
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。日本国内の新規感染者数は11月11日以降、1000人を超えて推移し、22日に過去最多の2514人になった。政府に新型コロナ対策を助言する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、「感染拡大のスピードが増しており、このまま放置すれば、急速な感染拡大にいたる可能性がある」との見解を示す。
日本国内の新規感染者数の推移をみると、3~5月に発生した第1波は6月に入って一旦、収束。6~8月に発生した第2波は収束する前に第3波へと移行した。(図1) 第3波では、新規感染者の半数以上を40歳以上の中高年が占めており、20代、30代の若年者が中心だった第1波、第2波と異なり、今後、重症患者が増えるのではないかと懸念される。【1】

例年、11月から季節性インフルエンザが流行する。今年は、新型コロナ対策の効果でインフルエンザの発生数は少なくなるとの見方もあるが、今後の感染症の動向を推測するため、インフルエンザと同等とされる第五類感染症のうち発生頻度が高い感染症について、国立感染症研究所が定点とする医療機関における発生数を過去5年間、週次で比較した。【3】
まず冬季に流行する感染症の代表例であるインフルエンザの発生数を図に示す。(図2)インフルエンザは年齢に関係なく発生し、その感染経路は飛沫感染と接触感染とされる。2020年のインフルエンザの発生数は、2016~2019年の発生数に比べて第1週から少なかったうえに、第11週以降は、ほとんど発生していない様子がみてとれる。

具体的には、国立感染症研究所が定点とする1医療機関あたりのインフルエンザ発生数は、第41週(10/5-11)0.00、第42週(10/12-18)0.00、第43週(10/19-25)0.01、第44週(10/26-11/1)0.01、第45週(11/2-8)0.00だった。一方、2019年の同じ時期は、第41週0.90、第42週0.72、第43週0.80、第44週0.95、第45週1.03であり、2020年は2019年に比べて明らかに少ない。
次にインフルエンザと同じ冬季の感染症の代表例である感染性胃腸炎の発生数を図に示した。(図3)感染性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルスが引き起こす胃腸炎で乳幼児や高齢者に多く発生する。その感染経路は主に接触感染とされる。こちらも第4週をピークに減少に転じ、その後も2016~2019年に比べて低位に推移している。

今年は新型コロナ対策で3月2日から全国の小中高校、特別支援学校が臨時休校とされ、4月7日には東京、大阪、福岡など7都府県に緊急事態宣言が発令され、外出自粛が要請された。次に、臨時休校や外出自粛の影響が少なかったと考えられる夏季に流行する手足口病とヘルプアンギーナの発生数を図に示す。(図4、図5)これらは幼児や小児に発生する感染症で、今年の発生数は例年に比べて少なかった。


次に季節に関係なく発生する感染症をみる。まずA群溶結血性連鎖球菌咽頭炎は、主に夏季と冬季に発生する感染症で、感染経路は接触感染とされる。2020年のA群溶結血性連鎖球菌咽頭炎の発生数は第9週まで2016~2019年より高いか、ほぼ同水準で推移していたが、第10週以降は週を追うごとに発生数が急減していったことがわかる。(図6)

次いで、水痘と流行性角結膜炎をみる。水痘は12月から7月にかけて小児に流行する感染症で、感染経路は飛沫感染、空気感染、接触感染とされている。これも第11週をピークに減少に転じ、第12週以降は一貫して低位で推移する。(図7)流行性角結膜炎は季節を問わず全世代に発生する感染症で、感染経路は接触感染とされる。こちらも第10週以降は発生数が例年に比べて極端に少ない。(図8)


これらの感染症の発生パターンは三つに分類できる。第一は、3月2日の小中高校、特別支援学校の臨時休校前にすでに発生が減少していた感染症(インフルエンザ、感染性胃腸炎)。第二は、臨時休校後に発生が急減した感染症(A群溶血性連鎖球菌咽頭炎、水痘、流行性角結膜炎)。第三は、1年間を通じて発生がほとんど認められなかった感染症(手足口病、ヘルプアンギーナ)である。
水痘に代表される小児に流行する感染症は小中高校、特別支援学校の臨時休校(3月2日は第10週)で発生数が減少したのは当然といえるが、学校再開後も増加していないのは、新型コロナ対策の効果と考えられる。また、東京、大阪、福岡など7都府県に非常事態宣言が発令された4月7日(第15週)には、いずれの感染症も発生数がすでに低位に落ち着いており、その影響は検討できなかった。
例年、オーストラリアでは6~8月にかけて1週間あたり1万~2万件のインフルエンザ患者が発生するが、2020年のインフルエンザ患者は例年に比べて極端に少なかった。オーストラリアでは、3月上旬から新型コロナの感染拡大が発生。政府が3月18日に非常事態宣言を発令し、国民に外出制限の措置を取ったことも、インフルエンザの流行抑制に寄与したとみられる。【5】
ここにきて社会の関心が高まっている新型コロナ感染症とインフルエンザの同時流行の可能性を検討するには、南半球に位置するオーストラリアの経験が参考になる。冬季に流行するインフルエンザは、オーストラリアでは6月から8月にかけての時期が発生のピークにあたる。2015~2020年のオーストラリアのインフルエンザの発生数を図に示した。【4】(図9)

オーストラリアは、外出制限措置の効果が出た第12週(3月の最終週)には、インフルエンザ発生数が減少に転じた。非常事態宣言の発令後、手洗いの徹底やソーシャルディスタンスの確保などの新型コロナ対策が定着し、インフルエンザの流行を抑制できたと考えられる。7月以降、新型コロナの第2波も発生しているが、その後、収束している。
一方、日本国内においては新型コロナ感染症の第3波が発生したと考えられる。新型コロナは、これまでみてきた第五類感染症とは異なり、感染制御は困難である。最近になり、新型コロナ感染症を重症急性呼吸器症候群(SARS)や鳥インフルエンザ(H5N1)と同等の第二類相当からインフルエンザなどと同じ第五類相当の運用にしようという動きも出ていたが、現実的ではないだろう。【6】
新型コロナ感染症とインフルエンザは同じ感染経路で発症する呼吸器感染症でありながら感染制御の効果に違いが出るのは、新型コロナ感染症には無症状の感染者が多く、感染の自覚がないまま他者に感染させてしまうケースがあるためと思われる。一方、インフルエンザは感染者に自覚症状があり、他者に感染させない抑止行動を取りやすいこともある。
新型コロナ感染症の感染制御は困難であり、ファイザーなど製薬大手が開発を進めるワクチンも効果の持続性や副作用の検証に時間がかかる。しかし、オーストラリアの状況をみる限り、「マスク着用」「手洗い励行」「三密排除」などの感染症対策には一定の効果があり、これらを徹底すれば、新型コロナ感染症とインフルエンザの同時流行は避けられる可能性が高い。
ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。
【1】厚生労働省、新型コロナウイルス感染症について
【2】厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部、次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について
【3】国立感染症研究所、感染症発生動向調査週報 (IDWR)
【4】Australian Government, Department of Health, Australian Influenza Surveillance Report, No. 10, 2020, 10 to 23 August 2020
【5】The Prime Minister, the Hon. Scott Morrison MP, announced new measures and restrictions to protect the Australian community from the spread of coronavirus (COVID-19) on 18 March 2020.
【6】厚生労働省、新型コロナウイルス感染症の感染症法の運用の見直しについて、2020年9月25日
(写真:AFP/アフロ)
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