一覧へ戻る
医療

新型コロナワクチンとアナフィラキシー

九州大学教授 馬場園明

2021/03/24

新型コロナワクチンとアナフィラキシー

 日本国内でファイザーとビオンテックが共同開発した新型コロナワクチン「コミナティ」の接種が2月17日から始まった。新型コロナワクチンの接種が進むにつれ、重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーが多発。新型コロナ対策の切り札と期待していた医療現場では困惑の声が広がっている。

 3月11日現在、医師や看護師など医療従事者約18万人へワクチンを接種し、アナフィラキシーが発生した被接種者は37人だった。この数字を100万件あたりのアナフィラキシー発生数に換算すると204.0件になり、イギリス=18.6件、アメリカ=11.1件に比べて著しく多い。【1】

 厚生労働省は3月12日、新型コロナ対策の専門部会を招集し、新型コロナワクチンによるアナフィラキシー発生状況を検証。同部会はアナフィラキシーが発生した被接種者17人のうち、国際基準でアナフィラキシーに該当するのは7人であり、「現時点ではワクチンの安全性に重大な懸念はない」と発表した。【1】【2】

 専門部会の説明によれば、「報告があった17人のうち10人は日本基準では該当するが、国際基準では該当しない」という。これは、日本アレルギー学会の基準と専門部会が国際基準と呼ぶブライトン分類のレベル1~3の基準に若干の違いがあることに起因する。【3】【4】

 専門部会がこれらの17症例をブライトン基準で判定したところ、アナフィラキシーには該当しないレベル4~5が10例あり、アナフィラキシーと診断されるレベル1~3は7例だったという。【2】 ただ、アナフィラキシーと判定されなかった10例にも明確なアレルギー反応が発生しており、日本アレルギー学会の基準に基づいた報告が間違った診断とは言えない。

 日本国内のアナフィラキシー症例は女性の方が多いという特徴がある。新型コロナワクチン「コミナティ」には化粧品や医薬品の添加物として使われる分子化合物、ポリエチレングリコール(PEG)が含まれており、女性の医療従事者はワクチン接種以前にPEGの刺激でアレルギー反応が強くなっていた可能性がある。

 これまでのアナフィラキシー症例は、アナフィラキシー治療薬、エピネフリン(エピペン)を注射することで対処できたようだが、アメリカでは気道が閉塞して気管内挿管が必要になった症例もあり、気管内挿管が難しい学校の体育館や小規模診療所でワクチンを接種することが適切かどうかといった議論も必要だろう。【5】

 また、日本国内では接種の始まっていないアストロゼネカ製ワクチンについては、当初、アナフィラキシー症状は起きないとされていたが、欧州医薬品庁(EMA)は3月12日、イギリスにおける約500万件のワクチン接種で41件のアナフィラキシーが確認されたとして、製品情報にアナフィラキシーを追加するよう勧告した。【6】

 さらに、アストロゼネカ製ワクチンについては被接種者に血栓症、脳卒中、皮下出血が発生していたことも明らかになり、現在、ドイツ、フランス、イタリアはアストラゼネカ製ワクチンの接種を中断している。【7】 これらの症状はファイザー製にはなく、アストラゼネカ製に特有の症状であることにも注意が必要である。【8】

 欧州医薬品庁(EMA)は3月18日、アストラゼネカ製ワクチンについて、血栓症、脳卒中、皮下出血の報告事例について調査した結果、「ワクチンのメリットがリスクを上回る」という結論に至ったと表明したが、ワクチンの効果は、当該国における新型コロナ感染症の重症化確率、死亡確率に左右されることも考慮する必要がある。

 筆者が政策ブログ『新型コロナワクチン、特例承認に求められる事後検証』で指摘したように、新型コロナワクチンの予防効果・副反応については海外における大規模治験でも接種後、約40日しか追跡できておらず、現時点で新型コロナワクチンと副反応の因果関係を明らかにすることは困難である。

 新型コロナワクチンに「効果があるかどうか」「副反応があるかどうか」を定量的に判断するためには、ワクチン接種群とワクチン被接種群を最低1年間、追跡し、新型コロナ感染症、アナフィラキシー、循環器疾患、悪性腫瘍、神経障害、死亡などの発生状況を両者で比較し、ワクチン接種と症状の因果関係を検証しなければならない。

 具体的には、ワクチン接種群と被接種群の性別、年齢、基礎疾患を補正して新型コロナ感染症の発症率や副反応の発生率を比較する。また、ファイザー製投与群、モデルナ製投与群、アストラゼネカ製投与群についてワクチン投与群同士の新型コロナ感染症の発症率や副反応の発生率を比較すべきだろう。

 こうしたワクチン接種群と被接種群の比較、ワクチン投与群同士の比較を通じて、新型コロナワクチンの予防効果や副反応のリスク、費用対効果が明らかになってくるのである。そして、こうしたデータに基づき「誰に」「どのワクチンを」「どの位の頻度で」接種するのか。日本政府には、その根拠を示すことが求められるだろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】厚生労働省、国内でのアナフィラキシーの発生状況について

【2】厚生労働省、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして報告された事例の概要

【3】日本アレルギー学会、アナフィラキシーガイドライン

【4】Rüggeberg JU et al. Brighton Collaboration Anaphylaxis Working Group. Anaphylaxis: case definition and guidelines for data collection, analysis, and presentation of immunization safety data. Vaccine. 2007 Aug 1;25(31):5675-84.Epub 2007 Mar 12.

【5】Shimabukuro T, Nair N, Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine, JAMA, 2021 Feb 23;325(8):780-781. doi: 10.1001/jama.2021.0600.

【6】時事通信、副反応にアナフィラキシー明記 アストラ製ワクチン―EU当局が勧告、2021年3月13日

【7】AFP、アストラゼネカ製コロナワクチン接種後に血栓や脳出血、2021年3月14日

【8】ロイター、英アストラゼネカ、ワクチンと血栓の因果関係示す「証拠なし」、 2021年3月14日

(写真:AFP/アフロ)

 

バックナンバー

2021/10/20

新型コロナワクチン、ブースター接種の必要性

九州大学教授 馬場園明

2021/10/13

フリーランス医師を考える

中央大学教授 真野俊樹

2021/10/06

新型コロナワクチン、小児接種のメリットとデメリット

九州大学教授 馬場園明

2021/09/15

オンライン診療と過疎地医療

中央大学教授 真野俊樹

2021/09/08

新型コロナワクチン、ファイザーとモデルナを比較する

九州大学教授 馬場園明

2021/08/25

新型コロナイルス、感染を左右する足し算と引き算

中央大学教授 真野俊樹

2021/08/18

新型コロナウイルスの後遺症

九州大学教授 馬場園明