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医療

新型コロナ感染症、病床ひっ迫の本質的理由

九州大学教授 馬場園明

2021/02/03

新型コロナ感染症、病床ひっ迫の本質的理由

 新型コロナウイルス感染症の第3波到来を受けて、政府は1月8日から東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県を対象に再び緊急事態宣言を発令。同月14日から栃木、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を追加し、緊急事態宣言の対象地域を合計11都府県に拡大した。

 厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、緊急事態宣言の対象地域とは別に、①人口10万人あたりの感染者数②感染者数の前週比③コロナ患者専用病床の使用率④人口10万人あたりの療養者数⑤PCR検査の陽性率⑥感染経路不明者の割合――の6つの指標により、全国47都道府県の感染状況を4段階に区分する。

 感染状況のステージ1は「感染者の散発的発生」、ステージ2は「感染者の漸増」、ステージ3は「感染者の急増」、ステージ4は「爆発的な感染拡大」とされている。現時点では、東京、神奈川、千葉、栃木、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の9都府県がステージ4に指定されており、医療機関の病床はひっ迫している。

 人口100万人あたりの感染者数は、アメリカ=7万9544人、イギリス=5万7139人、フランス=4万7219人、ドイツ=2万6758人といずれも1万人を大きく上回るが、日本は3077人。感染者数が桁違いに少ない日本が医療崩壊に直面するのは、なぜだろうか。

 日本の病床がひっ迫する理由としては、新型コロナ感染症の患者を受け入れない医療機関が多いことも挙げられる。新型コロナ患者の受け入れにより、患者クラスターや感染者、濃厚接触者が発生し、病院全体を閉鎖しなければならなくなるリスクを避けるためだ。

 日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の調査によれば、2020年4~9月に新型コロナ患者を受け入れた医療機関(受け入れ準備中を含む)の割合は30%強、受け入れていない医療機関は70%弱だった。(図1)患者を受け入れた医療機関の割合に変動がないのは、患者を受け入れるか否か方針を定めていたからと考えられる。【1】

 もっとも、人口千人あたりの総病床数は、イギリス=2.6床、アメリカ=2.8床、フランス=6.1床、ドイツ=8.1床に対して、日本は13.1床。日本はイギリスに比べて5倍以上の病床がある。(図2)日本の病床がひっ迫するのは、新型コロナ患者を受け入れない医療機関が多いことが主原因とは言えない。

 日本はもともと1病床あたりの医師数、看護師数が少ないうえに、24時間体制でスタッフが必要な人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を装着する新型コロナ患者を受け入れることにより、医療機関の人手が足りなくなっていることが、より大きな理由である。

 経済協力開発機構(OECD)によれば、100病床あたりの医師数は、イギリス=108.1人、アメリカ=92.1人、ドイツ=51.9人、フランス=51.8人に対して、日本は18.1人にとどまる。【2】 人口千人あたりの医師数は各国とほぼ変わらないが、100病床あたりの医師数には2.9~6.0倍の開きがある。(図3、図4)

 同じく100病床あたりの看護師数は、アメリカ=403.8人、イギリス=306.0人、フランス=168.6人、ドイツ=159.4人に対して、日本は86.5人と極端に少ない。これをみると、日本は病床数が多過ぎて医師、看護師が分散するため、重症患者の受け入れが難しいことがわかる。(図3)

 日本では1973年に老人医療無償化が導入され、自宅で生活できなくなった高齢者の社会的入院が広がった。高齢者の社会的入院を受け入れるため、医療機関の病床を増やすとともに、医療現場では患者の回復を促す積極的な治療よりも密度の低い医療の割合が相対的に高まっていった。

 日本の医療密度が低い現状を端的に示すのが、医療法の人員配置基準である。(表1)一般病床で「医師16:1」「看護職員3:1」は、16床に医師1人、3床に看護師1人を配置しなければならないという基準を指す。1日の労働時間は8時間であり、土日も考慮すれば、48床に医師1人、9床に看護師1人未満の体制で診療が行われることになる。【3】

 診療報酬の施設基準では、新型コロナ患者の多くが入院するICU(集中治療室)は2床に看護師1人、ハイケアユニットは4床ないし5床に看護師1人が必要となるが、呼吸不全に陥った重症患者のケアには、これ以上の人員が必要だろう。ECMOを使えば、医師、看護師、臨床工学士が常時必要で呼吸管理に熟達したスタッフが1日に最低9人必要になる。

 しかも、新型コロナ患者を受け入れる医療機関では、新型コロナ患者だけでなく、一般患者、スタッフの感染症対策にも対応しなければならない。新型コロナ感染症に加えて、がん、心臓病、脳卒中など生命にかかわる重篤な疾患も診療しなければならず、スタッフが疲弊し、病床がひっ迫していくのは当然である。

 政府は、医療機関に患者受け入れを勧告できるように感染症法を改正する方針である。ただ、新型コロナ患者を受け入れていない医療機関は、そもそも呼吸器の専門医がいなかったり、感染症対策を行うスタッフが不足していたりする施設も多い。政府が患者受け入れを強制しても、医療現場で適切な治療が行われない危険性がある。

 新型コロナによる医療崩壊を防ぐためには、専門的な感染症管理、呼吸管理ができる医療機関に中等・重症患者の集中化を図る必要がある。分散している専門医やICU病床を集中し、専門医療機関の重点化を図れば、救急車で運ばれてくる重症患者を受け入れる確率を高めることができる

 軽症者、無症状者についても高齢者や基礎疾患のある患者は症状急変の可能性があり、入院措置が望ましい。新型コロナ患者の病室では、防護服に身を包んだ看護師が身の回りの世話や病室の掃除も担う。新型コロナ感染症にかかわる診療報酬を引き上げ、スタッフの労力やリスクへの還元を図る必要もあるだろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】  一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会では、新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況、 2020度第1四半期、2020度第2四半期

【2】  OECD Health Statistics 2018

【3】医療法21条第1項、第2項

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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