
日本国内で新型コロナワクチン接種が始まった2月17日から半年が経過し、新型コロナワクチンの累計接種回数は1億3305万回になった。報道によれば、日本の総人口の47.1%、新型コロナ感染症の重症化が懸念される65歳以上人口の87.1 %がワクチンの2回接種を終えたという。【1】
ワクチンは第1相、第2相、第3相の臨床試験を経て認可される。第1相試験は少数の健康成人を対象に安全性を調べ、第2相試験は少数の患者を対象に有効性、安全性を調べる。そして、第3相試験で多数の患者を対象にワクチンの有効性、安全性をプラセボ(偽薬)と比較検討する。
厚生労働省が公表した海外の第3相試験結果によれば、新型コロナワクチンを規定通り2回接種した場合の感染予防効果はファイザー製ワクチン=95.0%、モデルナ製ワクチン=94.5%だった。もっとも、感染力の強い変異株の発生により、最近はワクチン2回接種を終えた人が感染してしまうブレイクスルー感染が増えている。
日本における新型コロナワクチン接種は、「自治体が行う接種」では主にファイザー製ワクチン、企業や大学が行う「職域接種」では主にモデルナ製ワクチンが使われている。ファイザー製、モデルナ製ワクチンはいずれも同種のmRNAワクチンだが、筆者も「どちらを接種したらよいか」とアドバイスを求められることが増えてきた。
新型コロナワクチンのデルタ株に対する感染予防効果については、政策ブログ『新型コロナワクチン、変異株への有効性』の中で、英スコットランドにおける大規模調査ではファイザー製ワクチン=79%、アストロゼネカ製ワクチン=60%だったという調査結果を紹介した。【4】
本稿では、ファイザーとモデルナの効果を比較した米メイヨー・クリニックなどのグループによる研究調査を紹介したい。本調査は、アメリカ中西部ミネソタ州の住民約7万7000人から年齢、性別、人種などが合致するワクチン接種者5589人と非接種者5589人を抽出し、発症率、入院率などを比較検討している。
まず2〜7月の新型コロナウイルス感染症の発症率をみる。2〜6月はワクチン非接種者の発症率が相対的に高く、ワクチン接種者の発症率は相対的に低く推移した。また、ファイザー接種者とモデルナ接種者の発症率の違いはほとんどみられなかった。(表1)

ところが、デルタ株による感染拡大が顕著になった7月はファイザー接種者とモデルナ接種者の発症率に違いがみられた。両者を比較すると、ファイザー接種者の発症率がモデルナ接種者の発症率よりも相対的に高かった。
次に、入院率をみる。発症率と同様、ワクチン非接種者の入院率はワクチン接種者の入院率に比べて相対的に高かった。この傾向はデルタ株による感染拡大があった7月についても変わらず、ファイザーとモデルナのワクチン接種が入院率の抑制に一定の効果があったことを示す。(表2)

次にミネソタ州、ウィスコンシン州、アリゾナ州、フロリダ州、アイオワ州のメイヨー・クリニック・ヘルス・システムの医療施設でファイザー、モデルナのワクチンを2回接種した人のブレイクスルー感染の発症率を比較する。
2〜6月のブレイクスルー感染の発症率は、ファイザー接種者の発症率がモデルナ接種者の発症率に比べてやや高いが、いずれも低位に抑えられていた。これが7月は両者の格差が拡大。ファイザー接種者の発症率はモデルナ接種者の発症率を大きく上回った。(表3)

一方、本調査により、ファイザー製、モデルナ製ワクチンのブレイクスルー感染が引き起こす合併症はほとんど発生しないことも明らかになった。発生率が0.5%を超えたのはファイザー=不整脈(0.62%)、モデルナ=貧血(0.52%)、不整脈(0.53%)、高血圧(0.62%)に過ぎず、重篤な合併症はほとんどなかった。(表4)

最後に、ブレイクスルー感染者の入院割合、死亡割合をみる。「21日間入院割合」「ICU入院割合」「28日間死亡割合」のいずれもファイザー接種者とモデルナ接種者の差は認められなかった。一般にICU(集中治療室)入院をもって重症とされており、両者の重症化率の差は認められなかったといえる。(表5)

本調査では、ファイザー、モデルナともデルタ株の感染が広がった7月は発症予防効果が低下した。この理由としては、「ワクチンを接種してから時間が経過して効果が下がった」「デルタ株への効果が弱かった」「その両方」が考えられる。一方、両者とも入院、重症化の予防効果は7月もあまり低下していない。
米バイデン政権は8月18日、ファイザー製、モデルナ製ワクチンを2回接種した18歳以上の成人に対して9月第4週からワクチンの3回目接種を開始すると発表。河野ワクチン接種担当相も米ファイザーと3回目接種の供給について合意したことを明らかにしている。【4】
日本国内においては現状、免疫力を強化するワクチン3回目接種が必須であることを示す根拠は認められないが、未知のウイルスである新型コロナウイルスに将来、何が起きるのか分からないのも事実である。感染力の強い変異株の感染動向を十分、注視しつつ、ワクチンの3回目接種に備えておく必要もあるだろう。【5】【6】【7】
ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。
【1】日本経済新聞、チャートで見る日本の接種状況 コロナワクチン
【2】Sheikh A, “SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness” The Lancet. 2021-06-14.
【3】Puranik A, et al, Comparison of two highly-effective mRNA vaccines for COVID‐19 during periods of Alpha and Delta variant prevalence, medRxiv. 2021 Aug 9;2021.08.06.21261707.
【4】内閣府、河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨、2021年8月17日
【5】Doria-Rose N, et al, Antibody Persistence through 6 Months after the Second Dose of mRNA-1273 Vaccine for Covid-19, N Engl J Med 2021 Jun 10;384(23):2259-2261.
【6】 Bergwerk M, et al, Covid-19 Breakthrough Infections in Vaccinated Health Care WorkersN Engl J Med, 2021 Jul 28;NEJMoa2109072.
【7】 Gazit S,et al, Comparing SARS-CoV-2 natural immunity to vaccine-induced immunity, medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.08.24.21262415.
(写真:AFP/アフロ)
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編集人 小林健一
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