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医療

新型コロナ対策 ファイザー製ワクチンの有効性とリスク

九州大学教授 馬場園明

2021/05/12

新型コロナ対策 ファイザー製ワクチンの有効性とリスク

 政府は4月25日、東京都、京都府、大阪府、兵庫県を対象に3度目の緊急事態宣言を発令。5月7日に愛知県、福岡県を加え、対象地域を6都府県に拡大した。一方、新型コロナ対策の切り札として、感染リスクが高い医療従事者や重症化リスクが大きい高齢者へ新型コロナワクチンの接種を急ぐ。

 日本政府は、米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカから新型コロナワクチンの供給を受ける契約を結んでおり、現在、ファイザー製ワクチンの接種が先行して始まっている。【1】 懸念される副反応(副作用)の発生状況については、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会と薬事・食品衛生審議会薬事分科会が定期的に公表している。

 まず厚生労働省研究班によるファイザー製ワクチン被接種者の健康調査に基づく軽症反応の発生状況を紹介する。【2】 この健康調査では、2009年に国産インフルエンザワクチンを医療関係者に接種した際の軽症反応の発生状況を参考情報として掲載しているので、それを含めてワクチンによる軽症反応の発生状況をまとめた。(表1)

 同調査によれば、ファイザー製ワクチンによる発熱、倦怠感など全身の軽症反応(全身症状)の発生率は1回目接種=35.8%、2回目接種=76.1%だった。疼痛やかゆみといった身体の一部における軽症反応(接種部位反応)の発生率は1回目接種=92.9%、2回目接種=92.0%だった。

 全身症状の発生率は1回目接種に比べて2回目接種が約2倍だった。この原因は、1回目接種でウイルスに対する免疫反応を引き起こす抗原を排除する抗体が一定数形成され、2回目接種で体内に抗原が入ってくると、強い免疫反応が起きるためと考えられる。

 年齢層別にみると、65歳以上の被接種者(511人)に発生した全身症状は発熱=9%、倦怠感=38%、頭痛=20%となり、65歳未満の被接種者(1万6865人)に比べて発生率が低くなる傾向にあった。これは体内の免疫機能が年齢とともに低下し、全身症状の発生率も低くなったものと考えられる。

 参考情報として掲載されているインフルエンザワクチンの接種では、皮膚が赤くなる(発赤)、はれ(腫脹)、熱っぽさ(熱感)といった身体の一部における接種部位反応の発生率が比較的高かった。これは接種方法が皮下接種であるため、皮下組織における免疫反応が強く出たものと考えられる。

 次に新型コロナワクチンの接種が始まった2月17日から4月18日までに全国の医療機関から報告があった重篤な副反応(副作用)の発生状況を紹介する。【3】 新型コロナワクチン接種後の死亡件数とアナフィラキシー発生件数を日本、アメリカ、イギリスの3カ国で比較した。(表2)

 もっとも、日本は新型コロナウイルスの発症率そのものが諸外国に比べて低く、ワクチンを10万人に接種して発症予防できる人数は1回接種=23.1人、2回接種=34.5人にとどまる。観察期間が長くなれば、発症予防できる人数は増えるが、抗体の効力も低下していくと考えられる。

 ワクチン接種で先行するアメリカでは、ワクチンを接種した約7700万人のうち約5800人がウイルスに感染。396人は入院が必要とされ、74人が死亡した。【6】 現状、ワクチンは完全な発症予防策とはなりえず、ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は、「ワクチンは毎年接種が必要になる可能性がある」と注意を促す。【7】

 新型コロナワクチンは、インフルエンザワクチンなどと同様、最悪の場合、死に至る副反応(副作用)の可能性を完全に排除することはできない。こうしたマイナスの効果があるにもかかわらず、治療法が確立されていない現状においては、ワクチンが人類の希望であることに変わりはない。

 政府は、新型コロナワクチンに内在する危険性に十分配慮しつつ、「新型コロナウイルスに対する集団免疫は形成されているか」「新しい変異株に有効であるか」「深刻な副反応(副作用)は起きていないか」などについて慎重にモニタリングしていく必要があるだろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】Polack FP, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med, 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2034577

【2】令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金、新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)、2021年4月23日

【3】厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、副反応疑い報告の状況について、2021年4月23日

【4】Rüggeberg JU et al. Brighton Collaboration Anaphylaxis Working Group. Anaphylaxis: case definition and guidelines for data collection, analysis, and presentation of immunization safety data. Vaccine. 2007 Aug 1;25(31):5675-84.Epub 2007 Mar 12.

【5】厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、予防接種法に基づく医療機関からの副反応疑い報告状況について、2021年4月23日

【6】CNN、ワクチン接種完了後も5800人が感染 米CDC発表、2021年4月15日

【7】AFP、コロナワクチン接種後1年以内に3回目必要か ファイザーCEO、2021年4月16日

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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