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医療

新型コロナワクチン、接種と死亡の因果関係

九州大学教授 馬場園明

2021/11/24

新型コロナワクチン、接種と死亡の因果関係

 日本国内で新型コロナワクチンの2回目接種を終えた人は9682万人となり、日本の総人口の76.5%になった。【1】 マスク着用や手洗い励行といった感染予防策と相まって、新型コロナウイルスの新規感染者数は11月に入ってから1日あたり300人未満の低水準で推移する。

 直近のピークとなる8月20日の新規感染者数が2万5992人であったことを考えると、新型コロナウイルスの感染拡大はかなり落ち着いてきたといえる。新規感染者が減るにつれて、社会的関心が高まっているのが新型コロナワクチンによる死亡例である。

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の資料によれば、政府が把握している新型コロナワクチン接種後の死亡例は1255件(2021年10月3日時点)。このうち1248件については、「情報不足等によりワクチンと死亡の因果関係が評価できない」という。【2】【3】

 これに対して、「きちんと情報を集めれば、新型コロナワクチンの接種と死亡の因果関係が明らかになるのに、必要な情報を集めていないのではないか」と政府の対応に不信感を抱き、新型コロナワクチンの3回目接種(ブースター接種)を躊躇する人も少なくないようだ。

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の資料によれば、ワクチン接種後の死亡原因で多かったのは、「虚血性心疾患」「心不全」「肺炎」「出血性脳梗塞」「大動脈疾患」だった。これらは、ワクチン接種に関係なく、死亡原因として多くみられる疾患である。

 また、65歳以上についていえば、「肺炎」「敗血症」「心不全」「虚血性心疾患」はファイザーの方がモデルナより多かった。これについては、高齢者の接種頻度がファイザーの方が多いことを考えると、両者の差が必ずしも大きいとは言えない。(表1)

 そして、ワクチン接種後、1カ月以内に死亡した人はファイザー=1077人、モデルナ=168人だった。これはワクチン接種後、1カ月以内に死亡したと報告があったものを単純に足し合わせたもので、ワクチン接種と死亡の因果関係が明らかになったものではない。【2】

 日本国内の死亡例が多いか少ないかを確認するため、アメリカ、イギリス、欧州連合(EU)、日本のワクチン接種後の死亡率を比較する。人口と対象期間の違いを考慮して、死亡例を100万人日あたりに換算すると、ワクチン接種後の死亡率はアメリカ=21.4、イギリス=13.2、EU=12.2に対して、日本=8.6になる。

 アメリカの死亡率がやや高くなっているが、アメリカにおける一般集団の死亡率が高めであることもワクチン接種後の死亡率を押し上げているとみられる。新型コロナワクチンによる死亡例を把握するシステムと判断基準の違いを考えれば、イギリスやEUと日本の死亡率に違いがあるとは言えない。(表2)

 また、日本における虚血性心疾患、出血性脳卒中、虚血性脳卒中による死亡率について、新型コロナワクチン接種後30日以内の死亡率と一般集団の死亡率を比較すると、ワクチン接種群は一般集団に比べて、虚血性心疾患は97%、出血性脳卒中は96%、虚血性脳卒中は98%少なかった。【5(表3)

 ワクチン接種群の死亡率が低かった理由としては、自力で接種会場に出かけることができる健康な人が多く、心疾患や脳卒中のリスクが相対的に低かった可能性がある。また、症例がすべて報告されていなかった可能性もあり、これらを医学的な因果関係を説明するエビデンス(証拠)と呼ぶことはできない。

 医学的な因果関係とは、ある要因がある疾病を増加させることについてエビデンス(証拠)をもって証明できることを言う。【4】【6少ない症例では医学的な因果関係は証明できず、多くの症例を検討し、そこで得られた結論が個々の症例に当てはまるかどうかを確認しなければならない。

 例えば、ある要因をもつ集団の疾病の発生頻度が、その要因をもたず、他の条件が等しい対照集団に対して統計的に有意に高ければ、その要因と疾病の発生に因果関係があると認められる。現時点でワクチンと死亡の因果関係が明確になっているのは、血栓症(アストラゼネカ、J&J)、心筋炎、アナフィラキシー(ファイザー、モデルナ)の3つである。

 新型コロナワクチン接種後に亡くなられた人の家族が死亡リスクの高い要因を明らかにして死亡事故が起きないようにしてほしいと政府に訴えていると筆者も聞く。そのお気持ちはよく理解できるが、新型コロナワクチンと死亡の因果関係を明らかにするには、さらに多くの症例の比較検討が必要である。

 厚生労働省が医療機関に要請している副反応(副作用)の報告システムでは、ワクチン接種後のすべての死亡例を把握できておらず、相当数の見落としもある。住民基本台帳のような日本国内のすべての死亡例を網羅したデータベースとワクチン接種のデータベースを付き合わせた検討も課題だろう。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】日本経済新聞、チャートで見る日本の接種状況 コロナワクチン

【2】厚生労働省、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、副反応疑い報告の状況について、2021年10月15日

【3】厚生労働省はワクチン接種後に起きた症状・疾病の調査を行っている。アナフィラキシーは接種後4時間以内、血栓症は48時間以内、その他の疑いは1カ月以内の症例を収集、分析している。

【4】Elwood M.Causal relatlonships in medicine a practical system for critical appraisal. Oxford : Oxford, 1988.

【5】アメリカのVaccine Safety Datalink を利用して、2020年12月14日から2021年6月26日までのデータを評価した研究でも虚血性心疾患、出血性脳卒中、虚血性脳卒中とmRNAワクチンの関連性は明らかになっていない。

【6】ワクチン接種後、例えば、虚血性心疾患で死亡したとしても、高血圧などの基礎疾患や喫煙などの生活習慣が影響を与えているかもしれないことに注意しなければならない。

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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