
岸田文雄内閣は3月4日、東京都、神奈川県、千葉、埼玉など18都道府県に適用している新型コロナウイルス感染症の「まん延防止等重点措置」を3月21日まで延長した。変異株、オミクロンの感染拡大で重症者が増えており、医療機関の病床使用率の高止まりに対応する。
デルタ株が中心だった第5波は、「20代」「20歳未満」の新規感染者がやや多い傾向があった。一方、オミクロン株が中心になった第6波では、「20歳未満」の新規感染者が他の世代を引き離して激増。世代間の格差がこれまでになく大きくなっている。【1】
第6波の1週間あたりの新規感染者数は、第5波の新規感染者数の2~5倍にのぼっており、オミクロン株の感染力が強力であることを示す。また、「20歳未満」の新規感染者が激増している背景には、未成年者のワクチン接種が進んでいないことがあると思われる。【1】【2】(図1)
日本国内で新型コロナワクチンの3回目(ブースター)接種が進んでいないのは、過去2回のワクチン接種で起きた発熱、頭痛、筋肉痛などの副反応(副作用)が大きく、ブースター接種の副反応は「さらに強いのではないか」という懸念があるようだ。

また、同じmRNAワクチンでもモデルナ製ワクチンを避ける人が多いと言われる。過去2回の接種ではモデルナの方がファイザーより副反応が強いという傾向があった。そうした理由もあり、モデルナ製ワクチンのブースター接種の投与量は過去2回の半分の50マイクログラムとされている。
アメリカにおけるファイザー製ワクチンとモデルナ製ワクチンの副反応を比較した調査によれば、「ファイザーの投与量を従来通り」「モデルナの投与量を従来の半分」にしたブースター接種については、ファイザーとモデルナの副反応が発生した割合は、ほぼ同等だった。(図2)

モデルナ製ワクチンのブースター接種の投与量を半分にすることについては、当初、新型コロナウイルスへの感染や重症化を予防する効果も低減するのではないかという懸念もあったが、これまでの医学データでは感染や重症化を予防する効果の低減は認められていない。
厚生労働省研究班の調査によれば、日本国内でファイザー製ワクチンを3回接種した人(396人)とモデルナ製ワクチンを3回接種した人(233人)のブースター接種後の抗体価を比較したところ、ファイザー=54.1倍、モデルナ=67.9倍と投与量を半分にしたモデルナの方が効果の高いことが分かった。【3】
この調査におけるブースター接種の副反応については、「ファイザー3回接種者の39.8%、モデルナ3回接種者の68.0%に発熱症状があった」「ファイザー、モデルナともブースター接種については、高齢者の発熱頻度が低い」ことが明らかになった。【4】
新型コロナワクチンのブースター接種を行い、時間の経過とともに低下する抗体価を高める試みは、モデルナ製ワクチンの投与量を半分にすることにより、感染や重症化を予防する効果を維持しつつ、副反応の発生頻度を少なくすることに成功しているといえる。
ただし、新型コロナウイルスにはオミクロン株を始めとする変異株が次々と発生しており、今後は新型コロナウイルスの常在化を前提にした長期的な予防戦略を考えなければならない。その際、予防戦略の柱となるのは新型コロナワクチンの無料接種の継続である。
重症化のリスクが大きい高齢者や基礎疾患のある人については医療機関を受診した際にワクチンも接種できるような仕組みをつくることが望ましい。また、時間の経過とともに抗体価は低下していくので、ワクチン接種の望ましい頻度を示す必要もある。
新型コロナウイルスが未知のウイルスであるのと同じく、mRNAワクチンによる短期、中長期の副反応が分からない以上、年齢別、男女別、既往症別の医学データの情報公開を前提に、ワクチンを接種するかどうかは最終的に本人の選択に委ねざるを得ない。
オミクロン株が中心の第6波では、世代間の利害の不一致が顕在化する。重症化率が高い高齢世代はワクチンの副反応が弱いことが多く、ワクチン接種のメリットが大きい。一方、重症化率が低い若い世代は副反応が強いことが多く、ワクチン接種のメリットは少ない。若い世代にワクチン接種をどう働きかけるかは大きな課題である。
ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。
【1】厚生労働省、データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-
【2】20歳以上の新規感染者の減少が緩やかなのもブースター接種が進んでいないことも関与していると考えられる。
【3】Hause A, et al, Safety Monitoring of COVID-19 Vaccine Booster Doses Among Adults — United States, September 22, 2021–February 6, 2022, MMWR, February 18, 2022 / 71(7);249–254
【4】厚生労働省専門部会、2022年2月18日
(写真:AFP/アフロ)
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