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毎週初めに日本経済研究センターの、愛宕伸康主任研究員ら、景気および金融証券マーケットのウオッチャーが、焦点、勘どころを解説します。

日本の隠れ債務○○○○兆円?―日本の社会保障改革は待ったなし−−13年10月21日

主任研究員 愛宕伸康
 愛宕伸康
【社会保障を専門とするある大学教授との勉強会】

 先日、社会保障を専門とするある大学教授との勉強会に参加する機会を得た。そこで改めてこの国の社会保障制度が如何に欠陥だらけで、如何に若い世代が割を食っているのか思い知らされた。今回はそのポイントを少しだけ紹介したい。これを読めば、アベノミクスによる景気回復や2020年東京オリンピック開催決定などで浮かれている場合ではない、という思いを筆者と共有していただけるのではないだろうか。

1.まず、わが国の社会保障給付額を見る場合、一般会計予算上の「社会保障関係費」29.1兆円で驚いていてはいけない。それはほんの一部に過ぎず、特別会計や地方分を合わせるとざっと110兆円、名目GDPの約4分の1に上る。毎年1兆円ずつ増えているといわれるのも「社会保障関係費」のこと。全体では毎年3〜4兆円増えており、このペースは2050年頃まで続く。仮に少子高齢化対策の効果が出てくるとしても、それは相当先の話。この流れを変えることは難しい。

2.高齢者に対する社会保障給付(年金、医療、介護)は、将来支払うことを約束した債務。この債務に対して高齢者が支払ってきた、あるいは支払う負担額を差し引いたネットの債務は約1400兆円に上る。すなわち、いま国の債務残高が1000兆円を超えたと言われるが、実はそれとは別にオフバラで1400兆円の借金を抱えているのと同じである。これを若い世代が支払うことになる。

3.こうした社会保障制度の下で巨額の世代間不公平が生じている。それを金額にすると、祖父母と孫の間(60〜65歳差)で約1億円の格差になる。言い方を換えれば、おじいちゃんとおばあちゃんは孫に5000万円ずつ借金をしていることになる。こうした状況を経済学では「財政的幼児虐待」と呼ぶ。国に徴税権があるかぎり若い世代は高齢者の作った借金から逃れることはできず、税金か保険料で支払うことになる。

4.マクロで見ると、消費税率が20〜25%になったとして2025年度の国民負担率は5割超、消費税率が30〜40%になったとして2050年度の国民負担率は7割超という計算になる。北欧など海外の事例を見てもこんな姿は現実的ではなく、財源や給付方式を抜本的に見直す必要がある。最大の問題はこうした深刻な状況であるということが、国民にきちんと示されていないこと。わが国の少子高齢化はまだ4合目。いまのうちに将来の姿を見据えた真剣な議論をしないと、本当に間に合わない。

【若者よ、もっと声を上げよ!】

 少し前の月曜10時便で、「ドーマーの条件」「ボーンの条件」を取り上げ、日本の財政状況が如何に深刻か、それに対する危機意識が如何に薄いかについて述べたが、その背景には、最近の景気回復や2020年東京オリンピック開催決定などを受けて、財政規律に対する政府や国民の意識がやや緩んでいるのではないか、との思いがあった。今回の拙稿もその延長線上にある。

 特に、社会保障問題は若い世代に直接降りかかってくる火の粉である。にもかかわらず若者の関心は薄い。むしろ高齢者のほうが自分の老後のことを心配しているという、笑うに笑えない状況だ。やはり、政府や政治家はもちろん、学者やエコノミストも、きちんと上のような現実を説明していないことが最大の問題だろう。高齢者の借金を5000万円も肩代わりしているという現実を突きつけられれば、さすがに鈍感な若者も声を上げるはずだ。

 上の勉強会で一つ気になったキーワードがある。「ニセ弱者」という言葉だ。潤沢な不動産や金融資産を保有しているにもかかわらず、若い世代の将来の借金に支えられた社会保障を享受している高齢者のことを指している。言葉は悪いが危機感の強い若年層の気持ちをよく表している。もちろん、「ニセ弱者」もそうなろうとしてなったわけではない。とはいえ、「ニセ弱者」を生むようなシステムを構築し温存してきた責任はある。将来のある若者へ「ニセ弱者」から所得移転を積極的に促すような社会システムや法制度があっても良い。

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