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医療

新型コロナワクチン、小児接種のメリットとデメリット

九州大学教授 馬場園明

2021/10/06

新型コロナワクチン、小児接種のメリットとデメリット

 新型コロナワクチンの小児接種が世界各地で広がっている。日本政府は5月31日、12歳以上へのワクチン接種を承認、現在、小児を対象にしたワクチン接種を急ピッチで進めている。【1】 もっとも、ワクチン接種によって副反応(副作用)が発生するケースもあり、ワクチン接種に不安を抱く親子も少なくないようだ。

 新型コロナワクチンには感染予防や重症化予防の効果があるが、副反応(副作用)や合併症が起きるリスクをゼロにすることはできない。しかしながら、これまでの疫学的研究の蓄積により、ワクチン接種のメリットとデメリットを定量的に比較することは可能になってきた。

 米ファイザーは9月20日、5~11歳の小児を対象にした臨床試験で新型コロナワクチンの安全性と免疫反応が確認できたと発表した。【2】  ファイザーはこの臨床試験のデータを公表していないので、本稿では、これまでに公表されている未成年へのワクチン接種に関する研究リポートを紹介したい。

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が公表したファイザー製ワクチンを接種した12~17歳を対象にした研究リポートによれば、接種890万件(100%)のうち9,246件(0.104%)で副反応(副作用)が確認された。このうち軽症は8,383件(0.094%)、重症は849件(0.010%)、死亡は14件(0.002%)だった。【3】(表1)

 軽症の副反応(副作用)は、めまい=21.2%、失神=14.4%、悪心=10.4%、頭痛=10.0%、発熱=8.3%の順に多かった。めまいや失神、悪心、意識消失は、ワクチンを筋肉注射した際の迷走神経反射が関係していると考えられ、男性より女性に多いという特徴があった。

 重症の副反応(副作用)は、胸痛=56.4%、心筋炎=40.3%、熱=28.3%、頭痛=22.1%、呼吸困難=21.4%の順に多かった。胸痛や呼吸困難は心筋炎を伴ったものとみられ、そうしたものを含めると、突然死のリスクがある心筋炎は46.0%だった。これは接種100万件あたり45件の心筋炎が発生した計算になる。(表2)

 成人に対する臨床試験では、ファイザー製ワクチンを接種した人が重度のアレルギー症状であるアナフィラキシーを起こすケースが確認されている。一方、12~17歳を対象にした、この研究リポートではアナフィラキシーが起きたケースは見付からなかった。【4】

 ファイザー製ワクチンなどのmRNAワクチンには、化粧品に使われるポリエチレングリコール(PEG)が含まれている。このため、化粧品を使用する頻度が高い成人女性にはアナフィラキシーなどの免疫反応が起きやすいと考えられる。半面、化粧品を使用する頻度が低い子供は免疫反応が起きにくいとみられる。

 スマートフォンによる自己報告システム(v-safe)で12~17歳のワクチン被接種者の副反応(副作用)の発生状況をみると、「痛み」「倦怠感」「頭痛」「筋肉痛」の副反応(副作用)が多かった。また、「倦怠感」「頭痛」「筋肉痛」については1回目接種より2回目接種の方が顕著だった。(図1、2)

 次に12~15歳の小児1131人にファイザー製ワクチン、1129人にプラセボ(偽薬)を接種し、その効果を観察した研究リポートを紹介する。【5】 どちらも重度のアレルギー症状であるアナフィラキシーの発生は認められず、副反応(副作用)は偽薬接種群よりワクチン接種群の方が多かった。

 ワクチン接種群では2回目接種から7日以降に新型コロナ感染症を発症した小児はおらず、1カ月後にはウイルスに対する中和抗体が確認された。一方、偽薬接種群では1129人中16人が新型コロナ感染症を発症しており、ワクチンの予防効果はほぼ100%と言える。(表3)

 最後にイタリアで2020年3~11月に新型コロナ感染症を発症した18歳以下のワクチン被接種者129人の後遺症に関する研究リポートを紹介する。【6】 PCR検査で陽性と分かった時点で何らかの症状があった人は96人、残る33人は無症状だった。有症状者96人のうち3人は一般病床、3人はICU(集中治療室)へ入院した。

 PCR検査で陽性だった96人を平均162.5日間、追跡すると、不眠(18.6%)や胸痛・胸部圧迫感(14.7%)、鼻づまり・鼻水(12.4%)、疲労感(10.8%)を訴える人が多かった。(図3) 120日以上追跡できた68人に限ると、1種類以上の後遺症があった人は51.5%、3種類以上の後遺症があった人は20.6%だった。

 新型コロナワクチンで懸念される重症の副反応(副作用)は突然死のリスクがある心筋炎だが、前述の通り、接種100万件あたり45件の発生頻度ならば比較的低い。感染すれば重症化しやすい基礎疾患を抱える子供にとっては、これらのデメリットよりメリットの方が大きいと言える。

 日本小児科学会は、ワクチンを接種する子供本人へのインフォームド・コンセント(説明と同意)を求めているが、 良いインフォームド・コンセントには正確なエビデンス(証拠・根拠)が欠かせない。【7】 日本国内にワクチン接種後のブレイクスルー感染や副反応(副作用)の追跡システムを構築することは喫緊の課題だろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】厚生労働省、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施について」の一部改正について、2021年5月31日 

【2】AFP、ファイザー製ワクチン、5~11歳にも「安全」、2021年9月21日

【3】Hause AM, et al, COVID-19 Vaccine Safety in Adolescents Aged 12–17 Years — United States, December 14, 2020–July 16, 2021, MMWR 2021 Aug 6;70(31):1053-1058.

【4】CDC COVID-19 Response Team; Food and Drug Administration. Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine – United States, December 14-23, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021 Jan 15;70(2):46-51.

【5】Frenk RW, et al,  Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents, N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):239-250.

【6】Buonsenso D, et al, Preliminary evidence on long COVID in children, Acta Paediatr. 2021 Jul;110(7):2208-2211.

【7】日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会、新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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