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医療

新型コロナ、ピークアウトか 抗体検査が示す再流行の危険性

九州大学教授 馬場園明

2020/06/03

新型コロナ、ピークアウトか 抗体検査が示す再流行の危険性

 世界を震撼させる新型コロナウイルス。日本国内の新規感染者数は4月11日に720人に達したが、それをピークに減少に転じ、6月1日時点で37人まで減少している。【1】 日本国内の累計感染者数1万6884人、死亡者数892人は、米国(感染者181万1360人、死亡者数10万5165人)や英国(感染者数27万7736人、死亡者数3万9127人)などに比べて少なく、日本の感染対策は一定の成果を上げているといえる。日本の新型コロナ対策を振り返り、今後の対策の在り方を考えたい。

 日本政府の新型コロナウイルス感染症対策への積極的介入は、安倍晋三首相が2月27日、全国の小・中学校などに臨時休校を要請したことによって始まった。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は3月9日、①患者クラスター(集団)の早期発見・早期対応②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保③市民の行動変容――を対策の柱とし、国民に「密閉空間」「密集場所」「密接場面」を避けよう呼びかけた。【3】

 専門家会議は3月17日、入国を拒否する地域からの帰国者にPCR 検査を実施し、陽性者を隔離対象にするとともに、欧州、東南アジアからの帰国者については、検査結果にかかわらす、自宅や宿泊施設で2週間の待機を要請すると発表。【4】「爆発的に感染が拡大するオーバーシュートが起きれば、医療供給体制が崩壊に陥り、通常であれば救済できる生命を救済できない事態になりかねない」と医療崩壊の可能性に言及した。

  日本国内の新規感染者数は3月31日以降、200人を超えて推移し、日本政府は4月7日、埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、新型コロナ感染対策は新しい局面に入った。在宅勤務の奨励や人と人の接触を8割削減する取り組みが始まり、4月16日、緊急事態宣言の対象地域は7都道府県から全都道府県に拡大された。

 専門家会議が発表する全国の新規感染者数のデータを見ると、4月に入ってから新規感染者数は減少傾向に転じており、新型コロナ感染対策が一定の成果を上げている様子が窺える。1人の感染者が感染期間中、集団においてウイルスを他人に感染させる平均人数を示す実効再生産数も、新規感染者数と同じく、4月に入ってから1.0を下回り、新型コロナが収束に向かう方向性を示した。(図1)

 

図1 新規感染者数(棒グラフ)と実効再生産数(折れ線グラフ)

 

 新型コロナ感染症が重症化して、人工呼吸器を使用する患者数、ECMO(体外式膜型人工肺)を使用する患者数は5月以降、いずれも減少傾向に転じている。(図2、3)日本政府が緊急事態宣言を発令した背景には、新規感染者数を減少させることで、重症患者の発生を減らし、患者に必要な医療サービスが提供できなくなる医療崩壊を防止する狙いがある。重症患者を減らし、医療崩壊を防止するという狙いは今のところ達成できている。

 

     図2 人工呼吸器を装着する患者数          図3 ECMO装着数

(出所)新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

 

 専門家会議は5月14日、緊急事態宣言の解除については、①感染の状況②医療提供体制③検査体制の構築――の3点を総合的に判断すると表明した。【5】感染の状況については、「直近1週間の新規感染者の報告数が前週の報告数を下回る」「直近1週間の10万人あたり累積新規感染者数が0.5人未満程度」という具体的な数値を示し、医療提供体制については、「重症者数が減少傾向であり、医療提供体制が逼迫していない」「今後の患者急増に対応可能な体制の確保」、検査体制については、都道府県別のPCR検査の動向という基準を示した。

 日本政府は緊急事態宣言の対象地域を5月14日から段階的に縮小し、5月25日に全面解除した。図1~3を見ると、新規感染者数のピークは3月下旬。一方、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使用する重症患者数のピークは4月下旬。この間、1カ月のタイムラグがあり、5月の連休前の時点では重症患者数の動向は見極められなかった。5月中旬以降、重症患者の減少を確認してから、緊急事態宣言を徐々に解除していったのは、医療崩壊を防ぐ点で好判断だったといえる。

  新規感染者数が落ち着きを見せ、緊急事態宣言は解除されたが、まだ予断を許さない。当初のシナリオでは、時間が経過すれば、新型コロナに軽度感染して集団免疫に必要な割合に達し、病気の蔓延は終息するとも考えられていた。【5】ところが、3~4月に始まった抗体検査によれば、国民のほとんどが新型コロナの抗体を得られておらず、集団免疫に必要な割合には程遠いことが分かった。

 一方、ワクチン開発には年単位の時間がかかり、国民全体の接種を終えるまでしばらく時間がかかる。以前より落ち着きを見せたとはいえ、集団免疫ができず、ワクチンが完成していない状況では、今後も再流行のリスクを抱えていると考えなくてはならない。我々は好むと好まざるを得ず、当面、新型コロナと共存していかざるを得ない。

 ただ、国民は感染を恐れるあまり、社会活動を極端に制限しており、このまま新型コロナと共存していくことは難しい。専門家会議はクラスター対策の強化、病原体検査体制の整備、医療提供体制の確保、医薬品の開発促進を今後の対策として強く求めているが、国民の社会活動に元に戻していくためには、「マスク」「手洗い」「3密を避ける」といった予防策の効果をデータで示し、効果的な感染対策を周知していくことも必要だろう。【7】

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】厚生労働省、新型コロナウイルス感染症の概要、2020年2月7日。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解、2020年2月24日

【2】北海道は2 月28 日、緊急事態宣言を発令し、週末の外出自粛、イベントの開催自粛、学校の休校要請を行い、一定の予防効果が認められた。北海道内の感染者数はその後、増加したが、自粛要請の有効性を周知する機会になった。

【3】新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、新型コロナウイルス感染症対策の見解 、2020年3月9日

【4】新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、専門家会議から厚生労働省への要望、2020年3月17日

【5】Patsarin Rodpothong and Prasert Auewarakul, Viral evolution and transmission effectiveness, World J Virol. 2012 Oct 12; 1(5): 131–134.

【6】集団免疫に必要な割合は基本再生産数から計算し、SARS(重症急性呼吸器症候群)で50~80%と推定されている。Wallinga, J; Teunis, P, “Different epidemic curves for severe acute respiratory syndrome reveal similar impacts of control measures”. American Journal of Epidemiology 160 (6): 509–16.

【7】新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言、2022 年5 月14 日

 

(写真:AFP/アフロ)

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