
新型コロナウイルスの変異株、オミクロン株による感染例が急増している。厚生労働省は1月15日、新型コロナウイルスの新規感染者が2万5630人、重症者が235人になったと発表した。【1】これらの数字には従来株による感染例も含まれるが、国内外の感染状況をみれば、オミクロン株がその大半を占める可能性が高い。
オミクロン株による感染例は、南アフリカ共和国が昨年11月24日にWHO(世界保健機関)に対して最初の感染例を報告してから1カ月弱で日本を含む106カ国に広がっている。【2】 オミクロン株はウイルス表面のスパイクたんぱく質の変異が約30確認されており、これが感染例を急増させる原因と考えられている。【3】
ノルウェーの研究調査によれば、オミクロン株の潜伏期間は約3日間。症状は咳=83%、鼻水・鼻詰まり=78%、だるさ=74%、のどの痛み=72%、頭痛=68%の順に多い。【3】 感染者数と比較して重症者数は少ないが、オミクロン株は肺でのウイルス増殖能力が低いためとみられる。
南アフリカ共和国でオミクロン株の感染拡大が顕著だったハウンテン州におけるオミクロン株の感染者は13万3551人、入院者は感染者全体の4.9%になった。【4】 ハウンテン州におけるベータ株、デルタ株、オミクロン株による入院患者数を比較すると、オミクロン株の入院患者数が最も少ない。(表1)

また、入院患者に占める重症者の割合もオミクロン株が最も小さい。とはいっても、60歳以上の入院患者のうち半数以上は重症者である。日本国内でも60歳以上の感染者がさらに増えていけば、重症者もそれに比例して増えていくことを認識しておかなければならない。
ところで、変異株が感染拡大するスピードに、なぜ違いが出るのだろうか。ウイルスが感染拡大するプロセスには、①病原体の感染力や病毒性②加齢や基礎疾患などによるウイルス宿主の感受性③飛沫、接触、空気の感染経路の違い④それらの相互作用――が感染拡大のスピードを左右する。(図1)

まず病原体は、ウイルス遺伝子が変異すれば、アミノ酸基が変わり、タンパク質の形が変わってくる。タンパク質の形が変われば、ウイルスの感染力や病毒性、免疫逃避機能が変わる。オミクロン株ではウイルス遺伝子の多数の変異が感染力を強めているとみられる。【5】
宿主の感受性は、新型コロナウイルスについては、①加齢②糖尿病、心臓病、呼吸器疾患などの基礎疾患③栄養と睡眠の状態――などが感染および重症化に影響を及ぼすことが分かっている。また、日本人に多くみられる「HLA-A24」と呼ばれる白血球は、新型コロナウイルスへの感染予防効果があると指摘されている。【6】
感染経路については、①飛沫感染②接触感染③空気感染――の経路別に感染対策がある。飛沫感染はマスク着用と三密(密閉・密集・密接)回避、接触感染は手洗い励行、空気感染は定期的な換気で感染対策ができる。これらに加えて、医療従事者は医療用の手袋、マスクを着用することが薦められる。
それでは、オミクロン株に対する新型コロナワクチンの感染予防効果はどうか。イギリスにおける2021年11月27日~12月24日のデルタ株16万9888症例、オミクロン株14万7597症例を対象にした研究調査によれば、新型コロナワクチンの感染予防効果はデルタ株よりオミクロン株の方が低いことが分かった。【7】(図2)

この研究調査によれば、ファイザー製ワクチンを2回接種しても5ヶ月以上経過すると感染予防効果は10%前後に低下したという。オミクロン株の感染拡大は、ワクチン接種者が感染するブレークスルー感染が主な原因と考えられており、ワクチン2回接種の感染予防効果は時間の経過とともに大幅に低下するとみるべきだろう。
ブースター接種の効果はどうか。ファイザー製ワクチンの3回目接種をすると、感染予防効果は70%前後に上昇するが、接種後5~9週間で60%を下回る。一方、モデルナ製ワクチンの3回目接種をすると、感染予防効果は80%前後に上昇し、5~9週間後も70%強を維持する。
オミクロン株が感染拡大している背景には、病原体の強い感染力とワクチン2回接種後、5ヶ月以上経過すれば、ワクチンの感染予防効果がなくなることがあるとみられる。したがって、重症化のリスクが高い高齢者には、新型コロナワクチンの3回目(ブースター)接種を早急に実施することが求められる。
なお基礎疾患がない若年者の3回目(ブースター)接種の優先順位は低い。若年者はオミクロン株による重症化のリスクが相対的に小さく、3回目(ブースター)接種を導入するか否かについては、ワクチンの費用対効果の観点からも検討すべきだろう。
ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。
【1】厚生労働省、新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について、2022年1月15日
【2】国立感染研究所、SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第4報)
【3】Chan MCW, et al. SARS-CoV-2 Omicron variant replication in human respiratory tract ex vivo, Reserch Square
【4】Jassat W, Clinical Severity of COVID-19 Patients Admitted to Hospitals in Gauteng, South Africa During the Omicron-Dominant Fourth Wave, Lancet preprint, 2021.12.30
【5】アルファ株は変異によって感染力と病毒性が強くなり、デルタ株は感染力と免疫逃避機能が強くなったことが報告されている。感染力が強くなれば、病毒性が弱くなるという指摘もあるが、常に正しいとは限らない。
【6】Shimizu, K., Iyoda, T., Sanpei, A. et al. Identification of TCR repertoires in functionally competent cytotoxic T cells cross-reactive to SARS-CoV-2. Commun Biol 4, 1365 (2021).
【7】SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529), 2021.12.31.
(写真:AFP/アフロ)
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