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医療

新型コロナ対策 モデルナ製ワクチンの可能性

九州大学教授 馬場園明

2021/05/26

新型コロナ対策 モデルナ製ワクチンの可能性

 イギリス型変異株の感染者が急増する新型コロナウイルス。日本政府は5月14日、東京、京都、大阪、兵庫、愛知、福岡の6都府県に加えて、新たに北海道、岡山県、広島県に対して緊急事態宣言を発令。これまで5月31日までとしていた期間を6月20日まで再延長する方向で調整する。

 菅義偉首相は、新型コロナ対策の切り札として65歳以上の高齢者へのワクチン接種を7月末までに完了したい意向という。政府は5月24日から自衛隊が運営する「大規模接種センター」を東京都と大阪府に設置、市区町村が進める高齢者向けワクチン接種の早期完了を後押しする。【1】

 この「大規模接種センター」で接種されるのが、米モデルナ製の新型コロナワクチンだ。厚生労働省は5月20日、新型コロナ感染症への緊急対応としてモデルナ製ワクチンについて通常より簡略化した手続きで特例承認した。モデルナ製ワクチンに死角はないのか。本稿ではモデルナ製ワクチンの有効性とリスクを検証する。

 米モデルナ社は、ハーバード大学で幹細胞の研究をしていたデリック・ロッシ博士らが2010年に創業したバイオベンチャー。安全で効率的なワクチン製造方法を探った結果、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと呼ぶ、新しいワクチンの開発に至ったという。

 mRNAは、DNAの遺伝情報をコピーし、その遺伝情報に従って体内にタンパク質を生成するよう指示する。新型コロナウイルスの遺伝情報を持ったmRNAワクチンは無害な形でウイルスのタンパク質を生成し、これらのタンパク質が病原体を特定して破壊する獲得免疫を誘導する仕組みだ。

 ウイルスのmRNAワクチンは、ウイルスの遺伝情報が分かれば、どの感染症にも対応できる。病原体を弱毒化した弱毒化ワクチンや病原体の感染能力を失わせた不活化ワクチンに比べて、ワクチンの構造が単純という特徴がある。このため、mRNAワクチンは短期間で大量生産できる利点がある。

 まずモデルナ製ワクチンの臨床試験結果をみる。昨年、アメリカでボランティアを対象に実施した第Ⅲ相臨床試験によれば、モデルナ製ワクチンの予防確率は95.5%。年齢、性別、リスクの有無、人種に関係なく、ファイザー製ワクチン(91.0%)よりやや高い有効性が示された。(表1)【2】

 米国疾病対策予防センター(CDC)のモニタリング調査によれば、1回目接種後の身体の一部における軽症反応(接種部位副反応)の発生率は73.9%、身体全体の軽症反応(全身症状)の発生率は51.7%だった。そして、2回目接種後の接種部位副反応の発生率は81.9%、全身症状の発生率は74.8%だった。(表2)【3】

 同じmRNAワクチンであるファイザー製ワクチンと同様、モデルナ製ワクチンも1回目接種より2回目接種の方が軽症反応の発生率が高くなる。しかしながら、軽症反応の発生率は1回目接種、2回目接種にかかわらず、接種部位副反応、全身症状ともファイザー製よりモデルナ製の方が高かった。

 次にワクチン接種後のアナフィラキシーの発生状況をみる。CDCはブライトン基準でアナフィラキシーに該当する症例(アナフィラキシー)とアナフィラキシーには該当しないが、アナフィラキシーに準じた症例(非アナフィラキシー)の発生状況を公表している。(表3)【4】【5】

 政策ブログ『新型コロナワクチンとアナフィラキシー』に詳述したが、アナフィラキシーの国際基準とされるブライトン基準でアナフィラキシーに該当するには、アナフィラキシーに関するメジャー基準またはマイナー基準の症状が2つ以上の多臓器に発生していなければならない。(表4)【6】

 また、モデルナ製ワクチンの被接種者に確認された、ウイルスを中和する血清中和活性は感染回復者より強いとされる。【8】 さらに12~17歳の子供を対象にした臨床試験の初期報告によれば、1回接種の有効性が96%だった。【9】 こうした点もモデルナ製ワクチンの優れた点と言っていいだろう。

 新型コロナワクチンには、長期的な副反応(副作用)の懸念や新たな変異株への有効性の問題があるにせよ現時点では最も効果的な予防策である。大規模接種会場で短期間に効率的にワクチンを接種するモデルを作ることができれば、日本の新型コロナ対策は大きく前進する可能性がある。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】アメリカでは2020年12月から2021年1月11日までに2210万回分のワクチンが配布されたが、接種回数は670万回にとどまった。これはワクチン接種を小規模会場で行ったことにより、ワクチンを使いきれなかったり、欠席者対応が効率化できなかったりしたためで、大規模会場を設置してから接種回数は大幅に改善している。

【2】Baden LR, et al. S Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med, 2020. 2021 Feb 4;384(5):403-416.

【3】Chapin-BardalesJ, et al. Reactogenicity Following Receipt of mRNA-Based COVID-19 Vaccines. JAMA. 2021 Apr 5. doi: 10.1001/jama.2021.5374.

【4】CDC COVID-19 Response Team; Food and Drug Administration. Allergic reactions including anaphylaxis after receipt of the first dose of Moderna COVID-19 vaccine — United States, December 21, 2020–January 10, 2021.  MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021 Jan 29;70(4):125-129.

【5】CDC COVID-19 Response Team; Food and Drug Administration. Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine – United States, December 14-23, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021 Jan 15;70(2):46-51.

【6】Brighton Collaboration Anaphylaxis Working Group. Anaphylaxis: case definition and guidelines for data collection, analysis, and presentation of immunization safety data. Vaccine. 2007 Aug 1;25(31):5675-84.Epub 2007 Mar 12.

【7】アレルギー反応時などに肥満細胞から放出される蛋白分解酵素

【8】Edara VV, Neutralizing Antibodies Against SARS-CoV-2 Variants After Infection and Vaccination. JAMA. 2021 May 11;325(18):1896-1898.

【9】AFP、モデルナ製ワクチン、12〜17歳で有効性96% 治験結果、2021年5月7日

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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