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日本経済研究

「日本経済研究」は日本有数の学術論文誌です。年に2,3回発行しています。論文は公募しており、レフェリーの厳正な審査などを経たうえで掲載となります。

【75】 2017年9月発行

高校新卒者の進学行動と最低賃金高校新卒者の進学行動と最低賃金
北條 雅一

 本稿は、近年の最低賃金の上昇が高等学校新卒者の進路選択に及ぼした影響を検証するものである。都道府県パネル・データを用いた分析の結果、地域別最低賃金が上昇した都道府県において、高校新卒者の専修学校専門課程進学率が低下し、就職率が上昇したことが明らかになった。また、最低賃金の上昇は女子よりも男子新卒者に大きな影響を与えたことも明らかになった。最低賃金変数の内生性がもたらす影響を十分に考慮できていないという限界はあるが、これらの分析結果は、最低賃金の上昇が若年者の就学に負の影響を与えるとする海外の先行研究と整合的であると同時に、近年の最低賃金引き上げが若年層の進路選択に影響を与えている可能性を示すものである。

地方自治体の賃金構造―行政職・警察職の学歴間賃金格差の比較分析地方自治体の賃金構造―行政職・警察職の学歴間賃金格差の比較分析
一瀬 敏弘

 本稿では、地方自治体における行政職と警察職の学歴間賃金格差について検証した。分析結果を理論的に解釈すると、行政職・警察職ともに大学教育による人的資本蓄積効果や能力差、あるいは訓練費用の違いなどが反映され、同年齢の大卒初任給の方が高卒より高く設定されている。これは、大卒者が公的部門へ入職するための誘因装置として機能していることを意味する。そして、行政職では大卒が高卒より高度なOJT訓練を積んでいる可能性があり、学歴間賃金格差が拡大して、それが退職まで持続していた。他方、警察職では、民間部門に類似性のない組織内特殊的人的資本の蓄積が極めて重要である可能性があり、大学教育効果が陳腐化した後は実力主義が台頭し、退職まで学歴間賃金格差が生じない。

日本の労働市場における信仰による統計的差別日本の労働市場における信仰による統計的差別
データ概要_日本の労働市場における信仰による統計的差別データ概要_日本の労働市場における信仰による統計的差別
小林 徹

 本稿では、日本で労働者が特定の宗教に所属していることや、その信仰の有無や強さによって、使用者からの処遇が異なるのか、異なるならば就業当初からなのか、勤続に伴い拡大していくのかを分析した。その結果、宗教に熱心なほどまたは宗教団体に所属しているほど勤続当初から賃金が低くなっていた。生産性の代理指標として当該情報が就業初期から考慮され、統計的差別が行われていると考えられる。また、人的資本や労働意欲に関わる変数を考慮した場合としない場合とで宗教変数の影響は変わらなかったことから、人的資本や労働意欲の代理指標となっているのではなく、マッチング生産性の指標になっていると考えられる。

出生率の決定要因―都道府県別データによる分析出生率の決定要因―都道府県別データによる分析
足立 泰美  中里 透

 本稿では1985年から2010年までの都道府県別データを利用して、出生率の決定要因について実証分析を行った。本稿の推定結果によれば、生涯未婚率の上昇と女性賃金の上昇が出生率に有意な負の影響をもたらしており、結婚や出産・育児に伴うコスト(機会費用)が出生率の低下に大きな影響を与えていることが示唆される。一方、女性の社会進出(就業率の上昇)や晩婚化が出生率の低下をもたらすという効果については明確な影響が認められなかった。

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