関する最適空間構造のシミュレーション分析―
林 亮輔

集積の利益は地域経済のパフォーマンスを決定づける重要な要因である。本稿で は、集積の利益を表す変数として、@地域中心部における事業所の密度(中心密度)、 A中心部から遠ざかるにつれて事業所密度が低下する程度(密度勾配)を用い、民 間資本、労働に加えて集積の利益を組み込んだ生産関数を推計した結果、集積の利 益が地域経済に影響を及ぼしていることが実証された。次に、推計結果を踏まえて シミュレーション分析を行った結果、@神奈川県や愛知県などでは、事業所分布を 中心部に集中させれば集積の利益による効果が高まり、生産を増加できること、A 東京都や大阪府などでは、現状において混雑現象という集積の不利益が発生してお り、事業所を分散させることによって生産を増やせることが明らかとなった。本稿 の実証分析結果は、地域の生産力を増加させるうえで、集積の利益や不利益という 外部性を調整するための地域計画・都市計画をはじめとした、空間コントロール政 策が有効であることを示している。 .

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