
厚生労働省は10月15日、10~20代の男性は新型コロナワクチンの1回目接種でモデルナを選択しても2回目接種でファイザーを選択できるようにすると発表した。心臓の筋肉に炎症が起きる心筋炎の発生頻度がファイザーよりモデルナの方が高いことに配慮したという。【1】
心筋炎は心臓の筋肉に炎症が起こり、心臓の機能が低下したり、不整脈を発生したりする疾病。重症になると生命にかかわる危険性がある。心筋炎は心臓を包む膜に炎症が起きる心膜炎を併発するが多く、厚生労働省は心筋炎と心膜炎を合わせて心筋炎関連事象と呼んでいる。
厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会によれば、日本国内の10~20代男性の心筋炎関連事象の100万回あたりの発生頻度はモデルナ=14.83~18.38回、ファイザー=2.38~5.75回だった。【2】 40代以上の男性や女性全般に比べて、10~20代男性の発生頻度が極端に高くなっていることがわかる。(表1)

一方、アメリカのワクチン有害事象報告システムによると、新型コロナワクチンの接種開始から2021年8月18日までに1903件の心筋炎関連事象が確認されている。【3】アメリカでは日本とは反対にモデルナよりファイザーの発生件数が多くなっている。【4】(表2)

アメリカのワクチン有害事象報告システムに登録された心筋炎関連事象の100万回あたりの発生頻度を性別・年齢別にみると、男女とも16-17歳まではファイザーの発生頻度が高く、18歳以上になるとモデルナの発生頻度がやや高いという傾向があるようにみえる。(表3)

しかしながら、ワクチン有害事象報告システムに登録された心筋炎関連事象の発生件数そのものが少なく、発症者の既往症や健康状態などの背景要因が同じではないので、このデータからファイザーとモデルナのどちらがより多くの心筋炎関連事象を起こしているかを判断することは難しい。
厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会は、新型コロナワクチンを接種したことに起因する発生件数と新型コロナウイルスに感染したことに起因する発生件数をそれぞれ100万人あたりに換算し、心筋炎関連事象の発生頻度を比較している。【2】(表4)

この比較では、「新型コロナウイルス感染による発症(国内)」を標本数が少ない15~39歳の男性から算出するといった問題はあるものの、新型コロナワクチンを接種したことによる発生件数より新型コロナウイルスに感染したことによる発生件数の方が圧倒的に多いことが分かる。
表中の「新型コロナウイルス感染による発症(国内)」についても対象が入院患者に限られ、発生件数が過大に評価されているという指摘がある。しかし、発生件数が多い海外でも同様の傾向がみられ、心筋炎関連事象の発生頻度は新型コロナワクチン接種より新型コロナウイルス感染の方が高いといえよう。【5】【6】
政策ブログ『新型コロナウイルスの後遺症』で述べたように、新型コロナ感染症の回復者には、「疲労感・倦怠感」「睡眠障害」「味覚・嗅覚障害」などの後遺症が高い確率で発生している。そうした後遺症を考えると、心筋炎関連事象が懸念される10~20代男性でも新型コロナワクチンを接種するメリットは大きい。
心筋炎関連事象の初期症状としては、ワクチン接種後1週間以内の胸の痛み、息切れがある。こうした症状が出てきた場合、医師の診察、治療を受ける必要があるが、新型コロナワクチン接種による心筋炎関連事象のほとんどは初期症状からの軽快・回復が確認されている。
新型コロナワクチンに限らず、ワクチンの副反応(副作用)をゼロにすることはできない。ワクチンを接種するか否かを自主的に選択できるように、心筋炎関連事象を始めとする副反応(副作用)の発生状況やワクチンの予防効果、費用対効果のデータを継続的に公表していくことが求められている。
ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。
【1】厚生労働省、新型コロナワクチンの副反応疑い報告について
【2】厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、心筋炎関連事象疑い報告の状況について、2021年10月15日
【3】John R. Su, Vaccine Safety Team, Myopericarditis following COVID-19 vaccination: Updates from the Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS), Aug 30, 2021
【4】ファイザーの心筋炎関連事象の発生件数が多い理由として心筋炎関連事象が発生しやすい小児への接種数が多かった可能性がある。また、ヤンセンの発生件数が少ない理由として絶対的な接種数が少なかった可能性がある。
【5】Gargano JW, et al. Use of mRNA COVID-19 Vaccine After Reports of Myocarditis Among Vaccine Recipients: Update from the Advisory Committee on Immunization Practices – United States, June 2021. MMWR Morbidity and mortality weekly report.2021;70(27):977-982.
【6】Surveillance of myocarditis (inflammation of the heart muscle) cases between December 2020 and May 2021. News release. Israeli Ministry of Health; June 2, 2021. Accessed July 13, 2021.
(写真:AFP/アフロ)
バックナンバー
- 2022/03/30
-
新型コロナ、オミクロン株以降のワクチン効果とウイルス対策
- 2022/03/09
-
オミクロン株まん延、新型コロナ対策の課題
- 2022/02/09
-
基礎年金のあるべき姿
- 2022/01/19
-
新型コロナ変異株、オミクロンが流行する原因とその対策
- 2022/01/05
-
医療機関と社会的責任
- 2021/11/24
-
新型コロナワクチン、接種と死亡の因果関係
- 2021/11/17
-
財務次官論文を考える