日本経済研究「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。 【74】 2017年3月発行
GDP速報改定の特徴と、現行推計の課題について
本稿では、2002 年8 月の現行推計導入以来のGDP 統計の四半期速報値の改定状況を統計的に検証し、現行推計の課題を考察した。実質GDP の前期比の改定幅は、全平均はゼロという帰無仮説を棄却できないが、第1四半期はプラス、第3 四半期はマイナスという癖がある。1次速報における実質GDPの前期比、および需要項目別では民間住宅投資、民間設備投資、公共投資の前期比は確報値の合理的な予測値ではない、noise だと判定された。GDP推計の改善方法としては、(1) 需要側と供給側の民間設備投資の合成方法を工夫する、(2) 公共投資の速報推計を改善する−−ことが挙げられる。
居住地域における所得状況が生活満足度に与える影響
本稿では、居住地域における所得状況が生活満足度に与える影響について分析を行った。データは、三重県内5市で行われた調査を用いた。限定された地域の調査ではあるが、市町村より狭い地域内で一定数の対象が確保されているため、そうした小地域における所得状況を把握でき、それが生活満足度に与える影響を検証することができる。所得変数には、世帯所得のほか、居住地域の所得水準、居住地域の所得水準に対する相対的な所得を用いた。推定の結果、地域の所得水準の増加は生活満足度を上昇させていることが明らかになった。一方、居住地域での相対的な所得については、生活満足度との関係性は確認されなかった。
子どもの学習に対する教員の質の効果−都道府県パネルデータによる実証分析
本稿は、日本国内における教員の質が子どもの学習に与える効果を定量的に捉えることを目的とし、2006-2009年の都道府県パネルデータを用いて分析を行った。教員の質を代理する変数として、教職と他職の初任給の違いを反映した初任給相対賃金指標と、教員採用試験の倍率から作成した3種類の教員採用試験倍率指標を設定した。子どもの学習成果は、「全国学力・学習状況調査」の公立小学6年生の国語・算数の標準化スコアを用いている。また、子どもの非認知能力に対する教員の質の影響を捉えるために、公立小学校長期欠席者率も学習成果の変数とした。推計の結果、教員の質の上昇が公立小学校の長期欠席者率を有意に低下させることが示された。一方、教員の質のテストスコアに対する効果は、算数b(活用に関する問題)のみに限定的に示されたが、他科目のテストスコアに与える影響は確認できなかった。
自治体立病院の効率性−不採算地区立地と医師誘発需要−
これまで多くの既存研究では医師誘発需要が競争的な環境下で生じるとしてきた。しかし、人口減少が進む地域での患者の医師探索行動を前提とするならば、独占的な状況下でそれが発現しやすくなると考えることも可能であろう。本稿では自治体立病院を対象に医師誘発需要と規模の経済性に着目したパネル分析を行った。 その結果、既存の病院が独占的な地位を占めている可能性の高い、不採算地域において医師誘発需要が発生している可能性が支持される結果を得た。加えて、内生性を制御しても、医師や病床数等に関して規模の経済性が存在することが確認され、現在の公立病院の再編に関して一定の支持を与える結果となった。
為替介入と外貨準備―運用損益の長期推計
本論文の貢献は3点ある。第1に、データが公表されていない1991年3月以前の日本の通貨当局による為替介入額について、信頼できる代理変数を特定するとともに月次の統計として整備した。第2に、過去44年間(71年8月−15年3月)にわたる長期データを用いて、為替介入とその結果としての外貨準備保有による利益の推計を行った。第3に、外貨準備の運用についてリスクの指摘と政策提言を行った。 |