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毎週初めに日本経済研究センターの、愛宕伸康主任研究員ら、景気および金融証券マーケットのウオッチャーが、焦点、勘どころを解説します。

2014年前半の注目ポイント―気になるリスク要因−−14年1月14日

主任研究員 愛宕伸康
 愛宕伸康
 明けましておめでとうございます。本年もご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。年始に当たり、いま筆者が特にリスクとして気にしている今年前半のポイントを簡単にまとめてみました。消費税率引き上げが実施される2014年は、昨年にもましてエコノミスト泣かせの年となりそうです。

【消費増税前の駆け込み・反動】

 4月に実施される消費税率引き上げに伴う駆け込み・反動が想定どおり発生するか。ちなみに、エコノミストの予測を集計したESPフォーキャストによると、実質GDP前期比年率は1−3月期4.4%→4−6月期▲4.6%→7−9月期1.9%である。しかし、筆者を含め大半のエコノミストは97年度という数少ない前例を頼りに見通しを作成しており、正直「大外し」となるリスクは小さくない。

 例えば、当時に比べて賃金は上がらず、非正規雇用の増加や高齢化により家計の構造も大きく変わっている。ボーナスが増加している大企業サラリーマンや株を保有している高所得層は駆け込むだろうが、所得の低い消費者に駆け込む余裕などあるのだろうか。また、低所得層の消費性向は消費税率が上がってもさほど下がらないと思われがちだが、そんな保証はどこにもない。15年10月の追加増税も見据えて、第1次オイルショックのときのように消費性向を大きく低下させる可能性だってある。そうなれば14年度の消費は予想以上に落ち込むことになる。

【Windows XP のサポート切れに伴う特需】

 消費増税に伴う駆け込み・反動をさらに見難くしているのが、Windows XPのサポート切れ(4月9日)だ。それに伴うパソコンの買い替え需要は、GDP統計上、個人については消費に、企業については固定資産の増加、すなわち設備投資に計上される。一般に、消費税率引き上げによる設備投資への影響は殆どなく(「簡易課税制度」を利用する中小企業には影響があるが、設備投資に占めるウエートは小さい)、設備投資に駆け込み需要はさほど発生しないはずである。しかし、たまたまWindows XPのサポート切れとタイミングが重なったことによって、設備投資にも消費や住宅投資と同様、「1−3月期増加、4−6月期反動減」という振幅が発生する可能性がある。

 注意しなければならないのは、パソコンはすでに国内ではほとんど生産されていないことだ。このため、買い替え需要はダイレクトに輸入の増加につながる。したがって、本来、GDP全体への影響という意味ではニュートラルだ。しかし、もしGDP速報の設備投資でそうした動きが適切に捕捉できないとすれば、1−3月期のGDP成長率は実態より低く出る(4−6月期は逆)ことになる。

【まだ日本株を買えていない海外投資家の出方】

 「日本株をアンダーウエートしておけばインデックスに対してアウトパフォームする」との過去の成功体験もあって、欧米年金筋など、依然として日本株を十分買えていない海外投資家が少なくない。海外投資家は日本株を買い増したら投機やヘッジ目的で円を売る。「異次元緩和によって今後も円安トレンドが続く」との明確な相場観があるからだが、実際、最近のアベトレードでは「円安→株高」ではなく、「株高→円安」という関係性になっているようだ。

 それでは目先の買い場はいつか。4月の追加緩和がささやかれるもとで、10−12月期の企業決算が徐々に判明し、13年度下期の企業業績上振れが見えてくる1月下旬から2月というのが、筆者のドタ勘である。その頃、昨年11月のようなアベトレードが再び盛り上がりを見せるか注目される。

【4月の消費者物価(CPI)の上がり方と市場の反応】

 4月に消費税率が3%引き上げられ、課税対象品目の価格にそれがフル転嫁されると、4月のCPIは3月に比べほぼ2%上昇する。ただし前年比伸び率は、低かった前年の裏もあって、計算上3%という強い数字になる。注意しなければならないのは、仮に4月の前年比が3%になっても、5月以降CPIの指数水準が一定なら、14年度の前年比は2.3%にしかならないという点だ。これは日銀の見通し3.3%より1%も低い。

 しかし、瞬間的であろうと字ヅラは「3%」と日銀見通しにかなり近付く。当然、マスコミは日銀見通しに近付いたと書き立てるだろうし、遠い東の国の消費税のことなど眼中にない海外投資家は、インフレターゲット2%を大きく上回ったと勘違いするかもしれない。その4月CPIが公表されるのは5月末。4月の追加緩和期待で金融機関などの債券ポジションがかなりロングに傾き、5月中旬に1−3月期の強いGDPが公表された後である。債券市場が昨年5月下旬のような荒れ相場にならなければ良いのだが・・・。

【消費増税を受けた国民の反応】

 消費増税後の安倍政権に対する国民の支持率、さらには日銀の「生活意識に関するアンケート調査」の結果も注目される。筆者を含めエコノミストの多くは、長らく減少を続けてきた所定内給与も4月になればようやく増加に転じると見ている。とはいえ、消費増税による物価上昇をすべてカバーするほど賃金が上がるかと言えば、それは厳しい。雇用者報酬は実質ベースで減少することになる。そうした中で政府に対する支持率がどうなるのか。構造改革の断行や15年10月の2回目の消費増税のためにも支持率低下は避けたいのが本音だろう。当然、14年度補正予算という流れになってくると思われる。

 もう一つ、筆者は「生活意識に関するアンケート調査」にも注目している。久々に経験する明確なインフレに対して国民がどのような反応を示すのか。「暮らし向きD.I.」は「ゆとりがなくなってきた」という回答比率が高まることによって大きく低下し、「物価上昇・下落についての感想」も「どちらかと言えば、困ったことだ」が大幅に増える可能性が高い。いったい何パーセントの物価上昇率が国民にとって望ましいのか、改めて考える機会になることを期待したい。

【輸出の回復ペースが高まらないリスク】

 かねてより「わが国の貿易構造は2つの点で構造変化を起こしている可能性が高い」と指摘してきた。一つはIT関連を中心とする現地生産化と国際競争力の低下、もう一つは原発稼働停止に伴う素原料輸入の拡大である。前者はリーマン・ショック後、後者は東日本大震災後、ともに貿易収支の赤字要因として顕現化した。こうした構造変化は、円安や海外景気の拡大による輸出拡大効果を弱め、円安による消費者物価の押し上げ効果を強めている可能性がある。

 今後詳しい分析を進めて行く必要はあるが、実際、昨年の輸出の増え方を見ると、為替が急速に円安になった割に緩やかだった。それが構造的な変化によるものであるならば、今後も輸出の回復ペースはなかなか上がって行かないことになる。上述したESPフォーキャストでは、14年度実質成長率を0.8%と見通しているが、そのうち0.5%が外需の寄与度だ。市場は外需に過度な期待を寄せていないだろうか。貿易収支の今後の動向も注目される。

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