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医療

新型コロナワクチン、特例承認に求められる事後検証

九州大学教授 馬場園明

2021/03/03

新型コロナワクチン、特例承認に求められる事後検証

 厚生労働省は2月14日、ファイザーとビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチン「コミナティ」を特例承認し、同月17日から日本国内における新型コロナワクチン接種を開始した。ファイザーの承認申請は昨年12月18日。同ワクチンは58日間という異例のスピードで承認されたことになる。

 「特例承認」は、海外で使用されている医薬品について日本国内の承認審査を短縮する特例的な承認である。ファイザー日本法人は昨年12月、厚労省に対して海外の大規模治験データを提出。続いて、今年1月に国内の治験データを提出し、短期間での特例承認に漕ぎ着けた。

 厚労省が新型コロナウイルスワクチン「コミナティ」を特例承認した背景には、ファイザー、ビオンテックが12月末までに1億4400万回分(7200万人分)のワクチンを日本政府に供給すると契約していることも一因にある。日本は新型コロナワクチン接種で諸外国に後れを取っており、同ワクチンの特例承認で諸外国の後を追う。

 ただ、特例承認は承認審査を短縮した特例的な承認であるだけに、事後の継続的な検証が欠かせない。本稿では、厚労省が特例承認の審議結果として公表した新型コロナワクチン「コミナティ」の治験データを基に、今後、どのような検証がなされるべきかを検討する。【1】【2】

 ファイザー、ビオンテックが提出した治験データの中で厚労省が最も重視したのが、アメリカ、ドイツ、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカで実施した大規模治験データである。【3】 厚労省が公表した審議結果に掲載されている治験データに、筆者が平均追跡期間(年)と平均追跡期間(日)、発生率を追加したものが、表1である。

 平均追跡期間(年)は、総追跡期間(1000人×1年間)を解析対象となった人数で除した数値である。そして、平均追跡期間(日)は、平均追跡期間(年)に365を乗じた数値である。この治験では、本物のワクチンを接種したかどうか、新型コロナに感染しているかどうかにかかわらず、40.06日~44.41日しか追跡していないことが分かる。

 新型コロナウイルス感染症は発症後、約2週間で感染者の8割、発症後、約3週間でほぼ全員にウイルスに対する抗体ができるが、抗体の効果は徐々に低下することが分かっている。【4】 新型コロナ感染症の発症を予防するワクチン有効率は40日以降も維持されるというが、実際に追跡してみなければ分からない。

 新型コロナ感染症の日本国内における発症率、重症化率、死亡率はいずれも諸外国に比べて低い水準にあり、その効果を定量分析するためには、100万人以上の「接種群」と「非接種群」を最低1年間は追跡する必要がある。そのためには、日本国内のワクチン被接種者全員を登録、追跡する医療情報システムを構築する必要もある。

 厚労省は、新型コロナワクチンの有効性のもう一つの根拠として、国内治験におけるワクチン接種群とプラセボ(偽薬)接種群の治験者の血清中にある抗体の増加状況を挙げている。これは20~85歳の健康成人160人をワクチン接種者とプラセボ接種者に分け、2回目の接種から1カ月後の血清中の抗体の増加状況を調べたものである。(表2)

 国内の治験においても、海外の治験で得られたワクチン接種群の効果(血清幾何平均抗体価=316.1、血清幾何平均上昇率=31.1)と同等以上の効果が確認できたとする。ただし、わずか1カ月間の追跡結果である。本当に抗体が維持できているかどうかを確認するためには、ワクチン有効率と同様、より長期の追跡が必要だろう。【7】【8】

 また、ワクチン接種でどれくらいの人に十分な抗体ができれば集団免疫効果がもたらされるかについても検証すべきだ。同じ感染症である麻疹の場合、社会構成員の約95%に十分な抗体ができれば、集団免疫効果がもたらされ、しかもワクチンを一度(2回)接種すれば長期間、抗体を維持できることが分かっている。【9】

 一方、新型コロナ感染症は、1人の感染者が平均何人に感染させるかを示す基本再生産数を基に推計すると、社会構成員の約7割に十分な抗体ができれば、集団免疫効果がもたらされると考えられている。【9】【10】 ただ、新型コロナ感染症はワクチンを一度(2回)接種すれば長期間、抗体が維持できるとは言い切れず、その検証も不可欠だ。

 新型コロナワクチンは、ワクチンの有効率や血清中の抗体が長期間、維持できるか確認できていないことには留意が必要だ。日本政府は今後、「誰に」「どのワクチンを」「どれくらいの頻度で」接種すべきか、国内外の感染状況を追跡しながら、政策決定の根拠を国民に示していくことが求められるだろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】厚生労働省、ファイザー社の新型コロナワクチンについて

【2】厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課、審議結果報告書、2021年2月12日

【3】Polack FP, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med, 2020.doi:10.1056/NEJMoa2034577

【4】Quan-Xin Long et, al. Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients with COVID-19, Nat Med. 2020 Jun;26(6):845-848.

【5】時事通信、コロナ死亡例98.9%減少 ファイザー製2度接種で

【6】ロイター、ファイザー製ワクチン、1回で85%の予防効果

【7】横浜市立大学、新型コロナウイルス感染症回復者のほとんどが、6か月後も抗ウイルス抗体および中和抗体を保有していることが明らかに

【8】Wajnberg A, et al, Robust neutralizing antibodies to SARS-CoV-2 infection persist for months, Science , 370, 1227-1230, 2020.

【9】世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)における麻疹対策

【10】Fontanet A,Cauchemez S.COVID-19 herd immunity: where are we? Nature Reviews. Immunology 20 (10): 583–584, 2020.

【11】Randolph HE, Barreiro LB. Herd Immunity: Understanding COVID-19. Immunity 52 (5): 737–741, 2020.

(写真:AFP/アフロ)

 

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